副業・独学で始めたカヌレ専門店。人通りのない場所でも行列ができる大人気店になった秘訣とは。

起業時の課題
集客、顧客獲得

フランスの焼き菓子カヌレ。外はカリッと、中はもっちりとした食感のコントラスト、そして、ふんだんに使われているバニラとラム酒の香りが特徴のお菓子です。最近ではコンビニでも手軽に手に入るようになり、「第二次ブーム到来」とも言われるほど人気が出てきています。

週末のカヌレ専門店「Canelé Labo(カヌレラボ)」もおそらく、そのブームの一翼を担っているのでしょう。週末3日(金土日)だけオープンするそのお店は、毎週末行列ができるほどの大人気店です。店頭販売と、その場で食べられるイートインで自慢のカヌレを提供されています。

店主の寺島さんは、意外なことに独学でカヌレ作りをマスターされました。会社員の傍ら、副業で製造と卸売を始め、2017年10月に週末のカヌレ専門店「Canelé Labo(カヌレラボ)」として店舗をオープンさせます。お店はネット集客や口コミで大人気となり、店舗拡大するまでに。今回のインタビューでは、お店を低リスクで始めて大きくする方法や、人通りの少ない立地でも集客する方法などを、店主の寺島さんと、一緒に店舗を経営されている奥さまにも一緒に伺いました。

会社プロフィール

業種 小売業(食料品・日用品)
事業継続年数(取材時) 1年
起業時の年齢 40代
起業地域 大阪府
起業時の従業員数 4人
起業時の資本金 300万円

話し手のプロフィール

会社名
株式会社Deep Japan Inst
代表取締役
寺島 孝尚
株式会社Deep Japan Inst 代表取締役
カヌレ職人・珈琲焙煎士
専門学校・大学職員として22年勤務、教務学生管理・施設管理業務から新規学部開設のプロジェクトに携わり、教職員学生合わせて数千人規模の学内コンピュータネットワークおよびサーバーのシステム管理を任される。ローリターンでもノーリスクに重点を置いてサラリーマン時代に副業として店舗開業、そして脱サラ・法人化・移転拡大を経て現在に至る。

目次

「週3日営業」のスタイルには理由があった

「Canelé Labo(カヌレラボ)」のお店の特徴を教えてください。

寺島さん:週末の金土日、12時から営業しているカヌレ専門店です。焼きたての美味しい状態のカヌレをご用意し、売り切れるまで営業しています。現在までに延べ11万個ほどのカヌレを世に送り出してきました。

週末3日間しか営業されていないんですね。残り4日のお店を開けていないときは、何か別のことをされているんですか?

寺島さん:カヌレはすごく繊細な焼き菓子で、生地を寝かせる時間が必要になります。今は3日間寝かせています。火曜日に作った生地は金曜日、水曜日に作った生地は土曜日、木曜日に作った生地は日曜日にそれぞれ焼いて、お客さまにご提供しています。週3日の営業日ですが、実際には6日間働いているんですよ(笑)。

なるほど。3日にしているのはマーケティング戦略などではなく、カヌレ作りのためだったんですね。

寺島さん:そうです。生地を寝かさないと大失敗します。結果論ですが、もし週6日営業したとしても週の売り上げは大きく変わらないことがわかったので、短期集中営業の効率は良いと感じています。

生地の配合や焼くときの温度、寝かせる時間など、すべてのバランスが上手くいかなければ、美味しいカヌレはできません。当日焼いたカヌレが全部失敗してしまうこともありました。その日はカヌレを1つも販売できず、お客さまにひたすら謝って一日が終わりました。

やっぱりその日に焼けたカヌレでなければならないのでしょうか。

寺島さん:「美味しくない」と思われたくないので、焼きたてであることにはこだわっています。焼きたてのカヌレが一番美味しいですから。

聞いていると食べたくなってきますね。カヌレラボのカヌレの特徴や、市販のカヌレと違う点などを教えてください。

寺島さん:日本で流行っているカヌレは本来のサイズよりも小さいものばかりですよね。一方、本場フランスのカヌレはひと回り大きいサイズが主流です。当店のカヌレは、本場フランス同様の大きいレギュラーサイズのみで作っています。

大きくなればなるほど、焼成自体が難しくなり食感や味わいも違ってしまいます。小さいものだと、カリカリの部分が多くて、中のプリンのような食感を楽しめません。カヌレラボは、フランス本来の味わいを楽しんでもらいたいので、大きいサイズにこだわっています。

「ローリスクなら失敗しても大丈夫」会社員の傍ら副業で店舗オープン

カヌレ作りはどこかで修行されたのでしょうか。

寺島さん:いえ。大学生のころに食べたカヌレが忘れられず、自分で作り始めたのをきっかけに、独学で身に付けました。

いくらカヌレが好きだったとはいえ、カヌレを独学で身に付けて、今では人気店にまで育て上げたのはすごいですね。もともと独立しようと考えていたんですか?

寺島さん:カヌレで独立したいと最初から思っていたわけではありませんでした。ただ、サラリーマンになったときから「自分はサラリーマンには向いていない」と感じていたので、いつかは脱サラしたいなと思っていたんです。当時の仕事は飲食とはまったく関係のない業種、職種だったのですが、自分で商売を始めるチャンスは常にうかがっていましたね。仕事の合間を縫っていろいろ勉強したり、パン作りなどにも挑戦してみたこともありました。最終的に、「やっぱりカヌレ作りが一番いいな」ということで、カヌレで独立することにしました。結局脱サラするまで22年間かかってしまいましたが。

紆余曲折を経てカヌレ作りに辿り着いたんですね。カヌレ作りで独立することを決めてからお店をオープンさせるまで、どのような経緯だったのでしょうか?

寺島さん:まず、2013年に知り合いのカフェにカヌレを卸売するようになりました。当時はまだ会社員でしたので、朝にカヌレを焼いてから出社する日々を3年間続けました。カフェのお客さまからは、「初めて食べたけど美味しい」、「今まで食べたカヌレの中で一番美味しい」などの声をいただき、そこで自信がついたんです。

「これならイケる」ということで、1年後にお店を作る決心をしました。その時もまだ会社は辞めず、副業としてローリスクで始めて、最悪リターンがなくてもいいや、という感じでしたね。

お店を「オープンしよう」と決めてから実際に開業するまでは、1年ほどかかりました。まずは物件探しということで、気に入った街を走り回り、テナント募集の張り紙を見つけたらすぐに連絡する、ということをしばらくやっていました。場所が決まると、工務店に依頼して、家具を調達して、とやっていたら気が付けば1年経っていましたね。

旦那さまが「お店を出したい」と言われたときに、不安ではなかったですか?

奥さま:不安はありましたが、カヌレの味も、「美味しい」という評判を多くいただいていましたので、自信はありました。仕事をしつつの副業だったことと、これまでいろいろと勉強した結果辿り着いたことだったので。主人の会社は副業禁止だったので、最初は私の名前で個人事業主として登録しました。

資金はどのように集めたのでしょうか?

寺島さん:資本金は500万円ほど、すべて私の貯蓄から出しています。事業が成功するかどうかはわからないのでまずはローリスクで始めたほうがいいと思い、最初の店舗はそこまで大きなものを選びませんでした。家賃7万円程度だったので、固定費も抑えられました。

お店は目立たない場所に立地。それでも最初から繁盛した集客術

スモールスタートで家賃が少ない店舗で始めたということですが、その他に、店舗を選ぶ際にこだわったポイントは何ですか?

寺島さん:道の広さ、歩道が広いこと、駐車しやすいこと、お客さまがゆったり来られること、の4つですね。それに費用の安さも入れると5つのポイントで選びました。結果として、お店の立地はまったく目立たない場所になってしまいましたが。

安く店舗を構えようと思えば目立たない場所になってしまうのも仕方ないですよね。でも、目立たない場所に店舗を構えてしまうと、集客が難しいと思うのですが。

寺島さん:そうですね。だからこそ、オープンする前から宣伝はしっかりとやってきました。インターネットを活用した宣伝ですね。

Googleの検索連動型(リスティング)広告と、Facebook広告を毎月3,000円ずつ、それとInstagramやTwitterなどのSNSなどを地道にやってきました。ホームページは、自分で作りました。

確かに、カヌレ専門店は少ないので、「カヌレ お店」などと検索する人も多そうです。

奥さま:おっしゃる通り、カヌレはまだメジャーなお菓子ではないので、好きな人がインターネットで調べて来てくれることが多いです。そのため、キーワードで検索したときに表示されるGoogle広告は効果的でした。遠くから来てくれる方も多かったので、車を停めやすい場所にしたのは正解でしたね。

SNS運営のコツなどはありますか?

寺島さん:SNSは他のお店と差別化できるように意識した投稿をしてきました。Instagramの投稿も、他のお店では撮影できないような多くのカヌレを並べた写真や、オーブンから出てきた焼きたてのカヌレの写真など、カヌレラボでしか撮れないような写真にこだわっています。綺麗に撮られたカヌレの写真よりも、そういうバックヤードを見せている写真の方が反響も良いですね。「今できました」感があるリアルな写真を撮っています。

売上は右肩上がりなのに、売却を考えるほどまで追い込まれていた!?

お店をオープンしてから、すぐに売上は立っていたのでしょうか?

寺島さん:初日からカヌレは完売でした。そこからずっと売上は右肩上がりです。オープン当初はまだサラリーマンをやっていたので、平日は9時17時で仕事を終えてからお店で生地を作り1時に寝て、週末は販売してという生活をしばらく続けました。少しずつカヌレの販売数を増やしていって、3年目には年商1,000万円を超え、そこでようやく「独立しよう」と決めました。

副業をしながら着実に売上を伸ばしていったということなんですね。忙しい中で帳簿の記帳などはどうしていたのでしょう?

寺島さん:経理は妻にすべて任せていました。

奥さま:規模が小さいのでそこまで大変ではありませんでしたが、確定申告の際には商工会議所で手伝ってもらっていました。会計ソフトは弥生会計を使って記帳していました。

売上はずっと順調ということでしたが、コロナ禍の影響はなかったのでしょうか?

寺島さん:それが、コロナ禍の影響も少なく売上がずっと伸びていたんです。オープンから3年が過ぎたころには、当時の小さな店舗で1日に作れるカヌレの量に限界を感じ、より大きな店舗に移転してステップアップしようと決断しました。そして、銀行と信用保証協会の協調融資で1,000万円融資を受け、今の店舗に移転しました。

コロナ禍に移転するのはなかなか勇気が必要だったと思います。

寺島さん:その調子に乗った判断が間違いだったんです。コロナ禍で多くの店舗が潰れてどんどん良い物件が出てきましたが、逆にそれらの店舗のテナントが埋まっていくのも早く、焦って決めてしまいました。従業員も一気に4人雇用し、拡大に向けて意気込んでいたのですが、移転後にも売上は伸びた一方で、それ以上に支出が増え、資金繰りが大変になっていきました。一時は事業売却することを考えるところまで追い込まれました。兄にもお金を借りるお願いをしたくらいです。ようやく売上が軌道に乗り、今年の4月に黒字になりました。

それは大変でしたね。

寺島さん:売上がコロナ禍の中でも伸びていたために、補助金などの対象にもならず、資金繰りは本当に大変でした。

目指すは海外展開!スイーツ専門店経営の醍醐味は?

今の課題は何でしょうか?

寺島さん:商品開発をしてカヌレの種類を増やしたいのですが、そのための時間がないことですね。最近イートインを始めたのですが、そこで収益が増えて余裕が出てきたらようやく取り組めそうです。

店舗を拡大していくにあたっては、カヌレを作れる人材育成も課題ですね。現状、4人カヌレを作れる人材がいますが、他にも作れる人材を増やしたいです。

他の店舗を出すことも考えているのでしょうか?

寺島さん:日本ではなく、海外、特にアメリカでお店を出したいですね。アメリカにヘリコプターの免許を取りに行ったこともあってアメリカが好きなのと、昔から海外にお店を出すことが夢でしたから。法人名に「カヌレ」と入れず、「株式会社Deep Japan Inst」にしたのも、海外展開を最初から意識していたためです。

それは夢が大きいですね。スイーツ店経営、ひいては飲食店経営の面白さはどんなところにありますか?

寺島さん:お客さまが「美味しかった」、「ありがとう」と言ってくれることですね。喜んでいる笑顔を見れるのが本当に嬉しいです。お客さまは全国から来てくれて、最近では海外のお客さまもチラホラ来店されるようになってきました。

お菓子屋さんや飲食店を起業したい方に何かアドバイスはありますでしょうか?

寺島さん:起業しても潰れていくお店の方が多い業界なので、最初は私のようになるべくローリスクでスタートされることをおすすめします。それが一番安全ですから。

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