未経験から起業家へ!京都からお菓子とワインの魅力を発信する起業家ママの挑戦。

起業時の課題
事業計画/収支計画の策定, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発, バックオフィス業務, 家族の同意

「京都より、お菓子とワインの世界」という特徴的な屋号でインターネット通販事業を展開する林典子さん。その名称の通り、京都の町から老舗和菓子店の創作和菓子とワインの魅力を発信し、特別な時間を提案しています。そんな林さんのもう1つの顔は、小さなお子さんもいらっしゃるお母さん。事業と家庭の両立という難しい課題と向き合いながらも、お菓子とワインのセット販売事業「La Pair」を展開する林さんが大切にされていることとは何でしょうか?未経験から一歩ずつ自己実現を達成される林さんの考え方について詳しくお伺いしました。

会社プロフィール

業種 小売業(食料品・日用品)
事業継続年数(取材時) 6年
起業時の年齢 30代
起業地域 京都府
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 -

話し手のプロフィール

林 典子
「京都より、お菓子とワインの世界」「La Pair(ラ・ペア)」代表
専業主婦として過ごす中で「自分で何かをやりたい」、「お酒の分野で華やかな世界を演出したい」と起業を志す。コンビニや有名パティスリー、老舗和菓子店などのさまざまなお菓子とワインを合わせた際、そのおいしさと可能性に感動し、現在の事業を着想。イベントを継続的に開催しながら、ワインの学校にも通う。
コロナ禍をきっかけにお菓子とワインのセット「La Pair(ラ・ペア)」のインターネット通販事業も開始。現在は、濃厚焼き菓子と赤ワインのセットと、和菓子とシャンパーニュのセットの2種類の「La Pair」を販売中。

目次

子育てに悩む日々。起業という夢が私の日常を変えた。

事業内容ついて詳しくお聞かせください。

林さん:まず京都より、お菓子とワインの世界」というイベント・セミナー事業を立ち上げました。内容は、お菓子やワインの専門家を講師としてお招きし、彼らの歩みや思いを共有していただきながら、特別なペアリングでお菓子とワインを楽しむというものです。私自身が講師となりお話をさせていただくこともあります。

もう1つの「La Pair(ラ・ペア)」では、お菓子とワインのセット販売を行っています。こちらはお菓子の商品開発から携わり、濃厚な焼き菓子と赤ワインのセットや、京都の伝統的な和菓子とシャンパーニュのセットをご提供しています。

画像:ラ・ペア「濃厚焼き菓子と赤ワイン」

お菓子とワインのセット販売とは珍しいですよね。この事業を始めたきっかけについて教えていただけますか?

林さん:実は、私はもともとお菓子やワインの業界には携わっておらず、大学院を修了した20代後半に結婚・出産を経て、育児に専念していました。そんな中、自らビジネスを立ち上げたいという強い願望を抱くようになります。育児に追われる日々の中で、時に気持ちが追い詰められ、何か新しいことに挑戦したいとの思いが強くなっていたのです。起業を志した途端、目の前が明るくなったような感覚になったことを今でも覚えています。

当時はAIの影響でなくなる職業があるという話題が増え始めた時期でもありました。特別な経験やスキルを持っていない私は、どの分野なら勝負できるかを考え、ある考えに行きつきました。AIが人間の仕事をどれほど奪ったとしても、お酒を楽しむ文化はきっとなくならない。それなら私は、グラス1つで非日常を味わえるワインを売ろう。

ただ、今の時代はコンビニでもインターネットでも簡単に安いワインが手に入ります。単にワインを売ってもきっと私には勝ち目はない。どうやって個性を出していくべきかと考えたときに、京都のお菓子文化を活かした「お菓子とワインの世界」というコンセプトは面白いなと思い付いたのです。実際にさまざまなお菓子やスイーツとワインの組み合わせを試してみるととてもおいしく、これなら戦えると確信しました。

夢は自分のお店を持つこと。そのために選んだスモールスタートとは?

イベント事業からスタートしたのはなぜでしょうか?

林さん:もともと、自分のお店を持つことを夢見ていましたが、私には実績も知名度も、実店舗を開くのに必要な資金も足りませんでした。そこで、少ない資金で始められるイベント事業を選んだんです。実際に、テナント料も厨房設備の購入も必要なく、スモールスタートにはぴったりでした。同時に、ワインスクールに2年間通い、「ワイン・エキスパート」という資格を取得しました。

また、商工会議所の創業塾に参加したり、開業された先輩方の声から、「お客さんってそう簡単に来ないんだな」「開店を急いだらいけないな」と痛感していました。そういう意味でも、イベント事業を通じて実績を積むことや、私の活動を多くの方に知っていただきお客さまとのつながりを作ることは、いつかお店を開くための大切なステップになると考えました。

画像:林さん主催のイベントにて

お店を開く前にお客さまを集めておく、という考え方は確かに重要ですね。初めてのイベントはどのような経緯で開催されたのですか。

林さん:私が受講していたワイン検定の講座で、京都の和菓子屋「養老軒」の方との出会いがあり、そのご縁でイベントを開催させていただける運びとなりました。養老軒さんのお菓子と私が選んだワインのペアリングを味わうイベントです。

養老軒さんのお名前の力もあって、初めてのイベントにもかかわらず30名以上のお客さまにご参加いただき、キャンセル待ちが出るほどの盛況となりました。

それ以降、前々から気になっていたレストランやホテルの方に直接相談をしたり、SNSを通した営業活動にも力を入れたりして、さまざまな場所でイベントを開催しました。

営業でご苦労されたことはありますか?

林さん:実は、お菓子とワインという組み合わせの珍しさや、イベント実績の紹介などのPR活動のおかげで、比較的スムースに提案を受け入れてもらえることが多かったです。特に老舗和菓子店「笹屋伊織」さんでのイベント後、その実績が信頼となり、営業の追い風となった印象がありました。

出産後の新たな挑戦!オンライン販売事業「La Pair」立ち上げへ。

イベント事業が順調に回っているように感じますが、「La Pair」でのオンライン販売はなぜ始めたのですか?

林さん:イベントが好調だった中で、コロナ禍に対面でのイベント開催が難しくなったことに加え、その前年に2人目の子どもを授かったんです。そこで、対面でなくても続けられて、子育てと両立できる事業を始めなければいけない状況になり、本格的にネット販売に踏み出しました。

「La Pair」では、オリジナルのお菓子とワインのセットをオンラインで販売しています。実は、初めて「La Pair」オリジナルのお菓子を試作したちょうどその日に、最初の緊急事態宣言が発表されたんですよ。

画像:ラ・ペア「和菓子とシャンパーニュ」

それは忘れられない日になりましたね。「La Pair」のお菓子には、ワインとの相性を考えた強いこだわりを感じます。商品開発はどのように進められたのでしょうか?

林さん:そもそも「ワインに合うお菓子を」というコンセプトがあったので、絶対にオリジナルのお菓子を作りたいと考えていました。とはいえ商品開発の経験もなく、製造設備への投資も難しかったので、まずは昔から憧れていた京都の洋菓子店「maison de frouge(メゾン・ド・フルージュ)」のオーナーさんに商品開発の相談をしました。

「maison de frouge」のオーナーさんは、有名人ですので、もちろん、私はずっと存じ上げていました。ただ、パーティーで名刺交換をし、イベント用にお菓子をお願いしたこともありましたが、それまで2人で会う事があったり等、親しい関係ではありませんでした。しかし、コロナ禍の影響でいよいよイベント開催が絶望的になり、今思えば、「直観」でしかなかったのですが、「あのオーナーさんなら、この『お菓子とワインの世界』を分かってくださるのでは」と思い、藁をもつかむ気持ちでメールを送信したことを今でも覚えています。そして、幸運にも初めて2人でお会いする機会をいただけたのです。

さらに「ワインに合うお菓子」というコンセプトにも賛同していただき、商品開発の話はとんとん拍子に進みました。その時にはまだ「La Pair」というブランド名も生まれていなかったのですが、自分でも驚いてしまうくらい開発はスムースに進み、第一弾の濃厚焼き菓子と赤ワインが誕生しました。

それはすごいですね!ご経験がない中で、プロの方との商品開発に難しさを感じる場面はありませんでしたか?

林さん:そうですね。食材の賞味期限や商品化への向き不向きなど、専門的な部分でのアドバイスはパティシエさんを頼りました。しかし、ワインとお菓子の組み合わせに関しては自信を持って提案していましたね。それまでInstagramを通じてさまざまなワインとお菓子のマリアージュについて発信してきた経験から、自分の中に明確なビジョンが描けていたからだと思います。

まさに神対応!?簿記未経験でも確定申告ができたのは「弥生会計」の電話サポートのおかげ。

売上や商品の管理など、バックオフィス業務はどのように行っていましたか。

林さん:会計処理は、インストール型の「やよいの青色申告」を使用しています。家電量販店の店頭で手に取ったのをきっかけに使い始めましたが、その使い勝手の良さに感動しています。特に電話でのサポートには何度も助けられました。お金に関する勉強をほとんどせず、簿記などの知識も乏しいままに開業したこともあり、本当にわからないことだらけで。恥ずかしながら「現金出納帳」という漢字も読めないほどでした(笑)。

そんな私に対しても、オペレーターの方はまるで画面が見えているかのように、私がどこでつまずいているのかを迅速に把握してくれます。入力エラーも手際よく修正のサポートをしてくれ、会計業務の労力を大幅に削減できました。

特に子育てをしながら事業を進めていたので、会計にかける時間を抑えて事業に直結することに使えるようになったのは、私にとって大きな安心感につながりましたね。周りの方にも「弥生会計」をおすすめしています。

一方で商品管理については、今はまだA4のノートとBASEの管理画面を使って別々に行っているので、今後商品や売上が増えた際には販売管理ソフト「弥生販売」の導入も検討しています。

「SNSも対面も、人とのつながりに変わりなし」林さん流SNSとの付き合い方。

イベント事業の集客はどのようにされたのですか?

林さん:イベントはFacebookを活用して集客しています。「京都より、お菓子とワインの世界」のFacebookページを立ち上げ、イベント機能を使って告知しましたね。Facebookのイベント機能は、直接のフォロワーだけでなく、そのつながりを通じて多くの方にイベント情報が伝わる点が魅力です。

知り合いから知り合いへと数珠つなぎ的に広がっていったんですね。「La Pair」の宣伝・集客に関してはいかがでしょうか?

林さん:物販の宣伝・集客はInstagramが向いていると感じますね。私は商品の写真やイベントの様子を継続的に投稿しています。とはいえ、すぐに購入につながることは期待していません。

画像:「La Pair」体験会にて

それは興味深いお話ですね。詳しくお聞かせください。

林さん:継続的な発信を通じて、少しずつフォロワーさんとの信頼関係が築いていくことが大切だと考えています。例えば、1年以上前からInstagramを見てくださっている方が「ずっと見ていたんです」と言って購入してくださるケースや、コメントに対するていねいな返信がのちの購入につながることもありました。

私はたとえ相手の顔が見えないSNS上でのやりとりだとしても、対面と同じようにていねいなお付き合いを意識しています。企業やブランドのSNSでは、フォロー数よりフォロワー数の方が多くないと印象が悪いという考え方もありますが、私の場合はそうは思えなくて。つまり、プロフィール上の体裁よりも、人と人との実質的なつながりの方が商品購入に直結するんじゃないかと思うんですね。ですので、「いいね」やコメントをくれた方には自分からフォローしに行き、関係を深めていくことを大切にしています。

どんなに忙しくても心と頭は自由。想像することから夢の一歩は始まる。

事業とご家庭の両立は、どのように工夫されていますか?

林さん:両立は確かに難しい問題ですね。わが家はフルタイムで働く夫と、6年生、4歳の子供の4人家族なんですが、平日は下の子の保育園の時間をどう有効活用するかを常に考えています。夫の職業上、家事や子育てに積極的に協力してもらうのは難しい状況ではありますが、それでも夜に出かけないといけない場合は、上の子や夫の手を借りながらなんとかやりくりしている状況です。

やはりご家族の協力が大切なんですね。起業を目指している子育て中のお母さんに何かアドバイスをお願いできますか?

林さん:「料理は手作りしなくちゃ」「スーパーの総菜を買うなんてダメ」というように「完璧な母親」を目指してしまうと、どうしても自分の時間は取りづらくなります。叶えたい目標があるのなら、勇気を出して完璧主義を手放す一方で、志は捨てずに、自分の時間を増やしていくことが大切でしょうね。そういう意味では、「弥生会計」のような業務効率化に役立つツールを活用するのもおすすめです。

それに、どんなに体が忙しくても、心と頭は自由ですから。赤ちゃんにミルクをあげている間も、未来を想像することはできます。頭だけは常に動かしておくことが、叶えたい未来に一歩ずつ近付くコツかなと思います。とはいえ、もちろん家族の協力なしに今の私はありませんので、家族を安心させるためにも事業を軌道に乗せたいと思っています。

起業を迷われている主婦の方にとって励みになる、力強い言葉をありがとうございました。最後に今後の展望についてお聞かせください。

林さん:夢は今でも「自分のお店を持つこと」です。安心してオープンするためにも、「La Pair」の商品のバリエーションと販売数を増やし、インターネット販売での利益で店舗のテナント料をまかなえるような体制を築いていきたいと思っています。

京都は歴史と伝統が根付いている地で、新しい挑戦は簡単なことではありません。ラ・ペアをご購入いただくお客さまは、京都よりも東京や大阪、兵庫の方が多いです。しかし、過去に出店した百貨店の催事では、京都の方にもご好評いただけた手応えを感じました。京都の土地柄や文化、そして地域の方々との人間関係を大切に、今後もこの町からお菓子とワインの魅力を発信し続けていきたいと思います。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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