地元の食の魅力を全国へ届ける!助成金とプレスリリースをフル活用して販売網を拡大。

起業時の課題
資金調達, 起業/法人成り関連手続き, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発

起業を志す方の中には、UターンやIターンをして、生まれ育った土地で起業したいと考える人も少なくないでしょう。

今回インタビューした、たからぼプロデュース合同会社代表の鈴木健一さんもUターン起業家の1人です。会社員時代とはまったく違う分野である農産食品の企画販売業を始め、地域の魅力を再発掘し、全国へ届ける活動をされています。

異業種への挑戦に至った経緯から、地元の魅力を全国へ発信するアイデア、さらに認知拡大する方法など、地方での起業で押さえておくべきポイントを教えていただきました。

会社プロフィール

業種 小売業(食料品・日用品)
事業継続年数(取材時) 3年
起業時の年齢 30代
起業地域 秋田県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 100万円

話し手のプロフィール

会社名
たからぼプロデュース合同会社
代表社員
鈴木 健一
たからぼプロデュース合同会社 代表社員
1980年生まれ、秋田経済法科附属高校(現ノースアジア大学明桜高等学校)卒業、大阪航空専門学校エアライン学科卒。
航空業界に従事。ANAグループを退職後、秋田へ帰郷し起業。
長年、「こなす」という仕事しかしてこなかったため、次は「発信していく」という仕事をしたかったのが起業のきっかけ。秋田の郷土料理や食材を活かした加工食品は人間向けのみならず、2022年にはペットフードの分野にも展開。その他、首都圏と地方の企業をマッチングし、新たな食品流通を築く事業も行っている。

目次

「こなす」仕事を辞めて、「発信する」仕事がしたい

現在の事業内容と運営体制を教えていただけますか?

鈴木さん:私の地元である秋田県の食材を活かした商品の企画と販売をしています。弊社は、自社工場を持たず、県内の工場に製造してもらう「ファブレスカンパニー」であるため、大きな設備投資が必要ありません。そのため、パソコン1つプリンター1つ、FAXも持たずにシェアオフィスで仕事をしています。少数精鋭で企画・販売に注力する運営スタイルです。

もともと製造業に携わられていたのでしょうか?

鈴木さん:いえ、まったく違う業種で会社員をしていました。秋田県で生まれ育ちましたが、大阪の学校を出て、卒業後は航空業界の会社に勤めていました。

そうだったんですね。大きな方向転換のように思いますが、航空業界で働いていたところからなぜ起業しようと思ったのか、理由やきっかけを教えていただけますか。

鈴木さん:航空業界で私がしていた仕事には、比較的「こなす」という性質が強いものが多かったんです。飛行機にはタイムスケジュールがありますよね。時間内に飛行機を飛ばすために、さまざまな業務を分担して、それぞれの役割をこなす。その毎日の繰り返しの中で、次第に「本当にこれで良いのだろうか」と思うようになっていったんです。

30代半ば頃から、「こなす」ではなく「発信する」タイプの仕事がしたいという気持ちがどんどん強くなっていきました。

地元で何かしたいと思っていたので、「秋田の強みを活かしたもの」を売りたい、という軸はありました。秋田の強みといえば、食のクオリティの高さです。まずそこを活かしたい、と思い至りました。

しかし、秋田県は少子高齢化率全国ワースト1、人口減少率ワースト1の地域です。秋田県内のみを市場にした場合、人口減少とともに市場が萎んでいくことは見えています。ならば、人口減少に左右されないように、秋田県外でも売れるものにしよう、などと徐々に事業を絞って考えていきました。

最終的に、現在の「農産加工品の企画販売会社」という業態に辿り着き、起業を決意しました。

なるほど。強みと弱みを考えた結果、地元の食品を商品化し、通販で全国に販売するというお考えに至ったんですね。起業するにあたって、ノウハウなどは勉強されたのでしょうか?

鈴木さん:いわゆる創業セミナーに行きました。ただ、そこで教えてくれるのはマーケティングの知識などばかりで、具体的な創業のためのステップなどは教えてくれませんでした。率直に言って、期待外れでした。なので、会社設立などの実務的なところは1つずつ自分で調べながら進めていきました。

そうでしたか。法人格を合同会社にされていますが、なぜでしょう?

鈴木さん:これから起業する人が使いやすい法人にするために作られたのが、合同会社ですよね。うちの会社はこれからも少数精鋭でやっていこうと思っているので、身軽に運営できる合同会社がベストだと判断しました。

売れる商品を作るコツは「発想の転換」

秋田県の食材を活かした商品を企画されているということですが、どのようにアイデアを練られているのでしょうか?

鈴木さん:最初に作ったのは、いぶりがっこの「木っ端みじん」という商品です。いぶりがっこは今まで、大根丸々1本のものと、輪切りにスライスしたものの2種類しか販売されていませんでした。それを各家庭で細かく刻み、いろいろなアレンジを加えて消費されていたんです。

そこで、「結局刻むのであれば、最初から刻んでしまえば良いのではないか」というアイデアが浮かんできました。1本ものやスライスであれば、“漬物のお土産”というイメージが強いですが、刻んだ状態で販売すれば、普段から調味料感覚で使ってもらえます。おかげさまで、この「木っ端みじん」は人気商品となっています。

シェアオフィス1階にあるカフェのテイクアウトメニューとして
「木っ端みじん」とのコラボ弁当を開発

なるほど、発想の転換ですね。また御社ではペットフードも販売されていますよね。なぜペットフードに目を付けられたのでしょうか?

鈴木さん:シェアオフィスで働いている中で、いつも近くの人同士で何気なく会話をしているんですね。

あるとき、隣の企業さんが飼っていらした犬が癌で死んでしまったという話から、「これからペットも腸活なんだ」「健康食品の時代なんだ」と言われたんです。「私は食品の企画販売会社をやっていて、いぶりがっこを細かく刻んだ商品を販売している」と話しているうちに、「『秋田食のクオリティ』と『ペットの健康』の2点に配慮したペットフードができたら面白いな」とひらめきました。

秋田県には古くから発酵食品の文化があって、それが強みでもあるんですよね。実は納豆も秋田県が発祥とも言われています。

健康でなおかつおいしいもの、秋田県の強みを生かせるもの、ということで納豆が思い浮かびました。ただ、納豆をそのまま使うのではなく、フリーズドライにし、フレークやパウダー状にすることでペットフードとして使いやすいような形に商品開発しました。

工場を持たない「ファブレス企業」運営の裏側

ファブレスカンパニーであるためには、パートナーとなる工場探しが重要だと思います。どのように工場を探されたのでしょうか?

鈴木さん:地元の銀行に「こういう商品が作りたいので、工場を探しているのですが」と相談して紹介いただきました。つないでいただいてすぐに良い工場が見つかりました。地域の重要人物を見極めて適切にアプローチできれば、さまざまなご縁がつながり話も進みやすいです。そこは地方でビジネスをする強みかもしれませんね。

自社の工場とは異なり、外部の工場の製造過程をコントロールするのは難しいのではないでしょうか。品質管理はどのようにされていますか?

鈴木さん:おっしゃる通り、製造委託となるとどうしても目が行き届かない部分はあるので、ラベルが曲がっていたり、商品の大きさのばらつきがあったりすることも当初はありました。

品質に妥協されてしまうと困るので、工場から納品されるたびに検品して、1個でもおかしいものがあれば指摘してきました。「少しでもおかしいところがあると指摘される」と工場側に思われるようにしなければ、手を抜かれてしまいますから。場合によっては交換していただくこともあります。最初が肝心ですね。

販売ルートはどのように構築されたのでしょうか?

鈴木さん:ネット通販や小売店への卸売もやっていますが、大部分は問屋さんに販売してもらっています。あくまで少数精鋭でいながら多くの人に商品を届けるためには、問屋さんの存在が不可欠です。問屋さんを「マージン」として捉えるのではなく、弊社の「営業マン」として動いていただいていると捉えています。実際に、顔も知らないような人から営業されるよりも、毎日顔を合わせている問屋さんから紹介してもらう方が成果も出やすいことを実感しています。

効率よく資金調達するために普段から実践していること

創業資金はご自身で準備されたのでしょうか?

鈴木さん:最初の資本金100万円は貯蓄からです。それと、市から受けられる30万円の創業時の補助金をもらってスタートしました。

また、新型コロナウイルスが流行し始める2か月ほど前に創業したので、創業してすぐに中小企業向けの「新型コロナウイルス感染症特別貸付」で75万円ほど融資を受けました。

創業期の資金繰りは順調のようにも思えますが、大変だったことなどはありませんでしたか。

鈴木さん:実は、最初の商品を3、4店舗にテスト販売したのですが、最初に請求書を送った会社が自己破産してしまい、回収できずじまいで終わってしまいまして。

それは大変でしたね。

鈴木さん:そんな中でも、公益財団法人あきた企業活性化センターの「ビジネスプラン応援事業助成金」に申し込み、無事採択され、100万円の支援を受けることができました。その翌年にはさらに300万の融資も受けられて、コロナ禍で厳しい状況下でもなんとか首をつなぐことができました。「ビジネスプラン応援事業助成金」に採択されていたので、融資のハードルも下がっていたようです。

「ビジネスプラン応援事業助成金」の存在はどのように知ったのですか?

鈴木さん:SNS、具体的にはFacebookで知りました。「締め切りが明後日ですよ」という投稿を見てすぐに応募したんです。

ちょうどそのころ、弊社としても、自社通販サイトを作って顧客に直接販売していきたいと考えていた時期でした。そのためにはやっぱり集客しなければならない。そのための広告費が必要だったんです。助成金の使い道がはっきりしていたので、すぐに申し込み書類を書き上げてエントリーできました。

鈴木さんは助成金など公的制度もうまく活用されているようにお見受けします。助成金探しのコツなどはありますか?

鈴木さん:毎年4月に秋田県庁のホームページで「今年の助成金一覧」というリストが発表されるんですね。それを毎年プリントアウトして、使えそうな助成金がないかチェックしています。

ただそれだけでは忘れてしまうので、SNSなどでもチェックするようにしているんです。

最近もまた新たな助成金に採択されましたが、それもSNSで見つけました。ペットフードの展示会に出るための出展費用として、20~30万かかるので。そうやってなんとか資金調達しています。

助成金の申請の際には、税理士さんなどにお願いすることはあるのでしょうか?

鈴木さん:基本的に自分で全部やっていますね。税理士さんにお願いしているのは決算のまとめのみです。月ごとにファイルを分けて請求書や領収書などを整理しておけば、お渡ししてやってもらうだけなので経理も簡単です。

ちなみに請求書作成には弥生の請求書ソフト「Misoca」を使っていますが、便利で助かっています。

起業直後こそプレスリリースを活用すべき!その理由は?

先ほど販売は主に問屋さん経由でとおっしゃっていましたが、その他販売網を拡大するうえで、何か工夫されていることはありますか?

鈴木さん:マスコミ、特に新聞社さんにプレスリリースをこまめに送付しています。新商品ができたタイミングや、何か新しい取り組みを始めたときなどですね。

プレスリリースからの反響も多いのでしょうか。

鈴木さん:そうですね。最初にいぶりがっこの商品のプレスリリースをマスコミ各社に送付したときに、早速新聞社さんに取り上げていただき、その後すぐに、新聞を見た東京の会社さんから商品プロデュースのご相談がありました。その場ですぐにビジネスにはならなかったものの、しばらく連絡を取り合って、やっと最近商談につながりました。

弊社の場合、プレスリリースを新聞社さんに取り上げてもらったら、その新聞を切り抜いて販促ツールとしても利用しています。自社SNSで宣伝するだけよりも、新聞を見せて営業した方が信頼度も高まりますしね。

直接商品の売上につながるだけでなく、さまざまな可能性が広がっているのが伝わります。素晴らしいですね。プレスリリースの書き方はどのように勉強されたのでしょうか?

鈴木さん:YouTubeです。新聞社出身の方がプレスリリースの書き方を教えている動画があり、それを見て勉強しました。

例えば、「タイトルは30文字以内にする」「写真とタイトルで掲載されるかどうかが9割決まる」「5W1Hで書く」「1プレスリリース1ネタに絞る」などといったことですね。

プレスリリースはあくまでも取材してもらうためのツールなので、「詳しくは取材のときにお答えする」という気持ちで書きます。あとは実践あるのみです。基本はYouTubeの通りにやってきましたが、最近はそこにアレンジを加えられるようにもなってきました。実は現在、秋田県公認のプレスリリース専門家として登録もしています。

これから起業される方へ、プレスリリースの活用のコツを教えていただけませんか。

鈴木さん:飲食サービス業、例えばケーキ屋さんやパン屋さんなどで起業される方などは、ぜひ開業時にプレスリリースを出してみてください。開業直後に自社店舗の存在を知ってもらうためには、プレスリリースがとても効果的です。

新しくオープンした店舗のプレスリリースの場合、商業的なアピールを少し強めに押し出しても、マスコミにも取り上げてもらいやすいんです。メディアとしても、取り上げる社会的意義があるからですね。首都圏と違って地方ではプレスリリースの存在すら知らない企業さんが非常に多く、とてももったいないです。地方ではどこの新聞社さんもネタ探しに苦労されていますので、実はこうしたプレスリリースは非常にありがたがられます。何かしらの効果はありますし、そこまで難しいことではないので、プレスリリースはすごくおすすめです。

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