趣味から始めた事業に大企業が次々投資。お金も人も集まる学生起業家の事業に掛ける想い。

起業時の課題
資金調達, 人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発, バックオフィス業務

起業するために必要なことは何でしょうか。財務やマーケティングの知識・ノウハウ、プログラミングスキルなど、必要になりそうなものを挙げればキリがありません。

学生で起業した事業を今なお続ける株式会社ラブグラフの駒下純兵さんは、「起業するにあたって必要な知識は、やりながら身につければ良い」と、早いうちから起業することのメリットを説きます。しかしながら、起業する年齢が早かったからこそ、社員の大量退職など、たくさんの困難も経験されてきました。

そこで今回は、起業から上場企業より出資を受けるまでの数々の経験や、課題の乗り越え方などについて伺いました。

会社プロフィール

業種 クリエイティブ(カメラマン/写真・動画加工)、サービス業 (代行・請負業)
事業継続年数(取材時) 8年
起業時の年齢 20代
起業地域 大阪府
起業時の従業員数 1人
起業時の資本金 30万円

話し手のプロフィール

駒下 純兵
株式会社ラブグラフ 代表取締役社長
1993年大阪生まれ、関西大学社会学部卒。
学生時代に始めたカメラをきっかけに戦場カメラマンを志す。しかし戦争の写真では世界は変わらないと思い、幸せの総量を増やすため2015年に出張撮影サービス「ラブグラフ」を学生時代に創業し、現在は1,500名のフォトグラファーが在籍。2022年M&Aを通し株式会社MIXIにグループ入り。

目次

趣味から始めたバイト感覚の起業。

事業概要について簡単にお聞かせください。

駒下さん:写真を撮ってほしい方と、写真を撮りたいカメラマンの方をつなぐ、出張撮影のマッチングプラットフォームを運営しています。

他にも、法人向けの撮影サービスと、写真教室事業も展開しています。

駒下さんは学生時代にご自身もカメラマンとして活動しながら起業されたとお伺いしました。そもそも、写真はいつごろから始めていたんですか?

駒下さん:大学1年生からです。友人に誘われて入った大学のミスコン運営チームの中に、候補者を撮影するカメラマンの先輩がいて、その人の影響が大きいですね。会議でも隣の人にちょっかいをかけるようなおもしろい先輩だったのですが、あまりに楽しそうに写真を撮るので、カメラにはよほど魅力があるのだろう、自分もやってみたいと思い、一眼レフを買ったのがきっかけです。

なるほど。学生時代にはフリーのカメラマンとしても活動されていたとのことですが、写真が趣味になったところから、お金をいただいて撮影をするようになっていった経緯も教えていただけますか。

駒下さん:最初は写真でお金をもらえるとは思っていなかったですし、本当に趣味でやっていたんです。ラブグラフを思い付いて始めたときも、カップルに無料で写真を撮らせてくださいと声をかけて、撮ったものをSNSに上げていました。ただ、発信を続けていく中で、SNSを見た方からご依頼いただいたり、知り合いの紹介で撮影のお仕事が入ってきたりすることも少しだけありました。

大学2年生のときにカップルをターゲットにした出張撮影サービスのWebサイトを作って公開したところ、SNSでも大きな反響をいただいて、そこから依頼が増えていきました。最初は「あなたがいいと思った分だけお支払いください」というお気持ち制のような形でお金をいただいていたんですが、最初のお客さまに「気持ち程度で申し訳ないのですが」と1万円を手渡していただいたときのことは今でも鮮明に覚えています。自分が作ったサービスでお金をいただけたことがすごく嬉しかったですね。

ゼロからイチを生み出したときの喜びは何物にも変え難いですね。

事業拡大、法人化、拠点の移転、卒業論文…目まぐるしい会社経営と学生の両立生活。

現在のように、撮影依頼者とカメラマンのマッチングプラットフォームになっていったのは、どういったタイミングでしたか。

駒下さん:出張撮影サービスを始めてから、ありがたいことに多くの依頼が来るようになって、最初は日本全国を飛び回っていました。

でもそれを続けていると、撮影料の他に時間も交通費もかかってしまいますし、その分お客さまに負担してもらうお金も増えてしまいます。いよいよ1人じゃ手が回らないと思ってきたところで、SNSで協力者を募ってみることにしました。そこから、撮影手伝うよと言ってくれたフォロワーさんにまずは会いに行って、お願いできると思った方に撮影依頼をしていきました。それを繰り返すことで徐々にカメラマンが増え、プラットフォームのような形になっていきましたね。

なるほど。お話を聞いていると、サービスを広げていくのに理想的な進め方のように感じます。最初は個人事業主としてやっていたと思うのですが、法人化をしたのはどのあたりになるのでしょうか。

駒下さん:外部カメラマンに撮影依頼をしてサービス展開するとなったときに、いよいよ法人化しなければとは思っていました。ちょうど同じ時期に、ベンチャーキャピタルからの出資のお話があり、それが法人化した直接的なきっかけになりました。

学生向けのスタートアップイベントに参加したときに、起業家・投資家の千葉功太郎さんとお話させてもらったのですが、当時千葉さんは「コロプラネクスト」という学生向けファンドを立ち上げていたタイミングで、2号案件として出資していただけることになったんです。ただ、出資してもらうにも法人でないといけなかったので、急いで会社設立したという流れです。

出資のタイミングでもあったんですね。ちなみに出資額はおいくらでしたか。

駒下さん:最初は1,000万円出資いただきました。おかげでしばらくの間、世界観を作ることにフォーカスして取り組めました。もし資金調達していなかったら、きっと目先の売上をもっと追わざるを得なくなっていたはずなので、今の状態はなかったかもしれません。投資を受けたということは、「夢に向かって突っ走る猶予をもらえた」とも言えるのかなと思っています。

法人設立にあたって、資本金などはどう準備されましたか。

駒下さん:法人設立時の資本金は30万円で、私が8割程度を出し、共同創業者2人に残りを出してもらいました。当時は大学生だったので、そもそもお金もそんなにないような状況でしたが、当時インターンシップを受けていたリクルートで社内の方をご紹介いただき、ゼクシィ事業の広告写真としてラブグラフの写真を使っていただいたんです。すごく良い条件で契約してくださったんですが、それは私たちの状況を理解してくれてのことだと思うので、本当に感謝です。そのお金も設立資金として使わせていただきました。

それは嬉しいですね。3名で立ち上げたとのことですが、共同創業者の方々とはどういった役割分担でやっていたのでしょうか。

駒下さん:私と共同創業者のうちの1人がカメラマンで、もう1人はデザイナーです。学校は違いましたが2人とも大学生でしたので、卒業後に就職して、当社からは離れてしまいました。ですが、デザイナーはその後に戻ってきてくれて、今も一緒にやっています。

共同創業者が離れていくのは辛いご経験だったと思いますが、戻ってこられたのは喜びも大きいですね。法人設立後、会計などバックオフィスの業務はどうされていましたか。

駒下さん:最初は自分でやっていました。自分が記帳したものを、税理士さんに間違いがないか見てもらう感じでした。でも、最初は何もわかっていなかったので、めちゃくちゃだったと思います。専任で事務の方を雇用したのは設立後2〜3年経ってからですね。

やりながら学ばれていった感じなのですね。それからオフィスについて、最初は大阪で法人設立されたと思うのですが、現在は東京にいらっしゃるんですよね。移転されたタイミングやきっかけなども教えていただけますか。

駒下さん:創業時は、私の実家の住所で登記していました。東京に移したのは設立後1年経っていないぐらいです。出資いただいた「コロプラネクスト」が出資者向けのシェアオフィスを用意してくれて、そのタイミングで移転しました。当時は卒論を書いているタイミングだったので、大学のゼミの先生に交渉したのを覚えています。「今東京に行かないとチャンスを逃しそうな気がするので、卒論は出すから出席なしで許してほしい」とお願いしたところ、教授も応援してくれたんです。

周りからのたくさんの協力があって、今の駒下さんがあるんですね。

集客も広報も求人もSNSから。バズるために必要な考え方とは?

株式会社ラブグラフでは、現在カメラマンの方は何名ほど登録されているのでしょうか。

駒下さん:今は1,500人ぐらいです。

すごい数ですね。カメラマンの方を集める際のポイントは何かありますか?

駒下さん:最初は1人1人お会いして、自分たちが掲げる未来や夢を語って、共感してもらえる人とやっていきました。それをコツコツ広げていったのと、紹介と、あとはやっぱりSNSが大きいですね。

駒下さんはTwitterのフォロワー数が2万人以上いて、発信がとても上手な印象を受けています。発信の際に気を付けているポイントなどありますか?

駒下さん:大前提としては「お母さんに見せても恥ずかしくないツイート」を意識しています。だから言葉遣いも気を配りますし、誰かに喧嘩を売るようなツイートは絶対にしません。

そのうえで、ふさわしいタイミングで、ふさわしいコンテンツを出せば、読み手に刺さってバズる可能性が高まります。まずは未来を読むこと、時流を読むことは重要ですね。最近は文字数の制限がなくなり長いツイートができるようにもなりましたが、なるべく短くキャッチーな文章を作れないか、という視点で常に考えています。

私はもともと向いていたのだと思いますが、後天的にスキルとして学ぶことも可能だと思います。

弊社の場合は、集客も求人もSNSから来るケースが多く、事業の発展には欠かせないツールでしたね。「ラブグラフ」Webサイトを立ち上げた際も、SNSからの反響で公開初日からかなりのPVを集めましたし、出張撮影サービスの依頼も、私のSNSを見て頼んでくれるカップルが多くいました。

スタートアップの魔法が切れた3年目。社員の大量退職から学んだ大切なこと。

SNSを味方に急成長をしてきた企業経営の中で、困難な状況も経験されてきたのではないでしょうか。

駒下さん:そうですね。業績が悪い時期に、社員が次々と辞めていき、それは大変でした。組織の雰囲気もものすごく悪かったです。社員から見れば、頑張っていても会社の売上も自分の給与も上がらなければ、当然モチベーションは上がらないですよね。

スタートアップ企業って、起業から3年目あたりで、スタートアップの「魔法」の効力が切れちゃいがちなんです。最初は創業者が「3年で上場するぞ」とか夢物語を語っていれば社員も信じて付いてこられるんですけど、3年経つと「もう聞き飽きた」みたいな感じになってくるので。

そういった社員の離職なども経験して、改めて社員に会社の状況や自分の想いを細かく伝えることや、頻度高くコミュニケーションを取ることの重要性を学びました。

事業内容自体も、最初はカップルをメインターゲットにしていたのですが、それだとあまり儲からないかもしれないと気づいたんですよ。このままでは会社が潰れてしまうと思って、マーケットの大きい家族写真にフォーカスしようと、戦略を変えていきました。それに合わせて写真の提供枚数と価格など、プランも変えたところ、広告も回りやすくなって成長速度を上げることができました。

苦しい状況で良い人を採用するのは難しいかと思います。ポイントなどはありますか?

駒下さん:「会社がピンチだから頼むから来てほしい」と言い続けただけです。とにかくこれからのビジョンと、想いを伝え続けました。やっぱり、社長の心が折れたらそれで終わりなので、自分は折れずにやろうと決めていて、その覚悟が伝わったのだと思います。

株式会社MIXIの傘下に入られましたが、その経緯についてお聞かせください。

駒下さん:弊社が創業してから2〜3年ぐらい経ったときから、株式会社MIXIは「家族アルバム みてね」というサービスを運営し始めていたんです。その時期から「うちのサービスと相性が良いだろうな」と思い、ことあるごとに挨拶に行っていました。最初行ったときには「みてね」もユーザー数を増やしたいフェーズだったので業務提携や資金調達のご縁はなかったんですが、次のタイミングでご挨拶に行ったら、ちょうど「みてね」のマネタイズをどうしていくか考えている時期だったようで、アプリとの相性の良さから「出資しましょうか」と言ってもらえ、そこからご縁がつながり、株式会社MIXIの子会社化に至った、という経緯です。

起業の道を突き進めたのは、両親からもらった「自己肯定感」というギフトのおかげ。

学生起業に対するお考えもお聞かせください。ご自身が起業されたときは大学2年生だったとのことでしたが、卒業後に一度就職しようという気持ちはありませんでしたか。

駒下さん:当時インターンシップで行っていたリクルートの人に「事業を作りたいなら多分リクルートに来るべきだし、会社を作りたいって思うなら、多分今の会社を頑張った方が良い」という話をしていただいたんですよね。

当時私は21歳で、会社が仮に3年でダメになっても、まだ24歳なわけじゃないですか。

同じ24歳でも、会社を3年経営した経験と、新卒2年目とだったら、もしうまくいかなくなっても会社を経営した経験のある人生を進みたいと思ったんですよね。最終的には「まぁ、なんとかなるだろう」と楽観的に考え、就職することは選びませんでした。

ご自身が起業することや就職をせずに事業を続けることについては、前々からご両親に相談していたのでしょうか。

駒下さん:いえ、事後報告ですね。報告したときも「ああ、そう」という感じでした(笑)。どちらかというと放任主義というか、あまり自分のやることには干渉されないので、いつも自由にやらせてもらっています。

ただ、幼少期にはすごく褒められて育ってきたので、辛いときに乗り越えられたり、自分を信じることができたりしたのも親の教育があったからこそだと思っていて、そういう意味でもすごく感謝しています。

ご両親の教育が素晴らしかったんですね。ではそんな駒下さんが思う、学生起業のメリットは何でしょうか。

駒下さん:シンプルに、失敗してもリカバリーしやすいという点ですね。また、社会人とは違って、アルバイト代を稼ぐ代わりになれば、という軽い気持ちで事業を始められたのも良かったと思います。何かを始めるのに早すぎるということはないと思っていて、早く始めれば経験値がその分増えるので、やりたいなら早く起業すれば良いと思います。

起業する前にいろいろと知っておいた方が良いと考える方も多いかもしれませんが、意外と走りながらでもなんとかなりますし、わからないことは他の人に頼めば良いんです。だから早めに始めてみることをおすすめしたいです。

自然と周りから応援される人になるには。

「起業したいけれどアイデアが思い浮かばない」という人も多いと思いますが、どのように事業を発想したら良いでしょうか。

駒下さん:3つのやり方があると思っています。

1つ目がマーケットドリブンというやり方です。この市場が大きいから、そこで事業をやる、という決め方。2つ目はテクノロジードリブンというやり方です。今ですと例えば「AIが熱いから、あの技術を使って何かやろう」と考えるやり方ですね。3つ目は、ビジョンドリブンというやり方。「こういう世界を作りたいから、その手段となる事業を作る」という方法です。私はビジョンドリブンの考え方で会社を運営しています。

自分のやりやすい方法で良いとは思いますが、マーケットドリブン、テクノロジードリブンで始めると、事業を辞める理由が多くなっちゃうだろうなとは思いますね。「儲からないから辞めよう」などとなりがちです。

ビジョンドリブンに関しては、実現したいビジョンがあるので、比較的に途中で諦めずにいられることは、立ち上げ方としては強いなとは思っていますね。

画像:ラブグラフ スタッフ

たしかに、実現したい未来をもとに事業を作れば、すべて自責で進めていけますよね。いろいろなお話を伺って、駒下さんはビジョンを伝えて応援してもらう力が自然と備わっているように感じました。ご自身としては、どのようなポイントが応援される要因になっているとお感じですか。

駒下さん:最初のころはすごくピュアに「こういう世の中であるべきだと思う」みたいな感じで、自分が思っていることを大きな声で、いろいろなところで言いまくっていました。それも、言おうと思っていたというより、毎日考えていたから、気付いたら話していたという感じです。

あまりにも高い熱量で同じことを何度も言い続けるので、周りはうるさいと思いながらも、私の想いを受け止めてくれていたんじゃないでしょうか。

きっと駒下さんの本気が伝わって、周りの方もピュアに応援できたのでしょうね。

駒下さん:下心があったり嘘をついているときって、周りもわかりますもんね。「自分に嘘をつかない」というのは起業家人生においてずっと大切にしていることかもしれません。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:樋口 正

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