「人を動かす」とは「心を動かす」こと。40代で起業した熱血社長の挑戦物語。

起業時の課題
事業計画/収支計画の策定, 人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得, マーケット・ニーズ調査

愛知県稲沢市に拠点を構えるsocom株式会社は、物流現場における業務改善から人材育成・営業・採用まで、顧客の悩みを幅広くサポートする物流コンサルティング事業を展開しています。圧倒的なマンパワーと情熱で、顧客の課題解決に取り組む河野さんが大切にしている信念とは一体?起業を志す方必見の熱いインタビューをぜひご覧ください!

会社プロフィール

業種 コンサルティング・リサーチ業、サービス業 (代行・請負業)
事業継続年数(取材時) 3年
起業時の年齢 40代
起業地域 愛知県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 500万円

話し手のプロフィール

河野 康之
socom株式会社 代表取締役
高校卒業後、自動車製造会社に就職後すぐに退職、以後何をしてもなかなか続かない状況が続き、16社ほど転職を繰り返す。20歳のころに兄弟が起業した事をきっかけに兄弟の仕事を手伝うように。さまざまな現場責任者を経験し、人が継続する現場作り、集まりやすい求人作り、ミスマッチがなくなる面接などに注力。転職癖の経験が役に立ち、離職率の低減・外国人技能実習生の受入れなどにも貢献、5年ほど執行役員として会社の経営に関わる。これらの経験を活かし、ノンアセット型の倉庫管理、採用、営業支援の会社として「socom株式会社」を創業。「socom」は「soko:倉庫管理」と「.com:WEBやITを利用した販路開拓と改善」を省略して社名とした。

目次

業界が抱える課題に目を向け、起業を決意。

事業内容について詳しく教えていただけますか?

河野さん:共同配送(共配)における物流倉庫内の業務改善・人材育成・営業・採用などの物流コンサルティングを主な事業としています。当社は、倉庫やトラックなどを自社で持たない「ノンアセット型」の事業形態です。業務改善サポートの初期段階では実際に現場に入りますが、最終的には作業員の方が自発的に改善に取り組める状態を目指し、人材育成をしながら支援しています。

起業を決意された背景には、どのような思いや経緯があったのでしょうか?

河野さん:創業前、私は兄が社長を務める倉庫管理の企業で役員をしていました。昨今の時代背景から物流業界では人手不足が大きな課題となっていることもあり、大手企業ほど派遣会社から人を雇い入れる場合が多いんですね。しかし、派遣会社から人を雇うと、どうしても通常の雇用形態に比べて人件費が上がってしまいます。

この人件費が、下請けの企業からすると大きい負担となってしまうので、必然的に人的コストを削減するための施策が必要になってくるわけです。ただ、一言に人件費削減と言っても、そこにはあらゆる課題が存在します。現場作業の効率化から始まり、人材育成・採用・営業など、経営全般にわたる改善が求められます。結局全てがつながっているんですよね。

10年以上にわたる役員経験の中で、私はずっとこうした物流業界の課題と向き合ってきました。しかし、ふと周りの企業に目を向けると、意外と根本的な業務改善に取り組んでいる企業は少なかったのです。「これは需要があるのかもしれない」と感じ、起業を決意しました。

「成功には必ず要因がある」現場に立ち、人材育成を繰り返す日々。

起業に至るまで、どのようなご経験を積まれたのでしょうか?

河野さん:私は若いころは本当に飽きっぽい性格で、転職も16回経験しているんですよね。飲食店のアルバイトから始まり、バスやトラックの運転手、食品会社の営業など、さまざまな仕事を経験しました。

その後、倉庫管理業務を担う兄の会社に作業員として入社します。入社後数か月経ったある日、兄が大手企業から倉庫管理の業務委託を受注した際に、「お前、責任者としてやってみないか?」とチャンスをくれたんです。

当時の私の経験値からすると無茶ぶりな提案でしたが、これまでの飽きっぽい性分からは打って変わって、この業務にはのめり込みましたね。現場で1人1人の作業員さんをよく観察して、「あ、この人はこういう言動をしているからこういうミスが起こるんだな」と気付いたら、1つずつその原因を潰しては改善していく。これを繰り返していきました。

その結果、1年後にはミスと破損が10分の1に減ったんです。まるで小さな石を積み上げていくように、1つ1つの小さな改善を繰り返していった結果、大きな改善につながる、この仕事に強くやりがいを感じました。

お兄さまは、河野さんの才能や強みに気づいていらっしゃったのかもしれませんね。業務改善で結果を出すためにどのような努力をされたのでしょうか?

河野さん:特別なテクニックというよりは、地道に改善を積み重ねていったことが結果につながったんだと思います。もちろん最初からすべてがうまくいったわけではありませんでしたが、現場で起こるさまざまな事象に対して「なんでだろう?」と自問自答を繰り返していったんですね。

業務改善においては、一般的に「うまくいかなかった原因」を分析する方が多いと思うんですが、私はむしろ「うまくいった要因」について深く考えるようにしていましたね。それを再現することが結果につながったんだと思います。

また、私が作業員の方に指導する際は、必ず現場で一緒に作業をして、行動で示したうえで指導する、という姿勢を徹底していました。時折、現場へほとんど出ず、事務所にばかりいる管理者の方もおられますが、やはりそれでは人は育ちません。「お客さまの荷物を私物よりも大切に扱う」というたった1つの信念のもと、作業員の方と一緒になって現場を改善していきました。

創業時に1,000万円超の資金調達を実施。融資成功の秘訣は?

創業時の資金調達について詳しく聞かせていただけますか?

河野さん:資本金は自己資金で500万円を用意しました。そこから、銀行から900万円、日本政策金融公庫から200万円をそれぞれ借り入れました。当社の事業形態の性質上、設備投資はそれほど必要ではなかったのですが、しばらく仕事が受注できなくても困らないよう資本金はしっかり用意しましたね。

従業員数0名での創業でしたが、事業計画書を綿密に作っていたこともあり、合計1,100万円の融資は比較的スムースに下りました。

それはすごいですね!事業計画書はどのように作成されたんですか?

河野さん:2つの創業塾でサポートを受けました。当時の私は宿題を出されないと動けない人間でしたから、そうせざるを得ない状況に身を置くというのが大切だったんですね。まずは愛知県の創業塾で事業計画書を作成し、より精度を高めたかったので、岐阜県の創業塾にもサポートしていただき、さらにブラッシュアップしていきました。

計画書の作成にはとても苦労しましたが、なぜ私の事業が必要なのか、他社と差別化できる点はどこか、といった点を明確に説明できるようになったので、非常に有意義だったと思います。創業に当たっては、事業計画書をしっかり作り込むことがすべてだと思いましたね。

素晴らしいですね。ランニングコストなど、創業時の支出を抑える工夫などは何かされていましたか?

河野さん:ランニングコストに関しては、いかに固定費を抑えられるかという点に注力していました。仕事を受注できるまで可能な限り外注せず、自分でできる業務は自分で行う、というスタンスです。特に、経理業務は「弥生会計 オンライン」に自分で入力し、請求業務には「Misoca」を活用しているため、コストを抑えつつ効率的に業務を進めることができました。

税理士や社労士に関しては創業時から依頼していましたが、1年目だけは費用を抑えてもらえませんか、と交渉を重ねていましたね。また、役員報酬についても創業当初から相当抑えていたので、1年目の売上は少なかったものの利益は残して着地させることができました。

甘くはない現実…BtoBの厳しさを知った1年目。

1年目の売上は少なかったとのことですが、そのときの状況を詳しく教えていただけますか。

河野さん:最初の受注に至るまでは本当に苦労しました。こんなことあるのかっていうくらい(笑)。私は前職で営業の経験もあったので、正直営業には困らないと思っていたんですが、BtoBは本当に難しいですね。会社の実績の有無や社歴の短さによるディスアドバンテージを痛感しました。たとえ「この人は仕事ができるんだろうな」と感じていただけたとしても、「この会社にどれだけのことを任せられるんだろう」と迷われて、最終的に契約に至らないんです。

今になって振り返ると、この原因は、自分が売りたい商品とお客さまのニーズがマッチしていなかった、という点に尽きると考えています。

というのも、創業当初は「私が現場に入れば、必ず現場の課題を解決します」という売り出し方しかしていなかったんですね。しかしお客さまは、現場の課題解決の先にある、採用や営業コンサルティングの部分に真のニーズを抱えていらっしゃった。このことに気付くきっかけをいただいたのが、最初に受注させていただいた倉庫会社さまだったんです。

そのお客さまには、まだ実績のない私の情熱だけを買っていただき、さまざまな学びの機会をいただきました。現場の業務改善から始まり、営業の同行、採用活動のご提案など、多くのチャンスをいただいたことで、「物流コンサル」としての企業価値を認識することができたんです。

このときの実績と気付きが、のちの営業活動にも活き、徐々に業界内での認知度も高まったことで、問い合わせも増えていきました。「企業としての商品価値はお客さまのニーズが決める」という柔軟な姿勢を今後も大切にしたいと思っています。

河野さんの信念に学ぶ「人材育成の本質」とは?

物流倉庫の作業員さんの中には、外国人技能実習生の方も少なくないと聞いたことがあります。そのようなさまざまな背景を持つ方へ業務改善の指導をするに当たって、大切にしていることはありますか?

河野さん:これは師匠に教えてもらった言葉なんですが、私は「人は理屈じゃ動かない。心で動く」ということを常に念頭に置いて人と接しています。

この考え方は、何も日本人に限った話ではありません。外国人技能実習生の方についても、もちろん同じです。時折、外国人技能実習生の方をまるで雑用のように扱うケースがあると聞きますが、言語道断です。

相手がどのような方であろうと、心で接しないと人は動きません。そう信じるからこそ、私は技能実習生の母国に足を運んで、お墓参りに行ったこともあります。

お墓参りにまで!そのような話は初めて聞きました。

河野さん:その人が大切にしているものを大切にできて初めて、私の言葉が本当の意味で伝わるんだと信じているんです。クライアントの人材育成に携わる人間として、1番大事にしていることですね。

そのうえで、何か指摘したいことがあるときも、まずは相手を尊重して、素晴らしい部分を伝えてあげることを大切にしています。例えば笑顔が素敵な方がいれば、「笑顔はめちゃくちゃ素敵だけど、言葉遣いだけ少し変えよう」というように、どのような相手に対しても、その人の価値を損ねないような声かけは意識していますね。

起業はビジネスパーソンとして個人価値を高めるチャンス。

今後の展望については、どのようにお考えですか?

河野さん:物流業界では今まさに多くの企業が、時間外労働の上限規制を始めとした2024年問題のあおりを受けて対策に迫られています。その状況は、当社にとっては追い風となる外的要因でもあるので、引き続きより多くのお客さまの課題を解決できるよう事業を拡大していきたいと思っています。

とはいえ、現状は私のマンパワーで事業が回っている部分も大きいので、同じレベルでお客さまのために行動できる人材を育成することが課題の1つだと考えています。また、ひとえに物流コンサルティングといっても、お客さまの取り扱う商品や業態によって求められる人材のニーズも異なるので、現場のニーズに合った人材の育成・採用にも引き続き取り組んでいきたいと考えています。

これからも時流やお客さまのニーズに合わせて進化していかれるのでしょうね。今日は熱いお話をたくさんありがとうございました!最後に、これから起業を志す方にアドバイスをお願いします。

河野さん:起業を考えた時点で、1人だけで考えず、人に相談することが大切です。そして、その相談相手としておすすめなのは、友人ではなく地域の支援機関や、創業コンサルティングサービスです。実際に私も、独立行政法人中小企業基盤整備機構が本部となっている「よろず支援拠点」などの公的機関や民間企業のサポートを通じて事業の方向性について相談をしていました。

こうした支援機関などに相談するメリットは、事業アイデアに対して手放しに応援するのではなく、お客さまの立場に立って質問をしてくれる点です。もちろん最初は全く答えられないでしょう。しかし、回答を必死にひねり出す過程で、自分のやりたいことや、自分という商品の価値は一体何なのかが徐々に見えてきます。それが見えないままで、起業をしても、どこに向かえばいいかわからない旅を始めるようなものですよね。

とはいえ、やってみないとわからないのが事業の難しいところで、絶対に成功する計画など存在しません。逆に事業がうまくいっていたとしても、いつ転ぶかわからない時代です。だからこそ、起業とは人生をかけて挑戦する価値のあるものだ、とお伝えしたいです。特に、社会における自分の価値を高めたい方の背中は押していきたいですね。

挑戦して、10回負けて、やっと1回勝てたら万歳ですよ。そういう意味では、私もまだ10回負けてませんからね。情熱を絶やさず、これからも挑戦を続けたいと思っています。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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