知識よりも大切なもの。“未知への好奇心”が開いた新たな舞台への扉。

起業時の課題
事業計画/収支計画の策定, バックオフィス業務

クラシック音楽に魅了され、その感動を広めたいという情熱に駆られた酒井光一さん。ある知人との出会いをきっかけに、クラシック音楽専門の配信プラットフォームを立ち上げる決意をしました。資金調達の経験もない中、人脈を頼りに奔走し、5000万円もの資金調達に成功。事業を軌道に乗せるまでには、予期せぬトラブルに見舞われるなど、さまざまな困難も経験されましたが、挑戦を楽しむ心と出会いを大切にする姿勢で乗り越えてきたそうです。

終始笑いの絶えない今回のインタビューは、酒井さんの人を引き付ける魅力と、包み隠さずに語る飾らないお人柄が溢れ出ていました。資金調達の方法、挫折を乗り越える方法、人との出会いを大切にする姿勢など、これから起業を目指す方々に役立つヒントが満載です。ぜひ本文でご確認ください。

会社プロフィール

業種 芸能・音楽・エンタメ
事業継続年数(取材時) 5年
起業時の年齢 30代
起業地域 東京都
起業時の従業員数 2人
起業時の資本金 100万円

話し手のプロフィール

酒井光一
株式会社12DO 代表取締役
芸能の裏方としてタレント・歌手のマネジメントを担当。人生で初めて観に行ったクラシックコンサートで井上道義さんと大阪フィルハーモニーさんの演奏に衝撃を受け、クラシック専門配信プラットフォーム『カーテンコール』サービスを開始。主催コンサートを始め、国内オーケストラと地域を主軸に新しい形の地方創生を目指している。

目次

家庭の事情で退職を余儀なくされ…思いがけない起業のスタート。

起業前、どのようなキャリアを歩まれていたのか教えていただけますか。

酒井さん:18歳で芸能界に飛び込み、タレントマネジャーや音楽関連の仕事を経験してきました。最初はグラビアアイドルのマネジメントから始まり、その後は俳優やアーティストのマネジメントや楽曲制作、イベント制作など、エンタメ業界で幅広い経験をしてきましたね。

具体的に起業を決意されたのは、どのようなタイミングだったのですか?

酒井さん:起業を決意したのは、父が倒れて病気になり、さらに母も祖母も病気がちになるなど、家族のサポートが必要な状況になったためです。もともと起業したいと考えたことはあまりなかったのですが、会社を離れざるを得なかったんですよね。

そして、あまり深く考えずに法人化しました。個人事業主として始めればよかったのでしょうが、当時の私は「独立するってことは、会社を作るもんだよな」と単純に思っちゃって(笑)。資本金100万円ほどのほんの小さな映像制作会社を立ち上げました。過去の仕事や人脈を頼りに、写真や映像の撮影・編集の仕事をこなす日々でしたね。

エンタメ業界のキャリアを生かし、新たな挑戦へ。配信ビジネスで見出した可能性とは?

現在事業の主軸となっているクラシック音楽配信プラットフォームへの挑戦を決意した理由について、詳しく教えてください。

酒井さん:きっかけの1つは、起業前に仕事で訪れた大阪で大阪フィルハーモニー交響楽団のコンサートを初めて聴いた際に、クラシック音楽の感動を味わったことでした。オーケストラの壮大な音色に包まれて、もう鳥肌が立っちゃって。それまでクラシック音楽を生で聴いたことなかったので、本当に衝撃的だったんです。

そんな中、起業から2か月後、ふとした縁で知人から音楽の配信プラットフォーム運営の協力依頼がありました。クラシックの感動が忘れられなかった私は、その話を聞いた瞬間に「これは絶対におもしろいことができる!」と直感したんです。「手伝うだけでなく、自分のビジネスにしてみたい!」と。

そして知人と交渉した結果、5,000万円でプラットフォームを買い取ってもいいという返事が。配信のノウハウも音楽の専門知識もありませんでしたが、おもしろそうな事業に挑戦するために、資金調達をしてでもプラットフォームを手に入れようと決意しました。

まさに運命のような出会いだったんですね、

酒井さん:さらに市場調査を進めていくうちに、クラシック音楽業界の課題と可能性が見えてきたんです。

まず、クラシック音楽のファン層の高齢化が進んでおり、それに伴ってコンサートの観客数は減少傾向にありました。それに、当時はオンライン配信などの新しい取り組みが遅れていて、高齢のファンの方々がデジタルコンテンツについていけないという課題もありました。しかも、オーケストラの多くは自治体や企業の支援なしでは運営が成り立たないんですよね。

でも見方を変えれば、これってチャンスなんじゃないかと思ったんです。デジタル化を進めて、若い世代にもクラシックの魅力を伝えていけば、新たなファン層を開拓できるかもしれない。オーケストラと自治体とのパイプを活かせば、クラシックを入り口に、地方創生だってできるかもしれない。

もう、そういうビジョンが一気に頭に浮かんできて、こんなチャンスは二度とないって思いました。知人との出会いとこのアイデアが大きなきっかけになり、クラシック音楽の配信に向けて突き進んでいったんです。

とはいえ楽譜も読めない、楽器の知識もない状態からのスタートだったので、関係者の方々から最初は怒られましたけどね(笑)。リスクは大きかったものの、未知の世界に挑戦するワクワク感が勝っていました。

クラシック音楽の魅力を届けたい! 熱い想いを胸に、5,000万円の資金調達に奔走。

プラットフォームの購入費用の5,000万円は小さな額ではないですよね。資金調達はどのように進められたのでしょうか?

酒井さん:とにかく必死でしたよ(笑)。でも、このプラットフォームを通じて地方創生を実現したいっていう思いは本物だったんです。だから、周囲の経営者の方々にも熱弁しまくっていました。すると、ある知人の経営者の方が、「この投資家の方を紹介するよ」って名刺をくれたんです。急いで事業計画書も準備しました。基本的には自分でいろいろ調べながら資料を作成し、最終的には知人にアドバイスもいただいて作り上げました。

投資家との面談はもう会う前からドキドキでした。だって、どんな方なのか全くわからないのに、当日になって一緒に行く予定だった知人が「体調悪いから今日は一人で行ってきて」なんて言い出すんですよ(笑)。とにかくてんやわんやで、不思議な出会いでしたね。

でも、その方は愛にあふれた本当に素晴らしい方で。私の「音楽配信を通じて地方創生を実現したい」というビジョンに対して、「一緒に事業を成長させよう」と言って、出資を決断してくれたんです。まさかこんなご縁に恵まれるなんて。おかげさまで5,000万円もの資金を調達することができました。

資金調達への挑戦に不安や戸惑いはありませんでしたか?

酒井さん:ためらう気持ちはありませんでした。とにかく、やるかやらないかだけだと、自分を奮い立たせていたので。プラットフォームを通じて地方創生を実現するという熱い思いをストレートに伝えられたことがよかったと思います。

初めての資金調達は本当に手探りの状態でしたが、ワクワクする気持ちを原動力に突き進みました。目的地とやりたいことを決めたら、そこにどう行けばいいのかを考えて行動する。やってみて初めて見えてくることはたくさんあるので、とにかく動いてみることが大切だと思います。

初配信でまさかのトラブル発生!危機を乗り越えた先に見えた、成長のヒント。

事業を運営していく中で、特に印象的だったエピソードなどがあれば教えてください。

酒井さん:コロナ禍に、ある大学のオーケストラから配信のご相談を頂いたんです。卒業に向けたコンサートができなくなってしまったけれど、どうしても演奏を配信したいという熱い想いを聞いて、「お金はいりません!行きます!」と二つ返事で協力を決めました。

すると、もともとそのオーケストラが頼んでいた映像制作会社の社長さんがとても気さくな良い方で。何か自分と同じ匂いがすると直感したので、撮影協力の依頼をしたところ快く引き受けてくださいました。今では業務提携という形で、基本的な映像制作をすべておまかせしています。

また、出張の際に立ち寄ったお店で出会った方とビジネスパートナーになったこともありました。その方とはほんの数分話しただけでしたが、ふと直感が働いてその場で連絡先を交換。あとから聞くと地方創生にも取り組んでいる方で、今では一緒にプロジェクトを進めています。

こうした出会いは、特別な人脈がなくても、日常の中にたくさん転がっているのかもしれません。大切なのは、出会いを恐れず、興味を持って関わろうとする姿勢なのかなと思います。

出会いが事業の成長に良い影響を与えていたのですね。一方で、事業を進める中では困難に直面することもあったのではないでしょうか。

酒井さん:実は初めての有料配信のコンサートが、まさかのトラブルに見舞われたんです。著名なアーティストのコンサートの配信がシステムトラブルで画面も音も届かず、一時は最悪の事態も頭をよぎりました。配信画面には、「映像が映らない」「音が聞こえない」といった困惑のコメントがたくさん流れ始め、どうなることかと思いましたね。

でも、うろたえたところでシステムは直りません。「絶対に解決できるはずです。落ち着いて対応してください」と担当者に伝えて、私はコメント欄で謝罪と状況説明を続けるしかなかったんです。あたふたしながらも、なんとかシステムが復活。生きた心地がしませんでしたが結果としてお客さまの満足度は高く、クレームにはつながりませんでした。

こうしたピンチの経験から学んだことも多かったですね。トラブルに直面した時こそ、チームを信じて適切に対処すれば、お客様との信頼関係を築くこともできると実感しました。

地域おこしに音楽の力を。独自の地方創生プロジェクトに挑戦中。

事業を通じた地方創生について詳しく教えてください。

酒井さん:地方には魅力がたくさんあるのに、まだ十分に発信できていないんです。そんな課題意識から、地域の魅力をいかに発信し、課題解決に貢献できるかを考えるようになりました。

特にオーケストラと自治体の連携の強さに着目し、音楽とともに地域の魅力を映像コンテンツ化する取り組みを進めています。

例えば山形交響楽団と山形県、そして弊社の三者で連携し、山形の日本酒などの魅力的な物産を特殊なパッケージでブランディングし、国内外に販売するプロジェクトを進めています。商品に付けたQRコードから、山形の観光PR映像や、職人の後継者不足などの課題を訴えるコンテンツが見られる仕組みです。そこに山形交響楽団の演奏を織り交ぜ、音楽の力で地域ブランドの価値を向上させたいと考えています。

音楽の力で地域の魅力を発信する取り組みはとてもユニークですね。その発想の原点はどこにあるのでしょうか。

酒井さん:テクノロジーの発展によって、地方で暮らすことの価値を再評価する時代が来ると考えています。そうなれば、豊かな自然に囲まれた環境で、ゆとりを持って生活を送ることの尊さに、きっと多くの人が気付くはずです。

そのときに守るべきは、地方に残る豊かな自然や歴史ある伝統、そして人々の中に根付く精神性です。こうした地方の価値を再発見し、新しい形でブランディングしていきたいんですよね。それこそが地方創生の本質だと考えています。

東京は経済性や効率性を追求する一方で、ゆとりを感じにくい側面もあるかもしれません。対して地方では、伝統などの大切なものを守り、丁寧にものづくりをする姿勢が息付いているんです。そこに根ざした情熱を形にして発信できれば、地方の魅力がもっと多くの人に伝わるはずです。

実はそんな想いから、プラットフォームに「カーテンコール」という名前を付けました。素晴らしい演奏の後、お客さんがカーテンコールで拍手を送るように、自分たちの人生の最後に拍手されるような生き方をしよう。音楽の力を使って、眠れる地方の資源の価値を引き出し、地方の人々の素晴らしい生き様に光を当てていこう。そんな思いを込めています。

素敵な思いが込められているのですね。音楽配信では、今後他のジャンルへの展開などは考えていらっしゃらないのでしょうか?

酒井さん:基本的にはクラシックを中心に据えていて、電気を通さない生演奏のものにこだわっています。将来的にはジャズなど、ノイズが入らないジャンルにも挑戦してみたいですね。

実はクラシック音楽には、人間のエネルギーを動かす不思議な力があると感じているんです。オーケストラの生演奏だからこそ、そのパワーを感じられるんじゃないかなと。

犯罪率の高い地域でクラシック音楽を流すと犯罪率が低下する、というデータもあるんですよ。400年以上も愛され続けているオーケストラ音楽には、きっと特別な意味があるはずです。

そういった音楽の力を追求していくことで、いつか新しい未来が拓けるかもしれない。そんな可能性を感じています。

起業を目指す方へ。背中を押してくれる「2つの言葉」。

起業を目指す方に向けてメッセージをいただけますか?

酒井さん:私の起業の原点となった言葉を2つ紹介したいと思います。

1つは、「“1+1”は無限の可能性がある」という言葉。この言葉に出会ったのは、小学4年生の時に母の通っていた美容室の先生から「“1+1=2”の人生を歩んじゃだめよ」と言われたことがきっかけでした。その意味がわからず、ずっと考え続けていたんです。

そして18歳の時、ある数学教授に「“1+1”はいくつですか?」と聞いたところ、「“1+1=2”です。しかし、それは単なる計算結果であって、1人と1人が出会うことで生まれる可能性は未知数。つまり、“1+1”は無限の可能性がある」と教えてくれました。この言葉は今でも私に、固定概念に捉われず、自由な発想を大切にすることを伝えています。

そしてもう1つは、「行動を伴わない想像力は、何の意味も持たない」というチャップリンの言葉です。この言葉は、想像するだけでなく、実際に行動することの重要性を教えてくれます。

起業の世界は、わからないことだらけかもしれません。でも、私たちには無限の可能性があります。大切なのは、興味を持って一歩を踏み出すこと。うまくいかないこともあるでしょう。でも、そこから学ぶことはたくさんあります。仲間と共に、新しいことにチャレンジし続ける。そうすることで、道は必ず拓けていくはずです。失敗を恐れず、まずは一歩踏み出してみましょう。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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