チャンスを求めてセブ島へ。20代で挑戦した海外起業の一歩目とは?
- 起業時の課題
- 資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 起業/法人成り関連手続き, 人材確保、維持、育成, 製品/サービス開発, バックオフィス業務
フィリピン・セブ島で、本業ではBPO(※)センターに勤務しながら、留学エージェントの副業から起業した寺本雄平さん。現在は「株式会社ストロングジャパンホールディングス」を設立し、留学エージェントのみならず、語学学校の運営やオンライン英会話サービス、コールセンター事業、不動産事業、託児所事業など、ニーズを捉えて多角的に事業を展開しています。
「自分の経験を活かせる分野に飛び込み、小さくても一歩を踏み出すことが大切」と語る寺本さん。寺本さんが歩んだ起業への道のりは、海外での起業が決して遠い夢ではないことを物語っています。ぜひ最後までお読みください。
- ※BPO(Business Process Outsourcing)…企業の業務の一部を外部に委託すること
会社プロフィール
業種 | 教育・学習 |
---|---|
事業継続年数(取材時) | 7年 |
起業時の年齢 | 20代 |
起業地域 | 東京都、フィリピン |
起業時の従業員数 | 0人 |
起業時の資本金 | 100万円 |
話し手のプロフィール
- 寺本 雄平
- 株式会社ストロングジャパンホールディングス 代表取締役グループCEO
- 国内外で8拠点を展開「セブ島の総合商社」として、学校法人、留学エージェント、コールセンター、BPOセンター、不動産事業、人材事業、IT開発事業、託児所や飲食店運営などの事業を多角的に展開中。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。
目次
- 日本から飛び出しセブ島で見つけた「人生を変えるビジネス」。
- 副業から始める、低リスク・低コスト起業のヒント。
- 培ってきた知見を武器に、新たな分野に挑戦。事業拡大の秘訣とは?
- 法人化を決意した理由は?起業2年目で迎えた事業の転換点。
- リスクを見極めつつチャンスを掴む。海外で事業を展開する面白さと学び。
- チャレンジの積み重ねが、今の自分を作る。起業を目指す人が今すぐ始められること。
日本から飛び出しセブ島で見つけた「人生を変えるビジネス」。
寺本さんがセブ島に渡って起業するまでのキャリアについて教えていただけますか。
寺本さん:私のキャリアは、新卒で入社した不動産デベロッパーの会社から始まりました。朝7時から夜11時まで働くかなりハードな環境の中、飛び込み営業でマンションを販売する毎日。営業成績は良かったものの完成された上場企業の人事制度を見ると、このまま頑張っても昇進には何年もかかるということもわかってきて…。次第に、もっと短期間で出世し高い収入を得たいという思いが芽生え始めたんです。
その後、年功序列ではなく実力主義の環境を求めて転職を重ねるうちに、海外でのキャリアに興味を持つようになりました。そこで、海外企業の求人にも応募してみたんです。結果、ドイツの日本料理店とフィリピンのセブ島にある日本語コールセンターから内定をいただきました。どちらの国に行くか迷いましたが、働きながら英語が学べそうだと考え、セブ島への渡航を決意したんです。
しかし、セブ島に着いてすぐ、私はまたもや壁にぶつかりました。なんとコールセンターの運営がうまくいっておらず、わずか2週間ほどで会社がセブ島から撤退したんです。異国の地で途方に暮れていたとき、運良く現地の日系語学学校の社長と出会い、その企業に就職することに決めました。そこで数か月の勤務後に、留学支援事業を行っていた部署で留学エージェント業務を任せてもらったんです。
留学を通じて、学生たちは英語力だけでなく自信と視野を広げ、新しい一歩を踏み出していきます。その姿を見て、留学はまさに人生を変えるビジネスだと感じ、留学斡旋の仕事に強く魅了されました。
留学エージェントとしての起業を志すようになったのは、そういったご経験があってこそなんですね。
寺本さん:その通りです。社内ベンチャーとして新たな留学エージェント事業を立ち上げる機会にも恵まれました。当時、私は学校のセールス・マーケティングスタッフとして働いていましたが、自校に入学しない学生たちを他の語学学校に紹介し、紹介料を得るビジネスモデルを提案したんです。この事業は数か月で初期投資を回収し、単月黒字化を実現。この成功が、私の独立への自信に繋がりました。
ただ、独立するにも留学事業だけでは不安だったので、コールセンターとBPOセンターを運営する会社にも転職しました。運良く事業立ち上げのタイミングでジョインでき、そちらでも黒字化を体験できたんです。この経験が、起業への大きな自信につながりました。
振り返ってみると、セブ島での数年間は、起業家としての基礎を築いた大切な期間でしたね。多様な事業立ち上げの経験が、独立への道を切り拓いてくれました。
副業から始める、低リスク・低コスト起業のヒント。
独立に向けてどのように準備をされたのでしょうか?
寺本さん:私が起業した当時、まだセブ島で会社に勤めていたので、最初は副業からスタートしました。本業の合間を縫って、Facebookやブログで情報発信したり、口コミで顧客を集めたりしていましたね。
特にフィリピン留学に特化したFacebookコミュニティがあったので、そこで地道に宣伝を続けました。「留学したい人募集中!無料で学校を紹介します」といった投稿を、毎日のようにアップしていたんです。最初のうちは反応もイマイチでしたが、コツコツ続けるうちに問い合わせが増えていきました。
本業と副業の両立は大変だったのではないですか?
寺本さん:確かに忙しかったですね。完全にフルタイムの正社員として働きながら、効率よく業務をこなし、空き時間を見つけては自分の事業も進めていました。もちろん、土日と平日の夜も活用していましたね。やるべきことを手早く終わらせて、うまく自分の時間を作り出すことを重視していました。
工夫して時間を作っていらっしゃったんですね。ほかに集客で工夫した点はありますか?
寺本さん:起業当初の集客は口コミの力が大きかったですね。友人からの紹介にも助けられました。ほかにもペライチというサービスを利用して作ったホームページで、情報発信もしていました。最初はドメインも取得せずに無料のまま使っていましたし、見知らぬ広告が表示されていてもお構いなし。とにかく低コストでスピーディに始めることを優先しました。
リスクを抑え、低コストで始めることに重きを置かれていたんですね。
寺本さん:そこはこだわりましたね。さらに言うと留学エージェントのビジネスモデルは、語学学校と提携し学生の紹介料をいただくビジネスモデルなので、在庫を抱えるリスクがないのも良かったです。加えて、学生さんから学費を事前に預かって学校側に支払うので、資金繰りもしやすい。リスクとコストを最小限に抑えながら、売上を立てられる仕組みが良かったと思います。
培ってきた知見を武器に、新たな分野に挑戦。事業拡大の秘訣とは?
事業が軌道に乗り始めたころ、寺本さんは新たな挑戦に乗り出されたそうですね。
寺本さん:留学エージェントとしての事業を進める傍ら、セブ島に語学学校を開校しました。開業前から学校経営には強い興味があったんです。
しかし、学校の開校には多額の資金が必要で、苦労も多くありました。そこで目を付けたのが、集客や運営に苦戦をしている学校の事業を譲り受けること。学校の設備や教師の雇用を引き継ぐ形で、自分たちの学校をスタートさせたんです。
ただ、学校の許認可取得に1年もかかるなど、予想外のことも多くて。その間は先生たちの給料や家賃など、経費の支出が続く一方で経営はスタートできず売上が立たない状況が続き、財政的にはギリギリの綱渡りでしたね。
でも、なんとか乗り越えることができました。コロナ前は日本人の生徒がメインでしたが、最近ではアジアやアラビア語圏の生徒も増えてきています。学校では対面式のレッスンだけでなく、オンライン英会話サービスの提供も行っています。法人向け、個人向けと幅広くニーズに対応しつつ、自社の従業員向けの福利厚生としても活用しているんですよ。
コールセンターやBPOの事業にも進出されたそうですが、その狙いは何だったのでしょうか?
寺本さん:もともと私自身、コールセンターの仕事を通してセブ島に縁があったので、ゆくゆくは自分でもコールセンターを立ち上げたいと考えていました。留学生を従業員として雇用し、その売上で学費を賄うことができれば、留学のハードルを下げられる。そんな構想から『0円留学』というサービスも始めました。
幸い、学校経営の傍らでコールセンター事業も軌道に乗り、日本企業から安定した業務を受注できるまでになりました。おかげで、コロナ禍で留学事業が打撃を受けたときも、従業員の雇用を守ることができたんです。
事業の多角化が、リスク分散につながった面もあるわけですね。一方で、事業を拡大する中で直面した課題はありましたか?
寺本さん:そうですね。語学学校にしろコールセンターにしろ、現地スタッフに支えられている部分が大きいので、マネジメントの面では苦労も多かったです。
例えば、フィリピンの方は日本に比べると遅刻や欠勤が多かったんですね。この問題には、皆勤手当などのインセンティブ制度を導入することで対策しました。罰則を設けるのではなく、「きちんと働けばその分報われる」というメリハリをつけたんです。言葉の壁や文化の違いに悩まされることもありましたが、粘り強いコミュニケーションと信頼関係づくりを心がけました。リスクマネジメントの部分で言うと、お金の入り口は全て日本法人に統一しています。現地法人も立てていますが、必要な分だけを日本法人から現地法人に送るように徹底することで、万が一に備えています。
ただ、日本法人とフィリピン法人とで、登記のプロセスや文化、ルールの違いなどにより、フィリピン法人の設立には想定以上の時間を要しましたね。しかし、費用等の兼ね合いもあり、専門家の手は借りずにすべて自分たちで手続きを行いました。
法人化を決意した理由は?起業2年目で迎えた事業の転換点。
法人化を決意したタイミングについて詳しく教えていただけますか?
寺本さん:個人事業主として事業を始めて約2年が経ったころ、事業を本格的に拡大させるには法人化が必要だと感じるようになりました。特にお客さまから「個人の口座に送金して大丈夫?」と不安の声をいただくことがあり、信頼性を高めるためにも法人化は避けられないと思ったんです。
あとは、私の中で「20代で起業する」というのが1つの目標になっていて。4月で30歳というタイミングで、留学エージェント事業としてある程度売上が立ってきたので、29歳の3月29日ギリギリで登記しようと(笑)。一生「20代で開業した」と言えるように、スケジュール的にもギリギリで法人設立に踏み切りました。
株式会社の設立に際して、取締役の選任など、会社組織はどのように整えましたか?
寺本さん:常務取締役に語学学校で勤務をしていた際にお世話になった元上司を迎えました。彼には、語学学校で一緒に働いていたときから、「自分の学校を作りたい」という夢も含め、自分のビジネスをどう広げていくか相談に乗ってもらっていました。最終的には「一緒に夢を見ませんか」と熱く語って、賛同していただいたという経緯ですね。
会社設立の資金はどのように調達したのでしょうか。
寺本さん:まずは東京にある『創業手帳』の無料コンサルティングを利用しました。そこで高田馬場創業支援センターを紹介していただき、融資に関する相談をしたんです。創業支援センターでは、日本政策金融公庫の申請方法だけでなく、担当者の紹介や申請資料の事前添削まで行ってくれて。手厚い支援のおかげで、融資申請をスムースに進めることができました。結果として、日本政策金融公庫から500万円の融資を受けられました。
銀行からも、公庫と同額の500万円をほぼ無条件で融資してくれる制度があったんですが、金利負担を考えて100万円に留めました。当時は金利の高さにビビってしまって、つい融資額を抑え気味にしてしまったんですよね。今にして思えば、もう少し借りておけば良かったと思っています。
でも、リスクを慎重に見極めることは、起業するうえで本当に大切なことだと思います。自分の事業に対する熱い想いを持ちつつ、冷静に判断する姿勢も必要ですからね。
他にも会社設立時に利用されたサービスなどがあれば教えてください。
寺本さん:こちらは法人設立のコストを抑える意味合いが強かったのですが、新宿区の法人創業相談会にも参加しました。30分×4回ほどの相談会に参加することで、区からの補助を受けられる制度を利用したんです(※)。おかげで、通常30万円ほどかかると言われる法人登記の費用を半額以下に抑えることができました。「利用できるものは全部使おう」という気持ちでしたね。
- ※一定の基準を満たすと「特定創業支援等事業」と認められ、会社設立登記時に登録免許税が減免となる特例措置を受けることができます。特定創業支援等事業の詳細はこちらをご覧ください。
リスクを見極めつつチャンスを掴む。海外で事業を展開する面白さと学び。
今後の目標やビジョンについて教えていただけますか?
寺本さん:現在はフィリピンのセブ島を中心に事業を展開していますが、今後はマルタ共和国への進出も視野に入れています。
セブ島では、留学事業を起点に、現地の生活をトータルでサポートする「セブ島の総合商社」とも呼べる事業を展開してきました。託児所事業や飲食事業、不動産事業など、あらゆるサービスを手掛けることで、1人でも多くの方にセブ島での充実した生活を送っていただきたいと考えているんです。
その知見を活かして今後はマルタ共和国に進出し、セブ島で培ったビジネスモデルを展開していきたいと思っています。もちろん、すべてを実現できるかはわかりませんが、1つずつ着実にサービスを広げていくことで、より留学生の方々に選ばれる企業を目指していきたいですね。
なぜ、海外で事業を展開することにこだわるのでしょうか。
寺本さん:私自身、海外で働いた経験から、新しい環境に飛び込むことの大切さを実感しているんです。現地の文化に触れ、価値観の違いを感じることで、自分の視野も大きく広がりました。ビジネスを通して異文化理解を深められるのは、海外で起業する醍醐味の1つだと思います。
もちろん、海外ビジネスのリスクも十分に考慮しています。
セブ島の治安については、以前は軽犯罪が多かったものの、最近は国の施策により大幅に改善されています。例えば、タクシードライバーがお釣りを渡さないような問題も、ライセンス剥奪などのペナルティ導入によってほとんどなくなりました。
しかし、海外ビジネスには現地の法律や慣習に沿った対応が必要です。フィリピンでは外国人が法人を設立するのが難しいこともあり、信頼関係のある現地の方を代表や幹部として起用しています。その上で、継続的に良好な関係を築くよう努めています。
また、資金管理においても工夫をしています。例えば、語学学校の売上については、日本人の売上は日本側で、外国人の売上は現地で受け取りますが、その過程は必ず日本法人が一元管理し、資金の流れを把握しています。これにより、事業の安定性と透明性を確保しているんです。
このように海外でのビジネスには、リスク管理の重要性を肝に銘じておく必要があります。しかし、現地の状況をよく見極めることで、意外なチャンスが見つかるものだと実感しています。
チャレンジの積み重ねが、今の自分を作る。起業を目指す人が今すぐ始められること。
最後に、起業を志す人へのメッセージをお願いします。
寺本さん:もし今、起業するか迷っているなら、一歩踏み出してみることをおすすめします。「ある程度落ち着いてから」という声も聞きますが、個人的には“落ち着いた状態”なんて一生来ないんです(笑)。
私自身、35歳の今でも新しいことへの挑戦は続いていますし、むしろこれからもどんどん世界に羽ばたいていきたいと思っています。
だからこそ、「起業したい」と思ったら、早めに動き出すことが大切だと思うんです。リスクはなるべく抑えつつ、小さくてもいいのでまず一歩を踏み出してみてください。
私は今でこそ世界中に学校を作ることを目標に掲げられるようになりましたが、そこに至るまでもさまざまなチャレンジの連続でした。海外の文化に飛び込み、ゼロから事業を立ち上げる。その経験1つ1つが、今の自分の糧になっているんです。
だから、「こんなこともしてみたい」「あんなこともやりたい」という想いは、どんどん形にしていってほしいですね。失敗を恐れず、興味のあることに手を伸ばす。その積み重ねが、きっと大きな成長につながるはずです。
取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず
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