副業で行う個人M&Aとは?メリットや注意点、成功のポイントも解説
監修者: 渡辺亨(中小企業診断士)
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働き方の多様化が進み、本業の他に副業をする人も増えてきました。副業として自分で事業を行いたいと考えたとき、選択肢の1つになるのがM&A(Mergers and Acquisitions)です。会社員が副業のために、会社や事業を買収するケースも見られます。では、M&Aは副業でどのように活用されているのでしょうか。
ここでは、個人が副業を始めるために行うM&Aについて、基本的な知識やメリット、注意点などを解説します。
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副業で行う個人M&Aとは、会社員が副業を始めるために他の会社や事業を買収すること
副業で行う個人M&Aとは、会社員など本業を持っている方が、副業を始めるために他の会社や事業を買収することです。M&Aは一般的に会社同士で行われるイメージがあるかもしれませんが、個人で買収を行うケースもあり、その場合は個人M&Aと呼ばれます。
個人M&Aは、例えば、既にフリーランスとして事業を行っている方が事業の多角化や拡大を目指す目的で用いられます。また、会社員が本業を続けながら、副業として個人M&Aを行って起業するケースも少なくありません。
個人M&Aには、以下のような特徴があります。
個人M&Aの主な特徴
- 個人M&Aの取引額は300万~500万円が一般的
- 専門知識をあまり必要としない、小規模な事業者が多い業界が個人M&Aの対象となりやすい
個人M&Aの取引額は300万~500万円が一般的
個人M&Aの取引額は、300万~500万円が一般的といわれています。M&Aマッチングサイトでは、数億円規模で取引される例もありますが、会社員が貯蓄できる金額の範囲内で買収できる案件も珍しくありません。例えば、焼肉店や弁当販売店などで、300万円以下の売却希望額が提示されている例もあります。初期資金さえ準備できれば、個人が副業でM&Aを行うことは可能です。
M&Aの取引額が気になる場合は、M&Aマッチングサイトで売却案件を確認して、どのような事業がどのような希望金額で売りに出されているのかを見てみましょう。
専門知識をあまり必要としない、小規模な事業者が多い業界が個人M&Aの対象となりやすい
個人M&Aの対象になりやすいのは、専門知識をあまり必要としない、小規模な事業者が多い業界です。売上高や見込める利益が小さい案件ほど、取引額は低くなる傾向があるため、個人M&Aの対象とされやすくなっています。個人M&Aの対象になりやすい業界としては、飲食業・小売店・ECビジネス・美容サロン・ネイルサロン・学習塾・コワーキングスペースなどがあげられます。
これらの業種の中には、オーナーの手を離れて自走で運営可能な案件もあるため、副業として取り組みやすい案件を探してみましょう。
- ※個人M&Aについては以下の記事を併せてご覧ください
副業で個人M&Aを利用して起業するとさまざまなメリットがある
会社員が副業を始める際にM&Aを利用した場合、さまざまなメリットがあります。副業を始める方法には、M&A以外にも、フリーランスとしての開業や会社設立といった方法もあります。その中でも、個人が副業でM&Aによって起業する場合の主なメリットは、以下のとおりです。
個人M&Aで副業を始める場合の主なメリット
- 起業準備の際の時間と費用を削減できる
- 安定した事業や会社を引き継げる
- 利益の見通しが立てやすい
- 独立して起業するための経験を積める
- 個人での取得が難しい許認可を利用したビジネスにも参入できる
起業準備の際の時間と費用を削減できる
副業でM&Aを利用するメリットは、起業準備にかかる手間や時間、コストを軽減できることです。M&Aを利用すれば、既に安定して事業を行ってきた事業モデルを引き継げるため、ゼロからサービスを考えたり、設備を揃えたりしなくても開業できます。
自分で会社を設立しようと思うと、例えば商品やサービスの開発、事業計画の策定、店舗や事務所といった物件の取得、登記申請手続きなど、さまざまな手間とコストが発生します。本業の仕事を続けながら、これらの手続きを自分だけで行うのは簡単ではありません。
本業もある中、少ない手間で副業をスタートしたい場合は、M&Aも検討してみましょう。
安定した事業や会社を引き継げる
副業でM&Aによる起業を選んだ場合、安定して運営できている事業や会社を引き継げる点もメリットといえます。M&Aでは、稼働中の事業を買収するため、事業の現状を精査して将来も安定して稼働できそうな会社を選ぶことが可能です。
起業では一般的に、事業を立ち上げてから安定させるまでに労力がかかります。しかし、副業の場合、本業以外の限られた時間では、十分な労力をかけることができないかもしれません。例えば、経営上の問題点に気付くのが遅れたり、有効な対策を考える時間がなかったりすることで、事業を失敗させてしてしまう可能性もあります。
また、副業をしていると本業と合わせた労働時間が長くなり、生産性や健康に悪影響を及ぼすリスクもあります。M&Aを利用して、事業が安定した会社を買収すれば、ゼロから起業する場合と比べて少ない労力でスムースに事業を進めることも可能です。
本業と副業を無理なく両立したい場合は、選択肢の1つとしてM&Aも検討してみてください。
利益の見通しが立てやすい
M&Aによる副業は、利益の見通しを立てやすい点もメリットです。M&Aなら、会社や事業の実績があるため、将来の見通しを立てやすく、継続的な利益を得られる可能性が高まります。M&Aの案件情報にも、例えば見込まれる売上高や営業利益などが提示されるのが一般的です。
フリーランスや一般的な起業で副業を始めた場合、実際に利益を上げられるかどうかはビジネスを始めてみないとわかりません。
M&Aを検討するときは、見込める売上高や営業利益についても忘れずに確認しましょう。
独立して起業するための経験を積める
M&Aによる副業では、独立して起業するための経験を積める点もメリットとなります。ビジネスモデルが確立した事業を引き継いで経営することになるため、効率良くノウハウを身につけることが可能です。
M&Aで会社を買収すると、既存の事業基盤をベースに実際に事業を運営していくことになります。基本的なしくみが整っている状況で、例えばさらなる利益の向上策や、コストの削減策などを試すことができます。つまり、会社を退職して起業する前に、経営者としての実践的な経験を積むことが可能です。
将来、副業ではなく本業として事業を始める計画がある方も、まずM&Aで副業を始めることを検討してみてはいかがでしょうか。
個人での取得が難しい許認可を利用したビジネスにも参入できる
個人での取得が難しい許認可を利用したビジネスにも参入できることも、副業によるM&Aのメリットです。株式を取得して会社を買収するM&Aであれば、事業に必要な許認可をそのまま引き継ぐことができるため、買収後の申請手続きは不要です。ただし、事業譲渡で事業を買収した場合は、許認可を引き継ぐことはできず、改めて許認可の申請が必要になります。
事業を開始する場合、業種によっては、所定の許認可申請が必要になります。許認可の取得では、さまざまな条件を満たす必要があり、取得に時間がかかることも少なくありません。例えば、トラックによる貨物運送を行うには、一般貨物自動車運送事業許可が必要になります。一般貨物自動車運送事業許可を取得するには、法律で定められた人数の運転者や運行管理者、整備管理者を配置しなければならないため、人員確保の見通しが立たない場合は許可の取得が困難です。
許認可が必要な業種で副業を始めたい場合には、M&Aの利用も検討してみてください。
- ※許認可の取得については以下の記事を併せてご覧ください
副業で個人M&Aを利用する際には注意点もある
副業で個人M&Aを利用する際には、メリットだけでなく、注意点もあります。失敗してから後悔しないためにも、以下の注意点を確認しておきましょう。
副業で個人M&Aを利用する際の主な注意点
- 個人でM&Aの手続きを行うと、手間や時間がかかり忙殺される
- 予算によっては十分なデューデリジェンスが行えない可能性もある
- 適正な買収価格がわからず、買収金額が高額になりすぎる場合もある
- 買収前の経営状況をそのまま引き継げるわけではない
- 買収先企業の従業員や取引先からの理解を得るのが難しい場合がある
個人でM&Aの手続きを行うと、手間や時間がかかり忙殺される
個人でM&Aの手続きを行うと、手間や時間がかかり忙殺される点に注意しなければなりません。M&Aの手続きは、工程が多く、専門知識も必要になるため、準備をせずに臨むと手間も時間もかかります。
M&Aの手続きには、M&Aの目的や条件の検討・相手探し・条件交渉・契約といった、さまざまな工程があります。また、交渉力に加えて、財務・税務・会計・法務・労務などの知識も必要です。
このような手続きを、本業を続けながら個人で行おうとすると、作業の多さに忙殺されてしまう可能性があります。疲労や寝不足などによって、本業や健康に悪影響を及ぼさないように、無理のないスケジュールで準備を進めなければなりません。
無理なく進めるには、すべての手続きを自分だけで進めようとせず、専門家の力を借りるのも1つの方法です。なお、弥生株式会社の「税理士紹介ナビ」なら、ご要望に応じて最適な税理士・会計事務所を無料でご紹介が可能です。M&Aに詳しい専門家を探す際には、こうしたサービスを活用することも検討してみましょう。
予算によっては十分なデューデリジェンスが行えない可能性もある
副業のために個人M&Aを行う場合、予算によっては十分なデューデリジェンスを行えない可能性がある点にも注意してください。デューデリジェンスは、基本的に専門家に報酬を払って依頼するため、調査に時間がかかるほど費用は高額になります。
デューデリジェンスとは、財務・税務・法務・労務・ビジネスモデルの有効性など、あらゆる側面から対象会社の実態を調査する企業監査のことです。一般的には、税理士や公認会計士、弁護士、中小企業診断士といった、各分野の専門家に依頼して行います。
デューデリジェンスを実施しないと、例えば未払いの残業代や債務保証などの簿外債務に気付くことができない可能性があります。特に中小企業のM&Aでは、決算書と実態がかけ離れている場合もあるため、入念なデューデリジェンスが必要です。しかし、デューデリジェンスには手間がかかるため、場合によっては専門家に支払う報酬が数百万円規模になることもあります。
コストを抑えたい場合は、M&Aマッチングサービスで用意されている簡易デューデリジェンスの利用なども検討しましょう。
適正な買収価格がわからず、買収金額が高額になりすぎる場合もある
M&Aでは、適正な買収価格がわからず、買収金額が高額になりすぎる可能性もあるため注意しなければなりません。買収価格が本来の価値に比べて高すぎると、資金繰りを圧迫するため、買収後の資金回収が難しくなってしまいます。
買収価格を変動させやすい項目として、例えば、営業権の評価があげられます。一般的に、収益力に比例して営業権も高くなりますが、その評価について、売手側と買手側で認識の相違が生じることも少なくありません。
適正な買収金額を判断するのが難しい場合は、税理士やM&A仲介会社などの専門家のサポートを検討してください。
買収前の経営状況をそのまま引き継げるわけではない
M&Aで起業しても、買収前の経営状況をそのまま引き継げるとは限らない点にも、注意が必要です。副業で個人M&Aの対象になる小規模企業は、売上や利益が小さく、経営が安定していないこともあるため、事業内容を慎重に確認しなければなりません。また、経営者の交代によって、例えば事業の進め方や取引先との関係性などに変化が生じ、売上が低下してしまう可能性もあります。
決算書だけを鵜呑みにせず、事前に入念な経営計画を立ててください。
買収先企業の従業員や取引先からの理解を得るのが難しい場合がある
経営者の交代について、従業員や取引先からの理解を得るのが難しい場合があることも、M&Aの注意点です。個人M&Aの対象になるような中小規模の企業では、人と人とのつながりによって事業が成り立っているようなケースもあるため、従業員や取引先との関係維持に注力する必要があります。特に副業の場合、例えば「どうせ片手間だろう」「本気で事業に取り組む気がないのでは」などと、従業員や取引先から不信感を抱かれる可能性もあります。
従業員や取引先の理解を得られず、離職や取引中止といった事態を招いてしまうと、予定どおりに事業を行えなくなるかもしれません。説明会などで事業方針のていねいな説明を行い、信頼関係を維持できるように努めましょう。
個人M&Aを活用した副業を成功させるためにはポイントがある
個人M&Aを活用して副業を行う場合、成功させるためのポイントがあります。スムースに事業を軌道に乗せられるよう、以下のポイントを押さえてM&Aを進めてください。
個人M&Aを活用した副業を成功させるための主なポイント
- M&Aを行う目的を明確にする
- 副業に割ける手間や時間をあらかじめ見積もっておく
- 先に事業を行うための受け皿を作成しておく
M&Aを行う目的を明確にする
個人M&Aの成功確率を上げるポイントは、最初にM&Aを行う目的を明確にすることです。起業によって何を得たいかが明確になっていないと、買収の方針を定めることもできないため、買収する企業選びに支障が出ることもあります。
例えば、ゆくゆくは本業にして独立を目指すのか、あくまで副業として続けていくのかによっても、買収企業の選定基準は変わってきます。具体的な準備に取り掛かる前に、自分がなぜM&Aを行いたいのか、目的をはっきりさせておきましょう。
副業に割ける手間や時間をあらかじめ見積もっておく
本業と副業を無理なく両立するために、副業に割ける手間や時間をあらかじめ見積もっておくこともポイントとなります。起業をすると、会社の経営を自分自身で行うことになるため、副業にも時間と労力を割く必要があります。例えば、本業では雇用先に任せている事業計画の策定や税務申告なども、基本的には自分で行わなければなりません。
特に、法人決算や税務申告は、個人事業主の確定申告と比べても複雑で、本業を行いながら自分で対応するのは難しい可能性があります。副業で必要になる業務時間はどのくらいなのか、本業とのバランスも考慮して副業のために割ける時間と労力はどのくらいになるのかを見積もり、必要に応じて税理士などの専門家に依頼することも検討してみてはいかがでしょうか。
先に事業を行うための受け皿を作成しておく
買収の受け皿を先に整えておくことは、個人M&Aの手続きをスムースに進めるためのポイントです。会社の株式を取得する場合は買収した会社をそのまま事業主体として活用できますが、事業譲渡による買収では、個人事業として経営する場合も、会社として経営する場合も、事業主としての受け皿を用意しなければなりません。
買収の手続きと並行して、例えば個人事業なら税務署に開業届を提出し、会社なら法人設立登記を済ませておきましょう。特に、法人設立には2~3週間かかることが一般的であるため、余裕を持って準備を進めておくと安心です。
- ※M&Aによる企業の流れについては以下の記事を併せてご覧ください
M&Aに必要な手続きを手軽に行う方法
M&Aでは、交渉力に加えて財務、税務、会計、法務、労務などの専門的な知識が必要となり、すべての手続きを自力で進めるのは困難です。M&Aを成功させるには、専門家の力を借りるのは有効な選択肢といえます。そのような場合は、弥生株式会社の「税理士紹介ナビ」がおすすめです。
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副業でM&Aを利用するなら、まずは専門家に相談しよう
副業での起業を目指すとき、選択肢の1つになるのがM&Aです。最近では、小規模な会社・事業を対象としたスモールM&Aを行いやすい環境が整ってきており、副業のための個人M&Aのハードルも低くなっています。副業では事業に割ける時間が限られるため、手間を抑えて起業できるM&Aも検討してみてはいかがでしょうか。
ただし、M&Aには、目的や条件の検討、相手探し、条件交渉、契約などさまざまな工程があります。自分だけで手続きを進めるのが難しい場合は、M&Aや事業承継に詳しい専門家に相談しながら、スムーズな起業を目指しましょう。
この記事の監修者渡辺亨(中小企業診断士)
株式会社リノヴェクス代表取締役。経営者を助けるプロコーチ/コンサルタント/中小企業診断士/M&Aプロアドバイザー/ドリームゲートアドバイザー
コーチングを主軸とした人材育成サービスを行う、株式会社リノヴェクスを運営する傍ら、プロコーチ・トレーナー・人材育成コンサルタントとしても活動している。一般財団法人日本コーチング教育振興協会(ACEAジャパン)代表理事も務め、経営層や事業主に向けたエグゼクティブコーチングを行っている。