“玄米×味噌シリアルバー”コロナ禍でも挑戦を続け和食で世界を狙う!

起業時の課題
資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発

“和食で世界を健康に”をテーマに、食品の開発や6次産業化コンサルティングなどを行う、「ジャパンエナジーフード株式会社」代表の相澤 和宏さん。次々浮かぶアイデアを行動に移し、不運にも創業時期に重なってしまったコロナ禍という逆風の中でも挑戦を続ける相澤さんに、事業を行ううえでのヒントとなるお話を伺いました。

会社プロフィール

業種 製造業(食品・飲料)
事業継続年数(取材時) 2年
起業時の年齢 30代
起業地域 神奈川県
起業時の従業員数 2人
起業時の資本金 600万円

話し手のプロフィール

会社名
ジャパンエナジーフード株式会社
代表
相澤 和宏
ジャパンエナジーフード株式会社 代表取締役社長
神奈川県生まれ。幼いころから環境問題に興味を持ち、より良い社会の在り方を常に考え続けてきた。筑波大学大学院修了後、生活クラブ生協に6年間勤務。加工食品の開発業務を経験。その後、福島県の森林資源を活用した事業を「なんでも屋」的にサポート。2019年「玄米 × 味噌 シリアルバー」を考案し起業。「和食で世界を健康に」をミッションに掲げ事業を展開する。趣味はバドミントン。

目次

和食で世界を健康にしたい!

まずは、現在の事業内容を教えていただけますか?

相澤:ジャパンエナジーフードは、「和食」をテーマに複数事業を行っていまして、現在では主に無添加の“玄米×味噌シリアルバー”の製造・販売を行っています。ネット販売が主ですが、先日、卸販売も始まりJR東海との契約が決まりました。現在は、名古屋駅の売店に置いていただいており、今後、東京・JR新宿駅近辺のNewDaysにも置かれる予定です(※2021年10月時点)。また、自社の加工食品のほか、6次化産業のコンサルティング・製品開発なども行っています。

御社のサイトにも「和食で世界を健康に」をテーマに掲げているとありますが、和食をキーワードにしようと思われたきっかけは何でしょうか?

相澤:僕はもともと身体が弱く、食べ物に対する反応がとても強かったんです。例えば、添加物たっぷりのお弁当を食べると、その後しばらく食欲がなくなったり、牛乳を飲むと乳糖不耐性のためにお腹を下してしまうこともあります。人工甘味料もあまり得意ではなくて。そのため、わりと小さいころから“食”への意識がありました。

また、小学校2年生くらいのときに下水処理場の見学に行ったことをきっかけに、環境問題へ興味を持つようになり、大学でも環境問題をテーマに研究をしていました。環境問題ってさまざまな分野があると思うんですが、例えば、添加物の問題や遺伝子組み換えなど、食における環境問題も多岐に渡るんですよね。それらの問題を解決する方法の1つが地産地消であり、日本国内で暮らす日本人が、日本の物を食べて健康で暮らすことがすごく大事だなと考え、「和食」を会社のテーマにすることにしました。

和食の中でも玄米や味噌にスポットを当てられたのは?

相澤:大学院修了後、生活クラブ生協に就職し6年間勤めていたのですが、そこで玄米の力を身をもって感じたんです。生活クラブ生協では、配達を2年経験した後、加工食品の商品部門で3年働き、その後再び配達を1年経験しました。最初の2年は大学院修了後すぐだったこともあり、比較的元気に配達をしていたのですが、3年間デスクワークをした後の配達業務がかなりキツかったんです。お昼に白米を食べると眠くなりやすかったため、どうしたら体力を保てるのかを妻と相談して、おにぎりの米を玄米と白米の半々に、具材を味噌と梅で統一してもらったら、1年間無事配達を続けることがでました。

白米から玄米へ変えたことによる体の変化を実感したのですね。

相澤:はい。また、玄米と味噌が身体に良いのは、世界共通の認識だと思うんです。そこで、“ジャパンエナジーフード”という社名の通り、和食で皆を強くするために、玄米と味噌でエナジーバーを作ってみたらおもしろいのではないかと思ったのがきっかけです。

なるほど。

相澤:玄米と味噌は昔から日本人の健康を支えてきた栄養食品でもあるんですよね。江戸時代や明治時代の初期、まだ人や馬が物を運んでいた時代においては、人間の方が馬より働くイメージだったんです。人間は1日で最大100kmほど人力車を引くことができたのですが、馬は何時間か走ると疲れて動かなくなってしまい、止まるたびに違う馬を手配し、リレーをさせる必要がありました。一方、人間は少し休んだらまた走り始めることができたんです。そのとき彼らが何を食べていたかというと、玄米を中心とした雑穀とお味噌汁だったんです。

また、日本に西洋医学を教えに来たドイツ人医師が行った実験でも、おもしろい結果が出ています。人力車を引く人をAグループとBグループに分け、80kgの人を荷台に乗せた人力車を1日40km×3週間毎日走らせました。Aグループは玄米を中心とした雑穀と味噌汁を摂取し、Bグループは肉などのたんぱく質を中心とした食事にしました。すると、Aグループの人は3週間走り切ったのですが、Bグループの人は3日で走れなくなり、Aグループの食事に変更したら、また走れるようになったそうです。

世界に発信するなら東京オリンピックが最大のチャンス!のはずが……

ご自身の経験からシリアルバーのアイデアが生まれたとのことですが、実際に商品開発に着手したのはいつごろからですか?

相澤:2018年の5月ごろからです。後に当社の共同設立者になる友人に、「パフ状にした玄米を味噌味にして固めて、シリアルバーにしたらどうかな」と構想を話してみたところ、彼が「おもしろそうだから作ってみようよ」と言ってくれて、一緒に試作を始めることになりました。

試作を重ね、2018年の年末くらいには製品化できそうだというところまで来たので、年明けに無料で相談できる民間の起業コンサルティングを受けてみたんです。そこで事業や製品の内容を説明したところ「世界に向けて発信できるよう、東京オリンピックに間に合わせましょう」とアドバイスをもらい、会計事務所やホームページ制作会社など、縁も一気に繋いでもらいました。その後、シリアルバーの商品化と販売を本格的に進めるため、2019年4月に会社を設立しました。

創業時の資本金や資金調達についてもお聞かせいただけますか。

相澤:資本金は、僕と共同設立者の2人で合わせて300万円の自己資金を用意しました。プラス300万円の融資を金融機関から受けることができ、合計600万円でのスタートでした。

融資も受けたのですね。

相澤:はい。起業当初は、個人で他の仕事もやりながら“小さく生んで大きく育てられたらいいな”という感覚だったんです。実は、生活クラブ生協を退職後に、福島県の森林資源を活用するNPOの仕事もずっと手伝っていたので、それと並行してやっていこうと。ですが、2020年3月に、そのNPOが資金難に陥り、契約が継続できなくなってしまったんですね。自ずとジャパンエナジーフードに全力を注ぐ必要が出てきてしまい、「思ってたよりも頑張らなきゃ」という感覚になりました。

それは大変でしたね。

相澤:確かに計画とは少し違いましたが、自分が思い描いていたものが形になる喜びもありましたし、自分がこれまで培ってきたものがシリアルバーという形になって世に出るワクワク感もあったので、前向きに「これでやっていこう!」と決意できました。

クラウドファンディングで高い目標とも思われる「注文5千本」を達成!しかし思わぬ誤算が?

起業で苦労された点はありますか?

相澤:特に苦労したのは「工場探し」と「生産体制の調整」です。まず、工場を探そうにも、何の実績もない中小の企画会社が話を持って行っても怪しまれてしまうんですよね。我々の場合は、複数社へ依頼をし、実際に3社に足を運びました。3社目でやっと納得できる試作品を作ってもらえたので一安心した矢先、いろいろトラブルもありまして。

良い工場が見つかったと思ったら、別の問題が起こった?

相澤:はい。もともと、このシリアルバーの販売価格は200円以下を想定していました。そのうえで、認知拡大と資金を集めるため、5千本分のクラウドファンディングを行い、1週間足らずで目標額を達成したんです。ただ、ちょうどそのタイミングで、工場の方も予想外なほど、生産に手間がかかることが判明しまして。最終的にもともと想定していた1本あたりの原価が、想定価格の倍になってしまったんです。結果、送料などを合わせると、クラウドファンディングの資金はまったく余りませんでした。

倍ですか!それは相当ですね……。どうしてそのような事態になってしまったのでしょう?

相澤:見積もりを出してもらうに当たり、その工場でロットをまとめて試作を作ってもらったところ、予想以上に手間がかかることが判明したんです。普段はポン菓子を製造している工場に依頼しているのですが、僕らの商品は、一般的な固めたタイプのポン菓子に比べて、生の味噌や梅、ピーナッツペーストなど“液体”をかなり入れていたため、加熱させて水分を飛ばす工程が必要なうえ、そこに水あめを加え焦げないように撹拌(かくはん)させて形にするのがかなり難しいようでして。

「今ある設備では焦げちゃって全然だめですね」と言われてしまったので、僕が合羽橋(東京・浅草にある飲食業関連の道具屋170店以上が軒を連ねる道具街)のお店を一軒一軒回って、テフロン製で深底の大きな鍋を探し出し、工場がある愛知県まで持って行きました。

工場にある既存の製造器具では対応ができなかったのですね。ご自身で合羽橋まで行かれるとは!

相澤:その鍋を使って何とか製品化することはできたのですが、それでもやはり手間がかかるため、最終的な見積もりを見てみると、もともと想定していた値段で到底販売できないことが分かったんです。販売価格を変えざるをえなくなり、現在の価格(税別275円)を設定しました。

なるほど。クラウドファンディング実施後というのが悔やまれますね。

相澤:そうですね。でも最近は健康志向の方向けの商品が多く扱われているお店などで、300円超のナッツバーも売られていたりするので、だんだんと広がっていけばいいなと思っています。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で広報に苦戦。新商品企画もボツに

オリンピックを契機と捉えていたということですが、起業後は新型コロナウイルスの影響もかなり受けたのでは?

相澤:かなりありましたね。工場での試作品の開発が終わり、ネットショップを開設し、ある程度在庫を持って卸販売もやっていこうと思っていた矢先に新型コロナウイルスが発生してしまったんです。

そうですよね。すごいタイミングですね。

相澤:もともと、オリンピックに合わせて、高輪ゲートウェイ駅前広場でサステナブルなものや日本の良さを提供するフードコートを設置するJR東日本主催のイベント企画があり、出店が決まった僕の知り合いのお茶屋さんのところでシリアルバーも置かせてもらうことになっていたんですね。それで、そのイベント自体は開催されたのですが、入場制限&予約制のうえ、大々的な宣伝をほとんどせずに行われたので、ガラガラの状態で……。

イベントもかなり制限されてしまいましたしね。

相澤:僕がマーケティングや営業が下手だったのもあるのですが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、試食会のような対面で食べてもらって意見を聞ける機会がなくなってしまったのが残念ですね。

また当時、シリアルバーとは別に、添加物を一切入れない“抹茶エナジードリンク”を開発していたんですね。抹茶は世界中で流行っていますし、抹茶のカフェインによる覚醒作用に加え、滋養のあるショウガやレモンなどを入れて身体を温めてくれたり、腸内環境を調整してくれるような商品を提供しようと思っていたんです。

オリンピックを機に、日本は世界中の人が訪れる場所になると思っていたので、日本ならではのエナジードリンクの販売をもくろんでいたのですが、これも全部飛んじゃいました。

それは残念でしたね……。

スタート地点に立ち返り、飲食事業を開始

相澤さんはコロナ禍で飲食事業も始められたんですよね。

相澤:はい。デリバリー専門の飲食事業にトライしました。シリアルバーが伸び悩むので、これだけで事業をやっていくのは大変だと思い、そもそも自分たちは何がしたいのかと改めて考えたんです。そのときに、和食を通じて日本をもっと良くしたい、さらに世界をもっと健康にしたい、という思いに立ち返りまして、自分たちが今できることは何かと考え、飲食事業はどうかとなりまして。まずは知り合いの鎌倉のお茶屋さんを借りて、一食で必要な栄養が全部摂れる和定食を作りテストマーケティングすることにしました。そうしたら、お客さまの評判がかなりよかったんですよね。

そのタイミングで、ちょうど浅草でデリバリー専門の飲食店が使えるレンタルキッチンができるとのことだったので、ぜひ挑戦しようと、2021年4月からお店を始めました。また、創業時は合同会社でしたが、飲食事業を立ち上げるために資本金を増やそうとしていたので、このタイミングで株式会社に変更しました。株式投資型クラウドファンディングを検討していたこともあり、資金調達をする上で合同会社よりも株式会社の方が選択肢が多くなると考えました。また、IPOなどを踏まえた際には取締役会があった方が良いということで、会社にコミットしてもらいたいメンバーを追加することになりました。

前に進むために会社の形態や事業内容を変える。大きな決断でしたね。コロナ禍でデリバリー専門は需要も多そうですが、始めてみていかがでしたか。

相澤:正直、思いのほか大変なうえ、儲かりにくい構造だと感じてしまいました。浅草なので家賃が高いのと、デリバリーサービスなので、配送代行手数料で40%くらい取られるんですね。そこから人件費や原材料費などを支払っていくので、ワンオペでも月200万円くらい売上がないと儲けが出ないんです。

そうなんですね。事業として考えるとなかなか大変そうですね。

相澤:半年ほどやって撤退しましたが、デリバリーの知識も得られたので、自宅のある横浜の周辺で“店舗+デリバリー”の形でいずれまた展開できればと思っています。

トライアンドエラーを繰り返しているのはすごいことだと思います。

相澤:ありがとうございます。シリアルバーだけでは採算が取れず、やむなく始めた飲食業も終わってしまいましたが、その間にJR東海などとシリアルバーの取引契約が取れたので、前には進んでいます。

シリアルバーを中心にこれからも挑戦を

それでは、今後の展望をお聞かせいただけますか。

相澤:シリアルバーの認知を広げることはもちろん、いろいろなことをやっていくために、6次産業化のコンサルティングなど、地域の特産を活かしたい会社を助けるような仕事も進めていきたいと思っています。

6次産業化のコンサルティングというのは、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

相澤:現在は福島県の「ふくしま地域産業6次化サポートセンター」という団体で、「6次化イノベーター」として活動をしています。具体的な取り組みとして、例えば「日本一からい村」を目指す平田村でのハバネロ製品開発があります。お菓子の卸業者の「渋谷レックス」様と共同して進めていますが、工場を汚染しやすいハバネロを最初から小袋化することで、さまざまな食べ物とハバネロを合わせて食べられる「ハバネロチャレンジ」ができる製品となっています。

基本的に現場に出向いて、何をするのがベストかをよく聞き取った上で、製品開発や製品改善を提案します。場合によっては、製品自体には手をつけず、工場のオペレーションのみをアドバイスすることもあります。

なるほど。自社の商品開発のノウハウやこれまでのご経験を活かして、いろいろな取り組みをされているんですね。

相澤:はい。事業をやっていくにあたり、自社で商品を開発し、在庫を持って売るというのは、すごくリスクが高いんですよね。キャッシュフロー的にも大変なので、僕が動くことで人件費などの支出を減らしていますが、僕自身の身体のことも考えながら、会社としてどういう形が最善なのかを考えているところです。

最後に、これから起業する方に向けてメッセージをお願いします。

相澤:社長をしていると、よく「社長なんですね!すごいですね」と言われるのですが、僕は社長になること自体は簡単だと思っていて。大事なのは、そこから事業を作って進めていくことなんです。利益を出せるからといって、世の中のためにならないことをやっても意味がないと思っているので、何か価値あるものを世の中に提供していって、その対価をいただく仕事がしたいし、社会をよくするためにそういう仕事をすることが経営者として大事なことだと思っています。

「ビジネスとして成功させたい」「お金を稼ぎたい」という思いは大事だと思うのですが、“世の中をよくするため”や“人を幸せにするため”など、お金以外の判断基準を忘れないことが重要だと思います。想いを大切に、やりたいことを前に進めていって欲しいですね。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:稲垣ひろみ

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