海外就職の経験とリーガル知識を活かし起業。米国就労ビザ取得の頼れる専門家。

起業時の課題
事業計画/収支計画の策定, バックオフィス業務

アメリカの大学を卒業し、米国移民法事務所での勤務経験をもとに米国就労ビザ申請代行の会社を創業した「株式会社アストライア」の釋迦郡享子さん。「法律業務においても、テクノロジーを活用しながら効率化できる」と、いち早くリモートでの働き方を実践し、出産、子育ても両立しながら好きな仕事をとことん突き詰めています。今回は、釋迦郡さんに起業までの経緯や反省点など、詳しくお話を聞いていきます。

会社プロフィール

業種 サービス業(代行・請負業)
事業継続年数(取材時) 5年
起業時の年齢 30代
起業地域 東京都
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 300万円

話し手のプロフィール

会社名
株式会社アストライア
代表
釋迦郡 享子(しゃかごおり きょうこ)
株式会社アストライア 代表取締役
米St. John’s University卒。NPO法人、米国移民法法律事務所、東京のビザ代行会社などにて、パラリーガル、ビザ取得エージェントとして米国の法律事務に携わり18年、日本企業に特化した米国ビザの経験9年。2018年9月に株式会社アストライア設立。主に、日系企業の現地駐在員の就労ビザ申請をサポート。同業間(ビザ代行会社、旅行代理店、米国移民法弁護士事務所)との情報共有も積極的に行う。

目次

起業への転機は“微笑みの国”タイにあった

まず、現在の事業内容を教えていただけますか?

釋迦郡:弊社は、米国就労ビザの申請代行サービスを提供しています。14歳以上の日本在住の方が米国ビザを申請する場合、書類の提出だけでなく面接を受けることが必須です。そのため弊社では、必要な申請書一式の作成に加え、模擬面接や想定質問集を提供し、「面接では、このようなポイントを押さえて答えてください」といった面接準備のサポートも行っています。

弊社でサポートできる就労ビザの種類は結構多いのですが、実際にご依頼いただくのは、95%が日系企業の駐在員の方のビザです。その他、米国で会社を立ち上げられた個人事業主の方や投資家の方、米国で活動をされたいアーティストの方もいらっしゃいます。

そもそも、個人で米国の就労ビザを申請するのは難しいのでしょうか。

釋迦郡:そうですね。学生ビザなど一部のビザは個人で申請できる場合もあるとは思うのですが、就労ビザに関しては難しいと思います。就労ビザを取得されるほとんどの方は、弊社のような代行サービスや、航空券の手配からビザ取得まで手配してくれる旅行代理店、あとは米国の移民法事務所に依頼されることが多いです。

ビザ取得が難しいと言われるのは、面接時間が2~3分しかない点も大きく影響します。その間に、担当領事の審査官がパラパラと書類を見ながら質問するので、書類については“できるだけポイントをまとめて分かりやすく作る”ことが求められます。また、面接も“いかに取得しようとするビザの条件に合っているか”というポイントを押さえて伝えられるかが重要です。

現在は日本で起業されていますが、釋迦郡さんはアメリカに長く住んでいらっしゃったそうですね。

釋迦郡:はい。ニューヨークに13年間住んでおりました。日本の高校を卒業後、アメリカの4年制大学に進学し、卒業後は、女性の権利を守るNPO法人に就職しました。サービスの一貫として、米国で暮らす外国人女性のビザサポートという仕事がありまして、そこで「ビザの仕事は奥が深いな。この仕事を専門にしたいな」と思い、米国移民法事務所に転職したんです。

後に、この事務所が東京事務所を立ち上げるというので、東京に戻って立ち上げを経験し、さらに2017年にはタイに拠点を設けるために現地へ赴任しました。それまで法律の仕事は、紙の書類に囲まれ、“事務所に行かないと日々の仕事が終わらない”と思っていたのですが、タイに赴任をした際、“今のテクノロジーならば、リモートでいろいろな作業ができる”と気付いたんです。

2017年の時点で、すでにタイではIT活用やリモートワークが進んでいたのでしょうか?

釋迦郡:私の感覚なのですが、スマートフォンの普及などタイのデジタル化はおそらく日本よりも急速に進んでいると思います。インフラが整っていない分、若い世代を筆頭にそういったデジタルテクノロジーを有効活用することにとても長けていて、問題解決の手段として使っていました。例えば、ビジネスで何か困難なことがあると「このデジタルテクノロジーやソフトウェアは取り込めるだろうか」といった話になるので、そういった面でもおそらく日本より発達しているんだろうなという印象はありました。

また、米国の移民法事務所とは物理的な距離があるため、書類を郵送するということはそもそも念頭になく、その代わりに“デジタルテクノロジーを使って、いかに時差を有効活用できる業務フローが作れるか”を常に考えていたように思います。

タイでの経験によって、「ペーパーレスサービスで対応可能な就労ビザの種類に絞ればかなり無駄を省くことができるため、業務に集中でき、その分利益を上げられる」と感じ、再度日本に帰ってくるタイミングで起業をしました。

起業により、ハードワークも自分のペースでこなせるように

現在の事務所は東京都千代田区にあるようですが、場所選びやオフィス選定の決め手は何かありますか?

釋迦郡:場所については、新規のお客さまに対してイメージが良いのでは、というアドバイスを頂いて千代田区にしました。オフィスは、リモートである程度仕事ができるので、小さい部屋でも大丈夫だなと考えていました。ただ、お客さまと実際に会ってお話することがあるので、応接間やミーティングルームも必要だと思い、この2つのニーズを解決できるシェアオフィスに決めました。

現在は従業員の方を雇われているのでしょうか?

釋迦郡:いえ、創業時から基本的には私1人でやっております。ただ、繁忙期ですとか、昨年出産した際はヘルプを頼みましたが、現在は子育てをしながら仕事もしています。

仕事と1歳のお子さんの子育ての両立は大変ではありませんか。

釋迦郡:そう言われることもあるのですが、むしろ、米国移民法事務所で働いていたときよりも、今の方がライフワークバランスは取れていると感じています。以前、米国移民法事務所の日本やタイの拠点で働いていた際は時差の問題があり、緊急な対応が必要なときは、睡眠を削って夜中や早朝でもミーティングや業務をこなしていました。それに比べれば、起業して自分でやりたいケースを選ぶことができていますし、例えば朝3時に起きて書類作成をしなくてはいけないこともありますが、それは自分の管理下にある想定内の残業なので、睡眠時間が取れてないということはないです。

なるほど。自分のペースで仕事ができるのも起業のメリットですね。それでも早朝から書類仕事をこなすのはなかなかできることじゃないようにも感じます。

釋迦郡:結局のところ、この仕事が好きでやっているので、朝3時に起きて仕事をすることが苦になったことはないですね。やっぱりこの仕事は楽しいですし、まだまだ知識を付けたいとも思っています。

反省点は起業でありがちな「想定外の経費」。軌道修正に1年を要することに。

起業されるにあたり、苦労されたことはありますか。

釋迦郡:もともと海外にいたからというのもあると思いますが、利益を出すために何にどれくらいの経費がかかるのかが当初は全く分からない状況だったので、非常に情報収集に苦労しました。情報収集に関しては、創業支援サービスのセミナーに参加したり、税理士の先生に話を聞きに行ったり、インターネットで調べたり。あとは、以前働いていた米国移民法事務所のスタッフに「この値段設定はどうだろうか?」「こういったものには、どれくらいのお金がかかるか」などと相談したり、いろいろと助けてもらいました。

また、もう少し調べればよかったと後悔しているのが、法人口座を開いた銀行です。単純にオフィスに一番近い銀行を選んだのですが、口座を開設する前に各銀行が提供しているサービスをよく調べ、実際に使っている方に「使い勝手はどうか」と聞いた方がよかったと思っています。現在使っている銀行は、手数料も高く、オンラインサービスの使い勝手もいまひとつで。税理士の方に相談したら、他の銀行の方が使いやすいと教えていただいたのですが、その時はすでに各種固定費の引き落としやお客さまのお支払いも法人口座になっていたので、なかなか変えられず反省しました。

銀行も細かいサービスの違いがいろいろありますよね。ちなみに、税理士の方とは、起業時から顧問契約されたのでしょうか?

釋迦郡:起業当初は友人の友人の税理士に相談していましたが、顧問契約という形ではなかったです。彼は大企業の案件を扱っている税理士だったので、私のような起業したての小さい会社の税務や経理の細かい日々のタスクなどまではアドバイスができない状況だったんですね。

なので、シェアオフィスの会社から紹介してもらった社会保険労務士の方に「私のような小さい会社をサポートされている税理士の方を知りませんか?」と聞いて、紹介いただいた方と現在は顧問契約を結んでいます。

なるほど。社労士の方はシェアオフィスで紹介いただいたのですね。

釋迦郡:はい。司法書士の方も紹介していただきました。基本的に私も専門職で仕事をしておりますが、その道のエキスパートに頼むのが一番確実で早いと思っているので、税理士、社労士、司法書士の方にお願いできることはすべてお願いしています。

先ほど「当初はお金の部分が分からなかった」とおっしゃっていましたが、士業の方への顧問料や依頼料も結構大きな金額となりますよね。

釋迦郡:厳密にはこの辺の費用は“初めはかかるとは思っていなかった費用”でした。ただ、法人登記に関しては、シェアオフィス契約時にキャンペーンをやっていて、無料で司法書士の方に登記していただいたので、初期費用が抑えられ非常にラッキーだったと思います。税理士の方も、結局顧問契約をしたのが1年後だったので、初めの1年間は費用がかからなかったんですね。

会計ソフトも、最初の1年は弥生会計 オンラインの起業家応援キャンペーンを使って無料で試すことができたのでとても良かったです。使ってみて「とてもいいな。使いやすいな」と思ったので、そのまま継続しています。

  • 起業家応援キャンペーンは終了いたしました。

初年度はいろいろなキャンペーンを活用して費用を抑え、その1年間で次年度の必要経費がわかってきたので、軌道修正することができました。1年目が終わるときに既存のお客さまに「来年から値上げをします」とお願いしてご承諾いただき、会計ソフトの利用料金や士業の方の顧問料を捻出しました。最初からわかっていれば、それをする必要はなかったのですが、軌道修正ができる1年のバッファがあったのはよかったと思っています。

コロナ禍で人の移動に制限が。ビザ取得エージェントとして収入ゼロが回避できた「創業時のリスクヘッジ」とは

起業にあたり、顧客獲得のための営業などはどのように行われたのでしょうか?

釋迦郡:現在のところ、多くのケースは、旅行代理店や、以前働いていた米国移民法事務所からの外部委託という形で、書類作成と面接サポートの部分を請け負っています。実際に日系企業の人事部の方に営業をしてくださるのは旅行代理店の優秀な営業担当者の方々や米国移民法事務所の弁護士なので、私自身は一切営業はやっていないんです。

コロナ禍で、渡米自体が難しくなってしまいましたが、かなり影響もあったのではないでしょうか。

釋迦郡:はい。コロナ禍で国家間の人の移動が制限されたことにより、ビザの面接自体が中止になりました。面接ができないとなると、駐在員の派遣ができませんし、そもそもビザの申請ができないので、それまでメインでサポートしていた種類のビザの依頼はほぼなくなってしまいました。

それは大変でしたね。

釋迦郡:ただ、ビザ申請というのは、もうすでに米国にいる方も米国内で延長申請しなくてはいけないので、コロナ禍では、米国移民法事務所を通して延長申請の案件依頼が増えました。

実は、起業当初は、リモート対応が可能な日本にある米国大使館・領事館で申請するビザの種類に絞ろうと思っていたのですが、何があるかわからないと思い、念のため取り扱うビザの種類を多くしておき、また日本語の公的書類の英訳をする翻訳サービスも受けていたんですね。リスク分散のために、あらかじめ複数サービスを展開していて良かったです。

志を持ったら、最後までやり抜く強い気持ちが大切

どのような時に起業してよかったと感じられますか?

釋迦郡:ビザを取得されたお客さまから数年後にご連絡をいただくことがあるのですが、充実感を持ってお仕事されている様子がうかがえ、「やっていてよかったな」と思いましたね。また、旅行代理店や米国移民法事務所のスタッフの方が、お客さまのビザご取得を喜んで報告してくださるときもそう感じます。自分自身が立ち上げた事業、やろうと思ったサービス内容で、依頼者に喜んでもらえたとき、それをひしひしと感じられるのはすごく楽しいです。

また、例えば子供が熱を出して保育園に迎えに行かなくてはいけない場合でも、誰かに迷惑をかけてしまう思いをしなくていいのはよかったと思います。何とか業務を管理して、お客さまに迷惑をかけないようにしながら子供の面倒を見ることができているので、ありがたいですね。

今後の展望をお聞かせいただけますか?

釋迦郡:私は、ビザの申請を誰にサポートしてもらったかによって、申請者の認可・却下が左右されるのは不公平だと思っています。知識を持っているとビザ取得の確率は格段に上がるので、今後は、私がこれまで得た知識を、サポートサービスを提供しているスタッフ向けに伝授できるようなセミナーや勉強会を開催していきたいと思っています。

そういった中で出会える方々も多いと思うので、例えば独立して起業された方や、自分の信じる「こういうサービスをやってみたい」という方がいらっしゃったら、サポートや手助けをしてあげられたらいいなと思います。

それでは最後に、これから起業される方に向けてメッセージをお願いします。

釋迦郡:夢を持たれて起業されると思うのですが、起業はあくまで通過点で、その先にやりたいことがあると思うんですね。ただ、この通過点をきちんとやっておかないと、先に進んだときにハードルにつまずいてしまうこともあるので、やはり準備をしっかり行うことが大切だと思います。ただ、1人でできる情報収集や準備は限られていますし、1人で想像できる範囲って非常に狭いんです。そのため、まずは同じような志を持たれている方と交流される機会を自ら作るとよいと思います。また、無料の支援サービスは何事においてもたくさんありますから、そういうところへ全部行ってみる。そこでいろんな情報の中から何が正しいかを見極めながら情報収集する時間は大切だと思います。

何ごとも壁にぶつかることはありますが、それはあくまでもチャンスと捉え、“志を持ったら最後までやり抜く”という強い気持ちで前に進んでいけば協力者は出てきますから、諦めずに協力者のサポートを受けながら進んでいくのがよいと思います。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:稲垣ひろみ

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