個人事業主が開業届を出すメリット・デメリットは?提出方法や期限も解説
監修者:森 健太郎(税理士)
2024/01/16更新
個人事業主として事業を始める際に提出する書類の1つに、「個人事業の開業・廃業等届出書」(以下、開業届)があります。「開業届は必ず提出しなければいけないのか?」「開業届を出すことで何かデメリットがあるのでは?」などと気になっている方はいるかもしれません。
開業届を提出すれば控除を受けられるといったメリットがある一方で、条件によっては失業手当を受給できないというデメリットもあります。そのため、開業届を提出する前に自分は提出が必要なのか、どうやって提出するのかなどを確認しておくことが大切です。
ここでは、開業届の提出が必要なケースと提出期限、開業届を提出するメリット・デメリットについて解説します。
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開業届の提出は事業的規模や継続性で判断する
開業届とは、正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、個人で事業を始めるときの他、不動産所得や山林所得が発生する事業を開始したときに、納税地を所轄する税務署に提出する届出書のことです。
開業届の提出が必要かどうかは、一般的に事業的規模や継続性などから判断します。例えば、FX取引の運用益は雑所得、株式投資の運用益は譲渡所得となり、営利目的や反復継続性があったとしも事業でなければ、開業届の提出は不要です。また、一時的に不用品やハンドメイド作品をフリマアプリなどで販売することも事業には該当しません。もし判断に迷ったら所轄の税務署に確認してみましょう。
開業届の提出期限
開業届の提出期限は、事業を開始した日から1か月以内(提出期限が土日祝日にあたる場合は翌平日)です。開業届は、提出をしなくても罰則はありませんが、提出するように定められていますので、もし「出していなかった」「うっかり出し忘れていた」という場合は、速やかに提出しましょう。
開業届を出したら確定申告が必要?
確定申告の有無は開業届の提出とは関係なく、年間の所得が48万円(基礎控除額)を超えた場合に確定申告を行います。また、会社員などの給与所得者で2か所以上から収入がある場合は、副業による所得が1月1日から12月31日までの1年間に20万円を超えたら確定申告が必要です。
このとき気を付けなければいけないのが、所得と収入の違いです。所得は収入から必要経費を差し引いた金額のことを指します。例えば、個人事業主なら「売上の合計」から「必要経費」を差し引いた金額になりますのでご注意ください。
確定申告が必要な所得の計算方法
所得=収入(売上高)-必要経費
- ※年間の所得が48万円(基礎控除額)を超えれば確定申告が必要
なお、会社員の副業が会社に見つかるのは、開業届の提出の有無ではなく、副業によって所得が増えることで住民税額が上がるからです。会社員の住民税は特別徴収といって会社が給与から天引きして納めているため、住民税額が上がっていれば副業をしていることが経理担当者に見つかる可能性があります。会社は労務管理や情報漏洩などの観点から副業を禁止している場合がありますので、副業を行う際は就業規則を確認しておきましょう。
開業届を提出するメリット
開業届を提出することで次のようなメリットがあります。主に開業届を提出するメリットは以下のとおりです。
開業届を提出するメリット
- 青色申告で最大65万円の控除が受けられる
- 屋号の名義で銀行口座を開設できる
- 個人事業主としての証明になる
- 小規模企業共済に加入できる
青色申告で最大65万円の控除が受けられる
開業届の提出によって得られるメリットの1つに、確定申告で青色申告を選べることが挙げられます。青色申告で確定申告を行えば、複式簿記による記帳やe-Tax等による申請などの要件を満たす必要はありますが、最大65万円の特別控除が受けられます。また、家族に支払う給与を経費にできたり、赤字を3年間繰り越せたりするだけでなく、30万円未満の備品などを一括で経費計上できる(減価償却の特例)などのメリットもあります。
青色申告を行うには、税務署に事業開始から2か月以内に「所得税の青色申告承認申請書」の提出が必要です。開業1年目から青色申告を希望する場合は、開業届と共に所得税の青色申告承認申請書を提出しましょう。
複式簿記は難しそうだと感じる方は、青色申告に特化した「やよいの青色申告 オンライン」などの確定申告ソフトを使えば、簿記の知識がなくても複式簿記帳簿の作成が自動でできます。
なお、収入が少なかったり単発的だったりすると、事業所得ではなく雑所得とみなされ、青色申告ができない場合がありますのでご注意ください。
- ※青色申告承認申請書については以下の記事を併せてご覧ください
屋号の名義で銀行口座を開設できる
開業届に屋号を記載して提出すると、事業を行う際に屋号を使えます。屋号があれば、屋号で銀行口座の開設が可能です。屋号で銀行口座を開設できれば、プライベート用のお金と区別しやすく、確定申告や経費処理、資金繰りの管理なども行いやすくなるでしょう。また、屋号が付いていることで事業用の口座であることが明確になり、顧客や取引先からの信頼度が高まる可能性もあります。
個人事業主としての証明になる
開業届は、個人事業主として事業を営んでいることを証明する書類になります。例えば、店舗やオフィスを借りるときや、金融機関へ融資を申し込むときなどの提出書類として開業届の控えを求められることがあります。また、個人事業主が子供を保育園に入園させる際などの就労の証明としても、開業届の控えが必要です。
小規模企業共済に加入できる
開業届を提出するメリットの1つに、小規模企業共済に加入できることも挙げられます。小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の経営者などが加入する、積み立てによる退職金制度です。個人事業主には、会社員のような退職金はありませんが、小規模企業共済に加入しておくと、退職後の生活に備えることができます。また、小規模企業共済の掛金が全額所得控除できるので、税の負担を抑えることにもつながるでしょう。
個人事業主が小規模企業共済に加入する際は確定申告書の控えを提示しますが、事業を始めたばかりで、まだ確定申告をしていない場合は、開業届の控えの提出が必要です。
開業届を提出するデメリット
条件によっては、開業届を提出するとデメリットになることもあります。主なデメリットは以下の2つです。
開業届を提出するデメリット
- 健康保険の被扶養者から外れることがある
- 失業手当が受給できなくなることがある
健康保険の被扶養者から外れることがある
家族や配偶者が加入する健康保険の被扶養者になっている場合、開業届を出すと被扶養者から外れてしまう可能性があります。健康保険での被扶養者の条件は、健康保険組合によって異なり、「個人事業主は収入にかかわらず扶養には入れない」としている健康組合もあれば、「収入または所得が一定金額を超えると扶養から外れる」としている場合もあります。
健康保険の被扶養者から外れると、自分で健康保険料の脱退手続きや新たに加入の手続きなどを行う必要があります。被扶養者となっている場合は、家族や配偶者の勤務先が加入している健康保険組合などの規定を確認しておきましょう。
失業手当が受給できなくなることがある
会社を退職して、雇用保険の失業手当を受け取っている場合は、開業届を提出すると受給できなくなることがデメリットとして挙げられます。失業手当を受けるには、「就職しようとする意思といつでも就職できる能力がある」という条件があります。開業届を提出して個人事業主になると、事業を開始したため再就職の意思がないとみなされ、失業給付を受けられない可能性がありますので、提出するタイミングにご注意ください。
提出方法
開業届の申請書は、税務署の窓口での受け取り、または国税庁のWebサイト「[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続」でダウンロードできます。必要事項を記載し、事業を開始した日から1か月以内に所轄の税務署に提出しましょう。
また、開業届は、税務署の窓口での提出や郵送の他、国税電子申告・納税システム「e-Tax」で提出することもできます。
なお、所得税の青色申告承認申請書の提出期限を過ぎると、その年の確定申告を青色申告にすることができなくなるため、開業届と共に所得税の青色申告承認申請書も提出しておくのがおすすめです。
- ※個人事業主として開業するための手続きについては以下の記事を併せてご覧ください
開業届と確定申告の手続きを手軽にする方法
個人事業主として開業する場合は、「弥生のかんたん開業届」を使えば、画面の案内に従って操作するだけで開業届などの必要書類の作成ができます。
また、クラウド確定申告ソフト「やよいの青色申告 オンライン」を使えば、簿記や会計の知識がなくても、最大65万円の青色申告特別控除の要件を満たした青色申告の必要書類がかんたんに作成できます。
起業・開業後はお店の運営の他に、会計業務などお金の管理を自分で行うことが必要になるため、起業・開業のタイミングで会計ソフトや確定申告ソフトなどを導入しておくといいでしょう。
個人事業主として事業を始める際は開業届を提出しよう
個人事業主として事業を始める際や会社員が継続して副業をする際には、税務署に開業届を提出する必要があります。人によっては開業届を提出することでデメリットもありますが、青色申告を選択することで最大65万円の特別控除が受けられたり、屋号での銀行口座が作れたりするなどのメリットがあります。
開業届を作成する際は、「弥生のかんたん開業届」などのクラウドサービスを活用すると、必要書類の作成がスムースに行えます。事業開始から1か月以内に提出が必要ですので、提出を忘れないようにしましょう。
この記事の監修者森 健太郎(税理士)
ベンチャーサポート税理士法人 代表税理士。
毎年1,000件超、累計23,000社超の会社設立をサポートする、日本最大級の起業家支援士業グループ「ベンチャーサポートグループ」に所属。
起業相談から会社設立、許認可、融資、助成金、会計、労務まであらゆる起業の相談にワンストップで対応します。起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネル会社設立サポートチャンネルを運営。