個人事業主でも商標登録できる?手順や注意点は?
2023/12/04更新

この記事の執筆者柳原つつじ

ブランドを立ち上げたり、商品を開発したり、はたまた、会社を起業したり……そんな新しいスタートを切ったときに、注意したいのが「商標」についてです。
もし新たに考えた名称やマークが、すでに商標登録されていれば、それがどれだけよいモノであっても用いることはできません。また、商標登録がなされていなければ、他の方に先んじて商標登録をするかどうかの検討が必要になってきます。
個人事業主でも、もちろん商標登録は可能です。商標登録を行う際の方法や注意点について、解説していきたいと思います。
POINT
- 文字や図形、記号だけではなく、幅広く商標の対象となる。
- 個人事業主でも商標登録は可能。商標権を持てば、類似商標も他者の使用を防げる
- デメリットは、申請・登録、更新など費用が掛かること
個人事業主でも商標登録できる?メリットは?
私たちは日々、商品やサービスを選択して、購入したり利用したりしています。
もし、違う商品なのに紛らわしい商品名がつけられていたり、類似したロゴを使われたりしていれば、お気に入りの商品やサービスを選ぶときに、間違えてしまうかもしれません。
そうした消費者の混乱を避けるために、重要なのが「商標」です。「商標」とは「自分の商品(サービス)と他の商品(サービス)を見分けるための目印」です。
商標登録の目的や対象物について
商標というと「商品名を登録して、他の誰かが使わないようにする」というイメージだけを持っている方が大半かと思います。間違いではありませんが、そこまで単純ではありません。
まず、商標の対象となるのは、文字、図形、記号、立体的形状、色彩、また、これらを組み合わせたものなどです。そのほか、音の商標や角度によって見え方が異なるホログラムの商標などもあります。結構、いろいろな種類がありますよね。
また、一言で「文字商標」といっても、漢字、ひらがな、カタカナなど文字の種類の違いや書体の違いもあります。まずは「何を商標登録するのか」……そこからがスタートです。
商標権について
商標登録することによって初めて、商標権を有します。商標権があれば、商品やサービスについた目印である商標を保護することをできます。
ただし、商標権は自動的に認められるわけではなく、登録が必要です。かつ、すべての名称やロゴが商標として認められるわけではありません。出願から数カ月の審査を経て、特許庁から登録査定が下りれば、正式に商標登録されます。
また、商標権は、それを利用する商品やサービスとセットでの登録になることも覚えておきましょう。「何に使うかわからないけれど、よいネーミングを登録しておこう」という理由で、商標登録を行うことはできないのです。
そして、大切なこととして、商標権は先に出願されたものが優先して登録されます。そのため、商標権を取りたい場合は、他の方が動く前に、少しでも早く出願したほうがよいでしょう。
新しいことを始めるときは、どうしてもバタバタしがちですが、商標については、いち早く検討を進めておく必要あります。
個人事業主でも商標登録
商標登録というと、それなりの規模の企業が行うものというイメージがあるかもしれません。
しかし、個人事業主でも商標登録を行うことはできます。それは同時に、個人事業主であっても、新しいブランドを作ったり、新商品や新サービスをリリースしたりする際には、商標について調べる必要があるということにほかなりません。
「こぢんまりやっているから、大丈夫だろう……」と商標が登録されているかを確認せずに、新サービスをスタートさせたところ、他の方が有している商標権を侵害してしまった……そんな問題が起きてしまうことも考えられます。
また、商標登録がなされていないことを確認したうえで、新商品の名前をつけたところ、思わぬ大ヒットになったとしましょう。
そんなときに、商標登録がなされていないと、他の誰かによる模倣品がどんどん世に出て、売り上げがもっていかれてしまうことだって、あり得ます。個人事業主でも商標登録は不可欠であると覚えておきましょう。
気をつけたいのが、出願する際の名前として、屋号を使うことはできないということ。
個人事業主の場合は個人名で、出願と登録を行います。そのため、自分の氏名と住所が公開されてしまいます。あらかじめ、家族の同意を取っておいたほうがよいかもしれませんね。
もちろん、法人化すれば、法人名で登録ができます。公開されるのも会社の住所になりますから、商標登録は法人化を検討する一つのタイミングといえそうです。
個人事業主の法人化の詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
商標登録するメリットやデメリット
商標登録を行う前に、そのメリットとデメリットを抑えておきましょう。
メリットは何といっても「権利者以外は、同じ商標はもちろん、類似商標も使用できない」ということ。効力は、日本全国に及び、違反者には使用の差し止めや、損害賠償を請求することができます。
また商標については、更新さえすれば、半永久に保護されるだけではなく、譲渡することもできます。
そして、当然、国から商標が認められたということになれば、商品やサービス、ひいては、会社への社会的信用が高まることも、大きなメリットの一つでしょう。広告宣伝にも用いることができますしね。
よいこと尽くしのようにも思いますが、デメリットもあります。それは「費用がかかる」ということです。
費用は申請時に12,000円、登録時に16,400円を特許庁に支払うので、最低でも、28,400円がかかります。ただし、これは1区分あたりの金額です。
区分とは「商標をどんな商品やサービスに用いるか」を決めるもので、商標登録を行うときには、登録したい商標と同時に、その区分も決めなければなりません。
大体、一事業につき、平均的に2~3区分になるといわれており、2区分では53,400円、3区分では78,400円が必要になります。
また、10年ごとに更新が必要な点や、出願して審査に落ちた場合に費用が返ってこない点にも注意が必要です。
そして、これはもちろんご自分で手続きを行った場合の費用ですから、専門家に依頼した場合は、さらに費用がかかります。その点にも気をつけましょう。
すでに商標登録がされている?調べ方は?
登録したい商標と、使用する商品やサービスの分類(区分)が決まれば、すでに登録、あるいは、出願がなされていないかを調べる必要があります。
「特許情報のプラットフォーム」から簡単に調べることができます。

商標検索(特許情報のプラットフォーム)
たとえ今は、商標登録を行う予定がないとしても、自社製品が他の方の商標を侵害してないかどうかの確認も上記のサイトで可能です。競合がどういった商標登録をしているのかを調べることもできますので、そんなリサーチにも商標検索を活用してみてください。
商標登録の手順は?
登録したい商標と使用する商品やサービスの分類が決まって、他の方の登録、出願がなければ、いよいよ登録作業に入っていきます。
①商標登録願の作成
まずは、商標登録願を作成します。知的財産相談・支援ポータルサイトの各種申請書類一覧の「(1)通常出願」の「通常」から、ワード版とPDF版のフォーマットをダウンロードすることができます。
できたら、A4版(縦長)の白紙に印刷しましょう。もちろん、印刷した後に手書きで書き込んでも構いませんよ。
商標登録願の書き方については、下記のガイドをご参照ください。
ただし、もし、間違いや抜け漏れがあると、窓口で修正したり、再提出したりしなければならなくなります。記入したあとは、必ず抜け漏れがないかを確認してください。
②特許庁に提出
商標登録願に特許印紙を貼付し、特許庁に提出しましょう。特許印紙は郵便局や特許庁で購入することができます。間違いやすいですが、収入印紙では手続きができませんので、注意が必要です。
提出の方法は、特許庁に直接足を運んで1階の出願受付窓口へ提出するか、下記に郵送してください。
〒100-8915 東京都千代田区霞が関3丁目4番3号 特許庁長官 宛
郵送の際の注意点は2つです。まずは、余白に「商標登録願 在中」と記載すること。そして「書留」「簡易書留郵便」「特定記録郵便」などを用いるようにしましょう。
郵送ではなく、インターネットでの手続きを行うことも可能です。電子出願ソフトサポートサイトにてご確認ください。
ただし、電子証明書の購入やインターネットの出願ソフトのインストールなどの事前準備が必要です。
手間を省きたいということであれば、紙で提出してしまったほうが早いかもしれませんが、下記の電子化手数料がかからないといったメリットはあります。検討してみてもいいかもしれませんね。
③電子化手数料を納付
書面で提出した場合は、ページ数に応じた電子化手数料が必要です。1件につき1,200円で、それに書面1枚につき700円を加えた額を納付しなければなりません。
これについては、特許庁に書面を提出した後、2週間程度で「電子化料金納付のご案内」(振込用紙)が送付されてきます。その振込用紙に記載された金額を、所定の金融機関へ振り込みましょう。
まとめ
以上、商標登録について解説いたしました。個人事業主でも、問題なく商標登録ができることがおわかりいただけたかと思います。
フットワークの軽さを活かしながら、アイデア次第で事業を大きく拡張できる――それが、個人事業の強みですよね。
そう考えると、むしろ個人事業主こそ商標登録を活用して、自社のブランディングに力を入れるべきだともいえるでしょう。
もちろん、弁理士に依頼することもできますが、当然費用がかさみます。
また、商標登録の手続きを行っていくなかで、自社の強みを改めて知ることもできます。更新が必要であることを考えても、できれば自分でやってみることをおススメします。
ぜひ、新しい事業に挑戦をする際には、合わせて商標登録を検討してみてください。
photo:Getty Images
この記事の執筆者柳原つつじ
出版社勤務を経て、フリーエディター、コラムニスト。歴史、伝記・評伝、経営、書評、ITなどを得意ジャンルとして、別名義で著作多数。ここでは、脱サラフリーランスならではの視点で、お役立ち情報をお届けしたいと思います。
