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法人税等調整額とは?主な調整対象や勘定科目と仕訳、注意点を解説

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法人税等調整額は、企業における会計上の利益と税務会計の課税所得のズレを、解消するために用いる勘定科目です。
企業会計と税務会計は会計処理におけるルールが異なるため、導き出される所得(利益)は一致しないことがあり、そのままにしていると損益計算書上の利益と納税額が食い違ってしまいます。決算の際にズレを調整するために用いるのが、法人税等調整額です。

ここでは、法人税等調整額の概要や調整対象、具体的な仕訳例の他、法人税等調整額を計上する際の注意点についても解説します。

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法人税等調整額は、会計上の利益と税務会計の課税所得のズレを解消する勘定科目

法人税等調整額とは、「会計上の利益」と「税務会計の課税所得」の間に生じる、ズレ(差異)を解消するために用いる勘定科目です。

主に営利企業に適用される企業会計では、収益から費用を引いて会社の利益を求めます。一方、税金の計算のために適用される税務会計では、益金から損金を引いて課税所得を求めます。収益と益金、費用と損金はそれぞれ似ていますが、必ずしも一致するとは限りません。会計上は収益や費用として計上できても、税法上は益金や損金と認められないものもあります。
企業会計と税務会計のルールにこのような違いがあるのは、両者の目的が異なるからです。企業会計は企業の業績を正確に把握することを目的としますが、税務会計の目的は公平な課税です。

例えば、ある設備の耐用年数について、A社は頻繁に使うため3年、B社はそれほど使わないため6年と考えたとします。それは各企業の実態なので、企業会計上は問題ありません。しかし、税金の計算をするときに各企業がそれぞれ異なる耐用年数を設定すると、課税の公平性が崩れてしまいます。そのため税務会計では、減価償却資産の耐用年数が定められています。

このように、企業会計と税務会計にはさまざまなズレが生じるため、会計上の利益と税法会計の課税所得は一致しないことが多くなります。そうなると、損益計算書上に、「会計上の利益」と「税法会計の課税所得」という、異なるルールによって算出された数値が同時に存在することになってしまいかねません。

そこで、「法人税等調整額」という勘定科目を用いて、会計上の利益と税務上の課税所得の差異を解消し、正確な当期純利益を把握できるようにします。法人税等調整額を使って企業会計と税務会計のズレを調整し、損益を適切に算定する手続きのことを「税効果会計」といいます。

法人税等調整額対象は一時差異のみ

会計上の利益と税務会計の課税所得のズレは、翌期以降に解消される「一時差異」と、将来においても解消されない「永久差異」に分けられます。
このうち、法人税等調整額の対象となるのは一時差異のみです。永久差異は、企業会計と税務会計の考え方の違いから生まれる差異であり、解消されることはないため、税効果会計は適用されません。

一時差異には、次のようなものが該当します。

一時差異の具体例

  • 減価償却費
  • 貸倒引当金繰入限度超過額
  • 繰越損金
  • 退職給付引当金
  • 賞与引当金

また、一時差異には、「将来減算一時差異」と「将来加算一時差異」があります。

将来減算一時差異

「将来減算一時差異」とは、将来的に課税所得を減少させるズレのことです。
ズレが発生した年の税引前当期純利益に加算し、ズレが解消されるときに減算します。ズレが解消されたときに課税所得が減少するため、結果的に税金を減算させるものです。
具体的には、減価償却の超過や繰越欠損金の発生などが該当します。

将来加算一時差異

将来減算一時差異とは逆に、将来的に課税所得を増加させるズレが「将来加算一時差異」です。
将来加算一時差異は、ズレが発生した年の税引前当期純利益から減算し、ズレが解消される年に税引前当期純利益に加算します。
資産評価益の否認や積立金方式による圧縮記帳などが、将来加算一時差異にあたります。

法人税等調整額を求める計算

会計上の利益と税務会計の課税所得が合わない場合には、法人税等調整額を使って会計処理を行わなければなりません。法人税等調整額を計算するうえで必要になるのが、「実効税率」です。税効果会計の対象となる勘定科目の金額に実効税率を掛けることで、調整する金額を求められます。

実効税率

実効税率とは、企業が実質的に負担する法人税等の税率のことです。
税法上定められた法人税や法人住民税、法人事業税などの税率をもとに、以下の計算式によって算出されます。

実効税率を求める計算式

実効税率=((法人税率×(1+地方法人税率+法人住民税率)+法人事業税率+特別法人事業税率))÷(1+事業税率+特別法人事業税率)

繰延税金資産

繰延税金資産は税効果会計で使われる勘定科目の1つで、税金の前払いのようなものです。
会計と税務の認識の違いによって、会計上は費用として支出している金額でも、税務上は損金として見なされず、その分税金を多く支払うケースがあります。そのような場合は、払い過ぎた税金相当額を、「繰延税金資産」として貸借対照表の「資産の部」に計上しましょう。具体的には、減価償却や賞与引当金、棚卸資産の評価損、貸倒引当金などが該当します。

繰延税金資産に計上する金額は、将来減算一時差異に実効税率を掛けて求めます。なお、このとき使用する実効税率は、将来差異が解消されると見込まれる際の税率です。

繰延税金負債

繰延税金負債は、繰延税金資産とは反対に、将来的に納めなければならない税金の見積額にあたるものです。
将来加算一時差異のうち、支払いの猶予がある税金について、「いずれ払わなければならない」という想定のもと、貸借対照表の「負債の部」に計上します。有価証券の評価益や固定資産圧縮積立金、特別償却準備金などが該当します。

繰延税金負債に計上する金額は、将来加算一時差異に法定実効税率を掛けて算出されます。

法人税等調整額の勘定科目と仕訳

税効果会計では、差異の発生時と解消時に、それぞれ仕訳を行います。その際、一時差異を調整するために必要な勘定科目が法人税等調整額です。ここからは、繰延税金資産の仕訳例と繰延税金負債の仕訳例について解説します。

繰延税金資産の仕訳例

一時差異の発生時には、借方に繰延税金資産、貸方に法人税等調整額を計上します。また、解消時には、借方に法人税等調整額、貸方に繰延税金資産を計上するものです。
50万円の繰延税金資産が発生した場合と、その50万円が税務上の損金として認識され、繰延税金資産が解消した場合の仕訳例は下記のとおりです。

繰延税金資産発生時の仕訳例
借方 貸方
繰延税金資産 500,000 法人税等調整額 500,000
繰延税金資産解消時の仕訳例
借方 貸方
法人税等調整額 500,000 繰延税金資産 500,000

繰延税金負債の仕訳例

実質的な税金の後払いに該当する金額は、「繰延税金負債」として計上します。
繰延税金負債も、繰延税金資産と同様に、発生時と解消時にそれぞれ仕訳を行います。30万円の繰延税金負債が発生した場合と、解消した場合の仕訳例は下記のとおりです。

繰延税金負債発生時の仕訳例
借方 貸方
法人税等調整額 300,000 繰延税金負債 300,000
繰延税金負債解消時の仕訳例
借方 貸方
繰延税金負債 300,000 法人税等調整額 300,000

法人税等調整額を使う際の注意点

税金の計算をする際は、実際に現金が動くわけではなく、会計上の金額という点に気をつけなければいけません。もし確定申告後に修正が必要になった場合には、手間がかかることが多くなります。そのため、法人税等調整額を計上する際には、以下の点に注意が必要です。

一時差異と永久差異を取り間違えない

企業会計と税務会計の認識の違いによって生じるズレには、一時差異と永久差異がありますが、このうち法人税等調整額で調整できるのは一時差異のみである点に注意しましょう。
永久差異は、その名のとおり永久に解消されないズレなので、調整の対象にはなりません。

永久差異には、交際費や寄附金などの損金算入限度超過額、受取配当金の益金不算入額、法人税をはじめとする損金不算入となる税金などが挙げられます。これらを誤って計上してしまわないように気をつけましょう。

直接収支として現金が出入りするわけではない

法人税等調整額は、あくまで会計と税務上のズレを調整するために計上するものであり、実際に現金が出入りするわけではない点にも注意が必要です。法人税等調整額がプラスになると、その分お金が入ってくると思ってしまいがちです。
逆に、法人税等調整額がマイナスであっても、実際の支払いは発生しません。

税効果会計を行わなければ法人税等調整額は使わない

法人税等調整額は、税効果会計において使用される勘定科目です。税効果会計を適用しなかったり、企業会計と税務会計のズレが生じなかったりした場合は、法人税等調整額は使いません。

上場企業には税効果会計の適用義務がありますが、ほとんどの中小企業の場合、税効果会計の導入は任意です。そのため、中小企業では、差異を生じさせないために、あらかじめ税務会計のルールにのっとって会計処理を行っているケースも少なくありません。

  • 法人税について税理士にご相談をお考えの方は、以下の記事を併せてご覧ください。

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法人税等調整額を理解して正しく会計処理を行おう

法人税等調整額は、企業会計と税務会計のズレを調整するために使用される勘定科目です。
中小企業のほとんどは税効果会計の適用義務がないため、「法人税等調整額を計上したことはない」という方もいるかもしれません。しかし、法人税等調整額で差異を調整すると、企業の当期純利益をより正確に把握できるようになります。

法人税等調整額を計上するには、一時差異と永久差異の違いなど、税効果会計のルールについてもしっかり理解しておかなければなりません。とはいえ、税金に関する計算は複雑で、自力で正しく処理するには手間がかかってしまいます。
法人税等調整額の計上などで迷ったときには、「税理士紹介ナビ新規タブで開く」などを活用して、税の専門家である税理士に相談するといいでしょう。

この記事の監修者森 健太郎(税理士)

ベンチャーサポート税理士法人 代表税理士。
毎年1,000件超、累計23,000社超の会社設立をサポートする、日本最大級の起業家支援士業グループ「ベンチャーサポートグループ」に所属。
起業相談から会社設立、許認可、融資、助成金、会計、労務まであらゆる起業の相談にワンストップで対応します。起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネル会社設立サポートチャンネル新規タブで開くを運営。

URL:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_mori/新規タブで開く

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