開業資金で融資(借入れ)を受けやすいのは?公庫の融資制度を解説
監修者: 森 健太郎(税理士)
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事業を始めるときには、開業資金が必要です。業種によっては、店舗の工事や大きな設備の導入が必要で、開業時に多額の費用がかかることもあるかもしれません。自己資金だけでまかなおうすると、開業資金が足りなくなったり、開業時の資金は足りてもその後の運転資金が足りなくなったりする可能性もあります。
開業資金を集める手段の1つが、金融機関から資金を借り入れる「融資」です。もっとも、事業実績のない起業・開業時は、民間の金融機関から開業資金を借りるのは難しいといわれることもあります。
では、起業・開業時に利用しやすい融資制度には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、起業・開業時の資金調達に向いている日本政策金融公庫などの融資制度や、融資を申し込む際の注意点などを解説します。
開業資金の融資を受けやすいのは、日本政策金融公庫の創業融資や制度融資
開業資金の融資を受けやすいのは、日本政策金融公庫の創業融資と、自治体・金融機関・信用保証協会による制度融資です。これらの融資は、起業・開業を後押しするために、設けられています。
起業・開業前の時期はまだ事業実績がないため、銀行など民間の金融機関から直接融資を受けるのは難しいケースが少なくありませんが、融資を受けられないと起業・開業の件数が減ってしまうため、国や自治体などが関与する形で起業・開業を支援する融資制度が構築されているのです。実際に、日本政策金融公庫総合研究所の「2023年度新規開業実態調査」によれば、開業時の資金調達先として最も多いのが「金融機関等からの借り入れ」で、平均調達額の約65%を占めています。
それぞれの制度には、以下のような特徴があります。
国の政策によって起業・開業を支援する日本政策金融公庫の創業融資
日本政策金融公庫は、国の政策によって起業・開業を支援する創業融資を行っています。日本政策金融公庫とは、国が100%出資している政府系金融機関です。「日本公庫」「公庫」といった略称や、前身である国民生活金融公庫の略称から「国金」などと呼ばれることもあります。
日本政策金融公庫では、国の政策に基づいて新たな事業の創出を後押しし、日本経済の成長・発展に貢献することを経営方針の1つに掲げているため、民間の金融機関から融資を受けにくい中小企業や小規模事業者、起業・開業する方に向けてさまざまな融資を行っています。
日本政策金融公庫の創業融資では、新たに起業・開業する方または事業開始後税務申告を2期終えていない方について、原則として無担保・無保証人で融資を受けることが可能です。また、新たに起業・開業する方または事業開始後概ね7年以内の方に向けた、新規開業資金と呼ばれる制度もあります。新規開業資金の中には、金利や返済期間などが優遇される「新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)」「新規開業資金(再挑戦支援関連)」「新規開業資金(中小企業経営力強化関連)」といった制度があり、他にも、例えば都会からUターンして地方で起業・開業した場合などに金利の優遇を受けられる制度もあります。詳細は、日本政策金融公庫のWebページ「新規開業資金」などもご確認ください。
なお、以前実施されていた日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は、2024年3月末で終了しました。日本政策金融公庫にはさまざまな融資制度があるため、公式サイトなどで情報収集するところから始めてみましょう。
※日本政策金融公庫の融資制度や審査内容については以下の記事を併せてご覧ください
自治体・金融機関・信用保証協会が連携して起業・開業を支援する制度融資
起業・開業を支援するための融資制度には、自治体・金融機関・信用保証協会が連携して融資を行う制度融資と呼ばれる制度もあります。信用保証協会が債務を保証するため、起業・開業してから間もない会社でも金融機関からの融資を受けることが可能です。信用保証協会の信用保証が付くため「信用保証付き融資」などと呼ばれることもあります。
信用保証協会は、全国47都道府県と4市(横浜市、川崎市、名古屋市、岐阜市)にある、中小企業や小規模事業者の円滑な資金調達のために設立された公的機関です。制度融資を希望する場合は、自治体や近隣の信用保証協会に直接問い合わせるか、指定金融機関を経由して申し込みます。制度融資を利用すると、一般的には金利の他に保証料がかかりますが、自治体によっては金利や保証料の補助を受けられる場合があります。
制度融資では自治体ごとに制度内容やしくみが異なるため、利用を検討する場合は開業予定地の自治体で詳細を確認しましょう。
新規開業資金では、金利や返済期間の優遇が受けられる3つの制度がある
起業・開業時に利用できる日本政策金融公庫の新規開業資金では、「新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)」「新規開業資金(再挑戦支援関連)」「新規開業資金(中小企業経営力強化関連)」といった3つの制度があり、所定の要件に該当する場合に金利や返済期間の優遇が受けられます。いずれの制度でも、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。また、原則的な返済期間は長期に設定されていて、設備資金が20年以内、運転資金が10年以内です。設備資金でも運転資金でも、返済期間について利息のみを支払う据置期間を最大5年設定できます。
3つの制度では、それぞれ以下のように金利や返済期間が優遇されているため、対象になるかどうかを確認してみましょう。
新規開業資金の3つの制度の優遇内容
- 新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)では優遇金利の適用が受けられる
- 新規開業資金(再挑戦支援関連)では返済期間の優遇がある
- 新規開業資金(中小企業経営力強化関連)では優遇金利の適用が受けられる
新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)では優遇金利の適用が受けられる
新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)では、新規開業資金で適用される基準利率よりも低い金利で融資を受けることが可能です。例えば、税務申告を2期終えていない方の場合、基準利率は2.6~3.8%ですが、この制度の要件を満たせば2.2~3.4%の特別利率を適用することができます(2024年6月1日時点)。また、「技術・ノウハウ等に新規性がみられる」「デジタル田園都市国家構想交付金(旧、地方創生推進交付金を含む)を活用した起業支援金の交付決定を受けて新たに事業を始める」などの要件に該当した場合は、さらに利率が低くなります。
新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)は、女性や若者、シニア世代の起業・開業を支援する融資制度です。新規開業資金の対象となる新たに起業・開業する方または事業開始後概ね7年以内の方のうち、女性の方または35歳未満か55歳以上の方が利用できます。
年齢や性別の要件を満たせば金利が低くなるため、対象になる方は積極的に活用を検討してみましょう。
新規開業資金(再挑戦支援関連)では返済期間の優遇がある
新規開業資金(再挑戦支援関連)では、返済期間の優遇を受けることができます。運転資金の返済期間について、通常の新規開業資金の10年よりも長い15年以内に設定されています。ただし、据置期間は5年以内で変わりません。
また、例えば創業塾や創業セミナーといった産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業の支援を受けて新たに事業を始める場合などでは、金利の優遇も受けられます。
この制度は廃業歴などがあっても再び起業・開業にチャレンジする方を支援する融資制度であるため、融資を受けた資金は、前事業にかかる債務を返済するために使うことも可能です。利用者の条件は、新規開業資金の対象となる新たに起業・開業する方または事業開始後概ね7年以内の方のうち、以下の3つの要件にすべて該当する方です。
新規開業資金(再挑戦支援関連)の利用者の要件
- 個人事業主・法人にかかわらず、事業主に廃業歴があること
- 廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない程度に整理される見込みであること
- 廃業の理由や事情がやむを得ないものであること
事業の失敗経験があって、再チャレンジしたい場合は、この制度を利用することも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。
新規開業資金(中小企業経営力強化関連)では優遇金利の適用が受けられる
新規開業資金(中小企業経営力強化関連)でも、新規開業資金の基準利率よりも低い金利で融資を受けることができます。新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)と同様に、例えば税務申告を2期終えていない方の場合の基準利率は2.6~3.8%ですが、この制度の要件を満たせば2.2~3.4%の特別利率を適用することが可能です(2024年6月1日時点)。
この制度は、中小企業向けの会計ルールを適用する方の起業・開業を支援する融資制度です。中小企業向けの会計ルールとは、中小企業向けに作られた「中小企業の会計に関する基本要領」(中小会計要領)や「中小企業の会計に関する指針」(中小会計指針)を指します。
この制度の対象となるのは、新規開業資金の対象となる新たに起業・開業する方または事業開始後概ね7年以内の方のうち、中小会計要領か中小会計指針を適用している、もしくは適用する予定で自ら事業計画書の策定を行い、中小企業等経営強化法に定める認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている方です。
これらの会計ルールを適用すれば、自社の経営状況を的確に把握できるといったメリットもあります。中小会計要領や中小会計指針の内容を調べて、対応できそうか確認するところから始めてみましょう。
融資を検討する際は気を付けるべきポイントがある
日本政策金融公庫の創業融資でも制度融資でも、起業・開業時に融資を検討する際には、気を付けるべきポイントがあります。ポイントを確認しないまま安易に融資を受けると、事業をスタートしてから資金繰りが苦しくなる可能性もあります。融資を検討する際には、以下のポイントを確認しましょう。
融資を検討する際に気を付けるべきポイント
- 利息を含めた借入金額を計画的に無理なく返済するようにする
- 返済義務のない補助金や助成金での資金調達も検討する
- 自身の事業の状況に合わせた融資希望額を検討する
利息を含めた借入金額を計画的に無理なく返済するようにする
融資を受ける場合、利息を含めた借入金額を無理なく返済できる計画を立てるのがポイントです。融資はあくまで借入金で、返済義務があるため、返済できなければ訴訟や差し押さえといった事態にも発展しかねません。
融資を受けた後は、月々の売上を基に、融資額に利息を加えた金額を返していくことになります。このとき、例えば毎月の売上や経費だけを見て返済計画を立てるのは避けなければなりません。事業を運営していると、家賃や人件費、仕入れ代金などの経費だけでなく、売上から経費を差し引いた利益に税金がかかります。
返済計画を立てる際には、資金調達ナビの「返済シミュレーター」を使うと便利です。借入額または月々の返済額から、簡単に返済のシミュレーションができます。毎月支払う経費や、納めなければならない税金のことも考慮したうえで、無理のない返済計画を立てましょう。
返済義務のない補助金や助成金での資金調達も検討する
起業・開業時の資金調達では、融資の他に、返済義務のない補助金や助成金の利用を検討するのもポイントです。補助金や助成金は、国や自治体が事業を支援するために資金を提供する制度であることから、原則として返済義務がありません。返済義務がない資金を獲得できれば、資金繰りに余裕が出るため、他に融資を受けていればその返済なども楽になります。
起業・開業の際に活用できる補助金や助成金の例としては、経営課題の解決に必要なITツール導入を支援するIT導入補助金や、無期雇用契約へ移行することを前提として就職が困難な求職者などの試行雇用を行った事業者に支給されるトライアル雇用助成金などがあげられます。
ただし、補助金は公募期間や採択件数が決まっており、必ずしも受給できるとは限りません。一方、助成金は通年で申請は可能な場合もありますが、一定の要件を満たす必要があります。それぞれの特徴を把握したうえで活用しましょう。
※起業・開業時に使える補助金や助成金については以下の記事を併せてご覧ください
自身の事業の状況に合わせた融資希望額を検討する
起業・開業時の資金調達では、自身の事業の状況に合わせた融資希望額を検討するのもポイントです。融資希望額をいくらにすればいいかは、自己資金や事業内容、必要な設備、考え方などによって異なるため、自社の状況を適切に把握して融資希望額を決めなければなりません。
例えば、事業開始後に運転資金不足に陥るリスクを想定して、起業・開業のタイミングでできるだけ多くの融資を受けておくという考え方もあります。ただしその場合、借入金の返済によって利益が圧迫され、資金繰りに困ることがあるかもしれません。
当面の運転資金も含めて、起業・開業時にどれくらいの資金を用意すればいいかを見極め、自社の状況に合わせた融資希望額を検討しましょう。
会社設立や個人の開業に必要な手続きを手軽に行う方法
起業・開業時の資金調達にはさまざまな方法がありますが、いずれにしても、事業用の口座開設などの事業開始の準備を進めておく必要があります。会社設立や個人の開業に必要な手続きを手軽に行いたい場合におすすめなのが、「弥生のかんたん会社設立」や「弥生の設立お任せサービス」「弥生のかんたん開業届」です。
「弥生のかんたん会社設立」は、画面の案内に沿って必要事項を入力するだけで、定款をはじめとする会社設立時に必要な書類を自動生成できる無料のクラウドサービスです。設立する法人形態によって異なる必要書類も、「弥生のかんたん会社設立」であれば、画面の指示に従うだけで自動的に作成されます。各官公庁への提出もしっかりガイドしますので、事前知識は不要。さらに、入力内容はクラウドに自動保存され、パソコンでもスマホでも自由に切り替えながら書類作成ができます。
また、「弥生の設立お任せサービス」は、弥生の提携先である起業に強い専門家に、会社設立手続きを丸ごと代行してもらえるサービスです。専門家を探す手間を省けるほか、電子定款や設立登記書類の作成、公証役場への定款認証などの各種手続きを依頼でき、確実かつスピーディーな会社設立が可能です。資金調達を行う際には事業計画書が必要になりますが、このサービスを使えば、事業計画書の作成から会社設立まで、すべて専門家に相談できます。
「弥生のかんたん開業届」は画面に沿って操作するだけで開業届を含む必要書類を作成することができる無料のサービスです。開業届だけでなく所得税の青色申告承認申請書も同時に作成できるため、事業を開始する初年度から青色申告で行いたい人は、弥生のかんたん開業届の利用を検討してみてください。
開業資金の資金調達は、創業支援に特化した融資を活用しよう
事業を始める際には、開業資金が必要です。開業資金を集めるには、創業支援に特化した融資を受けるとスムースに資金調達できます。特に日本政策金融公庫の「新規開業資金」は、無担保・無保証人で最大7,200万円(うち運転資金4,800万円)まで借り入れることも可能なため、資金調達が必要な方にとって魅力的な制度です。
ただし、融資には審査があり、事業計画書の作成といった煩雑な作業に対応しなければなりません。「弥生のかんたん会社設立」や「弥生の設立お任せサービス」「弥生のかんたん開業届」などで起業・開業の準備を効率的に行いながら、資金調達を進めていきましょう。
よくある質問
開業資金の融資はどこで受けるのがいい?
開業資金の主な調達方法として、日本政策金融公庫の創業融資や、自治体・金融機関・信用保証協会による制度融資があげられます。日本政策金融公庫の創業融資では、「新規開業資金」という融資制度が利用でき、その中には要件をクリアすれば金利や返済期間が優遇される制度もあります。
新規開業資金で金利や返済期間の優遇が受けられる融資制度の制度とは?
新規開業資金で金利や返済期間の優遇が受けられる融資制度は、「新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)」「新規開業資金(再挑戦支援関連)」「新規開業資金(中小企業経営力強化関連)」です。その他にも日本政策金融公庫では、都会からUターンして地方で起業・開業した場合などでも金利の優遇を受けることができます。
融資を検討する際に気をつけるべきポイントとは?
融資を受ける場合、利息を含めた借入金額を無理なく返済できる計画を立てる必要があります。毎月支払う経費や、納めなければならない税金のことも考慮して、無理のない返済計画を立てましょう。融資と併せて、返済義務のない補助金や助成金での資金調達も検討してみるのも、資金繰りを楽にするポイントです。
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この記事の監修者森 健太郎(税理士)
ベンチャーサポート税理士法人 代表税理士。
毎年1,000件超、累計23,000社超の会社設立をサポートする、日本最大級の起業家支援士業グループ「ベンチャーサポートグループ」に所属。
起業相談から会社設立、許認可、融資、助成金、会計、労務まであらゆる起業の相談にワンストップで対応します。起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネル会社設立サポートチャンネルを運営。