起業や事業開始後に発生する税金は?使える控除制度も解説
監修者: 森 健太郎(税理士)
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法人と個人事業主の場合では、課せられる税金が異なります。税金にはそれぞれ納付期限があるため、どのような税金が何に対して課せられるのかを把握して、確実に納付しなければなりません。
ここでは、起業後に発生する税金について、法人と個人事業主に分けて紹介するとともに、起業スタイルによる節税効果の違いについても解説します。
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税金の控除制度とは
法人と個人事業主どちらで起業をするかで、支払うべき税金や控除制度には違いがあります。
「控除」とは一定の額を差し引くことをいい、「所得控除」と「税額控除」の2種類があります。
所得控除は申告者の課税対象となる所得を減らせる控除です。事業収入から必要経費を差し引いた所得から所得控除を差し引いた金額が課税所得です。
つまり、所得控除の金額が大きいほど、税金を計算する対象となる課税所得が減るため、支払うべき税額も少なくなり、節税となります。
また、税額控除は税額自体を減らせる控除です。課税所得に税率を掛けて算出した税額から、控除額を差し引いた金額が最終的に納めるべき所得税額になるため、税額控除の金額が大きいほど税額は少なくなります。
起業後、法人に課税される税金
起業後、法人が事業活動によって得た所得に対しては、法人税、法人住民税、法人事業税がかかります。この3つの税金を総称して「法人税等」と呼び、法人税等と消費税については確定申告が必要です。
その他、法人に課税される主な税金について、下の表にまとめました。
税金の種類 | 窓口 | 納付期限 |
---|---|---|
法人税 | 税務署 | 事業年度終了日の 翌日から2か月以内 |
法人住民税 | 都道府県税事務所 市区町村の税務関連部署 |
事業年度終了日の 翌日から2か月以内 |
法人事業税 | 都道府県税事務所 | 事業年度終了日の 翌日から2か月以内 |
消費税 | 税務署 | 事業年度終了日の 翌日から2か月以内 |
固定資産税(償却資産含む) | 市区町村の税務関連部署 | 第1期:4月末日 第2期:7月末日 第3期:12月末日 第4期:翌年2月末日 |
法人税
法人税は、法人が事業活動で得た所得にかかる国税です。
法人税の課税対象になる所得とは、売上収入などの「益金」から、税法上経費と認められる「損金」を引いた金額を指します。
なお、法人税の税率は、資本金1億円以下の法人の場合、所得が800万円ならびに800万円以上所得があっても800万円以下の部分は15%、800万円を超える部分については23.2%です。
※法人税については以下の記事を併せてご覧ください
法人住民税
法人住民税は、住所や事業所のある地方自治体に対して法人が納める地方税です。
正確には道府県民税と市町村民税があり、これらを合わせて法人住民税と呼びます。
また、法人住民税は、「法人税割」と「均等割」によって構成されています。法人税割は、法人税の税額をもとに算出される住民税です。課税所得が多いほど税額は高くなり、赤字で法人税額がゼロなら納付の必要はありません。
一方、均等割は、法人の資本金の金額や従業者数などに応じて算出されます。課税所得に関係なく計算されるため、たとえ赤字であっても、法人住民税の均等割は納付義務があります。
法人事業税
法人事業税は、法人の所得に対して課税される地方税です。
法人事業税の税率は、法人の種類や資本金の金額、所得額などによって細かく区分されています。
なお、法人税等のうち、損金算入が認められているのは法人事業税だけです。
消費税
消費税は製品やサービスなどの取引に対して加算される税金で、法人が顧客や消費者から受け取った消費税を代わりに国に納付する間接税です。
下記の「基準期間」または「特定期間」の課税売上高が1,000万円を超えた法人は、消費税の納付義務が発生します。
法人にかかる消費税の基準期間および特定期間
- 基準期間:前々事業年度
- 特定期間:前年の事業年度開始の日以後6か月間
新規に設立した法人は、前年や前々年の売上が存在しないため、原則として設立2期目まで消費税の納税義務が免除されます。ただし、資本金が1,000万円を超える場合や特定新規設立法人に該当する場合は、売上高にかかわらず設立年度から消費税の納付が必要です。
また、2023年10月からのインボイス制度の開始に伴って、適格請求書発行事業者として登録した場合にも、初年度から消費税の納付義務が生じます。
※法人の消費税については以下の記事を併せてご覧ください
固定資産税
固定資産税とは、土地や建物、製造用の機械、パソコンなどの固定資産にかかる税金です。
固定資産税の課税対象になる土地や建物について登記をすると、自動的に納付書が送られてくるため、納税者が改めて申告する必要がありません。
なお、固定資産税には、一般的に「償却資産税」と呼ばれる、土地・建物以外の器具・備品、建物の付属設備などに対して課される税金もあります。土地や建物にかかる固定資産税は申告不要ですが、償却資産税については、毎年自治体へ申告書の提出が必要です。
なお、固定資産税と償却資産税は、基本的に全額が経費として認められます。
法人にかかるその他の税金
法人は、役員報酬や従業員の給与・賞与から所得税の源泉徴収を行い、本人に代わって国に納める義務があります。毎月の源泉所得税は概算で算出するため、年末調整を行って過不足を調整します。
その他、税法で定められた課税文書を作成する場合は、印紙税の納付が必要です。印紙税は、所定の金額の収入印紙を対象書類に貼付する形で納めます。
法人が使える税金の控除制度
二重課税を避けたり、雇用促進の政策を進めたりするために、法人にかかる税金には税負担を軽減できるさまざまな控除制度があります。控除制度を利用すると、法人は納付する税金を大きく削減できる場合があります。自分の会社が利用できる税金の控除制度がないか確認してみましょう。
税額控除が可能になる制度
税額控除とは、法人の課税所得に応じて算出した所得税額から、直接一定の金額を差し引く仕組みのことです。法人を対象とした税額控除が可能になる制度には、次のようなものがあります。
中小企業向け「賃上げ促進税制」
中小企業向け「賃上げ促進税制」とは、青色申告をしている中小企業が、一定の要件を満たしたうえで従業員の給与支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税から控除できる制度です。
一般試験研究費の額に係る税額控除制度
一般試験研究費の額に係る税額控除制度は、青色申告をしている法人に要件を満たした試験研究費が発生した場合、その試験研究費の一定割合の金額を法人税から控除できる制度です。
中小企業投資促進税制(特別償却または特別税額控除)
中小企業投資促進税制(特別償却または特別税額控除)は、青色申告をしている中小企業が機械や装置などを取得した場合に、「特別償却」または「特別税額控除」が適用できる制度です。
特別償却とは、税法上定められた減価償却費に加えて、「取得価額×30%」を別枠で当期の償却額にできる制度です。償却費が増えれば課税所得が減るので、法人税額を抑えることができます。
一方、特別税額控除とは、算出した法人税額から「取得価額×7%」を直接差し引ける制度です。特別償却と特別税額控除は併用することができないため、自社にとってどちらを利用した方が良いか検討してみましょう。
個人事業主が課税される税金
個人事業主の所得には、法人税ではなく所得税が課税されます。
個人事業主は税金の申告や納税は自分で行わなければならないため、税金についての知識をあらかじめ知っておきましょう。
個人事業主に課税される主な税金は、下の表のとおりです。
税金の種類 | 窓口 | 納付期限 |
---|---|---|
所得税 | 税務署 | 所得が発生した翌年の3月15日まで |
住民税 | 都道府県税事務所 市区町村の税務関連部署 |
6月30日(第1期) 8月31日(第2期) 10月31日(第3期) 翌年1月31日(第4期) |
個人事業税 | 都道府県税事務所 | 8月31日(第1期) 11月30日(第2期) |
消費税 | 税務署 | 課税期間翌年の3月31日 |
所得税
所得税は、個人事業主が事業で得た所得にかかる税金です。
1月1日から12月31日までの1年間の収入から、必要経費を引いた所得に対して、所定の税率を掛けて算出されます。
個人事業主は、原則として、毎年2月16日から3月15日の間に所得税の確定申告を行わなければなりません。なお、2013年から2037年までの各年分の確定申告においては、基準所得税額の2.1%を、復興特別所得税として併せて納税します。
住民税
法人と同じように、個人事業主にも住民税がかかります。
住民税の税額は、所得税の確定申告をもとに算出されます。そのため、所得税の確定申告を行っていれば、別途住民税の申告を行う必要はありません。
個人事業税
個人事業税は、地方税法等で定められた事業(法定業種)を営んでいる個人事業主が納める税金です。
なお、法定業種に該当しても、年間の事業所得が290万円以下の場合は、個人事業税はかかりません。その場合には、所得税の確定申告の際に申告書に必要事項を記載すれば、個人事業税の申告は不要になります。
消費税
「基準期間」または「特定期間」の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、個人事業主にも消費税の納付義務が生じます。
ただし、個人事業主の基準期間・特定期間は法人とは異なり、以下の期間になります。
消費税の基準期間と特定期間
- 基準期間:前々年の1月1日から12月31日まで
- 特定期間:前年の1月1日から6月30日まで
原則として、開業2年目までは消費税の納税義務が免除されますが、インボイス制度の開始に伴って適格請求書発行事業者になった場合には、初年度から消費税の申告と納付が必要です。
個人事業主にかかるその他の税金
個人事業主で、持ち家である自宅をオフィスや店舗などに使用している場合には、固定資産税を按分して計上することが可能です。また、従業員を雇用している個人事業主は、従業員の毎月の給与から所得税の源泉徴収を行い、国に納付する必要があります。
その他、税法で定められた課税文書を作成する場合には、印紙税を納付(収入印紙を貼付)しなければなりません。
個人事業主が使える税金の控除制度
個人事業主が適用できる控除制度には、次のようなさまざまなものがあります。所得に対して控除が増えると、所得税の節税につなげることが可能です。納税の申告をする際は、漏れなく計上するようにしましょう。
青色申告特別控除
複式簿記での記帳といった所定の要件を満たして青色申告を行うと、最大65万円/55万円の青色申告特別控除が受けられます。
青色申告特別控除は所得から差し引くことができるため、その分所得税額を抑えることができます。
なお、青色申告を行うには、承認を受けようとする年の3月15日までに、税務署に「青色申告承認申請書」を提出しておく必要があります。
事業主控除
個人事業税には、一律290万円の事業主控除があります。そのため、個人事業税の納税義務がある法定業種に該当しても、年間の事業所得が290万円以下なら個人事業税は発生しません。
法人と個人事業主は税金の仕組みや経費の幅が異なる
法人と個人事業主では、税金の仕組みに加え、経費の幅も異なります。法人と個人事業主では以下のような違いがあることを理解したうえで、自分に合った起業スタイルを選ぶようにしましょう。
経費となる対象が違う
法人と個人事業主の税金の仕組みや経費の幅の違いとして、経費の扱い方が違うため経費となる対象も異なる点が挙げられます。
例えば、個人事業主には、事業主本人への給与という概念がなく、売上から必要経費を差し引いた事業所得のすべてが課税対象です。
それに対して、法人を設立すると、経営者は会社から役員報酬を受け取ることになります。役員報酬は、一定の要件を満たせば損金算入が認められるため、課税所得を抑えて節税につながります。
その他にも、個人事業主では経費計上ができない日当や生命保険料なども、法人では損金計上が可能です。
※役員報酬の損金算入については以下の記事を併せてご覧ください
法人税と所得税の税率が違う
法人と個人事業主の税金の仕組みや経費の幅の違いの1つに、法人にかかる法人税と個人事業主にかかる所得税の税率もあります。
法人税の方が所得税より税率は低い場合が多く、資本金1億円以下で所得が800万円を超える法人の税率は23.2%、所得が800万円以下の部分は15%です。
一方、個人事業主の所得税は累進課税なので、所得が多いほど税率が上がり、最大税率は45%にも上ります。
青色申告の欠損金を繰り越せる期間が違う
法人と個人事業主の税金の仕組みや経費の幅の違いには、青色申告の欠損金(赤字)を繰り越せる期間が違う点も挙げられます。
青色申告をしている法人は、欠損金(赤字)を最大10年間まで繰り越すことが可能です。
繰越控除期間の10年のうち、利益が出た年に赤字と黒字を相殺できるため、黒字の年の課税所得を減らし、法人税の節税につながります。
一方、個人事業主でも青色申告をしていれば赤字の繰り越しは可能ですが、その期間は最長3年間しかありません。
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起業するにあたって、法人と個人事業主のどちらが良いかは、業種や売上の規模などによって異なります。また、法人を設立した場合も、役員報酬や資本金の金額、決算月の決め方などが、かかってくる税金に影響する可能性があります。
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法人でも個人事業主でも、起業後にはさまざまな税金が発生します。
ただ、法人と個人事業主では税金の仕組みが異なるため、それぞれの違いや特徴を知っていないと、効果的な節税対策ができない可能性があります。
税金の仕組みは複雑なので、自分だけで正しく判断するのは難しいかもしれません。起業後の税金のことで不明点や疑問があったら、「税理士紹介ナビ」も活用して、税の専門家である税理士に相談しましょう。
この記事の監修者森 健太郎(税理士)
ベンチャーサポート税理士法人 代表税理士。
毎年1,000件超、累計23,000社超の会社設立をサポートする、日本最大級の起業家支援士業グループ「ベンチャーサポートグループ」に所属。
起業相談から会社設立、許認可、融資、助成金、会計、労務まであらゆる起業の相談にワンストップで対応します。起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネル会社設立サポートチャンネルを運営。