健康診断の勘定科目と注意点【経費にできない場合も】
執筆者: aya
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健康診断の費用の勘定科目は、福利厚生費が原則です。
法人・個人事業主問わず、従業員には年に1度の健康診断を受けさせることが法律で義務付けられています。ただし、個人事業主は本人や青色事業専従者の家族の健康診断の費用を経費にすることはできません。
筆者は上場企業で一般会計を担当していた経験があり、実際に福利厚生費の伝票を承認していました。健康診断の費用を経理上どのように考えるかを基本からわかりやすい言葉で説明します。
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POINT
- 健康診断の勘定科目は福利厚生費
- 個人事業主本人の健康診断は経費にできない
- 法人・個人事業主は従業員に健康診断を受けさせる義務がある
- インフルエンザの予防接種代は法人なら福利厚生費で経費にできる
健康診断の勘定科目は「福利厚生費」 ただし条件あり
健康診断の勘定科目は原則「福利厚生費」です。従業員に健康診断を受けさせるのは会社の義務として法律で決められています。
ただし、役員の健康診断の費用のみ会社が負担する、といった場合は給与として扱われて所得税の対象になります。
この章では、法人の場合の健康診断の勘定科目の考え方の基本を解説します。
(個人事業主の場合は記事の後半で解説します。)
健康診断の勘定科目と仕訳
健康診断の勘定科目は「福利厚生費」です。仕訳の例は次の通り。
- 健康診断の費用の仕訳例
- 従業員の健康診断の費用30万円を支払った。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
福利厚生 | 300,000 | 現金 | 300,000 |
借方に費用の勘定科目「福利厚生費」が発生し、貸方には現金などが入ります。仕訳自体は簡単です。ただし、健康診断の費用を経費にするには条件があります。
健康診断の費用の考え方について解説していきます。
健康診断を受けさせるのは会社の義務【社長の健康診断も経費】
従業員に1年に1度の健康診断を受けさせることは、会社の義務として法律で決まっています。
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(中略)を行わなければならない。
労働安全衛生法第66条
健康診断には一般の従業員が受ける「一般健康診断」と、高気圧業務や放射線業務など、法律で定められた業務に携わる従業員が受ける「特殊健康診断」があります。
「一般健康診断」を、一般的に「健康診断」と呼んでおり、項目が詳しく定められています。詳細は厚生労働省が交付しているリーフレットで確認してください。
健康診断の対象になるのは以下を満たす人です。
- 健康診断の対象者は「常時使用する労働者」
-
- 1年以上使用する予定
- 週の労働時間が正社員の4分の3以上
したがって、健康診断は正社員だけではなく契約社員やパート・アルバイトで条件を満たした人、役員・社長も含まれます。
健康診断の費用は、会社が払わなくてはならないと決められてはいませんが、多くの企業で会社が負担しています。
では、費用を会社負担にする場合、どのように経理処理をするのかを条件ごとに見ていきましょう。
健康診断の費用が経費ではなく給与になる場合
健康診断の費用を「福利厚生費」として経費にするには以下を満たす必要があります。
- 健康診断の費用を経費にするための条件
-
- 従業員全員が対象であること(一定の年齢制限は可)
- 常識の範囲内の費用であること
したがって、次のような場合には健康診断の費用は福利厚生費としてではなく給与や役員報酬として扱われ、所得税が課税されることになります。
- 健康診断の費用が経費にならない例
-
- 役員のみを対象にした健康診断の費用
- 役員のみを対象にした人間ドックの費用
- 宿泊付きなどの常識の範囲を超える高額な人間ドックの費用
人間ドックが必ずしも給与扱いされるわけではありません。例えば、従業員の希望者全員が受けられる、常識の範囲内の人間ドックの費用であれば福利厚生費として処理が可能です。
国税庁「人間ドックの費用負担」には、人間ドックの費用を会社が負担する際の注意点について、以下のように明記されています。
給与等として課税する必要はありません。役員や特定の地位にある人だけを対象としてその費用を負担するような場合には課税の問題が生じますが、役員又は使用人の健康管理の必要から、雇用主に対し、一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断の実施が義務付けられていることなどから、一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ、検診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担する場合には、給与等として課税する必要はありません。
福利厚生費とする条件として、従業員全員が対象であることが原則ですが、一定の年齢以上などの制限を設けることは認められています。
また、従業員の給与扱いであれば損金算入が可能ですが、役員報酬の扱いになる場合は損金不算入となります。注意しましょう。
健康診断の消費税の扱い
福利厚生費にあたる健康診断の費用は、課税仕入れとなり消費税がかかります。医療法人からの課税仕入れとして扱います。
一方、給与として扱われる健康診断の費用は、給与と同じく不課税です。
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個人事業主の健康診断の勘定科目は?

個人事業主の健康診断の費用は、原則として経費にできません。この章では個人事業主の健康診断の費用について詳しく解説します。
個人事業主本人の健康診断は経費にできない
- 個人事業主が支払う健康診断の費用
-
- 個人事業主本人:経費にできない
- 青色事業専従者の家族:経費にできない
- 従業員(パート・アルバイト含):経費にできる
個人事業主自身の健康診断の費用は、残念ながら経費にできません。通常のように病院にかかり医療費を支払ったときと同じく、個人的な支出としてみなされます。
個人事業主は法人と異なり、健康診断が義務付けられているわけではありません。あくまでも、個人事業主自身のための健康診断なので経費にはできないのです。また、青色事業専従者の家族の健康診断の費用も経費にはできません。
一方、個人事業主が従業員を雇用している場合には、法人とおなじように従業員に健康診断を受けさせる義務があり、従業員の分の健康診断の費用を経費にできます。
健康診断の勘定科目と仕訳【個人事業主の場合】
個人事業主が従業員の健康診断の費用を払ったときの勘定科目は「福利厚生費」です。仕訳は法人と同じく、次のようになります。
- 個人事業主が従業員の健康診断の費用を払ったときの仕訳
- 従業員の健康診断の費用5万円を支払った。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
福利厚生 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
なお、個人事業主が自分の健康診断の費用を事業用の口座から出した場合、経費にはできないので、以下の仕訳になります。
- 個人事業主が自身の健康診断の費用を事業用の口座から払ったときの仕訳
- 個人事業主が自分の健康診断の費用1万円を事業用の口座から支払った。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
事業主貸 | 10,000 | 現金 | 10,000 |
この仕訳は、「事業主貸」という勘定科目を使って、事業のお金をプライベートで支出したことを表しています。
個人事業主は「医療費控除」「セルフメディケーション税制」を使おう
個人事業主は医療費を経費にすることはできませんが、条件を満たせば「医療費控除」や「セルフメディケーション税制」を使って所得税や住民税を節税することができます。
医療費控除とは
- 医療費控除のポイント
-
- 治療費が対象。健康診断や予防接種の費用は対象外
- 医療費控除の額=かかった医療費-10万円※
- 医療費控除の上限額は200万円
健康診断で万が一、病気が見つかり治療が必要になったときには健康診断の費用も医療費控除の対象になります。
医療費控除の詳しい内容については国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」を参照してください。
セルフメディケーション税制とは
- セルフメディケーション税制のポイント
-
- 健康診断や予防接種など健康維持等の取組をしている個人が対象
- 指定医薬品の購入代12,000円を超えた部分を所得控除できる
- 健康診断の結果や予防接種の領収書を確定申告で提出
健康維持の取り組みをしている人が、ドラッグストアなどで購入した指定医薬品(スイッチOTC医薬品)の12,000円を超える部分を所得控除できます。(上限88,000円)
個人事業主は健康診断や予防接種の費用を経費にはできませんが、健康診断や予防接種は、セルフメディケーション税制を適用する場合に必要な「疾病予防の取り組み」要件の一つです。取り組みを行ったことの証明として健康診断や予防接種の領収書などの添付又は提示が必要なので、領収書などはとっておき、節税の手段として検討してみてください。
詳しくは以下のサイトを確認してください。
インフルエンザの予防接種は経費になる?
- インフルエンザの予防接種の費用
-
- 法人の場合:経費にできる
- 個人事業主の場合:事業主と事業専従者は経費にできない
法人と個人事業主とに分けて解説します。
法人:インフルエンザの予防接種代は「福利厚生費」
健康診断の費用を「福利厚生費」として経費にするときと同じく、従業員の希望者全員がインフルエンザの予防接種を受けられるのであれば、福利厚生費として経費にできます。
福利厚生費として一般的に認められる費用は、以下を満たすものです。
- 福利厚生費として認められる条件
-
- 業務上必要である
- 全従業員を対象としている
- 社会通念上、著しく高額ではない
国税庁「所得税基本通達36-29」参照
従業員がインフルエンザにかかってしまうと業務に支障が出ますし、予防接種の代金は2,000円~5,000円程度で高額ではありません。
したがって、インフルエンザの予防接種代は福利厚生費として経費にできます。
一方、インフルエンザの予防接種代を役員の分のみ会社が負担するなど対象者を限るのであれば、給与として課税の対象となります。
個人事業主:インフルエンザの予防接種代は経費にできない
個人事業主自身のインフルエンザ予防接種の費用は、経費にできません。健康診断の費用を経費にできないのと同じ理由です。
ただし、個人事業主が従業員を雇用していて、インフルエンザの予防接種を希望者全員に受けさせるのであれば、福利厚生費として経費にできます。
なお、インフルエンザの予防接種代は医療費控除の対象外です。インフルエンザの予防接種は治療ではなく「予防」だからです。
一方で、インフルエンザ予防接種はセルフメディケーション税制の「疾病予防の取り組み」の対象になります。
経費にはできませんが、セルフメディケーション税制を利用する可能性がある場合は領収書などは保管しておくと良いでしょう。
健康診断の勘定科目|まとめ
健康診断の勘定科目は福利厚生費。
福利厚生費は給与との線引きが難しい勘定科目であり、税務調査でもしばしば指摘事項になります。
法人は「業務に必要」「全従業員が対象」「金額が高すぎない」の3つを満たしていれば、健康診断の費用とインフルエンザの予防接種の費用を経費にして問題ないでしょう。
一方、個人事業主本人は健康診断の費用・インフルエンザの予防接種の費用どちらも経費にできないので注意してください。
個人事業主は、医療費控除やセルフメディケーション税制を利用して節税することを検討すると良いでしょう。
photo:Getty Images
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