飲食業の「開業費」について
2023/12/04更新

この記事の執筆者宮原 裕一(税理士)

飲食業で起業してお店を始めるときにはさまざまな準備が必要ですね。その準備段階での取引を帳簿づけしようとすると、必ず「開業費」という言葉が出てきます。
今回は、飲食業を始めたい人のために「開業費」について解説していきます。
POINT
- 「開業費」とは開業準備のために支出する費用のことで、税務上の取り扱いがある
- 個人事業主の場合、開業準備にかかる費用は基本的に「開業費」にあたる
- 「開業費」は任意償却で自由に経費化できる
そもそも開業費とは
開業費とは、「事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」のことをいいます。例えば、お店のオープンに際しての広告費などのことです。
開業費と聞くと、”費”がつくせいで経費の一種と思われがちですが、じつは開業費は「繰延資産(くりのべしさん)」というものに分類されます。
繰延資産とは、ざっくりいうと「一度に支払った経費のうち、数年間はその効果が続くもの」になり、経理上ではその効果が続く年数に分割して経費化していくものです。高額で数年間使用できるものである「減価償却資産」と似たような取扱いですね。
なお、法人の場合には開業費の前段階として、「創立費」というものがあります。創立費とは、法人を設立するためにかかった費用のことで、例えば定款認証や設立登記にかかった費用などが挙げられます。
定款の詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
開業にあたって支出するもの
では、ここから具体的にどのようなものが開業準備で必要になるかを、個人事業主の取り扱いを中心に見ていきましょう。
調査費
出店するにあたって、立地調査や競合店調査などは欠かせませんね。調査に要した交通費や、打ち合わせにかかった費用などは開業費にあたります。
店舗の契約
店舗の賃貸借契約を結んだときは、さまざまな項目の支出があります。保証金や敷金は、退去時に返してもらえるものですから、経費にはなりません。
礼金や権利金、先ほどの保証金のうち保証金償却部分などで20万円以上のものについては繰延資産には該当しますが、開業費とは別の区分となります。これらは5年(契約期間が5年未満で更新時に権利金を支払う場合はその契約期間)にわたって経費化していきます。
「契約から開業時までの賃借料」は開業費にあたります。また、不動産業者などに支払った仲介手数料も開業費にあたります。
内装・備品購入
内装工事代や厨房機器、テーブル・椅子などの設備・備品購入費は、1組または一式の金額が10万円以上ものについては減価償却資産の取り扱いを検討する必要があります。
保健所の営業許可、警察への届出等
飲食店を営むには保健所の営業許可などを取得したり、業態によっては警察への届出等も必要になります。これらの手続きにかかる費用は開業費にあたります。
食材・商品の仕入れ
オープンにあたっては必要な食材や商品の仕入を行いますね。このうち開業費にあたるのは、オープン前に調理人のトレーニングのために購入した食材の費用や試食に使用した部分です。それ以外は、通常の仕入れとして経理しましょう。
スタッフトレーニング
オープン前にはスタッフの採用・トレーニングを行いますが、これらの採用教育費、オープンまでにかかった人件費などは開業費にあたります。オープンまでの水道光熱費や通信費なども同様です。
メニューやパンフレット等制作
オープンにあたって制作するお店の案内やメニューなどは、開業費にあたります。オープン後は広告宣伝費や消耗品費など、内容に見合う項目を選択しましょう。
ホームページ制作
ホームページなどはお店を紹介するために欠かせないものですね。これらも開業にあたって立ち上げたホームページであれば開業費にあたります。
オープン広告
お客さまにお店を知ってもらうためには、近隣へお店のオープンを知らせるチラシのほか、フリーペーパーや情報サイトへの登録など、さまざまな広告を行いますね。これらは開業費にあたります。もちろん、プレオープンイベントなどでかかった食材費や広告費なども開業費に入れることができます。
以上は個人事業主の場合の取り扱いでしたが、法人の場合は開業費の範囲がかなり狭くなります。具体的には、地代家賃や人件費、水道光熱費など、経常的に発生するものは開業費とせずにそのままその年度の経費となるのです。法人で開業費となるものは、開業にあたって特別に支出した広告宣伝費、接待交際費、旅費、市場調査費などといったものになります。
開業費の経理方法
開業費にあたる経費を支払ったときは、「開業費」として資産の項目としておきます。
ホームページの制作に250,000円を支出した
開業費 250,000 / 預金 250,000
なお、開業費の記帳はわかりやすいように個別の支出ごとに記帳するのが望ましいですが、エクセルなどで内訳明細書を作成されているようであれば、一括で開業費として記帳してもかまいません。
決算時には、開業費のうちその年度で経費とする金額を「繰延資産償却費」として経費化していきます。
なお、開業費の償却については、原則として60か月(5年)の月割計算となりますが、「任意償却」といって、当初の開業費の金額のうち、その年度までに経費としていない金額を全額償却費とすることが可能です。
開業費250,000円のうち、任意償却で150,000円を経費化することにした
繰延資産償却費 150,000 / 開業費 150,000
まとめ
いかがでしょうか。
開業費は任意償却が選べることから、開業時の多額な支出を一度に経費にしたり、逆に数年に分けて経費にしたりと自由に振り分けをすることができます。例えば個人事業主の場合、社会保険料や医療費などを所得(儲け)から差し引くことができる「所得控除」という制度があります。開業費を経費化することで赤字になってしまう場合は、この所得控除を使う余地が無くなってしまいますから、開業費の経費化を翌年にまわすなどしてうまく使いたいところですね。
photo:Getty Images
この記事の執筆者宮原 裕一(税理士)
「宮原裕一税理士事務所」代表税理士。弥生認定インストラクター。
弥生会計を20年使い倒し、経理業務を効率化して経営に役立てるノウハウを確立。経営者のサポートメンバーとして会計事務所を営む一方、自身が運営する情報サイト「弥生マイスター」は全国の弥生ユーザーから好評を博している。
