パートが扶養から外れる条件とは?しくみや必要な手続きを解説
監修者:税理士法人古田土会計 社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング
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配偶者などが家族の扶養に入って働いている場合は、年収が一定額を超えると扶養から外れることになります。特に、パートで働いていると、「扶養内で働きたい」「扶養から外れると手取りが減る」といった心配をする人も多いかもしれません。ただ、一口に「扶養」といっても、種類によってしくみや対象、条件が異なるため注意が必要です。
本記事では、扶養の種類と、パートが扶養から外れる条件、扶養から外れたときに必要な手続きなどについて解説します。
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扶養は「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」に分かれる
扶養とは、「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」の大きく2つに分類されます。それぞれの違いを詳しく見ていきましょう。
税制上の扶養
税制上の扶養は、所得税や住民税にかかわる控除の制度です。所得税制上の控除対象扶養親族などがいる納税者は、所得からその扶養などの種類に応じた控除が差し引かれ、所得税や住民税の負担が軽減されます。例えば、パート勤務をしている妻が、会社員である夫の税制上の扶養に入っていた場合、夫の納税額が少なくなります。
社会保険上の扶養
社会保険上の扶養は、会社員や公務員として働く人の被扶養者が、保険料を負担することなく健康保険(健康保険組合)および年金制度に加入できる制度です。例えば、会社員の夫の扶養に入っているパート勤務の妻は、自分の分の社会保険料を払う必要がありません。
なお、自営業者などが加入する国民健康保険や国民年金には、扶養の概念がありません。そのため、社会保険上の被扶養者と同じ条件の家族がいても、それぞれが保険料を納める必要があります。
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6つの「年収の壁」
税制上と社会保険上のいずれも、被扶養者の年収額によって住民税・所得税の支払いや健康保険・厚生年金への加入について判断されるため、それぞれの金額を指して6つの「年収の壁」と呼ばれることがあります。6つの年収の壁について、詳しくまとめたものが以下になります。
なお、税法上の年収は1月から12月の間の収入、社会保険法上の年収は未来に対して発生する見込みの収入を示しますが、健康保険組合などは独自の要件があるため確認が必要です。
100万円の壁
100万円の壁とは、住民税が発生するかどうかの課税ラインです。
パートの年収が100万円を超えると、住民税の納税義務が発生します。パートをはじめとする給与所得者には、税金の計算をするときに所得から差し引くことができる給与所得控除があります。年収100万円以下であれば、給与所得控除の55万円を引くと、住民税の非課税限度額である45万円以下となるため、基本的に住民税はかかりません。ただし、自治体によっては、年収100万円以下でも住民税の均等割が発生する場合があるため注意しましょう。
103万円の壁
103万円の壁は、所得税が発生するかどうかの課税ラインです。
パート年収が103万円を超えると、所得税の納税義務が発生します。パートの場合、所得税は、年収から給与所得控除55万円と基礎控除48万円を引いた金額に課税されます。年収が103万円以下であれば、「103万円-55万円=48万円」となり、所得税はゼロとなります。
106万円の壁
106万円の壁とは、条件次第で社会保険の加入が必要になる年収です。
パートの年収が約106万円になると、月額賃金や事業所の規模などによっては、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務が生じます。加入義務対象になった場合は、配偶者の社会保険の扶養から外れて、自身のパート先の会社で社会保険に加入しなければなりません。それに伴い、社会保険料の負担が発生します。
パートが106万円の壁によって社会保険に加入することになる条件は、以下のとおりです。
社会保険の加入義務が生じる条件
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
- 従業員(被保険者数)が101人以上(2024年10月以降は51人以上)の事業所に勤めている
この条件のうち、「月額賃金が8.8万円以上」を年収換算すると約106万円になるため、「106万円の壁」と呼ばれています。
130万円の壁
130万円の壁とは、社会保険の加入が必要になる年収です。
パート年収が130万円以上の場合に、社会保険加入要件を満たす場合には、強制加入となります。一方、社会保険加入要件を満たさない場合には、配偶者の社会保険の扶養から外れ、本人が国民健康保険・国民年金加入の手続きを行わなければなりません。
なお、パートが社会保険に加入する要件とは、週および月の所定労働日数が正社員の4分の3以上か、週の所定労働時間が20時間以上である必要があります。そのため、もし年収130万円以上でも、医療従事者や弁護士など非常に時給が高い人の場合、所定労働日数または所定労働時間が社会保険の加入条件より少ないと、社会保険に加入できません。
150万円の壁
150万円の壁とは、配偶者特別控除で満額の控除(38万円)を受けるための、配偶者の年収の上限です。
パート年収150万円は、配偶者が税制上の配偶者特別控除を満額受けられる上限額です。年収が150万円までであれば、配偶者は103万の壁で解説した配偶者控除と同額の38万円の控除を受けられます。年収が150万円を超えても201万円までは配偶者特別控除を受けられますが、控除額は徐々に減少していきます。
201万円の壁
201万円の壁とは、配偶者控除が受けられる配偶者の年収の上限です。
年収201万円は、配偶者が「配偶者特別控除」を受けられる上限額です。パート年収が201万円を超えると、税制上、社会保険上共に、完全に扶養から外れることになります。
配偶者の年収 | 給与所得者の年収 | |||
---|---|---|---|---|
1,120万円以下 | 1,120万円超1,170万円以下 | 1,170万円超1,220万円以下 | ||
配偶者特別控除 | 103万円超150万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
150万円超155万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | |
155万円超160万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
160万円超166.8万円未満 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
166.8万円以上175.2万円未満 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
175.2万円以上183.2万円未満 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | |
183.2万円以上190.4万円未満 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
190.4万円以上197.2万円未満 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | |
197.2万円以上201.6万円未満 | 3万円 | 2万円 | 1万円 | |
201.6万円以上 | 0円 | 0円 | 0円 |
扶養から外れるタイミング
パートが扶養から外れるのは、税制上では所得税の支払いが必要になる年収103万円を超えた場合で、給与が変わって最初に支払いを受ける日の前日までに給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出します。社会保険上の扶養から外れるタイミングは、原則的に雇用契約を締結してから未来1年間の見込み収入が変わったときです。
そのため雇用契約を変更して、加入要件を満たした場合には、脱退となります。
また雇用契約は変更しないが、労働時間が長くなり年収自体があがってしまうことで、130万を超過することがあるため、定期的に年金機構の調査が行われます。なお、社会保険上の扶養を外れるタイミングは、前述したように、事業所規模などの条件によっては106万円を超えたときになります。
ただし、税制上の扶養は年収103万円のタイミングでも、配偶者控除が適用されなくなりますが、150万円までは配偶者特別控除で同額の控除が受けられるため、実質的には「壁」はありません。また、年収100万円以上、103万円以上で発生する住民税や所得税も、それほど大きな負担にはならないでしょう。
扶養から外れた場合には手続きが必要
パートが扶養から外れたときには、所定の手続きが必要になります。パート勤務の妻が夫の扶養から外れたケースを例に挙げて、税制上、社会保険上の手続きを解説します。
税制上の扶養を外れた場合
税制上の扶養を外れたときは、妻側は特に必要な手続きはありません。その一方、夫側は、妻の年収(所得)に応じて、勤務先での手続きが必要です。
妻の年収によって、前年まで適用されていた配偶者控除や配偶者特別控除が受けられなくなったときに夫が行う手続きは、その旨を夫は勤務先へ伝え、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の内容を修正することです。基本的には、当初提出した申告書の記載内容に異動があった場合には、その異動の日後、最初に給与の支払を受ける日の前日までに異動の内容等を記載した申告書を提出すれば問題ありません。
社会保険上の扶養を外れた場合
妻の年収が130万円(または106万円)以上になり、夫の社会保険の扶養を外れたときは、夫と妻の双方が勤務先で手続きを行う必要があります。また、夫と妻の勤務先の会社も、それぞれ必要な手続きがあります。
夫が行う手続き
夫は、妻が扶養から外れる旨を勤務先の会社に伝え、「健康保険 被扶養者(異動)届」を会社に提出するか、会社に作成してもらいます。併せて、妻の健康保険証を会社に返却します。
夫の勤務先が行う手続き
夫の勤務先は、「健康保険 被扶養者(異動)届」と返却された健康保険証を、所轄の年金事務所もしくは事務センターへ提出します。なお、協会けんぽ以外の健康保険組合に加入している場合は、それぞれの健康保険組合の規約に応じた手続きも必要です。
会社が行う手続き
会社が行う手続きは、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を管轄の年金事務所へ提出することです。社会保険の加入要件に該当したことは会社が把握しますので、基礎年金番号またはマイナンバーを転記し「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」作成し届け出を行います。
妻の勤務先が行う手続き
妻の勤務先は、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を所轄の年金事務所もしくは事務センターへ提出します。協会けんぽ以外の健康保険組合に加入している場合は、それぞれの健康保険組合の規約に応じた手続きも必要です。
扶養から外れた場合のメリット
パートが扶養から外れて自分で社会保険に加入すると、扶養内で働く場合に比べて保障が手厚くなるというメリットがあります。例えば、厚生年金保険に加入した場合、基礎年金に厚生年金が上乗せされて、将来受け取れる年金額が増える可能性があります。また、協会けんぽや健康保険組合といった健康保険には、病気やケガで仕事を休んだ場合の「傷病手当金」や、出産のために仕事を休んだ場合の「出産手当金」の制度があります。これらの手当金は、扶養に入っていると受けられません。
社会保険の扶養から外れると、社会保険料の負担が発生するため、「扶養内で働くより手取りが下がるのでは」と心配する方もいるかもしれません。確かに、例えば、年収を129万円に抑えた場合と、130万円に達した場合を比べると、保険料の負担がある分、年収130万円の方が手取りは少なくなってしまいます。しかし、目安として年収が160万円以上になれば、税金や社会保険料を支払っても、扶養内より手取りは増えます。扶養から外れて年収160万円以上を目指せば、家計にプラスになるでしょう。
「年収の壁」に対する施策も始まっている
パートやアルバイトの人が「年収の壁」を意識せずに働けるように、厚生労働省では「年収の壁・支援強化パッケージ」という施策を始めています。
パートやアルバイトの人の中には、社会保険の扶養から外れて手取りが減ってしまうことを避けるため、シフトを減らすなどの「働き控え」をするケースが少なくありません。このような働き控えは、パートやアルバイトの仕事への意欲を阻むばかりではなく、企業の人手不足を加速させる一因にもなっています。
そのため、2023年から「年収の壁・支援強化パッケージ」という、パートやアルバイトの人が106万円の壁や130万円の壁を超えて働いても手取りが減らないようにするための施策が始まりました。
ここからは、「年収の壁・支援強化パッケージ」について、106万円の壁と130万円の壁の施策について解説します。
106万円の壁の場合
「年収の壁・支援強化パッケージ」では、年収が106万円を超えて社会保険に加入した従業員に対して、社会保険適用促進手当を支給するなど、手取りを減らさないようにする取り組みをしている企業を支援しています。キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」を申し込むことにより、企業に労働者1人当たり最大50万円が支援されます。
130万円の壁の場合
「年収の壁・支援強化パッケージ」では、パートやアルバイトが繁忙期に労働時間を延ばすなどして収入が一時的に上がり、130万円以上になってしまった従業員を支援しています。事業主の判断により収入が一時的に上がった旨を証明することで、引き続き被扶養認定が可能となる仕組みを作っています。(※扶養認定の判断は各保険者にご確認ください)
パートの給与計算や扶養控除などの計算は給与計算ソフトが便利
パート従業員が扶養に入ったり扶養から外れたりすると、そのたびに給与や税金、社会保険料の計算が変わります。扶養から外れたパート従業員に対しては、会社が社会保険の加入手続きなどを行い、税金や社会保険料の徴収・納付を行わなければなりません。扶養の範囲内で働くケースに比べて、給与計算もかなり複雑になります。
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この記事の監修者税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング
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