厚生年金保険料の計算方法とは?給与計算で迷わないための基礎知識
2022/12/09更新

厚生年金保険料とは、厚生年金保険にかかる保険料のことです。厚生年金保険料は収入に応じて決まるものですが、単純に月の支給額に保険料率を掛けて算出するというわけではありません。厚生年金保険料がどのように決まるのかを知り、給与計算時に迷うことがないようにしておきましょう。
この記事では、厚生年金保険の基礎知識から厚生年金保険料の計算方法まで解説していきます。
厚生年金保険とは、従業員が加入できる公的年金制度
厚生年金保険は、会社や一定規模の個人事業主などに雇用されている方を対象とした公的な年金制度です。
厚生年金保険に加入している従業員は、将来、国民年金に上乗せする形で厚生年金を受け取ることができます。このことから、厚生年金保険は「国民年金制度の2階部分」と呼ばれることもあります。
第3号被保険者の厚生年金保険料は支払いが発生しない
厚生年金保険では、被保険者の配偶者が年収130万円未満、かつ、扶養者の年収の半額以下である場合、第3号被保険者にすることができます。第3号被保険者は、男女を問わず加入することができ、保険料を負担することなく国民年金の加入者とみなされ、将来給付を受け取れます。
ただし、公的年金制度において第3号被保険者として認められるのは配偶者のみです。つまり、子供や親などその他の親族は、健康保険の被扶養者になったとしても、厚生年金保険の第3号被保険者となることはできません。
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厚生年金保険の加入条件
厚生年金保険の加入対象者は、原則として社会保険の適用事業所に常時雇用されている70歳未満で、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が通常の従業員の4分の3以上の従業員です。対象者は全員、厚生年金保険に加入しなければいけません。
ただし、短時間労働者の場合は、一定の条件を満たす人のみ対象となります。短時間労働者の条件について、詳しく見ていきましょう。
1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が通常の従業員の4分の3以上の従業員
短時間労働者のうち、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が通常の従業員の4分の3以上に該当する従業員は厚生年金保険に加入します。
1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が通常の従業員の4分の3未満の従業員
短時間労働者のうち、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が通常の従業員の4分の3未満の従業員で、下記の条件をすべて満たす場合は加入対象となります。
厚生年金保険に加入する条件
- 1.
常時500人を超える従業員を雇用している事業所で働いている、または労使合意にもとづいて社会保険の適用拡大をした事業所で働いている
- 2.
週の所定労働時間が20時間以上
- 3.
給与が月額8万8,000円以上
- 4.
継続して1年以上雇用される見込み
- 5.
学生ではない
ただし、1と4は、今後、下記のように条件が変わり、対象者が増える予定になっています。
2022年10月1日以降の厚生年金保険・健康保険の加入条件
- 1.
常時100人を超える従業員を雇用している事業所に勤務している【変更】
- 2
週の所定労働時間が20時間以上
- 3.
給与が月額8万8,000円以上
- 4.
継続して2か月を超えて雇用される見込み【変更】
- 5.
学生ではない
2024年10月以降の厚生年金保険・健康保険の加入条件
- 1.
常時50人を超える従業員を雇用している事業所に勤務している【変更】
- 2
週の所定労働時間が20時間以上
- 3.
給与が月額8万8,000円以上
- 4.
継続して2か月を超えて雇用される見込み
- 5.
学生ではない
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料は、月々の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)それぞれに保険料率を掛けて計算します。2022年現在の厚生年金保険の保険料率は、18.3%です。厚生年金保険料は、従業員と事業主が折半するので、それぞれ9.15%ずつ負担します。
ここでは、給与と賞与、それぞれの厚生年金保険料の計算方法について、詳しく見ていきましょう。
月々の給与から徴収する厚生年金保険料の計算方法
月々の給与時に徴収する厚生年金保険料の計算方法について紹介します。給与から天引きする厚生年金保険料は、下記の計算式から算出されます。
月々の給与から徴収する厚生年金保険料の計算式
標準報酬月額×従業員負担分の保険料率=月々の給与から徴収する保険料額
- ※ 端数が出た場合は、50銭以下切り捨て、50銭超切り上げ 。ただし、事業主と従業員の間で特約がある場合は、特約にもとづき端数処理をすることができます。
なお、上限となる厚生年金保険料について、標準報酬月額表の最高等級である32等級の標準報酬月額は65万円であり、報酬月額が63万5,000円以上の人が該当します。標準報酬月額については後述します。
例えば、標準報酬月額が28万円の従業員の給与から徴収する厚生年金保険料は、下記のように算出します。
月々の給与から徴収する厚生年金保険料の例
28万円(標準報酬月額)×9.15%(従業員が負担する保険料率)=2万5,620円
賞与から徴収する厚生年金保険料の計算方法
賞与からも、厚生年金保険料の徴収が必要です。計算方法は下記のとおりです。
賞与から徴収する厚生年金保険料の計算式
標準賞与額×従業員負担分の保険料率=賞与から徴収する保険料額
- ※ 端数が出た場合は、50銭以下切り捨て、50銭超切り上げ。ただし、事業主と従業員の間で特約がある場合は、特約にもとづき端数処理をすることができます。
標準賞与額とは、賞与の支給額の1,000円以下を切り捨てた数字です。なお、1か月当たり150万円が上限となり、150万円を超えた額は計算の対象になりません。
例えば、34万5,678円を支給する従業員の賞与から徴収する厚生年金保険料は、下記のように算出します。
賞与から徴収する厚生年金保険料の例
34万5,000円(標準賞与額)×9.15%(従業員が負担する保険料率)=3万1,567円
標準報酬月額の決定方法
標準報酬月額とは、厚生年金保険料などを簡単に計算するための額のことです。従業員の報酬を等級に区分し、等級に応じた保険料を算出します。現在の標準報酬月額は、1等級(8万8,000円)から32等級(65万円)までに分かれています。
標準報酬月額は「入社時」「年に1度の定時決定」「給与が変更になったときの随時改定」の3つのタイミングで決まります。それぞれの手続き方法は下記のとおりです。
標準報酬月額の詳細についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
入社時
入社時の標準報酬月額は、「被保険者資格取得届」によって決められます。厚生年金保険に加入する従業員を雇ったときは「被保険者資格取得届」を作成して所轄の年金事務所に提出します。このとき、賃金見込み額にもとづく報酬月額を届け出るのです。報酬月額とは、基本給や支給される手当、交通通勤費などを含む総支給額から求められます。

定時決定
定時決定は、原則として厚生年金保険に加入しているすべての従業員を対象に、年に1度、4月から6月までの3か月間の報酬月額をもとに標準報酬月額を決定します。手順は下記のとおりです。
定時決定の手順
- 1.
4月、5月、6月の社会保険料対象賃金を決定する
- 2.
3か月間の社会保険料対象賃金の総計と平均を算出する
- 3.
3か月間の社会保険料対象賃金の総計と平均をもとに、被保険者報酬月額算定基礎届を記入する
- 4.
被保険者報酬月額算定基礎届を所轄の年金事務所に提出する
- 5.
9月分保険料から新しい標準報酬月額をもとに厚生年金保険料を算出する

ただし、下記の従業員は定時決定を行いません。
定時決定を行わない従業員
- 6月1日以降に入社した従業員(入社時の報酬月額を翌年まで継続)
- 6月30日以前に退職した従業員
- 4月に固定的賃金が変わって7月分保険料の随時改定した従業員
随時改定
随時改定は、基本給や資格、交通費など、毎月固定的に支払われる賃金が変動した従業員に対して行う可能性があるものです。下記の手順に沿って手続きを行いましょう。
随時改定の手順
- 1.
固定的賃金の変動があった従業員について、変動から3か月の社会保険料対象賃金を確定する
- 2.
3か月の社会保険料対象賃金の平均を保険料額表に当てはめて、どの等級の標準報酬月額に該当するか調べる
- 3.
保険料額表の等級と現在の等級を比較して、2等級以上差があった場合は「4」に進む
- ※差がない場合と、固定的賃金の変動と等級の変動が逆になっている場合は、手続きは行わない(固定的賃金が上がっているが、残業が減ったせいで等級が下がったなど)。
- 4.
被保険者報酬月額変更届を記入する
- 5.
被保険者報酬月額変更届を所轄の年金事務所に提出する
- 6.
固定的賃金の変動の4か月目から新しい標準報酬月額で厚生年金保険料を算出する

保険料額表の見方
日本年金機構、または協会けんぽが発表する保険料額表から、該当する「報酬月額」「等級」「標準報酬月額」「保険料」を求めることも可能です。

- ※全国健康保険協会「令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)
」
例えば、2022年東京都の報酬月額が27万5,000円の従業員の場合、まず「報酬月額」欄で27万5,000円が含まれる欄を選択します。次に、その左側にある「標準報酬」欄で、「等級」と「月額」を確認します。厚生年金保険の等級はカッコ内の数字になるため、この場合の等級は18、標準報酬月額は28万円。厚生年金保険料の折半額は2万5,620円であることがわかります。
賞与にかかる申告の手続き
賞与を支給した場合は、支給日より5日以内に管轄の年金事務所、事務センターへ「被保険者賞与支払届」を届出する必要があります。被保険者賞与支払届の記入対象者は、賞与の支払いを受けた社会保険の被保険者(役員含む)と70歳以上の従業員です。この届出内容により、標準賞与額および賞与の保険料額が決定されます。被保険者が受給する年金額の計算の基礎となるため、提出を忘れないよう注意が必要です。
なお、被保険者賞与支払届の対象は、「賃金、給与、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対価として受け取るもののうち、年3回以下の支給のもの」とされていますので、年に4回以上支給される場合は給与として扱われ、賞与支払届の提出は必要ありません。
- ※年4回以上支給の場合は、算定基礎届時に合算して計算する必要があります。
休業中に厚生年金保険料が免除になるケース
厚生年金保険料は標準報酬月額をもとに決まるため、月の支給額が少なくても変わらずに支払いが発生します。ただし、休業の理由によっては、免除となることがあります。
続いては、休業の理由別に、厚生年金保険料の支払いの有無について見ていきましょう。
産前産後休業・育児休業
産前産後休業・育児休業中は、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料がすべて免除されます。従業員負担分だけでなく、事業主負担分も同様に免除となります。
なお、この措置はあくまでも免除なので、厚生年金保険や健康保険の被保険者としての資格を失うことはありません。将来は、支払いを継続した場合と同額の厚生年金の給付を受け取ることができます。
介護休業
介護休業も、育児・介護休業法に定められた休業ですが、社会保険料の免除はありません。厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料の支払いが通常と同様に必要です。介護休業を取得する従業員がいた場合は、社会保険料が発生し続ける点を説明し、徴収方法について取り決めをしておく必要があるでしょう。
傷病休暇
私傷病である病気やケガが原因で休職して傷病手当金を受け取っている従業員の場合、通常どおり厚生年金保険料の支払いが必要です。厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料すべて免除にはなりません。傷病手当金から社会保険料を引ききれない場合は、事業主が立て替えて復帰後に回収するか、別途請求することになります。
厚生年金保険料の納付方法
毎月の給与や賞与から徴収した厚生年金保険料は、事業主負担分と合わせて翌月末までに日本年金機構に納付します。納付方法は、下記の3種類です。
金融機関窓口
保険料納入告知書(納付書)を金融機関窓口に提出して、厚生年金保険料を納付します。納付書は、納付月の20日頃に郵送で届きます。
口座振替
「健康保険厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書」を所轄の年金事務所に提出することで、口座振替が利用できます。
電子納付(Pay-easy)
インターネットバンキングやPay-easyマークの表示があるATM、テレフォンバンキングなどで、保険料納入告知書(納付書)に書かれた情報を入力して厚生年金保険料を支払うことができます。
厚生年金保険に加入した従業員が受け取れる年金
厚生年金保険料を納めることで受け取ることができる年金の種類は、老齢年金、障害年金、遺族年金の3種類です。それぞれの年金の内容と受給要件をご紹介します。
老齢年金
老齢年金は、原則として65歳以上の人が受け取れる年金です。厚生年金保険加入者は、国民年金と厚生年金の両方を受給できます。ただし、受給するためには、国民年金または厚生年金保険に加入していた期間が、合計10年以上必要です。
障害年金
障害年金は、一定以上の障害を負った際に、年齢を問わず受け取れる年金です。厚生年金保険に加入している間に初診を受けた病気やケガがもとで障害が残った場合は、障害厚生年金を受給できます。
障害厚生年金は、国民年金で受け取れる障害基礎年金に比べて受給できる範囲が広く、より軽度な障害でも支給されます。また、障害厚生年金が支給される障害の程度に満たない場合であっても、一時金を受け取れる可能性がありますので年金事務所に相談してみましょう。
遺族年金
厚生年金保険に加入している従業員が亡くなった場合、配偶者や18歳未満の子供などの遺族が遺族厚生年金を受け取れる場合があります。遺族厚生年金を受け取れるのは、亡くなった人に生活を支えられていた人です。国民年金から受け取る遺族国民年金は子供のいる配偶者か子供しか受け取れませんが、遺族厚生年金は配偶者や親なども対象になります。
厚生年金保険の手続き漏れに気を付けよう
厚生年金保険の加入対象者となる従業員を雇用している場合は、必ず加入手続きをとらなくてはいけません。加入の必要があったのに、そのままになってしまっていることがないよう注意しましょう。
また、厚生年金保険では、毎年1度の定時決定のほか、給与が変わった際の随時改定も必要です。各種手続きや月々の給与計算時の保険料の徴収にかかる手間を減らし、ミスなく行うために、給与計算システムを活用することをおすすめします。
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