固定残業代の計算方法は2種類!割増率や制度運用をわかりやすく解説
監修者: 下川めぐみ(社会保険労務士)
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固定残業代の算出方法、割増率、制度運用についてしっかりと理解することは、給与計算の担当者にとって非常に重要です。特にエクセルなどを使用して計算する場合は、計算式や認識に誤りがないかを注意深く確認することが必要です。ここでは、給与計算の担当者向けに、固定残業代の計算方法を解説します。
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固定残業代制とは
固定残業代制とは、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ決められた残業代が支給される制度です。繁忙期と閑散期がある一部の職種では、時期によって残業時間が異なるため、収入が不安定になることがあります。しかし固定残業代制を導入することで、繁忙期や閑散期に関係なく、一定の残業代が支給されるので、安定した生計を維持できます。
固定残業代制を実施する際は、手当として支給するか、基本給に組み込むかを検討し、事業主と労働者の双方の合意が必要です。また、通常の労働時間で得られる賃金と、休日、深夜、時間外の労働に対する割増賃金を明確に区別できるようにする必要があります。
みなし労働時間制との違い
みなし残業とは、実際の労働時間によらず、毎月一定の残業が発生したとみなして基本給に固定の残業代を組み込む賃金制度です。上述した残業時間によらず一定額の残業代を支払う固定残業代制は、みなし残業に分類されます。
みなし労働時間制における残業も、固定残業代制と同様にみなし残業に該当します。みなし労働時間制とは、営業職・リモートワークなど、労働時間の管理が難しい職種や仕事で、実際の労働時間によらず一定時間働いたとみなして賃金を支払う制度です。定められたみなし労働時間が「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超える場合、超過した時間分の残業代があらかじめ賃金に含まれることになり、これをみなし残業とも呼びます。
なお事業場外で仕事を行う場合でも、労働時間の算定が可能である場合には、みなし労働時間制を適用できないので注意しなければなりません。グループメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる、使用者の指示を随時受けて労働している、指示を受けて仕事を行った後に事業場に戻るといったケースは制度の適用外となります。
参考:東京労働局・労働基準監督署「事業場外労働に関するみなし労働時間制の適正な運用のために」
固定残業代の計算方法は2種類ある
ここからは、給与計算の担当者向けに、固定残業代の計算方法を解説します。固定残業代制を取り入れる予定の企業や、これから給与計算の業務に従事する予定がある方は参考にしてください。
1. 手当型の固定残業代

固定残業代制を取り入れている企業が手当として固定残業代を支払う場合、基本給とは別に固定残業代として計算する必要があります。従業員の給与明細には、給与〇円と固定残業代〇円といった形で記載されます。
給与とは別に残業代を記載すると、残業時間の有無によらず手当を一定額もらえている実感が湧きやすく、社員のモチベーションアップにつなげることが可能です。また、残業時間によらず手当が一定額支給されるので、従業員が残業を避けようと自発的に業務の効率化を図るようになり、生産性の向上が期待できます。
計算方法
手当として固定残業代を支払う場合は、まず「給与総額÷月平均所定労働時間」で1時間当たりの賃金を算出します。月平均所定労働時間は、「(365日-年間休日)×1日の所定労働時間÷12か月」で求められます。実際に働いた日数に所定の労働時間を乗じ、12か月で除すると、1か月当たりの所定労働時間を求めることが可能です。
また、労働時間は週40時間、1日8時間までと義務付けられているので、法定労働時間の超過分となる固定残業代については割増賃金で支払う必要があります。つまり、固定残業代を計算する場合は、「1時間当たりの賃金×固定残業時間×割増率(1.25)」で算出します。
残業時間がみなし残業に納まる場合でも、法定休日に勤務した際は割増率35%以上、深夜の22~5時に勤務した際は割増率25%以上の手当を別途支払わなければなりません。例えば、法定休日の深夜に残業した場合は割増率が60%以上となり、割増分の「1時間当たりの賃金×残業時間×割増率(0.6)」を加算して支給する必要があります。
詳しくは「超過した分の残業代を計算する方法」にて解説しますが、法定労働時間を超えたときの割増率は25%以上、法定休日の割増率は35%以上、深夜勤務の割増率は25%以上です。あくまでも上記の計算で採用した割増率は目安であり、企業によって割増率が異なる可能性があります。
2. 基本給組み込み型の固定残業代

固定残業代制を採用していて基本給に固定残業代を組み込んでいる場合は、基本給〇円(○時間の固定残業代として〇円を含む)といった形で給与明細に記載されます。
基本給に残業代が組み込まれているので、企業は余分な残業を防げるメリットがあります。とはいえ、基本給に組み込まれることで、固定残業代を受け取っているという認識が薄くなり、従業員のモチベーション維持が難しくなる側面もあります。さらには、これまで手当型の固定残業代を支払っていた企業が、基本給組み込み型に切り替える場合は、従業員の給与が下がることもあるため注意が必要です。
計算方法
基本給組み込み型の固定残業代は、「基本給÷{月平均所定労働時間+(固定残業時間×1.25)}×固定残業時間×1.25」で算出します。
例えば、基本給30万円・月平均所定労働時間165時間・固定残業時間30時間のケースでは、5万5,555円が固定残業代だと求められます。従業員の明細書に記載する場合は、基本給30万円(固定残業代5万5,555円30時間相当分を含む)と明示しなければなりません。
なお、算出した固定残業代が都道府県の定める最低賃金を下回る場合は、違法となるので注意が必要です。固定残業代が最低賃金を下回るケースにおいては、従業員は未払い残業代を企業に請求できます。企業は従業員の請求に応じて未払い残業代を支払わなければなりません。また、最低賃金は改正されることがあるので、都度計算し直す必要があるため注意してください。
超過した分の残業代を計算する方法
固定残業代制で定められた残業時間から超過した労働時間分の残業代については、別途計算して支払う義務があります。以下の点に気をつけて、間違いのないように残業代を算出してください。
1時間当たりの残業代を計算する
1時間当たりの超過分の残業代は、「1時間当たりの賃金×残業時間×割増率(1.25)」で算出します。1時間当たりの賃金は「月給÷月平均所定労働時間」で求められます。
ここでの月給とは基本給・諸手当の合算です。例えば、従業員に対して基本給30万円・各種手当5万円を支払っている場合、月給は35万円として計算します。仮に月平均所定労働時間が165時間の場合、1時間当たりの賃金は約2,121円です。超過分の残業時間が5時間である場合は、1万3,257円の残業代が支払われます。
割増率は残業の種類によって変わる
種類 | 条件 | 割増率 |
---|---|---|
時間外手当・残業手当 | 法定労働時間が1日8時間・週40時間を超えた場合 | 25%以上 |
時間外労働が1か月45時間、1年360時間など限度時間を超えた場合 | 25%以上 | |
時間外労働が1か月60時間を超えた場合 | 50%以上 | |
休日手当 | 法定休日(週1日以上、4週間で4日以上の休日)に勤務させた場合 | 35%以上 |
深夜手当 | 深夜の22~5時の間に勤務させた場合 | 25%以上 |
参照:東京労働局「しっかりマスター労働基準法」
残業時間の割増率は、上述した表のように残業の種類によって異なります。ここからは、残業の種類別の割増率について解説します。
法定内残業の場合
労働時間は1日8時間・週40時間までと義務付けられていると上述しましたが、法定内残業とは法定労働時間内に残業を抑えられるケースを指します。フルタイムで勤務している場合は法定外残業になる可能性が高いですが、パートタイムや短時間勤務の従業員は法定の労働時間内に残業時間が収まる場合があります。法定内残業の場合は、上表のような割増はありません。純粋に固定残業時間を超える場合は、超えた分の残業代を計算して支払います。
法定外残業の場合
法定の労働時間は1日8時間・週40時間までですが、超える場合は割増率が25%以上の残業代を支払う必要があります。
例えば、1日10時間の労働をした場合、法定外残業は2時間です。もしも、該当の2時間がみなし残業に含まれるのであれば、固定残業代は1時間当たりの賃金×固定残業時間×割増率(1.25)で算出できます。仮に該当の残業時間が固定残業時間を超えていた場合は、超過分の残業代を支払う必要があります。1時間当たりの賃金×残業時間×割増率(1.25)で、1時間の賃金が1,000円なら1,000円×2時間×1.25で2,500円の残業代が別途発生するので注意が必要です。
60時間を超えた場合
時間外労働には上限があり、1か月45時間、1年360時間の限度時間が設けられています(36協定の締結要)。臨時的な特別な理由がない限りは、上述した時間外労働の上限を超過できません。しかし、労使が合意する場合には、年720時間以内・月100時間未満・2~6か月の平均が80時間以内なら時間外労働が許されています。
臨時的に時間外労働が60時間を超える場合、割増率は50%以上となります。従来は大企業が50%以上、中小企業が25%以上の割増率と決められていましたが、2023年4月から中小企業も一律50%以上にアップしました。60時間以下の時間外労働については割増率25%以上で超過分の残業代を算出し、60時間を超える時間外労働については割増率50%以上で算出してください。
深夜に勤務した場合
深夜の時間帯に労働する場合、割増率25%以上の深夜割増手当が発生します。厚生労働省では深夜の時間帯を22時~翌朝5時までと定めています。深夜帯の残業がみなし残業に含まれる場合は、固定残業代に深夜時間帯の割増分のみ加算してください。みなし残業を超過する場合、深夜時間帯の割増分を含んだ残業代を支払う必要があります。仮に、月60時間を超える時間外労働を深夜の時間帯に行った場合の割増率は75%です。
休日労働をした場合
企業は労働基準法に則り、1週間に1日以上、あるいは4週間で4日以上の法定休日を従業員に対して与えなければなりません。もしも、この法定休日に労働をした場合は、割増率が35%以上の賃金を支払う必要があります。
法定休日を土曜や日曜に設定している企業もあれば、シフト制を採用していて個別に週1回、あるいは4週に4回の休日を設定している企業もあるので気をつけてください。法定休日は特定の曜日に設定、あるいは一斉に取得する必要がないため、企業によって異なります。法定労働時間を超えないように企業が設定した所定休日に出勤する場合は、法定時間外労働にあたるなら25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
固定残業代制の導入を円滑に進めるポイント
就業規則に記載して従業員に周知する
固定残業代制を導入するには当事者双方の合意が必要なため、就業規則に細かい部分まで記載して周知する必要があります。基本給・固定残業時間・割増率など、細かな条件を明示して従業員から理解を得られるようにしてください。
労働管理・勤怠管理を適切に行う
固定残業代制だからといって、サービス残業をさせてよいわけではありません。みなし残業を超える分は、別途残業代を支払う必要があります。制度導入前と同様に労働管理・勤怠管理は適切に行い、体制やしくみが整っていない状況なら管理体制を見直すことが大切です。
最低賃金を下回っていないか確認する
固定残業代で人件費を抑えようとするあまり最低賃金を下回り、従業員から訴えられるケースがあります。もしも、最低賃金を下回っている場合、企業は未払いの残業代の請求に応じなければなりません。都道府県で最低賃金は決まっており、変更になった際は最低賃金を下回らないように残業代を計算し直す必要があります。なお、制度の変更には当事者双方の合意が必要で、労働者と雇用者間で協定を結んでください。
固定残業代制度の運用が違法となるケース
基本給が最低賃金より低くなっている
上述したように、固定残業代は最低賃金を下回らないように設定する必要があります。同じく基本給も最低賃金を下回る場合は、違法となるので注意しなければなりません。
例えば、東京都では2023年10月1日より最低賃金が1,113円に改正されます。仮に基本給15万円、固定残業代を5万円(固定残業時間30時間)、各種手当3万円を支給しているとします。所定労働時間が165時間なら、1時間当たりの賃金は15万円+3万円÷165時間で1,090円です。
改正前の最低賃金は1,072円で問題ありませんでしたが、基本給を見直さなければ改正後に最低賃金を下回ります。固定残業代は5万円÷30時間で1,666円なので最低賃金を下回っていませんが、基本給は下回っているため違法性があるとみなされます。
参考:東京労働局
みなし残業時間が45時間を超えている
労働基準法の改正により、時間外労働は1か月で45時間、年間360時間の上限が設けられました。労働基準法第36条第5項によると、特別な理由がある場合に限り、年720時間以内・月100時間未満・2~6か月の平均が80時間以内の時間外労働が許されています。
適切な固定残業代の計算は給与計算ソフトの導入がおすすめ
固定残業代制の導入には、基本給・各種手当・固定残業代・超過分の残業代の計算方法を理解しておく必要があります。万が一計算が誤っている場合は、違法性があるとみなされる可能性があるので、適切に給与計算を行わなければなりません。的確に給与計算を行うには、給与計算ソフトの導入がおすすめです。
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この記事の監修者下川めぐみ(社会保険労務士)
社会保険労務士法人ベスト・パートナーズ所属社労士。
医療機関、年金事務所等での勤務の後、現職にて、社会保険労務士業務に従事。
