雇用保険とは?加入条件や手続き、受け取れる給付金について解説
2023/12/05更新

雇用保険は、会社や個人事業主に雇用されて働く従業員に失業等に対する保険給付を行うことで、生活を守ってくれる保険です。従業員を雇用する事業主は、農林水産業等の一部を除き加入の対象となりますので、どのような制度なのか確認しておきましょう。
ここでは、雇用保険の仕組みや加入条件、雇用保険料の計算方法と納付方法を解説します。また、雇用保険に加入した従業員に対しての給付制度についても紹介します。
雇用保険とは
雇用保険とは労働者の生活及び雇用の安定を目的とし、失業したときや新たな資格を取得したいときに受けられる給付制度です。雇用保険に加入していると、失業したときだけでなく育児休業などでも給付金が受けられます。
しかし、だれもが雇用保険に加入できるわけではなく、一定の条件を満たさなければいけません。ここからは、どのような人・どのような企業が雇用保険の加入対象になるのか解説します。
雇用保険の加入条件
一定の条件を満たす従業員は、必ず雇用保険に加入しなければいけません。任意加入の保険ではないので、条件を満たす場合は忘れずに加入手続きをとりましょう。雇用保険の対象となる適用事業所の条件と、加入しなければならない従業員の条件をそれぞれ紹介します。
雇用保険の加入対象になる企業の条件
従業員を雇用している会社や個人事業主は、農林水産業の一部を除いて、すべて雇用保険の対象事業者になります。雇用保険の対象事業者は、「適用事業所」と呼ばれます。一人親方や美容院、商店など小規模な個人事業主であっても、雇用している従業員がいるのであれば雇用保険の適用事業所です。
雇用保険は、厚生年金保険や健康保険に比べて適用範囲が広い点に注意してください。厚生年金保険・健康保険に加入していない事業所であっても、雇用保険の適用事業所になる可能性があります。適用事業所になった場合の手続き方法については後述します。
雇用保険の加入対象になる人の条件
下記の条件を2つとも満たす従業員は、雇用保険の被保険者となります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上引き続き雇用される予定
雇用保険の加入の有無は、働き方によって決定します。例えば、週3日勤務の従業員が1日6時間勤務した場合は週の所定労働時間が18時間となり、雇用保険の加入対象ではありません。しかし、雇用契約が変更になり週3日、1日7時間勤務になった場合は、所定労働時間が21時間となるため雇用保険の加入対象となります。
雇用保険の加入対象にならない従業員は、1日だけ臨時で雇用する場合や繁忙期のみ1週間だけ手伝ってもらう場合などです。また、会社役員や取締役、同居親族は、原則として雇用保険への加入対象にはなりません。
雇用保険の加入の有無は、労働時間によって決定するため、労働契約を締結する際に雇用保険加入の希望を確認したうえで所定労働時間を決定するようにしましょう。
雇用保険に加入できない人の条件
雇用保険に加入できない人の条件は、次のとおりです。
- 1週間の所定労働時間が20時間未満の人
- 31日以上引き続き雇用される見込みがない人
また、労働時間だけでなく、次の項目に該当する人も雇用保険に加入できないケースがあります。
- 法人の代表者や役員
- 各種団体の役員
- 同居の親族
- 季節的労働者
- 昼間学生 など
雇用保険の加入について不明点がある場合は管轄のハローワークに確認しましょう。雇用保険番号や雇用保険加入履歴についても、ハローワークで確認できます。
労働時間が変わったときの雇用保険加入条件の変化
雇用保険の加入の有無は、労働時間により決定するため、労働条件が変更になり所定労働時間の増減があった場合は、雇用保険の加入・喪失の手続きが必要となるケースがあります。ここからは、労働条件変更により所定労働時間が変更になった場合の対応について解説します。
途中から週20時間未満しか働かなくなった場合
労働条件が変更となり、週の所定労働時間が20時間未満となった場合は、雇用保険の加入対象外となります。労働時間や月の出勤日数が少ない場合は雇用保険に加入していたとしても、失業給付等を受給する際の算定期間に含めることができない可能性もあるため注意しましょう。所定労働時間が20時間以上から20時間未満になった場合は雇用保険資格喪失の手続きが必要です。
忙しいときだけ週20時間以上働く場合
雇用保険の加入の有無を判断する労働時間は、原則として雇用契約書等で定められた所定労働時間で判断します。したがって、残業などで一時的に20時間を超えてしまったという場合であれば雇用保険の加入対象外となります。
雇用保険の手続きや必要書類
雇用保険に加入するときには手続きがあり、書類も用意しなければいけません。ここからは社員が入退職したときの雇用保険の手続きや必要書類について解説します。
入社したときの手続き
社員が入社し雇用保険加入手続きが必要となった場合は、入社した月の翌月10日までに、事業所を管轄するハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出します。
雇用保険の加入要件に該当する場合は本人の希望等に関係なく強制加入となるため、事業所は期限までの手続きが必要です。雇用保険加入手続きでは、マイナンバーや前職がある場合は雇用保険被保険者番号が必要となります。手続きをスムーズに行うために、入社時に必要情報の提出を求めるようにしましょう。
退職・転職したときの手続き
社員が退職・転職したときには、事業所は雇用保険被保険者資格喪失届と雇用保険被保険者離職証明書をハローワークに被保険者でなくなった事実のあった日の翌日から起算して10日以内に提出する必要があります。主な添付書類は、以下のとおりです。
- 賃金台帳
- 労働者名簿等
- 出勤簿
雇用保険被保険者離職証明書は、退職理由や、離職前の賃金状況から失業給付の金額等が決定されるため重要な書類です。提出が遅れると、失業給付の手続きにも影響が出てしまうため早めの対応を心がけましょう。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料の計算の手順は、次のとおりです。
- 雇用保険の計算に必要な賃金を確認
- 雇用保険料率を確認する
- 雇用保険対象賃金と料率を掛ける
ここからは雇用保険料の計算方法について解説します。
雇用保険の計算に必要な賃金を確認
雇用保険料を計算するためには、まずは雇用保険料の算定の基礎となる賃金の確認が必要です。雇用保険料の算定の基礎となる賃金は、次のとおりです。
- 給与
- 賞与
残業手当や、通勤手当なども算定の対象になるため注意しましょう。
また、雇用保険料の計算から除外される賃金も確認しておかなければいけません。雇用保険料の計算から除外される賃金は、下表とおりです。
賃金総額に算入するもの | 賃金総額に算入しないもの |
---|---|
|
|
- ※出典:神奈川労働局「労働保険料の算定基礎となる賃金早見表【労働保険徴収課】
」
雇用保険料率を確認する
雇用保険料の計算の対象項目を把握したら、次に雇用保険料率を確認します。雇用保険料率は、毎年厚生労働省や都道府県労働局、ハローワークのサイトで確認できます。令和5年度の雇用保険料が確認できる厚生労働省のページは「令和5年度雇用保険料率のご案内」です。なお、令和5年の雇用保険料率は、次のとおりです。

雇用保険対象賃金と料率を掛ける
最後に雇用保険料率を計算します。雇用保険料の計算式は、次のとおりです。
給与額(賞与額)× 雇用保険料率 = 雇用保険料
それでは、雇用保険料率がどのくらいになるのか、令和5年度の雇用保険料率を利用してシミュレーション計算をしてみましょう。
- シミュレーション計算条件
-
- 一般の事業に勤めている労働者の給与30万円
- 雇用保険料率0.6%(労働者負担)
- 雇用保険料率0.95%(雇用主負担)
- 雇用保険料の計算から除外される賃金はない
上記の条件で労働者が負担する雇用保険料は、次のとおりです。
30万円 × 0.6% = 1,800円(労働者負担の雇用保険料)
一方、雇用主が負担する雇用保険料は、次のとおりです。
30万円 × 0.95% =2,850円(雇用主負担の雇用保険料率)
なお、雇用保険料率は変更されるケースがあるため注意しなければいけません。また、計算するときには、雇用保険の計算対象外の賃金を入れずに計算しましょう。
雇用保険で受け取れる主な給付金
雇用保険に加入している従業員は、さまざまな給付を受けられます。いつどのような給付を受けられるのかを把握し、必要に応じて従業員への案内を行いましょう。ここでは、代表的な給付の種類を紹介します。
求職者給付(失業手当)
雇用保険による基本手当とは、通称失業手当と呼ばれる給付のことです。従業員が離職した後、ハローワークで就職活動を行い、所定給付日数の期間受給できます。受給条件は下記のとおりです。
- 離職の前2年間のうち、12か月以上雇用保険に加入していた
- ハローワークで失業の認定を行い、求職の申し込みをした
- 実際にハローワークにて就職活動を行っている
基本手当を受け取れる日数は、離職理由や年齢、被保険者期間などに応じて90~360日です。また、手当金額は離職前6ヶ月の給与の約50~80%程度です。具体的な金額は、年齢や給与の平均額などに応じて決まります。
就職促進給付
就職促進給付とは、早く再就職してもらうことを目的としたもので、次の4種類の給付金があります。
- 再就職手当
- 就業促進定着手当
- 常用就職支度手当
- 就業手当
再就職手当は早期に再就職した方に支給される手当です。基本手当の残日数が多いほど、再就職手当の金額が増えます。就業促進定着手当は再就職したものの、前職のときの給料よりも再就職先の給料のほうが少ないときに受け取れる手当です。常用就職支度手当は、障害のある方などが再就職したときに受け取れます。就業手当は再就職手当の支給対象外の職種に就いたときに受け取れる手当です。再就職手当の支給対象外のものとは、常用雇用形態以外の職種です。
なお、各手当にはそれぞれ受け取れる詳細な条件があります。詳細な条件を確認したい方は、最寄りのハローワーク窓口で確認しましょう。
教育訓練給付
厚生労働大臣の指定を受けた対象講座を受講し、修了した場合に受講費用が一部支給されます。対象講座はデジタル関係や大型自動車免許、英語検定、簿記検定など約14,000講座に及びます。
育児休業給付金
育児休業給付金は、過去2年間に12ヶ月以上雇用保険に加入している従業員が育児休業を取得した際に受け取れる給付金です。ただし、その期間中で12カ月の要件を満たさない場合、産前休業を開始した日から2年間で12ヶ月の要件を満たせば適用されます。受給金の額は、休業前の給与の約67%(180日経過後は約50%)です。
参考:厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
なお、育児休業は原則として1歳(パパ・ママ育休プラス制度を利用する場合1歳2ヶ月)未満の子供を養育するために仕事を休んだ従業員が対象となります。母親だけでなく父親も、育児休業や育児休業給付金の対象です。また、延長要件を満たせば、1歳半、2歳までの延長が可能です。
雇用保険に関してよくある質問
求職者給付(失業手当)の受給期間はいつまで?
求職者給付(いわゆる失業保険)の所定給付日数は、雇用保険の被保険者の期間により変わります。例えば、自己都合で退職した人の所定給付日数は、次の表のとおりです。
雇用保険の被保険者期間 | 求職者給付の所定給付日数 |
---|---|
1年未満 | 90日 |
1年以上5年未満 | |
5年以上10年未満 | |
10年以上20年未満 | 120日 |
20年以上 | 150日 |
上記のように被保険者期間が長いほど、求職者給付の所定給付日数も長くなります。なお、会社都合での離職の場合は、所定給付日数が変わります。
雇用保険の給付金申請はどのようにしたらいい?
雇用保険の給付申請をするときには、次の書類を用意しハローワークで申請します。雇用保険の給付金の申請に必要な書類は、次のとおりです。
- 雇用保険被保険者離職票 - 1(被保険者資格喪失届)
- 雇用保険被保険者離職票 - 2(被保険者離職証明書)
- 雇用保険被保険者証
- 証明写真(たて3cm×よこ2.4cmの正面上半身のものを2枚)
- 本人確認書類(運転免許証やパスポート)
- 本人名義の普通預金通帳
- 求職申込書
- 個人番号確認書類(マイナンバーカーや個人番号が記載されている住民票)
雇用保険の加入対象から外れたときはどうなる?
雇用保険の加入対象から外れたときは、外れた日をもって離職したとみなすことができます。例えば、週20時間以上働いていた人が週20時間未満しか働かなくなったというようなケースです。このような場合は雇用保険上、離職したとみなされるので被保険者資格喪失手続きが可能になります。ただし、雇用保険の被保険者資格喪失手続きをしても、在職を続けて求職活動をしない場合は、雇用保険の手当が受け取れません。
雇用保険を受け取れるかどうかまず加入条件を確認しよう
雇用保険は、週20時間以上労働する従業員を雇うほぼすべての事業主に関係のある保険です。加入漏れがないように気を付けましょう。また、従業員を雇用保険に加入させた後は、毎月の給与基に雇用保険料を計算して、徴収しなければいけません。毎月の給与計算の際、きちんと徴収できているかどうか確認する必要があります。
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