年末調整とは?意味・手続きの流れ・注意点などを徹底解説
2024/03/01更新
年末調整の業務を行うにあたって「年末調整をやる意味は?」「具体的に何をしたらいい?」といった疑問を持つ方が多いのではないでしょうか。年末調整は給与所得者の所得税額を確定させるための作業で、会社は基本的にすべての従業員の年末調整を行う義務があります。また、年末調整はタイトなスケジュールで行う場合が多いため、手続きの流れを把握して計画的に行うことが重要です。
ここでは、年末調整の意味から、年末調整の対象者、実際に行う作業と作業時期の目安、注意点などを解説します。
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年末調整とは?意味や確定申告との違いをわかりやすく解説
年末調整とは、給与所得者の年間給与が確定する年末に、源泉徴収済みの所得税と本来納めるべき所得税の過不足を調整することです。
一部の給与所得者も行う必要がある確定申告との違いも含め、詳しく解説します。
年末調整とは所得税の過不足金額を調整すること
年末調整とは、1月1日から12月31日までの1年間に支給された給与を基に給与所得者の所得税額を確定させ、過不足金額を調整することです。
給与や賞与の支給時に源泉徴収で納めた所得税は、あくまで概算の金額です。年間の給与支給額や適用される控除が明らかになると本来の所得税が計算できるため、源泉徴収した所得税の合計額と比較して過不足金額を調整します。源泉徴収された所得税が本来の所得税より多い場合は還付し、少ない場合は追加徴収を行います。
年末調整と確定申告の違い
年末調整と確定申告はいずれも1年間の所得税額を確定させるものですが、下表のとおり対象者や作業内容に違いがあります。
対象者 | 作業内容 | 実施時期 | |
---|---|---|---|
年末調整 | 給与所得者 | 会社が従業員の所得税額を計算して所得税額を確定させる | 当年の12月ごろ |
確定申告 | 主に個人事業主やフリーランス | 自ら所得を計算のうえで税務署に申告し、所得税額を確定させる | 翌年2月16日から3月15日 |
多くの給与所得者には確定申告は必要ありませんが、下記に該当する人は確定申告を行わなければなりません。
- 年収2,000万円を超える人
- 副業・兼業などを行っており給与所得以外の収入を申告する必要がある人
- 医療費控除や寄付金控除を受けたい人
- 住宅ローン控除を受けたい人(初年度)
会社からも確定申告が必要な人の条件をアナウンスするとよいでしょう。
年末調整が必要な人・不要な人は?パートや学生アルバイトも対象?
年末調整はほとんどの給与所得者が対象ですが、一部対象外の人もいます。年末調整が必要な人・不要な人の条件を解説しますので、必要な人の年末調整に漏れがないよう参考にしてください。
年末調整が必要な人
年末調整の対象者は、正社員やアルバイト(パートタイマーや学生アルバイトも含む)などの雇用形態に関わらず、12月31日まで勤務している従業員です。年の途中に入社した人も、12月31日まで在籍していれば対象となります。ただし、対象の従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している必要があります。
また、下記に該当する従業員は年の途中でも年末調整を行わなくてはなりません。
- 海外転勤などにより日本の非居住者となった人
- 死亡により退職した人
- 著しい心身の障害により退職した人(再就職し給与を受け取る見込みのある人を除く)
- 12月に支給されるべき給与などの支払いを受けた後に退職した人
- 年の中途で退職した当年の給与が103万円以下のパート・アルバイト(再就職し給与を受け取る見込みのある人を除く)
年末調整が不要な人
年末調整が不要となる人は下記のとおりです。
- 当年の給与収入金額が2,000万円を超える人
- 災害減免法の規定により、当年の給与に対する所得税・復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
- 2か所以上から給与を受け取っており、他の給与支払者に扶養控除等(異動)申告書を提出している人
災害減免法では、災害によって住宅や家財が被害を受けた場合、一定の条件を満たせば所得税が軽減または免除される規定が設けられています。所得税の軽減・免除を受けるには、確定申告書に適用を受ける旨と被害の状況および損害金額を記載し、納税地の所轄税務署長に確定申告書を提出することが必要です。
参考:国税庁「No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除」
年末調整の流れは?会社がやるべき7つのこと
年末調整の作業と作業時期の目安は下表のとおりです。
作業時期 | 作業 |
---|---|
11月上旬まで | 源泉徴収票の回収 |
10月下旬から11月中旬 | 申告書の準備・配布 |
11月中旬から11月下旬 | 必要書類の回収 |
12月上旬から12月中旬 | 所得税の計算 |
12月支給の給与にて | 過不足金の還付・徴収 |
1月10日まで | 所得税徴収高計算書の作成・所得税の納付 |
12月から1月 | 源泉徴収票などの作成 |
作業時期はあくまで目安ですので、会社の給与支給日によってスケジュールを組み立ててください。ここからは各作業の内容をわかりやすく解説します。
11月上旬まで:源泉徴収票の回収
年間の給与収入を把握するため、当年中に他の会社から給与を受け取っていた従業員から源泉徴収票を回収します。中途入社者や入社前にアルバイトをしていた新卒入社者に、源泉徴収票の提出を依頼しましょう。従業員が源泉徴収票を紛失するのを防ぐため、入社のタイミングで回収するのがおすすめです。
10月下旬から11月中旬:申告書の準備・配布
年末調整に必要な書類を準備・配布し、従業員に記入してもらいます。必要な書類は下記の4点です。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
- 給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書
「扶養控除等(異動)申告書」は、年末調整を行うにあたって必須の書類です。この申告書では、配偶者控除や扶養控除、障害者控除などの申請ができます。
「保険料控除申告書」は、生命保険や地震保険などの保険料控除を申告する書類です。申告書と併せて、保険会社から従業員に届く保険料の控除証明書の提出も必要になります。
「基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」は、下記3つの控除を1枚で申告できる書類です。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 所得金額調整控除
「住宅借入金等特別控除申告書」は、住宅ローン控除を受けて2年目以降の従業員のみ提出が必要です。管轄の税務署から届く住宅ローン控除等申告書と、住宅ローンを契約している金融機関から届く年末残高証明書が添付されているか確認しましょう。
11月中旬から11月下旬:必要書類の回収
あらかじめ配布した申告書と、生命保険料や地震保険料の控除証明書、小規模企業共済等掛金払込証明書などの必要書類を回収します。期日までに必要書類を回収できるよう、下記のような対策が必要です。
- 書類の書き方について従業員からの問い合わせに対応できる体制を整える
- 提出遅れや不備があることを前提として、ゆとりを持った締め切りを設定する
- 従業員への期日のリマインドを行う
スムーズに所得税の計算に入れるよう、必要書類が回収できたらすぐに不備がないか確認するのがおすすめです。
12月上旬から12月中旬:所得税の計算
12月に支給する給与や賞与の金額が確定したら、下記の手順で「年調年税額」という年間の所得税額を算出し、源泉徴収済みの所得税額と比較します。
-
1.年間の給与・賞与、社会保険料、源泉徴収済みの所得税の総額を計算する
-
2.給与所得控除後の金額を計算する
配偶者控除や生命保険控除などの各種控除を差し引き、課税給与所得金額を計算する -
3.課税給与所得金額に対応する税率を掛け合わせ、所得税額を計算する
-
4.所得税額から住宅ローン控除額を差し引く
-
5.住宅ローン控除を差し引いた金額に102.1%を掛けて年調年税額を計算する
-
6.源泉徴収済みの所得税と年調年税額を比較し、過不足金を算出する
5で所得税に102.1%を掛ける理由は、東日本大震災からの復興にかかる財源として設けられた復興特別所得税を納めるためです。
参考:国税庁「復興特別所得税の源泉徴収のあらまし」
12月支給の給与にて:過不足金の還付・徴収
あらかじめ源泉徴収された所得税が年調年税額より多い場合は従業員に還付し、少ない場合は追加徴収をします。過不足金の還付・徴収は基本的に12月給与で行います。
従業員の混乱を招かないよう、給与明細にどのような形で過不足金が記載されるのか、従業員に説明しておくのがおすすめです。
1月10日まで:所得税徴収高計算書の作成・所得税の納付
12月に源泉徴収した所得税は1月10日までに納付を行います。従業員が10人未満で納期の特例を受けている場合の納付期限は、1月20日となります。
納付の際は「所得税徴収高計算書(納付書)」が必要です。所得税徴収高計算書は通常税務署から送付されますが、届かない場合はe-taxから入手することも可能です。
なお、2024年は1月20日が土曜日の関係で納期限が1月22日となります。このように、納期限が土日の場合は繰り下がって月曜日の日付となることも理解しておきましょう。
12月から1月:源泉徴収票などの作成
12月から1月にかけて下表の書類を作成し、従業員や税務署などに配布・提出します。
提出先 | 書類名 | 内容 | 提出時期 |
---|---|---|---|
従業員 | 源泉徴収票 | 年間給与や社会保険料を従業員ごとにまとめた帳票 | 12月給与支払い時 |
税務署 | 法定調書合計表 | 会社が支払った給与や外部への報酬、徴収した所得税額などをまとめた書類 | 翌年1月31日まで |
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書等 | 弁護士・税理士などに支払った報酬を記載した書類 | ||
源泉徴収票 | 一部役員・社員の分のみ提出 | ||
市区町村 | 給与支払報告書 | 住民税額の計算のため市区町村に居住者の所得を知らせるもの | 翌年1月31日まで |
各書類の提出期日は必ず守り、万が一遅れが発生する場合は事前に連絡しましょう。
参考:国税庁「No.7411 「給与所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等」
年末調整の対象になる控除と確定申告が必要な控除
控除の中には年末調整で対応できるものと確定申告が必要なものがあります。それぞれ詳しく解説します。
年末調整の対象になる控除
年末調整で申告できる控除は下表のとおりです。
種類 | 内容 |
---|---|
基礎控除 | 本人の合計所得金額が2,500万円以下である |
配偶者控除 | 控除対象配偶者がいる |
配偶者特別控除 | 本人の合計所得金額が1,000万円以下、かつ配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下である |
扶養控除 | 控除対象扶養親族がいる |
障害者控除 | 本人や控除対象配偶者、扶養親族が障害者である |
寡婦控除 | 本人が寡婦である |
ひとり親控除 | 本人がひとり親である |
勤労学生控除 | 本人が勤労学生である |
保険料控除 | 生命保険料、地震保険料を支払った |
社会保険料控除 | 社会保険料を支払った |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済や個人型年金、心身障害者扶養共済制度の掛金を支払った |
住宅ローン控除(2年目以降) | 自分が住む家を購入・リフォームするために住宅ローンを借りている |
所得金額調整控除 | 「子ども・特別障害者等を有する者等への所得金額調整控除」と「給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除」に該当する |
年末調整で申告できる控除は従業員に周知しておきましょう。
確定申告が必要!年末調整で申告できない控除
確定申告が必要な控除は下表のとおりです。
種類 | 内容 |
---|---|
医療費控除 | 医療費や医薬品の購入費が一定額を超えた |
寄付金控除 | 国や地方公共団体への寄付やふるさと納税(ワンストップ特例を申請していない場合)などを行った |
雑損控除 | 災害や盗難、横領により住宅・家財などに損害を受けた |
住宅ローン控除(1年目) | 自分が住む家を購入・リフォームするために住宅ローンを借りている |
確定申告が必要な控除もあらかじめ従業員に周知しておくとミスを防げるでしょう。
年末調整をしないとどうなる?会社へのペナルティは?
年末調整を行わないと企業に下記のペナルティが発生するため、対象者を漏れなくピックアップして年末調整・納税を行う必要があります。
- 年末調整を行わず従業員から正しい税額を徴収しなかった場合:1年以下の懲役または50万円以下の罰金(所得税法第242条)
- 年末調整を行ったが追加の徴収額を納付しなかった場合:10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその両方(所得税法第240条)
ただし、申告書の未提出など従業員の過失で間に合わなかった場合は、従業員自ら確定申告を行います。
参考:デジタル庁 e-Gov ポータル「所得税法」
年末調整を円滑に進めるコツはスケジューリング
年末調整を円滑に進めるためには、12月給与の確定に遅れを生じさせないことが重要です。12月の給与計算に必要な勤怠の回収や、所得税の計算に必要な申告書の回収に遅れが出ないよう、従業員へのアナウンスは徹底的に行いましょう。
休職中など勤務をしていない従業員は、書類の回収に特に時間がかかる可能性があります。書類を確実に回収できるよう、提出日を早めに設定するのがおすすめです。
年末調整は計画的に業務を遂行しよう
年末調整の実施にあたっては、12月給与の確定や所得税の納付、税務署・市区町村への書類提出の締め切りを厳守しなければなりません。しかし、従業員からの書類回収や書類のチェック、所得税額の計算、源泉徴収票の作成など、膨大な業務に短期間で取り組む必要があります。
年末調整の業務を締め切りまでに完了させるためには、年末調整に関するすべての業務を把握し、計画的に業務を進めることが重要です。申告書の記入に関する従業員からの問い合わせや、申告書の提出遅れなどにも対応できるようなスケジュールを立て、計画的に業務を遂行しましょう。
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