年末調整の仕訳について
2021/03/31更新

この記事の執筆者宮原 裕一(税理士)

年末調整で従業員の所得税は精算できたものの、精算はどのように経理上の処理をしたらよいかという質問をよく受けます。
今回は、年末調整をしたときの仕訳方法について解説していきます。
POINT
- 毎月の給与支払時に天引きする源泉所得税は「預り金」として仕訳する
- 年末調整で過不足を精算する場合は「預り金」の足し引きをする
- 年末調整により「預り金」がマイナスになる場合は「立替金」に振り替える
給与の仕訳方法
まずは、毎月の給与の支払い時の仕訳を確認しておきましょう。なお、仕訳をわかりやすくするため源泉所得税などの金額は正確ではありません。
例1:アルバイトに給与50,000円を現金で支払った
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
給与手当 | 5,0000 | 現金 | 50,000 |
例2:アルバイトに給与100,000円と交通費5,000円の合計105,000円から源泉所得税1,000円を差し引いた104,000円を現金で支払った
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
給与手当 | 100,000 | 現金 | 104,000 | |
旅費交通費 | 5,000 | 預り金 | 1,000 | 源泉所得税 |
「預り金」勘定を使って従業員などからいくら源泉所得税を預かっているかを管理するようになります。
例3:従業員に給与200,000円と交通費10,000円の合計210,000円から源泉所得税4,000円、住民税6,000円、厚生年金・健康保険料30,000円、雇用保険料1,000円を差し引いた169,000円を銀行振込で支払った
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
給与手当 | 200,000 | 普通預金 | 169,000 | 給料手当 |
旅費交通費 | 10,000 | 預り金 | 4,000 | 源泉所得税 |
預り金 | 6,000 | 住民税 | ||
預り金 | 30,000 | 厚生年金・健康保険料 | ||
預り金 | 1,000 | 雇用保険料 |
従業員から徴収する税金や社会保険料は「預り金」となりますが、ひとつの科目で記帳すると金額の区別がつかなくなってしまいますから、預り金の内容ごとに補助元帳(会計ソフトでは補助科目)を利用するのがおすすめです。なお、社会保険料は「立替金」や「法定福利費」などとして経理する方法もあります。
年末調整は給与支払への足し引き
さて、年末調整は、従業員等のその年1年間の給与から正しい所得税の額を計算して、預かった源泉所得税を精算する業務です。
これまで預かってきた源泉所得税が、年末調整で計算した所得税よりも多かったときは差額を本人へ返し、少なかったときは本人から差額を追加で預かるという作業になります。
その精算方法は、一般的には年内最後の給与・賞与に足し引きすることで行われます。もちろん、過不足分だけ単独で精算することも可能です。
例1:年末調整で年間の源泉所得税が3,000円多かったので、12月の給与支払時に差額を足して支払った
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
給与手当 | 100,000 | 現金 | 107,000 | 給料手当 |
旅費交通費 | 5,000 | 預り金 | 1,000 | 源泉所得税 |
預り金 | 3,000 | 年末調整での精算分 |
例2:年末調整で年間の源泉所得税が2,000円少なかったので、12月の給与支払時に差額を預かって支払った
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
給与手当 | 100,000 | 現金 | 102,000 | 給料手当 |
旅費交通費 | 5,000 | 預り金 | 1,000 | 源泉所得税 |
預り金 | 2,000 | 年末調整での精算分 |
例3:年末調整で年間の源泉所得税が4,000円多かったので、個別に現金で支払った
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
預り金 | 4,000 | 現金 | 4,000 | 年末調整での精算分 |
預り金がマイナスになった場合
従業員から預かった源泉所得税は、原則として源泉所得税を預かった月の翌月10日までにその月分をまとめて税務署へ納めます。給与の支給人員が常時10名未満で「納期の特例」を受けている場合は、半年ごとにまとめて7月10日、翌年の1月20日の年2回にして納めることもできます。通常であれば、預かった金額をそのまま納めますから、帳簿上の「預り金」の残高はゼロになりますね。
年末調整で年間の過不足を精算した場合は、源泉所得税の納付時にその過不足を足し引きして納めることになります。年末調整では、源泉所得税を本人へ返すケースが多くなりますが、さきほど紹介した仕訳方法で記帳した場合、預かっている源泉所得税の残高より返す金額のほうが多く、残高がマイナスとなることがあります。このときは、いつも使っている源泉所得税の納付書に以下のように記入して、納付額ゼロ円の「源泉徴収高計算書」として税務署へ提出し、納付は行いません。
例:12月分給与から合計5,000円源泉所得税を預かったが、年末調整による超過税額(返す金額)が7,000円あった

預かった源泉所得税5,000円はいつもどおりに記載し、「年末調整による超過税額」欄に預かった金額と同額の5,000円を記載、差し引き納付額をゼロ円にする。
還付額7,000円-源泉所得税と相殺5,000円=2,000円分が帳簿上マイナスになりますが、これは次回の納付時に繰り越して相殺します。
なお、残高をマイナスにしたくない場合は、次回の相殺までマイナス分を「立替金」などに振り替えておきます。
例1:上記で預り金が2,000円マイナスになっている
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
立替金 | 2,000 | 預り金 | 2,000 | 年末調整での精算分 |
例2:例1の翌月に預かった源泉所得税5,000円から2,000円を相殺して3,000円を納めた
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
預り金 | 5,000 | 現金 | 3,000 | 源泉所得税 |
立替金 | 2,000 |
まとめ
いかがでしょうか。
年末調整は源泉所得税という「預り金」を従業員や税務署とやりとりする作業になります。税務署に納めてしまった源泉所得税を、精算で従業員にも支払わなければならないのかという質問を受けることがあります。上述のとおりで、精算した金額は新しく預かる源泉所得税と相殺していき、事業者が損をするということはありませんのでご安心ください。
photo:Getty Images
弥生のクラウド給与サービスなら給与計算・年末調整がスムーズに
弥生給与 Nextは、初心者でも給与・賞与計算から年末調整まで、"かんたん" に行えるクラウド給与ソフトです。
勤怠情報を入力すれば残業代や社会保険料などは自動計算で、給与明細書の作成はラクラク。
また作成した給与明細書は、Web配信で従業員のスマホ・PCに配付することができます。
さらに年末調整に必要な控除申告書の回収、法定調書の作成、源泉徴収票の従業員への配付もオンラインでスムーズです。
年末調整、何から始める?担当者必見!年末調整ガイドのダウンロードはこちら
年末調整を委託されている方は、「やよいの給与明細 Next」をお試しください。
この記事の執筆者宮原 裕一(税理士)
「宮原裕一税理士事務所」代表税理士。弥生認定インストラクター。
弥生会計を20年使い倒し、経理業務を効率化して経営に役立てるノウハウを確立。経営者のサポートメンバーとして会計事務所を営む一方、自身が運営する情報サイト「弥生マイスター」は全国の弥生ユーザーから好評を博している。
