労働保険とは?加入条件や手続き、保険料の計算方法について解説
従業員を雇用する事業者が行うべき手続きの1つとして、労働保険への加入があります。従業員を雇用する事業者は、原則として労働保険に加入しなければなりません。同時に、加入条件を満たす従業員を、労働保険に加入させる必要があります。また、労働保険に加入すると、労働保険料が発生します。特に初めて従業員を雇入れる場合、労働保険の手続きをどうやって進めればいいのか、戸惑うことが多いかもしれません。
本記事では、労働保険の特徴、加入条件や手続きの他、労働保険料の計算方法についても解説します。
【初年度0円】クラウド給与計算ソフトで大幅コスト削減【全機能無料でお試し】
【初年度0円】給与明細をかんたん作成・スムーズ発行【法令改正に自動対応】
労働保険とは労災保険と雇用保険のこと
労働保険とは、労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険の総称です。正社員やパート、アルバイトといった雇用形態にかかわらず、労働者を1人でも雇っている場合は労働保険の適用事業所となり、事業者は労働保険の加入(成立)手続きを行わなければなりません。また、手続きは事業所単位で行う必要があります。
そもそも社会保険には、広義と狭義の2つがあります。広義の社会保険は健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5つで、狭義の社会保険は健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つです。そして、狭義の社会保険に含まれない雇用保険と労災保険を、まとめて「労働保険」と呼びます。
労働保険と呼ばれる労災保険と雇用保険は、いずれも、労働者の雇用と生活を守ることを目的に国が運営する社会保険制度です。
労災保険に加入している従業員は、業務中や通勤中にケガをしたり、業務が原因で病気になったりした際に、さまざまな補償を受けられます。また、雇用保険に加入している従業員は、失業、あるいは育児や家族の介護で働けなくなった場合や、就職のための教育訓練を受けた場合などに給付が受けられます。
労災保険の特徴
従業員を雇用している事業者は、一部の農林水産業を除き、必ず労災保険に加入しなければなりません。法人はもちろん、個人事業主であっても、従業員を1人でも雇用し事業が行われている限り、その事業は「適用事業」となり、労災保険または雇用保険の保険関係が成立します。適用事業所に雇用される従業員は、基本的には労災保険の被保険者となります。
労動者が労災保険の加入対象となる条件の詳細や、労災保険料の計算方法は、以下のとおりです。
労災保険の加入対象者
労災保険の加入対象者は、労災保険の適用事業を営む事業者に雇用されているすべての人です。正社員、契約社員、パート、アルバイト、日雇いなど、雇用形態や雇用日数にかかわらず、すべての従業員が労災保険の加入対象となります。たとえ1日だけの短期アルバイトであっても、労災保険への加入は必要です。
なお、派遣社員の場合は、派遣元(派遣会社)で労災保険に加入するため、派遣先では加入の必要はありません。
労災保険の特別加入制度
会社の経営者や業務執行権を持つ役員、自営業者(個人事業主)などは、法律上の労働者には該当しないため、原則として労災保険への加入ができません。ただし、特定の条件を満たす中小事業主や特定作業従事者などに対しては、労災保険への特別加入を認める制度があります。
労災保険の特別加入が認められる条件はさまざまですが、例えば中小事業主の場合は、以下の事業規模の会社を対象としています。
業種 | 労働者数 |
---|---|
金融業 保険業 不動産業 小売業 |
50人以下 |
卸売業 サービス業 |
100人以下 |
上記以外の業種 | 300人以下 |
労災保険料の計算方法
労災保険の保険料は、全額を事業者(会社)が負担します。他の社会保険料のように、従業員の負担分はありません。
労災保険料の金額は、4月1日から翌年3月31日までの全従業員の賃金総額に、所定の労災保険率を掛けて算出します。計算式にすると、以下のようになります。
労災保険料の計算式
労災保険料=年度内の全従業員の賃金総額×労災保険率
労災保険率は、事業の種類ごとに細かく設定されています。これは、事業内容によって労働災害のリスクが異なるためです。業種ごとの労災保険率は、厚生労働省の「労災保険率表」から確認しましょう。
雇用保険の特徴
雇用保険の加入対象者となる従業員を1人でも雇用している事業所は、農林水産業の一部を除き、すべて雇用保険の適用事業所となります。適用事業所では、加入条件を満たす従業員を、必ず雇用保険に加入させなければなりません。
雇用保険の加入対象者
雇用保険の加入対象者は、従業員のうち、以下の条件をすべて満たす人です。
雇用保険の加入対象となる条件(2024年6月現在)
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上継続して雇用される見込みである
- 昼間部の学生ではない(休学中など一部例外あり)
なお、「31日以上継続して雇用される見込み」とは、期間を定めずに雇用されている場合の他、雇用契約に更新規定があり31日未満での雇い止めの明示がない場合や、雇用契約には更新規定がないが、過去に同様の雇用契約を締結して31日以上雇用された従業員がいる場合などが該当します。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、事業者と従業員が、それぞれの雇用保険料率に応じた金額を負担します。健康保険料や厚生年金保険料のように労使折半ではないので注意しましょう。事業者と従業員それぞれの雇用保険料率は、「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3つの業種区分ごとに定められており、いずれの場合も事業者負担の方が大きくなっています。
雇用保険料は、従業員に支払った給与や賞与の総額に、雇用保険料率を掛けて算出します。計算式は以下の内容です。
雇用保険料の計算式
従業員負担の雇用保険料=雇用保険が対象となる給与額(賞与額)×従業員負担の雇用保険料率
事業者負担の雇用保険料=雇用保険が対象となる給与額(賞与額)×事業者負担の雇用保険料率
適用事業所設置の手続き
労働保険(労災保険・雇用保険)は、原則として事業所ごとに適用されます。これは、工場、事務所、営業所、店舗などのように、組織的・場所的に独立した経営体を指します。従業員が入社するたびに個別に手続きをする必要はありません。
初めて従業員を雇用した際には、「保険関係成立届」と「労働保険概算保険料申告書」を所轄の労働基準監督署に提出し、適用事業所設置の手続き(成立手続き)を行います。
保険関係成立届
保険関係成立届は、事業所が労働保険に加入するために届け出る書類です。事業所の住所や名称、法人番号などを記入して、労働基準監督署に提出します。提出期限は、従業員を雇い入れた日の翌日から10日以内です。なお、法人は履歴事項全部証明書、個人事業主は事業主の世帯全員の住民票などの添付書類が必要です。
労働保険概算保険料申告書
労働保険概算保険料申告書は、従業員に支払う賃金の見込額を基に、概算保険料を申告するための書類です。保険関係が成立した日(従業員を雇用した日)から、その3月までに支払う賃金の見込額に、保険料率を掛けて算出した概算保険料を申告します。提出後に「領収済通知書(納付書)」をもらえるので、概算保険料を金融機関で納付します。
初めて提出する労働保険概算保険料申告書の提出期限は、従業員を雇い入れた日の翌日から50日以内です。
雇用保険の加入手続き
雇用保険の加入条件を満たす従業員を雇ったときには、労災保険の手続きに加えて、雇用保険の加入手続きを行う必要があります。保険関係成立届を労働基準監督署に提出した後、所轄のハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しましょう。
雇用保険適用事業所設置届
雇用保険適用事業所設置届は、初めて雇用保険の加入条件を満たす従業員を雇ったときに、ハローワークへ提出する書類です。事業所の名称や住所、対象となる従業員を雇用した日、会社の概要などの他、保険関係成立届に記載される労働保険番号も記入します。
雇用保険被保険者資格取得届
雇用保険被保険者資格取得届は、雇用保険への加入条件を満たす従業員を雇い入れたときに、その都度提出が必要な書類です。初めて雇用保険の加入条件を満たす従業員を雇った際には、雇用保険適用事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届の両方を提出することになります。その後は、対象となる従業員を雇い入れるごとに、雇用保険被保険者資格取得届の提出が必要です。
雇用保険被保険者資格取得届には、従業員の氏名や性別、個人番号(マイナンバー)、雇用形態、職種などの他、その従業員を雇い入れた日や入社時点での賃金についても記入します。
労働保険料の申告・納付方法
労働保険料は、従業員負担分の雇用保険料を含め、事業者が申告・納付を行います。基本的には、その年度に支払う予定の賃金総額を基に、概算で労働保険料を算出して納付し、年度末に賃金総額が確定した後に、実際の保険料(確定保険料)との差額を精算します。そのため、事業者は、前年度の精算と新年度の概算保険料を申告・納付する手続きを毎年行わなければなりません。これを「年度更新」といい、毎年6月1日~7月10日が手続き期間となっています。
労働保険料を納付するには、労働基準監督署や金融機関窓口での現金納付の他、口座振替、インターネットバンキングやATMを利用した電子納付といった方法があります。なお、基本的には、労災保険料と雇用保険料は一括で申告・納付します。ただし、以下の「二元適用事業」に該当する場合は、労災保険料と雇用保険料を個別で申告・納付しなければなりません。
一元適用事業
一元適用事業とは、後述の二元適用事業に該当しないすべての事業を指します。一元適用事業に該当すれば、労災保険料と雇用保険料の申告と納付をまとめて行うことが可能です。多くの事業は、この一元適用事業に当てはまります。
二元適用事業
二元適用事業とは、労災保険料と雇用保険料の申告・納付を、それぞれ個別に行う事業のことです。一般的には農林水産業や建設業などが該当します。これらの事業は、事業実態から労災保険と雇用保険の適用を区別し、個別に申告・納付をする必要があります。
1つの企業が複数の事業を運営している場合
1つの企業が複数の事業を運営していて、さらに業種ごとに労災保険料率(雇用保険は限定された業種)が異なる場合には、それぞれの労災保険料率で、労災保険を別々に申請します。
また複数の事業が一元適用事業か二元適用事業かによって、労働保険の申告・納付方法が変わります。事業が一元適用事業に該当すれば、労災保険料と雇用保険料の申告と納付をまとめて行い、二元適用事業に該当すれば、個別に申告と納付を行う必要があります。
従業員を雇用する場合は、必ず労働保険の手続きを行おう
労災保険と雇用保険の総称である労働保険は、雇用形態にかかわらず、従業員を初めて雇用する際に加入手続きが必要です。また、雇用保険の加入条件を満たす従業員を雇う場合は、併せて雇用保険の手続きも行わなければなりません。
労働保険料は、従業員に支払う賃金額を基に計算されます。その中でも雇用保険料については、従業員負担分を給与や賞与から天引きを行います。従業員を雇用すると、他にも給与や社会保険料、税金などさまざまな計算をしなければならないので、給与計算を効率化するしくみづくりが必要です。
給与や保険料などの計算を効率化するには、給与計算ソフトの導入がおすすめです。弥生の給与計算ソフト・サービス「弥生給与」や「弥生給与 Next」「やよいの給与計算」は、給与・賞与計算、社会保険、年末調整などに必要な計算業務を自動化できるうえ、給与支払報告書の電子提出にも対応しています。
また、給与・賞与明細の発行までで十分という場合は、クラウドサービス「やよいの給与明細 Next」のような給与・賞与明細の作成・発行に特化したソフト・サービスもおすすめです。自社に合った給与計算ソフト・サービスを活用して、業務効率化を実現しましょう。
【無料】お役立ち資料ダウンロード
パート従業員の社会保険加入チェックと対策ガイド
社保加入が必要なのはフルタイム従業員だけじゃない!「年収の壁」問題と対策を知りたい方におすすめです。
弥生のクラウド給与サービスなら給与計算・年末調整がスムーズに
弥生のクラウド給与サービスは、初心者でも給与・賞与計算から年末調整まで、”かんたん”に行えるソフトです。
従業員規模や利用目的など、お客さまに最適な「給与計算ソフト」をお選びいただけます。
今なら初年度無償で使えるキャンペーンを実施中です!
まずはお気軽にお試しください。
年末調整までご自身で行いたい方におすすめな「弥生給与 Next」
弥生給与 Nextは、毎月の給与計算から年末調整業務を効率化するクラウド給与ソフトです。
勤怠情報を入力すれば残業代や社会保険料などは自動計算で、給与明細書の作成はラクラク。
また作成した給与明細書は、Web配信で従業員のスマホ・PCに配付することができます。
さらに年末調整に必要な控除申告書の回収、法定調書の作成、源泉徴収票の従業員への配付もオンラインでスムーズです。
年末調整の法定調書作成を委託されている方向けの「やよいの給与明細 Next」
やよいの給与明細 Nextは、年末調整を会計事務所に委託している方にピッタリのソフトです。
給与・賞与明細書の作成から配付はオンラインでスムーズ。
年末調整は控除申告書のWeb回収まで可能です。
- ※年末調整の法定調書作成を自社で対応したい方は弥生給与 Nextをお申し込みください。
また、外部委託先へデータ連携の共有がかんたんだから、データの転記や控除申告書のPDF化などの手間が大幅に削減されます。
この記事の監修者税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング
中小企業を経営する上で代表的なお悩みを「魅せる会計事務所グループ」として自ら実践してきた経験と、約3,000社の指導実績で培ったノウハウでお手伝いさせて頂いております。
「日本で一番喜ばれる数の多い会計事務所グループになる」
この夢の実現に向けて、全力でご支援しております。
解決できない経営課題がありましたら、ぜひ私たちにお声掛けください。必ず力になります。