産休はいつから? 産休・育休期間の計算方法や給与や手当・給付金の計算
監修者:川口 正倫(社会保険労務士)
2024/03/01更新
従業員の産休・育休の日数や期間を正しく把握することで、出産予定日が遅れた場合などにも適切に対応できます。また、給与や手当、給付金の計算においても正確性が求められます。ここでは、人事・労務担当者に向けて、産休・育休期間の計算方法や給与、手当・給付金の計算方法を詳しく解説します。
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産休と育休はいつから取得できる? 計算方法を紹介
産休とは、労働基準法で定められた、出産するすべての女性従業員が取得できる制度です。出産に備えて仕事を休む「産前休業」と、産後の体を回復させるために取得する「産後休業」をあわせて産休と呼びます。
産前休業は出産前に休職する期間を指し、取得するかどうかは本人の意向に委ねられています。したがって、本人が希望すれば出産直前まで就業を続けることが可能です。一方、産後休業は出産後に休職する期間を指します。産後休業は母体の回復と新生児のケアのために設けられた制度であり、労働基準法によって取得が義務付けられています。そのため産後休業として定められた期間は、本人の意向に関わらず、就業させてはいけません。
労働基準法では、産休の期間は以下のとおりに規定されています。なお、産前産後休業の対象となる出産とは、妊娠4か月目(85日)以降の分娩をいい、流産や早産、人工妊娠中絶をした場合も対象となります。
産前休業は、通常では出産予定日の6週間前(ただし、双子や三つ子の場合は14週間前)から取得が可能です。出産日が予定より早くなった場合や遅くなった場合でも、実際の出産日当日までが産前休業となります。産後休業は出産翌日から8週間までと定められています。ただし、本人が希望し、医師が認めた場合は、6週間が経過していれば就業を再開できます。
また、育休(育児休業制度)は産休とは異なり、要件を満たせば男性も取得できる制度です。育休は子どもが1歳になる誕生日の前日まで取得できます。例えば、出産予定日が9月20日の場合、産前休業は8月10日~9月20日、予定日どおり出産すれば産後休業は9月21日~11月15日、育休は11月16日~翌年9月19日までとなります。出産日が予定日より1週間遅れて9月27日だった場合は、産前休業が8月10日~9月27日、産後休業が9月28日~11月22日、育休が11月23日~翌年9月26日までとなります。
参考:e-gov法令検索「労働基準法」
産休期間中の給与計算について
一部の企業や団体では、産休中の給与を支給することがあります。以下で産休中の給与の扱い方、所得税・住民税について解説します。
産休中における給与の扱い
産休中、原則として企業に給与の支払い義務はありません。これは「ノーワーク・ノーペイの原則」として、労働者が労働に従事していない期間に給与を支払う義務はないとされているためです。しかし、一部の企業が独自に制度を設け、産休中に給与を支給する例も増えています。
通常、産休中には給与の代わりに出産手当金が健康保険組合などから支給されることが一般的です。ただし、公務員の場合は産休が有給休暇として扱われ、通常どおり給与が支給されます。また、ボーナスが支給される月ではボーナスも受け取れます。公務員の特徴として、共済組合から出産費や出産費附加金が支給されることや、一部の自治体では出産祝い金が支給されることがあります。ただし、出産手当金は支給されません。
所得税・住民税はどうなる?
所得税は給与そのものにかかる税金であるため、産休中の給与支払いがない期間は納める必要がありません。また、出産手当金等の給付金は非課税です。しかし、住民税は前年度の所得を基に決定されるため、産休中も引き続き納める必要があります。住民税の支払いは、企業が給与から控除して支払う「特別徴収」が一般的ですが、給与が発生しない産休中は控除できなくなるため、社員が自分で住民税を納める「普通徴収」に切り替えることもできます。
産休中の住民税の支払い方法
産休中の住民税は、特別徴収を続ける、普通徴収に切り替えるという2つの方法から選んで支払えます。それぞれの支払い方法や注意点を解説します。
1. 特別徴収を続ける
特別徴収は、企業が給与から住民税を天引きし、自治体に支払う方法です。しかし、産休中は通常の給与支給が行われないため、特別徴収による住民税控除があると、給与明細はマイナスになってしまいます。そのため、産休中には従業員に対して住民税分を別途振り込んでもらうなど、別の方法で支払ってもらう必要があります。
産休中に支払うべき住民税を産休前に給与から一括控除しておく方法もあります。これは、産休中にかかる住民税を事前に計算し、産休が始まる前の給与または賞与から一括で差し引き、その金額を企業が毎月自治体に納付するしくみです。さらに、企業が産休期間中の住民税を立て替えておき、従業員の復職後の給与から一括で控除することも可能です。この場合、5月までの住民税は産休前の給与から、6月以降の住民税は復職後の最初の給与から一括控除する方針を採用している企業もあります。
注意点は、地方税法で定められた給与控除方法とは異なる扱いとなるため、従業員の同意が必要であることです。どちらの支払い方法を採用するにせよ、従業員に対して詳細な説明を行い、同意を得たことを書面に残しておくことが大切です。これによって、トラブルを未然に防ぐことができます。
2.普通徴収へ切り替える
特別徴収から普通徴収に切り替える場合は、「給与支払報告書・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を自治体に提出する必要があります。その後、自治体から送付された納付書を基に従業員が自分で支払います。支払い方法は、一括納付または年4回のどちらかを選択できます。
重要なポイントは、産休を開始する時期です。産休を開始する時期が6月から12月の場合は普通徴収への切り替えが可能で、翌年5月までが普通徴収期間となります。一方、1月から5月に産休が開始する場合、その年については原則として普通徴収への切り替えができず、その年の5月までの住民税が一括納付となります。したがって、一括納付分を産休前の給与から控除する必要があります。なお、住民税の変更月である6月以降からは普通徴収に切り替えることができます。
産休・育休中は社会保険料が免除される
産休中は、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料)の支払いが免除されます。育休中も同じ扱いなので、社会保険料を控除する必要はなくなります。免除期間中に被保険者資格が失効することはなく、納付扱いとなるため、将来受け取れる年金の受給額に影響することもありません。申請手続きは企業が行う必要があり、日本年金機構に「産前産後休業取得者申出書」を提出し、受理されると免除が開始されるという流れです。社会保険料が免除される期間は、休業を開始した月から終了日翌日の前月までとなっています。
また、育児休業中も社会保険料が免除され、同様に「育児休業等取得申出書」を提出しますが、免除期間は給与と賞与で異なります。給与については、育児休業等を開始した日の属する月から終了する日の翌日が属する月の前月まで、または同月内に14日以上(休業期間中に就業予定日がある場合は、当該就業日を除く。また、土日等の休日も期間に含む。)の育児休業等を取得した場合は当該月となります。賞与については、1か月を超える育児休業を取得している場合に限り免除となります。
なお、産休や育休の期間が当初の予定より早く終了する場合は、日本年金機構に「産前産後休業取得者変更(終了)届」または「育児休業取得者終了届」をそれぞれ提出する必要があります。
従業員が産休に入った場合の給与計算
産休中には給与支給や社会保険料の控除が行われませんが、住民税の支払いは続くため、給与計算は必要です。特別徴収のままで住民税を支払う場合、給与は「総支給額=基本給+各種手当-欠勤控除」「支給額=総支給額-住民税控除額」という計算式で求められます。産休に入った月から産休が終了する月まで、この計算式を使って給与計算を行いましょう。
産休・育休中における手当・給付金
出産、産休と育休にそれぞれ支給される出産育児一時金、出産手当金と育児休業給付金について、企業が関与する部分を詳しく説明します。
出産育児一時金とは
出産育児一時金は、生まれた子ども1人につき50万円(妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度の対象とならない出産の場合は、48.8万円)が支給される制度です。健康保険や国民健康保険に加入している方を対象に受け取れます。以前は42万円でしたが、出産費用の増加に伴い、2023年4月から8万円増額されました。子どもの人数に応じて支給されるため、双子の場合は100万円、三つ子の場合は150万円支給されます。
申請方法には直接支払制度、受取代理制度、産後申請の3つがあり、企業が申請する必要はありません。直接支払制度は、被保険者である本人に代わって医療機関が申請を行う方法です。受取代理制度は、直接支払制度を利用できない産院で出産した場合に利用される方法で、本人が申請を行います。どちらの方法も、加入している健康保険組合などから医療機関や産院に直接費用が支払われるため、本人は窓口で出産費用を支払う手間が省けるのがメリットです。産後申請は、窓口で出産費用を支払い、後日支給してもらう方法です。
協会けんぽの場合は、全国健康保険協会に「健康保険出産育児一時金支給申請書」と領収書の写しなどを提出し、申請する必要があります。出産費用が出産育児一時金の金額よりも少なかった場合は、本人が必要書類を提出して申請すると差額が支給されます。また、海外で出産した場合でも出産育児一時金は支給されます。
出産手当金とは
出産手当金は、勤務先の健康保険に加入していれば雇用形態に関係なく受け取れる手当です。産休中に給与が支給されていないこと、妊娠4か月以降の出産であることなど、一定の要件を満たせば支給されます。産休を取得せずに退職する方も、退職日に出産手当金を受けている、退職日まで継続して1年以上健康保険に加入している等の一定の条件を満たせば支給の対象です。申請手続きは企業が行うケースと被保険者本人が行うケースに分かれます。
出産手当金の計算方法
出産手当金として支給される1日当たりの金額は、標準報酬日額の約2/3です。標準報酬日額とは、休業に入る前の過去1年間の給与を1日当たりに換算した金額です。「1年間の給与÷12」で標準報酬月額を求めた後、「標準報酬月額÷30日」で標準報酬日額を算出します。1日当たりの出産手当金は、「標準報酬日額×2/3×産休の日数」で求めます。産休の日数は、「産前休業+産後休業+予定日の増減」であるため、手当金の額は過去1年間の給与や産休の日数によって異なってきます。
育児休業給付金とは
育児休業給付金は、育休を取得した際に一定の要件を満たすと雇用保険から支給される給付金です。2022年10月、「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設され、事前の申請で分割取得することも可能になり、これに対しては一定の要件を満たすと「出生時育児休業給付金」が支給されます。従業員から育休取得の申し入れがあった場合、企業側は管轄のハローワークに申請する必要があります。申請は原則2か月に1回必要で、提出書類は初回と2回目以降で異なります。
育児休業給付金の計算方法
育児休業給付金は、「賞与を除いた育休開始前6か月の賃金÷180=休業開始時賃金日額」を基に計算します。1か月当たりの給付金額は、育休開始から180日までが「休業開始時賃金日額×30日×67%」、181日以降が「休業開始時賃金日額×30日×50%」で求められます。育休180日目までと181日以降で給付率が異なる点に注意しましょう。また、1か月ごとではなく、2か月分まとめての支給となります。
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この記事の監修者川口 正倫(社会保険労務士)
社会保険労務士法人ベスト・パートナーズ所属社労士。
総務・人事の分野で零細企業から上場企業まで勤務後、社会保険労務士に転身。平成19年社会保険労務士試験合格、その後平成31年に特定社会保険労務士の付記登録。『労務事情令和4年3月15日号』(産労総合研究所)に「年4回賞与の取扱いについて」を記事寄稿・『年金復活プランがよくわかる本』(Kindle本)を出版。