年次有給休暇管理簿とは?記載事項や作成方法、管理を効率的に行う方法を解説
監修者:下川めぐみ(社会保険労務士)
2024/08/09更新
年次有給休暇管理簿は、2019年より企業に作成・管理が義務化された書類です。正しい書式や効率的な管理方法を知りたいと考えている企業の担当者は少なくないでしょう。
本記事では、年次有給休暇管理簿を作成する必要のある対象者や、記載する項目、作成方法、有休に関する業務を効率的に行う方法などを解説します。従業員の有休管理を適切に行うためにも、企業で取り入れなければならない年次有給休暇管理簿の管理業務にぜひ役立ててください。
年次有給休暇管理簿とは
年次有給休暇管理簿とは、従業員の年次有給休暇(有休)に関するデータを管理するために作成する書類のことです。
2019年の働き方改革関連法の施行によって、従業員への年間5日以上の有休取得が義務付けられたことに伴い、企業は有休の取得状況を記載する年次有給休暇管理簿の作成・保存が必要になりました。従業員ごとに有休の付与日数、時季、使用日数などを記載した年次有給休暇管理簿を作ることで、有休を適切に管理することが求められています。
年次有給休暇管理簿の対象者
年次有給休暇管理簿の作成が必要になる対象者は、年間で有休を10日以上付与される従業員です。この条件を満たしている場合、管理監督者、派遣社員、パート、アルバイトなど、雇用形態にかかわらずすべての従業員に対して作成する必要があります。
企業は、雇用開始日から6か月以上継続して働き、全労働日数のうち8割以上出勤した人に、原則として10日の年次有給休暇の付与を行わなければなりません。また、勤続年数が長くなるほど、付与する日数が増加します(勤務年数が1年6か月の場合には付与日数が11日、2年6か月には12日、6年6か月以上では20日など)。
パートタイマーの場合は、所定労働日数に応じた日数だけ有休を比例付与します。対象者は、週当たりの所定労働時間が30時間未満であり、かつ所定労働日数が週4日以下または年間216日以下の従業員です。付与日数が10日に満たない場合は、年次有給休暇管理簿の作成対象になりません。ただし、給与計算や管理の点からも、すべての従業員について作成することが望ましいでしょう。
年次有給休暇管理簿の3つの記載事項
年次有給休暇管理簿には、記載するべき項目が定められています。基準日、日数(取得日)、時季の3項目です。
基準日:有給休暇を付与した日
基準日とは、企業が従業員に対して年次有給休暇を付与する日のことです。有休を使用する日とは異なるため、注意が必要です。有休を付与する日は雇用した日から6か月後、さらにその次からは1年おきに付与します。ただし、従業員の雇用日がそれぞれ異なっている場合など、基準日が従業員ごとに異なっていては管理が難しくなるため、基準日を同じ日付に統一するという方法も認められています。
日付を統一するために基準日をずらす場合、同じ年度内で有休が2回付与されるケースも発生します。この場合には、片方だけでなく両方の日付を記載しなければなりません。
日数:有給休暇を付与した日数と残日数
日数は、付与した有休の日数(付与日数)と、まだ使用せずに残っている有休の日数(残日数)です。当年度の付与された有休日数と、前年度からの有休の繰り越しがある場合には繰越日数、その合計を記載します。
従業員が基準日から1年の間に有休を使用した際は、その都度、基準日に付与された日数から使用した日数を差し引いた残日数を記載します。時間単位での有休取得に対応している場合、半日使用する際は「0.5」のように、時間単位で計算することも可能です。
有休は付与後1年以内に使用できなかった分は翌年まで繰り越しでき、さらに翌年にまで使わずに残った場合は時効で消滅します。年内に基準日が2回ある従業員の場合、残っている有休の時効の日を明確にするため、1回目と2回目の付与日に対してそれぞれ日数を記載します。
時季:従業員が有給休暇を取得した日
時季とは、従業員が有休を使用した日のことです。従業員が有休を使った日付をその都度記載します。従業員が希望して使用した日付だけでなく、企業側が有休取得日を決定する時季変更や計画的付与の日付も含まれます。
時季変更は、従業員が有休を使用することで事業に支障が出る場合に企業側が取得日を変更することです。計画的付与は、事前に労使協定で決めていた日に有休を付与することを指します。
有休の使用は原則として日単位です。時間単位での有休使用を可能にするには、事前に労使協定を締結しなければなりません。締結後は、時間単位での有休取得が年間合計5日分まで可能になります。ただし半日単位での使用は、労使協定を締結しなくても従業員と企業側の同意によって可能です。
年次有給休暇管理簿を作成する方法
年次有給休暇管理簿の作成には、主に手書きやエクセル、勤怠管理システムを利用する方法があります。それぞれの方法にメリットとデメリットがあるため、自社に適した方法を選びましょう。
紙に手書きで作成する
年次有給休暇管理簿の様式は、労働基準監督署や各労働局、厚生労働省などのサイトに様式例やテンプレートが用意されています。労働基準監督署などの様式例やテンプレートをプリントアウトするだけで、PCスキルがなくてもすぐに運用できるメリットがあります。
その一方で、この方法では従業員ごとにテンプレートをプリントアウトし、従業員が有休を使用するたびにそれぞれの管理簿に手書きで必要な項目を記入し、残日数などを計算しなければなりません。従業員全員分の枚数など数多くの管理簿を作る必要があり、手間がかかります。
また、年次有給休暇管理簿は3年間の保存が義務化されているため、紙の場合には保管するスペースを用意しなければならないというデメリットもあります。紛失や盗難のリスクにも注意が必要です。
エクセル(Excel)を用いて作成する
年次有給休暇管理簿をエクセルで作成・管理する方法もあります。例えば福井労働局では、だれでも使用できるエクセルファイルのテンプレートを公開しています。
このようなテンプレートを活用することで、通常業務でエクセルを使用している企業では、新しく専用のシステムを購入することなく年次有給休暇管理簿を運用することが可能です。計算式を組み合わせることで日数計算が自動化できるため、最低限のデータを入力するだけで済み、紙での運用と比べて計算の手間がかかりません。
一方で、従業員数が多い場合には作成するファイルの数が多くなり、ファイル管理が複雑になるデメリットがあります。また、エクセルファイルは比較的扱いやすいためデータが改ざんされるリスクがある他、操作ミスによって誤った日数が出力されたりデータが消えたりといったケースにも注意が必要です。ファイルにパスワードを設定するなど、対策する必要があります。
勤怠管理システムを活用する
年次有給休暇管理簿が作成できる勤怠管理システムを活用する方法もあります。勤怠管理システムは、従業員の出勤、退勤、残業時間、休日などさまざまな勤怠情報を一元管理できるシステムです。システムによっては有休の取得状況の記録だけでなく集計作業も自動で行えるため、効率的な書類作成が可能です。
付与日数や残日数の計算が不要になることから、従業員が多い企業でも管理作業にかかる時間や手間の軽減、計算ミスを削減できるメリットがあります。勤怠管理システムの活用には、システム導入時にかかる費用や月額料金などのランニングコストが必要になります。担当者がシステムの操作方法を身につけなければならない点にも注意が必要です。
年次有給休暇管理簿の保存期間
労働基準法施行規則第二十四条の七において、従業員ごとに作成した年次有給休暇管理簿を5年間保存しなければならない旨が定められています。当面は経過措置のため保存期間が3年間に設定されています。また、年次有給休暇管理簿を作成しない場合の罰則は特に定められていません。
年次有給休暇管理簿は、従業員に年間10日以上の有休が付与され、年5日の取得義務が発生した際に作成することが求められます。付与した有休の取得義務期間が終了してからも、定められているとおり5年間(経過措置期間内は3年間)保存する必要があります。
- ※参考:e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」
- ※参考:厚生労働省労働基準局「改正労働基準法等に関するQ&A」
年次有給休暇管理簿に関して気をつけること
企業が従業員に有休を付与しなければ罰則が科される場合もあるため、有休を管理する目的として適切に運用する必要があります。
年次有給休暇管理簿は正しく作成・保存する
年次有給休暇管理簿を正しく作成・保存していなかったとしても、罰則はありません。しかしながら、従業員の有休の付与や取得などの状況をまとめていないと、適切な有休の管理がしにくくなります。その場合、従業員との間にトラブルが発生するケースもあるため、注意が必要です。トラブル発生時に、企業が年次有給休暇管理簿を適切に管理していないと判断された場合、企業が不利な立場になるリスクが高まります。
従業員に対して有給休暇を付与しなければ罰則を受ける
年次有給休暇管理簿の作成や保存には罰則が規定されていない一方で、従業員に対して有休を付与しなかった場合の罰則は労働基準法に定められています。有休の管理が適切に行われなかったなどの理由から年間5日以上の有休を従業員に取得させなかった場合、従業員1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、有給休暇の取得によって事業の正常な運営を妨げるケースでないにもかかわらず従業員が請求した時季に有休を取得させなかった場合にも、従業員1人につき6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるかもしれません。そのためにも、管理簿を作成して有休の管理を適切に行うことが重要です。
- ※参考:e-Gov法令検索「労働基準法」
年次有給休暇の管理を効率的に行う方法
年次有給休暇管理簿の管理は企業にとって重要ですが、一方で煩雑な業務でもあります。効率化するには、従業員の基準日を統一したり、労働者名簿などと合わせて作成したり、勤怠管理システムを導入するなどの方法を取り入れたりするなどの工夫が必要です。
各従業員の基準日を統一する
有休は原則として従業員の雇用日から6か月で付与されるため、雇用日が統一されていない場合は基準日も従業員ごとに異なります。従業員ごとに基準日が異なっていると、年に何回も集計処理をしなければならず、管理簿の管理に時間と手間がかかります。
有休を管理しやすくするには、基準日の統一が効果的です。基準日は従業員に有利になる変更が認められており、雇用日から6か月後に1回目の有休を付与してから2回目以降の付与日を繰り上げる方法で、すべての従業員の基準日を同じ日にできます。
例えば4月1日に入社した従業員の場合、1回目の付与日は10月1日になります。その後2回目の付与日を繰り上げて4月1日へと変更するなどの方法で基準日の統一が可能です。これによって、年次有給休暇管理簿の管理業務をまとめて行えるため、有休管理の効率化が実現します。
労働者名簿・賃金台帳と合わせて作成する
年次有給休暇管理簿には特に決まった書式が定められていません。労働基準法施行規則第55条の二において、労働者名簿や賃金台帳と合わせて作成できるとも定められており、3種類の書類をまとめることで書類作成や管理の効率化が可能です。
労働者名簿は従業員の氏名や生年月日、住所、雇用年月日などを記載する書類です。また、賃金台帳は賃金額や労働日数、労働時間などを記載する書類であり、賃金を支払うごとに記入が義務付けられています。これら3種類の書類を合わせて作成することで、効率的に業務を行えます。
- ※参考:e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」
勤怠管理システムを導入する
年次有給休暇管理簿の作成・管理の効率化には、勤怠管理システムの導入が有効です。一般的な勤怠管理システムには、有休の付与、残日数の算出、繰り越し日数の算出、消滅日数の算出といった有休管理機能が搭載されています。
このような機能を活用することで有休日数の算出や書類の作成が自動化でき、年次有給休暇管理簿の作成や有休付与などの作業を行う手間が省けます。その他にも、未消化の有休がある場合に通知する機能、有休の取得申請機能などの機能によって、有休の取得管理に関する幅広い業務を効率化することが可能です。
年次有給休暇管理簿を効率的に作成・管理しよう
年次有給休暇管理簿は、従業員の有休取得状況を管理する目的で作成する書類です。従業員の年間5日以上の有休取得義務化に伴い、書類の作成と保存が義務付けられています。
年次有給休暇管理簿をはじめとする書類の作成や管理を効率的に行うには、勤怠管理システムの導入が効果的です。弥生のクラウド給与サービス「弥生給与 Next」「やよいの給与明細 Next」は、他社の勤怠管理システムと連携でき、従業員一人ひとりの勤怠情報を入力する手間が省けます。有休管理をはじめ、給与計算や年末調整といった労務管理の効率化が実現します。業務効率化にぜひお役立てください。
- ※本記事は2024年5月時点の情報をもとに執筆しています。
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この記事の監修者下川めぐみ(社会保険労務士)
社会保険労務士法人ベスト・パートナーズ所属社労士。
医療機関、年金事務所等での勤務の後、現職にて、社会保険労務士業務に従事。