編集部追記
2021年2月2日、国税庁より2020年(令和2年)分 確定申告期限の1か月延長が発表されました。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、2020年(令和2年)分申告所得税(及び復興特別所得税)、個人事業者の消費税(及び地方消費税)の申告期限・納付期限が、2021年(令和3年)4月15日(木)まで延長となります。振替納税の振替日も延長されています。詳細は国税庁ホームページ等で最新情報をご確認ください。
2020年(令和2年)分の確定申告は、青色申告特別控除65万円の要件が変更になったり、基礎控除額の10万円引き上げや配偶者控除などの所得要件緩和、ひとり親控除の創設などさまざまな変更があります。2020年分の確定申告の変更点について、確認しておきましょう。
そして、2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大により、自粛を余儀なくされた個人事業主の方も多くいます。コロナ禍での家事按分、給付金の申告での処理などどんな点に注意すべきなのか。きちんと理解して、ベストな体勢で、確定申告に臨みましょう。
POINT
- 青色申告特別控除は電子申告が優遇される
- 基礎控除の引き上げと、各控除における所得要件の緩和
- 新型コロナの臨時特例も忘れずに
青色申告特別控除が10万・55万・65万の3段階に
青色申告のメリットは数多くありますが、そのうちのひとつが「青色申告特別控除を受けられる」ということ。青色申告の帳簿付けを行えば「所得金額から一定額を控除して、所得金額を減らせる」という特典です。
所得金額が減れば、当然、その分だけ納める税金は減ります。これだけでも青色申告を行うメリットがあるといってもよいでしょう。これを「青色申告特別控除」と呼びます。
気になるのは控除の額ですが、2019年分までは最大10万円と最大65万円の2段階でした。下記の①の条件を満たせば最大10万円の控除、①~⑥の条件を満たせば最大65万円の控除が受けられました。
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①青色申告をしている。
-
②事業所得(農業所得を含む)か不動産所得、山林所得がある。
-
③複式簿記など正規の簿記の原則による帳簿付けを行っている。
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④帳簿に基づき損益計算書・貸借対照表を作成し、確定申告書に添付する。
-
⑤確定申告書に控除を受ける金額を記載する。
-
⑥期限内に確定申告書・青色申告決算書を提出する。
しかし、2020年分からは、青色申告特別控除の要件が変更されました。①の「青色申告をしている」という条件を満たせば、最大10万円の控除という点には変更がありません。しかし、①~⑥の条件を満たした場合、これまでは、最大65万円の控除が受けられましたが、2020年分からは最大で55万円の控除額に引き下げられたのです。
そして、2020年分の申告からは、①~⑥に加え、下記の⑦もしくは⑧のいずれかの条件を満たした場合のみ、最大65万円の控除が受けられるようになりました。
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⑦事業にかかる仕訳帳及び総勘定元帳について、電子帳簿保存を行う。
-
⑧確定申告書、青色申告決算書の提出をe-Taxを使用して行う。
つまり、2019年分の申告で、最大65万円の控除を受けており、かつe-Taxですでに申告を行っていれば、2020年分も同じように、最大65万円の控除が受けられます。
そうではなく、期限までに電子帳簿保存の申請と対応の申告ソフトを利用していなかったり、電子申告(e-Tax)ではないけれど、最大65万円の控除を受けていた人の場合、2020年分から特別控除額が65万円から55万円に減額されるのです。
電子帳簿保存を2020年分から適用するには、経過措置があったので、2020年9月30日までに申請と2020年12月31日までに電子帳簿保存対応の申告ソフトの使用開始が求められました。電子帳簿保存は、原則的に期首からの利用が必要なので、2020年10月1日以降の申請では2022年分からの適用になります。
よって、今から2020年分の青色申告で最大65万円控除の適用を受けたい場合、e-Taxでの申告が必須になります。現在、e-Taxを利用していないけれども、導入を将来的に考えている人は、できるだけ2020年分の確定申告から切り替えたほうがよいでしょう。
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基礎控除が10万円引き上げ
基礎控除とは、誰でも所得にかかわらず一律で38万円でしたが、2020年分からは、合計所得が2,400万円以下は、48万円に増額されました。こちらは事業主のメリットになる変更ですね。
所得制限ができたため、合計所得が2,400万円超~2,450万円以下の場合は32万円、2,450万円超~2,500万円以下だと16万円と段階的に引き下げられます。2,500万円を超えている場合は、基礎控除は0です。該当する場合は注意しましょう。
個人の合計所得金額 | 控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円(適用なし) |
配偶者控除などの所得要件が緩和(配偶者(特別)控除、扶養控除、寡婦(寡夫)控除、勤労学生控除、障害者控除)
基礎控除額が一律38万円から48万円(合計所得が2,400万円以下の場合)に引き上げられるので、配偶者控除や扶養控除など人的控除を受けるための所得要件も引き上げられることになります。つまり、これまでよりも多くの収入を得ても控除対象になるということです。詳しく見ていきましょう。
配偶者(特別)控除は「48万円超 133万円以下」に引き上げ
これまで、年間の合計所得金額が「38万円超123万円以下」であることが、配偶者控除の条件となっていましたが、10万円引き上げられて「48万円超 133万円以下」となりました。
ただし、一方で「給与所得控除額」は10万円引き下げられるため(後述)、配偶者控除を受けられるパート収入については、年103万円以下で変わりません。
扶養控除は「48万円以下」に引き上げ
配偶者以外の親族が受けられるのが、扶養控除です。「生計を共にしている6親等内の血族及び3親等内の姻族」が対象となります。
こちらも、配偶者控除と同様に、合計所得金額用件が「38万円以下」から 「48万円以下」と10万円引き上げられることになります。
婚姻歴・性別に関わらずひとり親に適用される「ひとり親控除」
寡婦・寡夫控除についても変わります。
2019年分までは「寡婦」および「寡夫」を対象とした控除は「寡婦控除」「特別の寡婦控除」「寡夫控除」の3種類でした。令和2年度税制改正により、2020年分からは「寡夫控除」がなくなり、「寡婦控除」と「ひとり親控除」の2種類となりました。ともに下記の要件をクリアしているか確認してください。
- その年の12月31日の現況において住民票に事実婚含め、配偶者がいる旨の記載がない
- 本人の合計所得金額が500万円以下
そのうえで「生計を一にする子ども(総所得金額等が48万円以下)」がいれば、「ひとり親控除」に該当し、所得税35 万円・住民税30万円の所得控除を受けられます。
もし、「生計を一にする子ども(総所得金額等が48万円以下)」がいなくても、理由が「離婚」ではなければ、寡婦控除が受けられます。所得税27万円・住民税26万円の所得控除を受けられます。また、理由が「離婚」の場合も、扶養親族(合計所得金額が48万円以下)がいれば、寡婦控除を受けることができます。
納税者自身が勤労学生の場合、「勤労学生控除」を受けられる
納税者自身が勤労学生ならば、27万円の勤労学生控除を受けることができます。条件は下記です。2020年分から、合計所得金額が引き上げられているため、一般的な所得の世帯にとっては控除が拡大したといえるでしょう。
-
①給与所得などの勤労による所得がある
-
②合計所得金額が75万円以下
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③特定の学校の学生または生徒である
障害者控除の対象拡大
納税者本人、もしくは、扶養している家族等が所得税法上の障害者に該当する場合は、障害者控除が受けられます。
その場合の年間の合計所得金額がこれまで38万円以下でしたが、2020年分以降は48万円以下に変更されます。こちらも控除の対象が拡大されました。
給与所得控除が10万円引き下げ
会社員や公務員などの給与所得者も、個人事業主やフリーランスと同様に、経費がかかります。その経費分を年収から差し引ける控除を「給与所得控除」といいます。
2020年分からは給与所得控除の控除額が、一律で10万円引き下げられます。あわせて、控除の要件である給与収入(年収)の上限については1,000万円から850万円へ引き下げられたので、確認しておきましょう。それに伴い、控除額の上限も220万円から195万円と減額されることになります。
新型コロナの臨時特例
2020年は新型コロナウイルスの拡大によって、政府は、給付金の支給を始めとして臨時の対応を行いました。確定申告に関わる点をチェックしたいと思います。
給付金には非課税と課税対象のものがある
国から支給された給付金で、全国民に関係があるのが「特別定額給付金」です。ひとり当たり10万円が配られましたが、こちらは非課税となります。
特別定額給付金が事業用の口座に入金された場合には、借方は普通預金、貸方は事業主借といった形で仕訳処理をします。個人の私用の口座に振り込まれた場合は、仕訳処理は不要です。
一方で「持続化給付金」「雇用調整助成金」「休業協力金」など、企業や個人事業主向けに支給されるものは、法人税や所得税の課税対象になるので注意しましょう。税金分が差し引かれて支給されるわけではありません。収入として計上して確定申告をしましょう。
中止イベントのチケット払い戻しの放棄は、寄附金税額控除を受けられるケースも
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う政府の自粛要請よって、さまざまな文化芸術・スポーツイベントが中止されました。
なかでも、一定の要件を満たすと文部科学大臣が指定したもの指定行事について、「チケットの払い戻しを受けない」ことを選択した場合、その金額は「寄附」と見なされて、寄附金税額控除を受けられる可能性があります。指定行事の最新情報に関しては、下記の文化庁のページでご確認ください。
控除対象となるのは、2021年(令和3年)分または2022年(令和4年)分の個人住民税、2020年(令和2年)分または2021年(令和3年)分の所得税で、所得税については「所得控除」または「税額控除」のいずれか有利なほうを選択できます。税額控除を選択した場合には「(対象チケット代金合計-2,000円)×40%(+住民税率10%)」となり、一部の高額所得者を除いては、税額控除を選択したほうが有利になるでしょう。
住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除
家をローンで買って改築をしていたけれど、コロナの影響で工事ができず、入居が遅れてしまう。そんな場合でも、所得税額の特別控除が受けられる可能性があります。耐震改修についても同様です。
もし該当する人がいたら、税務署に相談してみるとよいでしょう。
まとめ
2020年分の所得税の確定申告での変更点について、解説いたしました。
誰にでも関係のあることから、コロナの特例など該当者のみが知っておく必要がある変更など、たくさんあります。しっかりと抑えて、万全の体制で確定申告を行うようにしましょう。
photo:Getty Images
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この記事の監修者齋藤一生(税理士)
東京税理士会渋谷支部所属。1981年、神奈川県厚木市生まれ。明治大学商学部卒。
決算書作成、確定申告から、起業(独立開業・会社設立)、創業融資(制度融資など)、税務調査までサポート。特に副業関連の税務相談を得意としており、副業の確定申告、税金について解説した「副業起業塾 」も運営しています。
この記事の執筆者柳原つつじ
出版社勤務を経て、フリーエディター、コラムニスト。歴史、伝記・評伝、経営、書評、ITなどを得意ジャンルとして、別名義で著作多数。ここでは、脱サラフリーランスならではの視点で、お役立ち情報をお届けしたいと思います。