コスプレイヤー、同人作家…副業の確定申告、大丈夫?齋藤一生先生(税理士法人センチュリーパートナーズ代表税理士)インタビュー
執筆者: 阿部桃子
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働き方改革の影響もあり、本業以外に副業で収入を得る人が増えてきました。
趣味の延長で、年間数万単位というお小遣い程度の収入という人がほとんどのようですが、なかには数百万、数千万円と本業以上の売上を稼ぎ出す人も。ただ、副業ではあっても、収入を得たからには忘れてはならないのが確定申告。どの程度の収入になったら、確定申告しなければならないのか? いざ確定申告するとなったら、まず何から始めたらいいのか? 副業の確定申告に強い、税理士法人センチュリーパートナーズの代表税理士・齋藤一生先生に伺いました。
POINT
- 副業とはいえ1円でも利益が出たら申告をしなければいけない
- 収入によって申告のパターンが異なる
- 会社に副業をしていることを知られたくない場合、どうすればいいか知っておこう
副業ブームの兆し。億単位を稼ぐ人も!?
副業を認める企業が増えてきたようです。実際、会社員をしながら、副業で収入を得ている人は多いのでしょうか?
齋藤:副業の確定申告に関して、私どもの事務所にご相談に来られたり、問い合わせされる方は、これまでにすでに5,000件を越えています。社会全体でも、副業でなんらかの収入を得ている人は50~60万人以上はいるのではないかと言われています。
どんな副業の方の相談が多いですか? 収入の幅は?
齋藤:同人作家、コスプレイヤー、LINEスタンプ作家、アフィリエイター、転売業、情報商材販売、FX、ホステスさんなど、本当に幅広いですね。収入もひとケタの方もいれば、数百万〜数千万円、なんと億単位まで稼ぎ出す方までいます。
数百万から億単位まで! そうなると税金対策もしっかりやらなければという意識になるかと思いますが、年数万の小遣い稼ぎ程度でも確定申告をしなければいけないのでしょうか?
齋藤:はい。1円でも利益が出たら申告をしなければなりません。ただし、申告は収入によってパターンが異なります。
まず、副業の利益が1円~20万円までであれば、所得税の確定申告ではなく、市区町村に住民税の申告をします。市区町村ごとに書式が違うので、お住いの地域の役所に電話して、住民税の申告をしたい旨を伝えて、申告書をもらいましょう。HPから書類がダウンロードできる市区町村もあります。
副業をしている方のほとんどは、この「住民税の申告」で済むのではないでしょうか。ただ、よく聞かれるのは市区町村に申告することで、会社に通知が行き、副業が知られるのではないか? ということ。
会社に副業をしていることを知られたくない場合は、市区町村の窓口の方に「会社に知られたくない」としっかり伝えれば、配慮してもらえるので、ご安心ください。
また、20万円を1円でも超えたら、所得税の確定申告が必要なので、税務署に確定申告書を提出することになります。その場合、市区町村への住民税の申告は不要となります。
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確定申告をしないと、のちのち副業を会社に知られてしまう危険性も……

とはいえ、会社員をしていると確定申告をするという意識が薄く、「忘れちゃった」「やらなかった」という人もいるかもしれません。もし確定申告をしなかったら、どうなりますか?
齋藤:場合によって変わってきますが、追徴課税はもちろん、納めなかった税金に対する延滞税と罰金も取られてしまいます。また、無申告1年目ではなく、何年も経ってからまとめて追徴されるケースも多いので、その金額も膨大になります。
とくに市区町村は厳しいですね。すぐ納められないという話になると、いきなり滞納処分となり、銀行口座を差し押さえられたり、本業の会社に連絡して、給料を差し押さえられたり……。
そうなると会社にも副業が知られることになり、いろいろと問題が出てきてしまいそうですよね。
コスプレイヤー、同人作家など、撮影会やコミケなどでの現金収入の多い方は、収入を証明するのは難しいのではないでしょうか? それだけに、バレないのではないかと思う方もいるかもしれません。
齋藤:まず現金で受け取った収入は、日付やお金の金額をメモしておいてください。それだけでも収入を証明できます。さらに会計ソフトなどに入力しておけば、完璧です。
またコミケなどのとても大規模なイベントに関しては、税務署が入って調べているという噂もあります。特に人がたくさん並んでいるブースは、収入のある事業主として証拠を押さえられている可能性があります。また、買った同人誌を経費として申告する人がいますから、そこから見つかるということもあるでしょう。
あとはホームページ、ブログ、SNSもチェックされていますし、他人の密告から税務調査が入る、なんていうことも……。実は税務署は、通報があったら基本的に税務調査に行かなければならないのです。そうでないと、特別な配慮をした、動かなかったと言われてしまいますので。
経費を積みかさねれば申告がいらなくなるケースも
と、ちょっと怖い話になりましたが、副業の職種によっては経費が多く、申告しなくてもいいケースがあるそうですね。
齋藤:はい。実際にほとんどの人は、売り上げから経費を引くと利益はかなり少なく、申告しなくていいという結論が出ることが多いのです。例えば最近お問い合わせが増えたコスプレイヤーさんでいうと、結果として相談者の9割くらいが確定申告不要でした。

9割も! それはどうしてでしょうか?
齋藤:コスプレイヤーさんの売り上げといえば、撮影会、写真集、あとはブログのアフィリエイト等だと思いますが、まだ20~30万円くらいの収入という方が多いですかね。経費もかなりかかりますし、収入から経費を引くと、ほとんど利益はなくなってしまいます。
やはり衣装類にお金がかかるということでしょうか?
齋藤:衣装や化粧、かつら等、こだわる方は相当お金をかけているようです。ただ注意すべき点もあります。例えばコスプレイヤーさんの場合を例にして、どんなものが経費にできるのか、いろいろと挙げてみましょうか。
- 化粧品や衣装、髪のセット
- 普段のヘアカット代金は認められませんが、イベントのためにセットをしたなら経費として認められます。衣装や下着も、あくまでも仕事用だとわかるように、クローゼット内で分けておくことが大切。化粧品も普段使うものと、コスプレ用と明確に分けておきましょう。
- パソコン、プリンター代、携帯料金、プロバイダー代
- ブログの作成や、画像の編集作業などで使用します。私用と按分する(分ける)ことが大切です。
- 交通費や宿泊代
- 撮影のための移動で使用した交通費であれば経費として認められます。また撮影旅行などの場合のホテル代など。ICカードを2枚持っておいて、私用と業務用で分けるといいでしょう。
- 家賃、光熱費
- コスプレの衣装を置く分の占有スペースや仕事部屋があったら、家賃や光熱費が経費になります。例えば仕事部屋として50平米中10平米分を使用しているなら、5分の1の家賃や電気代を経費で落とすことができるのです。
- 飲食代
- 仕事関係の人との打合せや、コスプレ関係の忘年会やオフ会などの参加費も経費として認められます。
- 車、ガソリン代
- 車での移動も何回を私用として使って、何回を事業で使ったかをメモしておけば、減価償却費として落とすことができます。ガソリン代の領収書も私用と事業用を分けて、保存しておきましょう。
- その他
- スタジオ代、イベントの入場料。税理士に相談した場合の報酬、コスプレをする際に参考にしたファッション雑誌。そしてボールペンなどの消耗品も認められます。
齋藤:このように、すべての経費について、ここからここまで仕事用、私用としっかり分けることがポイントですね。またこれらの経費を証明するためには、領収書またはレシートが必要です。しっかり集めておきましょう。
いろいろと経費にできるんですね。では、問い合わせがよくあるけれど、これは認められないという経費はありますか?
齋藤:歯科矯正や整形手術の費用などです。これは、仕事以外の私生活でも役に立ってしまうため、事業に必要な経費としては否認されてしまう可能性があります。以前ある大物タレントが、「カツラはいいけど増毛は整形扱いになるから経費にできない」と言われたケースがありました。
ここまではコスプレイヤーさんの経費のお話でしたが、そのほかにこれに類似する職業でよくご相談を受けるものはありますか?
齋藤:芸人さん、占い師さんなどは近いかもしれませんね。現金収入が多く、経費に衣装代が多いという点で類似するのではないでしょうか。特に「電話占い師さん」は去年くらいからお問い合わせが増えています。
「会社に副業を知られたくない」そんなときの対策は?
就業規則上では副業を認める会社が増えてきたとはいえ、本業と関係ない職種の場合はNGなど、やんわり副業を禁止されている会社もまだまだ多いようですね。
齋藤:はい。さらに、副業をしていることが知られたら、会社からの評価が下がるのでは? と心配される方も多くいらっしゃいます。
そんな方には申告の際、利益を「雑所得」としておくことをオススメしています。
雑所得とは、FX取引やECビジネスで得た利益等、趣味の延長で得たような収入を指します。そのため、万が一会社に知られてしまったとき……例えば、カメラが趣味で、ネット上で写真を売ったら思いのほか売り上げが伸びてしまった場合など、「趣味の延長である」と言い訳ができますから。

齋藤:ただ、利益が上がって来たら要注意。
雑所得は趣味の延長だから利益が290万円を超えても事業税がかかりませんが、事業所得の場合は売上から経費を引いた利益が290万円を超えると事業税がかかってきます。
え? なおさら雑所得のほうがお得では? と思う方もいるかもしれませんが、利益がたくさん出ていると、あとから都税事務所や県税事務所から「この利益の規模であれば、もう事業所得である!」と指摘され、追徴課税される恐れがあるのです。
例えば、利益が400万円ほど出ているのに雑所得で申告した場合。400万円から290万円の控除を引いて、110万円分に対して事業税を払うようあとから追徴が来てしまいます。なお、事業税から会社に副業の存在が知られることはないでしょう。
会社に知られたくない場合、ほかに気をつけておく点はありますか?
齋藤:本業の会社のほうで受け取る源泉徴収票は、コピーを取っておくことです。確定申告の際に提出しますが、所得の証明、引っ越し云々の際にも必要になります。そのたびに何度も会社に原本を請求すると、「何かあるな……」と怪しまれることがあるからです。
あとは所得控除に関して。保険の控除などはできるだけ会社で行う年末調整で行ってしまいましょう。確定申告で行うと、会社に副業の存在を知られる可能性が出てきます。
あとは本当に基本的なことですが、利益が1円でも20万円でも、会計ソフトで帳簿をつけて印刷しておくこと。万が一税務署から話があったときに見せれば説明ができますし、赤字で申告しなかった場合に、無申告と責められることはないからです。
これから副業を始める人、最近副業を始めたという方にメッセージをお願いします。
齋藤:いざ副業を始めようとなったら、まずは最初に会計ソフトを買うことですね。そして、売り上げをメモして、経費を引いて、という作業を習慣にしてしまいましょう。そうすれば、あとで売り上げがグンと上がったときに慌てることもありませんからね。
2018年は副業が盛り上がってきていることもあり、税務署は無申告の人を相当狙っているという話もあります。のちのち困らないためにも、確定申告はしっかりするようにしましょう。
Photo:塙薫子
イラスト:いらすとや
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この記事の執筆者阿部桃子
早稲田大学卒業後、出版社、テレビ局勤務などを経てフリーランスに。専門分野は教育・育児支援、ビジネス、キャリア。『日経トレンディ』『AERA with Kids』『Bizmom』などで執筆。2児の母。活字好きの子どもを増やすべく、地域で読書ボランティア活動にも励んでいる。
