開業届の書き方や必要書類、提出方法を解説【記入例付き】
監修者:森 健太郎(税理士)
2024/07/29更新
個人事業主として事業を始めるときには、「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」の提出が必要です。しかし、初めて開業するという場合には、開業届の書き方や提出先、提出方法など、わからないことが多く、戸惑う方もいるのではないでしょうか。
ここでは、開業届の書き方を記入例と共に詳しく紹介するほか、開業届の提出方法や、開業届と併せて提出しておくと良い書類についても解説していきます。
【利用料0円】はじめてでもカンタン・安心な「開業届」の作成はこちらをクリック
開業届は個人事業主が開業したことを届け出る書類
開業届とは、正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、個人事業主として事業を始めたことを税務署に知らせるための書類です。所得税法で提出が定められています。個人で事業を始めるときのほか、不動産所得や山林所得が発生する事業を開始したときにも開業届の提出が必要です。
また、廃業したときにも同じ書面を使って「廃業届」として提出する必要があります。
開業届を入手する方法は2通りある
開業届の用紙は、国税庁のWebページ「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」からダウンロードできます。その他、最寄りの税務署の窓口でも用紙を入手することが可能です。
開業届の提出期限は事業開示日から1か月以内
開業届の提出期限は、事業を開始した日から1か月以内(提出期限が土日祝日に当たる場合は翌平日)です。提出しなかったり、期限を過ぎたりしても、罰則は特にありません。しかし、個人で事業を開始したときは、基本的には開業届の提出が定められています。
開業届の控えも忘れずにもらおう
開業届と併せてあらかじめコピーした開業届も提出すると、受領印が押され開業届の控えとして受け取ることができます。開業してから最初の確定申告を終えるまでの間、開業届の控えは事業を営んでいることを証明する重要な書類です。
屋号で銀行口座を開設する際や事業用の融資を受ける際、税理士と顧問契約を結ぶ際など、さまざまな場面で開業届の控えが必要となることを覚えておきましょう。
- ※開業届については以下の記事を併せてご覧ください
開業届の書き方のポイントを記入例とともに解説
項目ごとに書き方のポイントや注意点があるため、開業届を作成する際は参考にしてみてください。
①提出先・提出日
宛先と提出日を記載する欄には、納税地を所轄する税務署名と提出する日付を記載します。所轄の税務署は、国税庁Webページ「国税局・税務署を調べる」で確認できます。開業届を記載した日と提出する日が違う場合は、誤って記載日を記入しないように気を付けましょう。
②納税地
「納税地」には、納税したい場所の住所と電話番号を記入します。納税地は、基本的には自分の自宅がある「住所地」としますが、他に事業を営む店舗や事務所がある場合には、「事務所等」を選択することも可能です。なお、「居住地」は、海外に住んでいるが活動場所が日本にある場合などが該当します。
③上記以外の住所地・事業所等
「上記以外の住所地・事業所等」には、自宅以外にオフィスや店舗、事業所などがある場合は、その住所と電話番号を記載します。なお、納税地を事業所の住所にした場合は、この欄には自宅住所を書きます。
④氏名・生年月日・個人番号
「氏名」「生年月日」「個人番号」には、氏名と生年月日、マイナンバーをそれぞれ記入します。
⑤職業・屋号
「職業」には、具体的な職業名を記載します。職業名の記載方法にルールはないので、客観的に見てわかればどのように書いても問題ありません。ただし、業種によって、個人事業税の有無や税率が異なります。
個人事業税の対象になるのは、個人が営む事業のうち、地方税法等で定められた業種(法定業種)です。法定業種は全部で70種あり、第1~3業種に分かれ、3~5%とそれぞれ税率が異なります。法定業種の種類とそれぞれの税率は、各都道府県のWebサイトで確認しましょう。職業と併せて、「屋号」の欄には屋号を付けたい場合には記入します。屋号を付けない場合は何も記載しません。
⑥届出の区分
「届出の区分」の欄には、新規で事業を始める場合には、「開業」に丸を付けます。事業の引き継ぎを受けた場合のみ、受けた先の住所と氏名を記載します。
⑦所得の種類
「所得の種類」には、「不動産所得」「山林所得」「事業(農業)所得」のうち、該当する所得に丸を付けます。個人事業主の開業の場合、ほとんどは「事業所得」です。事業を副業で開始する場合にも、「事業所得」を選びましょう。
⑧開業・廃業等日
「開業・廃業日等」には、開業日を記載します。開業日をいつにするかは、ある程度柔軟に選べます。 例えば、店舗がある場合はオープン日を記載することが一般的ですが、オープン前の準備段階から開業という扱いにしても問題はありません。ただ、開業届は、事業を始めた日から1か月以内に提出することになっているため、提出日の1か月前までの日付を記載することが望ましいといえます。
なお、確定申告で青色申告をする場合は、開業日から2か月以内(1月15日までに開業した場合はその年の3月15日まで)に、税務署へ「所得税の青色申告承認申請書」を提出しなければなりません。もし、青色申告承認申請書を提出するより2か月以上前の日にちを開業日とすると、その年は青色申告ができません。開業した年から青色申告を行いたい場合は、開業日との兼ね合いに注意して記載しましょう。
- ※青色申告については以下の記事を併せてご覧ください
⑨事業所等を新増設、移転、廃止した場合/廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合
「事業所等を新増設、移転、廃止した場合/廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合」という欄には、開業の場合、どちらも記入不要です。
⑩開業に伴う届出書の提出の有無
「開業に伴う届出書の提出の有無」には、開業届と一緒に「所得税の青色申告承認申請書」を提出する場合は、上段の「有」に丸を付けます。また、開業した年から課税事業者(消費税の申告・納付義務のある事業者)になるために「課税事業者選択届出書」を一緒に提出する場合は、下段の「有」に丸を付けます。
なお、インボイス制度に対応するために適格請求書発行事業者になる場合は、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出すれば、課税事業者選択届出書を提出しなくても課税事業者になることが可能です。
⑪事業の概要
「事業の概要」はこれから始める事業について記入する欄で、職業欄に書いたことをより詳しく説明します。例えば、職業欄が飲食業なら「居酒屋の経営」、Webデザイナーなら「Webサイトのデザイン制作、Web広告の作成」、システムエンジニアなら「システムの設計、プログラミング、保守対応」というように、事業の内容をできるだけ具体的に記入しましょう。
⑫給与等の支払い状況
開業時から従業員を雇用する場合は、人数や給与の支払い方(月給、日給など)を記載します。家族が事業に携わる場合は「専従者」、家族以外の従業員を雇う場合は「使用人」の欄に記入しましょう。
「給与の定め方」には、「日給」や「月給」、「月給+ボーナス」といった支払い方を記載します。また、従業員を雇うと原則として源泉徴収が必要になるため、「税額の有無」欄の「有」に丸を付けてください。
開業届の提出方法は3通りある
開業届を提出するには、窓口や郵送、オンラインでの提出といった3つの方法があります。それぞれ提出方法によって、適した状況や提出物が異なります。どの提出方法を選べばよいのか、提出する際に必要なものと併せて、あらかじめ確認しておきましょう。
開業届の提出する3つの方法
- 窓口で直接提出する
- 郵送で提出する
- e-Taxでオンライン提出する
窓口で直接提出する
開業届の提出には、納税地を所轄する税務署に出向き、窓口で提出する方法があります。税務署の開庁時間は、年末年始を除く平日8時30分~17時です。窓口で開業届を提出するとすぐに受理され、控え(コピー)を持参すれば収受日付印(受領印)を押してもらえます。
万が一記入事項に誤りがあってもその場で訂正できるので、書き方に不安がある方は窓口で確認してもらうといいでしょう。記入内容について質問や相談をしたい人や、開業届の控えをすぐに取得したい人は窓口提出がおすすめです。
提出時に必要なものは、提出用の開業届と控え(コピー)、本人確認書類(提示またはコピーの添付)です。本人確認書類はマイナンバーカードか、マイナンバーカードがない場合は、マイナンバーを確認できる書類(マイナンバーの通知カードや、マイナンバーが記載された住民票など)と身元確認書類(運転免許証やパスポート、保険証など)の両方が必要です。
郵送で提出する
開業届の提出には、所轄の税務署に郵送で提出する方法もあります。開業届を税務署に行かずに提出したくても、e-Taxの操作に自信がなかったり、ICカードリーダー/ライターなどの事前準備が面倒だったりするような場合には、郵送での提出が便利です。
郵送提出の場合は、提出用の開業届と控え(コピー)に加えて、住所・氏名を記載し切手を貼った返信用封筒、上にあげた本人確認書類のコピーを同封します。開業届の控えは、収受日付印を押して1週間程度で返送されます。
e-Taxでオンライン提出する
開業届の提出には、e-Taxを利用してオンラインで提出する方法もあります。オンラインなら、都合のいい時間に自宅から開業届を提出することができます。
e‐Taxで開業届を提出するには、インターネット環境に加えて、パソコンとマイナンバーカード、さらにマイナンバーカードを読み取るためのICカードリーダー/ライター(またはマイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォン)が必要です。また、e-Taxを初めて利用する際には、事前に、利用者識別番号と電子証明書の取得が必要になるので注意しましょう。
- ※e-Taxを利用した開業届の提出については以下の記事を併せてご覧ください
開業届以外にも開業時に必ず提出する書類がある
個人事業主として事業を始める際には、税務署に提出する開業届のほかにも、次のような書類も提出する必要があります。提出場所や期限もそれぞれ異なるため、あらかじめ確認しておき、忘れずに提出しましょう。
開業届以外に開業時に必ず提出する書類
- 事業開始等申告書
- 開業する業種により必要となる届出や許認可
事業開始等申告書
開業届以外に開業時に提出する書類には、事業開始等申告書があります。事業開始等申告書は、都道府県に個人事業の開始を知らせるために必要な書類です。自治体によって正式名称は異なり、「個人事業開業届出書」「事業開始届」などと呼ばれることもあります。
提出先は、基本的に都道府県税事務所ですが、市区町村への提出が必要な場合もあるので、各自治体のWebページで確認してください。申告書の書式も自治体によって違うため注意が必要です。
また、提出期限も自治体によって異なり、例えば、東京都の場合は、事業の開始の日から15日以内が期限となっています。併せて自分の事務所(事業所)のある自治体の提出期限も確認しておきましょう。
開業する業種により必要となる届出や許認可
開業届以外に開業時に提出する書類には、開業する業種により必要となる届出や許認可があります。
許認可が必要な業種であるにもかかわらず、必要な申請手続きを行っていないと、開業届を提出しても営業を始めることができません。許認可とは、営業するために必要な手続きのことで、「届出」「登録」「認可」「許可」「免許」の5つの種類があります。
例えば、飲食業や食品製造業などは保健所の許可、ペットショップや旅行業などは都道府県庁への登録、理容業や美容業、マッサージ業、クリーニング業などは保健所への届出が必要です。手続き窓口は許認可の種類によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
- ※許認可については以下の記事を併せてご覧ください
開業届と併せて税務署に提出すると良い書類もある
個人事業主の開業に当たり、開業届と併せて税務署に提出すると良い書類もあります。税務署まで何度も提出しに行くのは手間がかかるので、必要に応じて、以下の書類も開業届と一緒に提出しておくといいでしょう。
書類名 | 提出が必要なケース | 提出期限 |
---|---|---|
所得税の青色申告承認申請書 | 確定申告で青色申告を行う場合 | 青色申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内) |
青色事業専従者給与に関する届出書 | 青色事業専従者の要件を満たす家族従業員への給与を経費にしたい場合 | 青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合や、新たに専従者を雇用することになった場合は、開業または雇用した日から2か月以内) |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 従業員を雇う場合 | 事務所の開設日から1か月以内 |
適格請求書発行事業者の登録申請書 | インボイス制度に対応するために適格請求書発行事業者になりたい場合 | 登録希望日の15日前まで |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 従業員数が10名未満で、源泉所得税の納付を年2回にまとめたい場合 | 期限の定めなし(原則として、提出した日の翌月に支払う給与等から適用) |
- ※飲食店の開業準備については以下の記事を併せてご覧ください
開業届を手軽に作成して提出する方法
これまで見ていただいたように、開業届に必要事項を記入したり、一緒に提出する書類を準備したりするには、意外と時間や手間がかかります。そこで、個人事業主の開業手続きを手軽に行いたい場合は「弥生のかんたん開業届」がおすすめです。「弥生のかんたん開業届」は、画面の案内に沿って必要事項を入力するだけで、個人事業主の開業時に必要な書類を自動生成できる無料のクラウドサービスです。パソコンでもスマホでも利用でき、開業届をはじめ、「所得税の青色申告承認申請書」や「給与支払事務所等の開設届出書」などもスムースに作成することができます。
また、開業後は、日々の帳簿付けや毎年の確定申告が必要になります。事業が本格的に動き出してから慌てることのないように、開業のタイミングで会計ソフトや確定申告ソフトを導入しておくといいでしょう。クラウド確定申告ソフト「やよいの青色申告 オンライン」なら、簿記や会計の知識がなくても、最大65万円の青色申告特別控除の要件を満たした青色申告の必要書類が簡単に作成できます。
開業届の書き方を把握してスムースな事業開始を目指そう
開業届の提出は、個人事業主としての第一歩です。開業届の基本を押さえておくと、スムースに事業を開始できるはずです。開業届を出さなくても罰則はありませんが、事業を始めた日から1か月以内に提出することが定められているので、早めに提出しておくと忘れません。
開業届を提出すると、確定申告で青色申告を選べるようになります。青色申告は、最大65万円の青色申告特別控除をはじめとするさまざまな節税メリットがあります。開業した年から青色申告を希望するなら、開業届と一緒に青色申告承認申請書も提出しておくといいでしょう。
起業準備で忙しい中、記載項目を調べながらさまざまな必要書類を作成するのは大変です。「弥生のかんたん開業届」を利用すれば、開業届はもちろん、「所得税の青色申告承認申請書」や「給与支払事務所等の開設届出書」なども手軽に作成できるのでおすすめです。
この記事の監修者森 健太郎(税理士)
ベンチャーサポート税理士法人 代表税理士。
毎年1,000件超、累計23,000社超の会社設立をサポートする、日本最大級の起業家支援士業グループ「ベンチャーサポートグループ」に所属。
起業相談から会社設立、許認可、融資、助成金、会計、労務まであらゆる起業の相談にワンストップで対応します。起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネル会社設立サポートチャンネルを運営。