割増賃金の求め方は?割増率と計算方法を解説
2022/12/09更新

この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング

従業員が残業や休日出勤、深夜労働などを行ったときには、会社は割増賃金を支払わなくてはなりません。割増賃金は、労働基準法で定められている従業員の権利を守るための重要な規定です。割増賃金を正しく支払わなければ違法になってしまい、従業員の会社に対する信頼度も低下してしまいます。
割増賃金は、ただ「普段より多ければいい」というわけではなく、決まった計算方法があります。割増賃金を適切に支払うには、まず求め方のルールを知っておく必要があるでしょう。ここでは、割増賃金の計算方法について、割増賃金の意味や種類、注意点などと併せて解説します。
割増賃金とは?
割増賃金とは、会社(使用者)が従業員(労働者)に時間外労働や休日労働、深夜労働をさせたときに支払う賃金のことです。
労働基準法では、1日の労働時間を8時間以内、1週間の労働時間を40時間以内と定めており、これを「法定労働時間」といいます。この法定労働時間を超えて従業員を働かせた場合、会社は定められた割増賃金を支払わなければなりません。
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割増賃金の種類と割増率
割増賃金には「時間外労働」「所定休日・法定休日労働」「深夜労働」の3種類があり、種類によって割増率が定められています。それぞれの割増賃金の内容と割増率を解説します。
時間外労働
時間外労働とは、「1日8時間、週40時間」という法定労働時間を超える労働のこと。時間外労働に対する割増賃金の割増率は、25%以上です。時間外労働をした分に関しては、その従業員の通常の賃金の1.25倍以上を支払わなければなりません。
また、時間外労働の上限は、原則として1か月45時間、1年360時間です。ただし、特別条項付きで労使協定を締結していれば、臨時的に特別な必要性がある場合に限り、月45時間を超える時間外労働が認められます。また、このような場合に時間外労働が1か月60時間を超えると、50%以上の割増率を支払わなければなりません。現在、このルールは大企業のみに適用されていますが、2023年4月1日からはすべての事業所が対象となる見込みです。
なお会社は、法定労働時間の範囲内で、従業員の所定労働時間を自由に設定することができます。法定労働時間は1日8時間以内なので、1日の所定労働時間を6時間や7時間に設定しても問題ありません。そのうえで残業が発生したとしても、残業時間を含めた労働時間が法定労働時間内であれば、25%の割増賃金の支払いは不要です。
例えば、所定労働時間が7時間で、1時間の残業をした場合、合算しても8時間の法定労働時間内なので、割増はせず通常の賃金に応じて7時間分と割増換算をしない1時間分を支払います。
所定休日・法定休日労働
労働基準法では、週1日または4週を通じて4日の休日を、法定休日と定めています。休日の曜日は問われませんが、多くの会社では就業規則等で曜日を定めています。この法定休日に従業員を働かせたときの割増率は、35%以上となります。
なお、従業員の休日は「所定休日」と定められ、「所定休日」の中に「法定休日」と「法定外休日」の2種類あります。休日労働の割増賃金が発生するのは、法定休日のみです。例えば、週休2日制の会社で、土曜日が法定外休日、日曜日が法定休日と決まっている場合、従業員が日曜日に出勤すれば35%以上の割増賃金を支払わなければいけません。一方、土曜日に出勤した場合は、35%の割増料金はなく、25%の割増率を用いて割増賃金を支払います。
深夜労働
労働基準法では、22時~翌5時を深夜として扱います。深夜労働とはこの時間帯における労働のことで、従業員に深夜労働をさせた場合には、割増率は25%以上となります。
また、どの従業員でも深夜労働ができるわけではないので注意が必要です。労働基準法では、満18歳に満たない年少者に深夜労働させてはいけないと定められています。また、妊産婦は深夜労働や時間外労働および休日労働の免除を請求できるため、請求があった場合はそれぞれの労働をさせてはいけません。
割増賃金計算の事前準備
割増賃金は、1時間あたりの基礎賃金に、前述した割増率を掛けて求めます。そのため、割増賃金の計算をする前に、まずベースとなる基礎賃金を算出する必要があるのです。基礎賃金の算出方法を確認してみましょう。
1時間あたりの基礎賃金を算出する
1時間あたりの基礎賃金の求め方は、給与形態によって異なります。給与形態別の算出方法は下記のとおりです。
- 出来高給の場合
出来高給÷出来高給の算定期間中の総労働時間数=1時間あたりの基礎賃金
なお、出来高給とは、歩合給とも言われ個人の業績・成果に応じて支払う給与のことです。例えば、「売上額の◯%分」「契約1件につき◯円」などのように計算し、通常の月齢賃金と合わせて支給します。
- 月給の場合
月給額÷1か月の所定労働時間数=1時間あたりの基礎賃金 - 週給の場合
週給額÷1週間の所定労働時間数=1時間あたりの基礎賃金 - 日給の場合
日給額÷1日の所定労働時間数=1時間あたりの基礎賃金 - 時給の場合
時間給として決まっている金額
なお、月の所定労働時間数が毎月変動する場合は、月給額を1か月あたりの平均所定労働時間数で割ります。平均所定労働時間数を求めるには、まず年間日数(365日)から年間休日数を引き、さらに12か月で割ります。こうすると1か月の平均労働日数が出るので、その数に1日の所定労働時間を掛けると、1か月の平均所定労働時間数が算出できます。
基礎賃金から除外される賃金に注意
割増賃金の計算のもととなる基礎賃金は、基本給以外に支払っている手当等も含まれます。ただし、次に挙げる手当等は、基礎賃金から除外されます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
これらに該当しない賃金は、すべて割増賃金の基礎賃金としなければなりません。
また、上記の手当が支払われていた場合であっても、実際にこれらの手当を除外するにあたっては、単に名称によるものでなく、その実質によって取り扱うべきものとされています。
例えば、家族手当や通勤手当、住宅手当は、社内規定によって全社員に一律固定で支給するものなら除外の対象にはなりません。
割増賃金の計算方法
続いては、時間外労働・休日労働・深夜労働のそれぞれのケースについて、具体的な割増賃金の計算方法を解説していきます。
割増賃金を求める基本の計算式は「1時間あたりの基礎賃金×対象の労働時間数×各種割増率」です。割増率は前述したとおり、割増賃金の種類によって異なります。
なお、割増分が基礎賃金に加算されるため、実際に支払う割増賃金の総額は「1時間あたりの基礎賃金×対象の労働時間数×各種割増率」ということになります。
時間外労働(残業)における割増賃金の計算式
1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.25=時間外労働の割増賃金
なお、時間外労働の割増率は25%以上ですが、ここでは最も低い25%としています。下記の休日労働・深夜労働に関しても同様です。
法定休日労働における割増賃金の計算式
1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.35=休日労働の割増賃金
深夜労働における割増賃金の計算式
1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×0.25=深夜労働の割増賃金
出来高給における割増賃金の計算式
(出来高給の総額÷総実労働時間数)×時間外労働時間数×0.25=出来高給の割増賃金
休日や深夜の時間外労働は?
割増賃金は重複して発生するケースがあります。例えば、深夜にわたって時間外労働を行った場合や、休日労働が深夜になった場合などです。このようなときは、それぞれの割増率を加算したものを1時間あたりの基礎賃金に掛けます。
前述の例でいうと、深夜にわたって時間外労働を行った場合は25%+25%で50%以上、休日労働が深夜になった場合は35%+25%で60%以上の割増率となります。

50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げ
割増賃金の計算をするうえで、1円未満の端数が生じることがあります。その場合は、賃金支払い5原則による、全額払いの原則にもとづき、50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げます。
割増賃金を支払わないとどうなる?
割増賃金の支払いは、労働基準法によって定められているものです。割増賃金を正当に支払わないと法令違反となり、次のような是正が科せられる可能性があります。
労働基準監督署の是正勧告
割増賃金を支払わないと、労働基準監督署から是正勧告が発せられます。是正勧告とは、会社に法令違反が認められるときに、労働基準監督署が違反事項の改善を求めることです。割増賃金の未払いがあったと認定されると、2年以上にさかのぼって全額についての支払いが命じられることがあります。
未払金に加えて付加金と遅延損害金の支払い
未払金の支払いに加えて、未払金と同額を上限とした付加金の支払い義務が生じることもあります。また、未払金や付加金には、遅延損害金と呼ばれる利息が加算されます。
悪質な場合は、刑事上の罰則が適用されることも
労働基準監督署の是正勧告によっても割増賃金が支払われず、悪質と判断された場合は、刑事上の罰則が適用されることもあります。割増賃金の未払いには、労働基準法違反として「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が定められています。
割増賃金の計算にミスや漏れは禁物!
割増賃金は、従業員に時間外労働や休日労働、深夜労働をさせたときに、会社が必ず支払わなければならないものです。割増賃金は労働基準法で定められているため、計算や支払いの際にミスや漏れがあると、法律違反になってしまいます。また、時間外労働をしたのに会社から正しく残業代が支払われなければ、従業員の不信感やモチベーション低下にもつながってしまうでしょう。
割増賃金の計算方法は種類によってもやり方が異なり、それぞれの割増率やベースとなる基礎賃金のルールなどを、しっかりと頭に入れておく必要があります。ミスができない計算だからこそ、給与計算ソフトがおすすめです。
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この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング
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