残業手当の正しい計算方法とは?計算の流れやルールを知っておこう
2022/12/09更新

この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング

従業員が所定労働時間を超えて働いたときは、残業代、すなわち残業手当を支払わなければいけません。残業手当の計算方法や割増率は、法律によって細かく規程されています。知らず知らずのうちに法律に反してしまうことがないよう、正しい残業手当の求め方を理解しておきましょう。
ここでは、残業手当の計算方法について、具体例を挙げながら解説します。
残業手当を計算するときの流れ
残業手当を計算するには、残業時間の把握だけでなく、残業の種類に応じた割増率の選択などの対応が必要です。大まかな計算の流れを理解しましょう。
1. 残業時間を記録する
まずは、日々の残業時間を正しく記録する必要があります。タイムカードを利用している場合は、仕事が終わったタイミングで確実に打刻するように促しましょう。また、出勤簿形式の場合は、出社の有無だけでなく、出勤時間と退勤時間は、客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録しなければなりません。
2. 残業時間を1か月分取りまとめる
「給与計算期間」が終了したところで、1か月の残業時間の合計を算出します。
給与計算期間とは、給与の支払い対象となる期間のことです。例えば、20日締め当月末日払いの会社では、前月21日~当月20日までが給与計算期間です。その期間中の残業時間を合計しましょう。
なお、残業には普通残業や深夜残業など、さまざまな種類があります。残業の種類によって、それぞれ割増賃金率が異なるため、種類別に集計しなければいけません。具体的な残業の種類と割増賃金率については後述します。
3. 残業時間と残業の種類に応じて残業手当を計算
残業時間の確認を終えたところで、残業の種類に応じた残業手当を算出します。なお、残業手当は種類別に給与明細へ記載します。
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残業時間の求め方のルール
残業時間を求める際は、いくつかの決まりに注意しなければいけません。残業時間取りまとめ時のルールについて、詳しくご説明します。
残業時間の種類
残業時間には、「法定内残業」と「法定外残業」の2種類があります。
会社や職場ごとに、就業規則などによって1日の労働時間が決められていますが、これを「所定労働時間」といいます。一方、労働基準法では労働時間の上限を、原則1日8時間かつ週40時間と定めています。これが「法定労働時間」です(変形労働時間制等例外あり)。
法定内残業とは、所定労働時間を超えるものの、法定労働時間を超えない残業のことです。一方、法定外残業は、文字どおり法定労働時間を超える残業のことを指します。
例えば、 所定労働時間が9時~17時の会社で、19時まで残業した(休憩時間1時間)場合、17時~18時までは法定内残業、18時~19時までは法定外残業となります。
法定内残業・法定外残業とも、残業手当の支払いが必要ですが、法定内残業は残業手当を割増する必要はありません。一方、法定外残業は法律にもとづいた割増賃金の支給が必要です。なお、会社の規程 にもとづき、法定内残業に対して割増賃金を支払っても、労働者有利であることから問題はありません。
残業時間の集計ルール
残業時間を集計するうえで、注意したい2つのルールがあります。法律に則して残業時間を求めましょう。
- 1分単位で把握する必要がある
残業時間は、便宜上15分単位などで計算している会社も少なくありません。しかし、法律上は1分単位で把握して、残業手当を支払わなければいけません。これまで15分単位などで計算していた事業主は、見直しを検討する必要性があります。 - 1か月の残業時間の合計は、30分未満の切り捨て、30分以上の切り上げが可能
1日単位の残業手当は1分単位で把握する必要がありますが、1か月の残業時間の合計については、30分未満を切り捨て、30分以上を切り上げて計算することができます。
例えば、1か月の残業時間の合計が5時間29分の場合は残業時間を5時間、5時間42分の場合は残業時間を6時間として計算することができます。
残業手当の計算方法
残業手当は、就業規則や賃金規程に定められた方法にもとづいて計算します。
一般的には、下記の方法で残業手当を計算する場合が多いです。
残業手当の計算式
1時間あたりの賃金(時間単価)×割増率×残業時間=残業手当
なお、残業手当の計算をした際に、1円未満の端数が出たときは、四捨五入で処理します。
1時間あたりの賃金は、下記の式で計算が可能です。
1時間あたりの賃金の計算式
所定内給与÷月平均所定労働時間=1時間あたりの賃金(時間単価)
月平均所定労働時間は、下記の式で算出することができます。
月平均所定労働時間の計算式
(365日-年間休日)×1日の所定労働時間÷12か月=月平均所定労働時間
例)
年間休日122日、1日の所定労働時間が8時間の会社における月平均所定労働時間
(365日-122日)×8時間÷12か月=162時間
月平均所定労働時間は、就業規則や賃金規程に定められていることもあります。残業計算のたびに算出するのは大変ですから、あらかじめ計算をして定めておきましょう。
残業手当の種類別に見た割増率
残業手当は、法律で最低割増率が決められています。割増率を最低割増率よりも下げることはできませんが、賃金規程によって最低割増率よりも上に設定することは可能です。
残業の種類 | 最低割増率 |
---|---|
時間外労働(法定労働時間を超える労働) | 1.25 |
時間外労働(上記の法定労働時間60時間を超過した場合)(※) | 1.5 |
深夜労働(22時~5時の労働) | 0.25 |
法定休日労働 | 1.35 |
- ※ 2023年4月1日より開始(大企業では、すでに施行済み)
法定休日以外の休日(所定休日)に労働した場合週の労働時間が40時間を超えた場合は、通常の時間外労働と同じく1.25の割増率が適用されます。ただし、週の所定労働時間が40時間を超えていない場合は、40時間を満たすまで、割増賃金は不要です(1日8時間超過の場合は、除く)。
法定休日と所定休日とは?
法定休日とは、法律で定められている週1日の休日のことで、所定休日はそれ以外の休日です。どの曜日を法定休日扱いにするのかは、会社が決めてかまいません。なお、週末休みの場合、日曜日を法定休日とする会社が多い傾向にあります。
残業手当に含まれる諸手当
残業手当は、基本給に諸手当を加算した金額をもとに算出します。この諸手当には、役職手当や資格手当、精勤手当などが該当します。
ただし、下記の手当については、残業手当には含めません。
残業手当に含まない手当の例
- 家族手当
- 住宅手当
- 通勤手当
- 単身赴任手当(別居手当)
- 子女教育手当
- 臨時賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払う賃金(ボーナスなど)
- ※ 通達により単に名称によるものでなく、その実質によって取り扱うべきものとされています(S22.9.13 基発第17号)。
給与形態による残業手当の計算方法の違い
一口に従業員といっても、正社員や日雇い社員、パート・アルバイトなど、雇用形態によって給与形態はさまざまです。また、残業手当の計算は、給与形態によって少しずつ計算方法が違います。
正社員(月給制)、日給制、パート・アルバイト(時給制)、それぞれの残業手当の計算例を見てみましょう。
一般的な正社員の場合(月給制)
所定労働時間 が9~18時、月平均所定労働時間が162時間の正社員について考えてみます。定時退社以外の日のタイムカードと残業時間は下記のとおりでした。
残業時のタイムカード
9:00~20:00(普通残業2時間)
9:00~23:00(普通残業5時間、深夜労働1時間)
9:00~18:30(普通残業0.5時間)
よって、普通残業の合計が7.5時間、深夜労働の合計が1時間です。
次に、残業手当計算のもととなる、1時間あたりの賃金を求めます。
給与支給額
- 基本給:20万円
- 資格手当:1万円
- 家族手当:1万円
- 精勤手当:5,000円
- 通勤交通費:1万円
上記の従業員の場合、残業手当計算のベースとなる給与は、基本給20万円、資格手当1万円、精勤手当5,000円です。家族手当と通勤交通費は、残業手当計算に含めません。
20万円+1万円+5,000円=21万5,000円
よって、1時間あたりの賃金は「21万5,000円÷162時間=1,327円(1円未満は四捨五入)」です。
最後に、残業手当を計算します。普通残業の割増率は1.25、普通残業かつ深夜労働の割増率は0.25です。
1,327円×1.25×7.5時間=1万782円(1円未満は四捨五入)/普通残業手当
1,327円×0.25×1時間=332円(1円未満は四捨五入)/深夜労働手当
これが、その月の残業手当です。
日給制の従業員の場合
日給制の従業員は、日給を1日の所定労働時間で割って1時間あたりの賃金を算出します。
例えば、9時~18時までの契約(昼休憩1時間)で雇用した日給1万円の従業員が、19時まで働いた場合について考えてみましょう。
1日の所定労働時間は8時間ですから、1時間あたりの賃金は「1万円÷8時間=1,250円」です。
残業時間は1時間ですから、この従業員に支給する残業手当は、下記のようになります。
1,250円×1.25×1=1,563円
ただし、連続労働を行い、労働時間が週に40時間を超過してしまう場合には、その超過時間が残業時間となりますので注意が必要です。
パート・アルバイトの場合(時給制)
パート・アルバイトの場合は、1時間あたりの賃金があらかじめ決まっています。そのため、割増率と残業時間を掛けるだけで、残業手当を算出できます。
例えば、時給1,000円、普通残業時間(1日8時間を超える労働)が5時間のアルバイトの残業手当は、下記のようになります。
1,000円×1.25×5=6,250円
ただし、1日の勤務時間が8時間を超えていなければ、割増賃金は発生しません。12時~16時のシフトで働いていたアルバイトが、1時間残業をしたとしても、勤務時間は5時間です。このような場合は、通常の時給と同額を支払います。
なお、日給制の従業員と同様に、連続労働を行い、労働時間が週に40時間を超過してしまう場合には、その超過時間が残業時間となりますので注意が必要です。
残業手当を計算するときの注意点
最後に、残業手当の計算にまつわる注意点をご紹介します。軽率な行動が、のちに大きなトラブルへと発展することもありますから、十分ご注意ください。
勤務時間の正確な把握が必要
残業手当を計算するには、正確な勤務時間の把握が不可欠です。出勤か欠勤かだけを記した出勤簿や台帳では、残業手当は計算できません。日頃から、出勤時間と退勤時間がわかる管理を心掛けましょう。
残業手当は実際に働いた時間に対して支払われる
残業手当は「実労働時間」に対して支払われます。実労働時間とは、実際に業務にあたった時間のことです。
例えば、タイムカードを押して退勤した後に労働した場合、その労働時間分の残業手当を支払う必要があります。また、朝早く出社して仕事をした場合も、労働時間に該当します。始業時間前に全員参加のミーティングを行っている場合や、掃除を義務付けている場合、その時間も労働時間に含まれるので注意しましょう。
未払い分をさかのぼって請求されることもある
2020年4月に、残業手当の時効が2年から3年(猶予措置として3年ですが、原則5年)へと延長されました。きちんと残業時間の管理を行っていなかったり、残業手当を支給していなかったりすると、過去にさかのぼって多額の残業手当を請求されることもあります。普段から、正確な残業時間の管理と残業手当の支給をすることが大切です。
給与計算ソフトで、スピーディー&正確な残業手当計算
残業手当計算にかかる業務を効率化するには、しっかり勤怠管理を行うことと、日ごとの残業時間を算出しておくことが大切です。毎月のことですから、いつ何をすべきなのかを踏まえて、計画的に行いましょう。
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