労災とは?労働災害の認定基準や補償内容、申請方法などを解説
監修者:税理士法人古田土会計 社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング
2024/03/01更新
労災とは、勤務中の事故や業務を原因とするケガ、病気などのことを指します。労災を防ぐために、事業主は従業員に対して、安全で健康に働ける職場環境を整える義務があります。同時に必要なのが、事業所や従業員の労災保険への加入です。労災保険は、万が一労災が発生してしまったときに、従業員や家族の生活を守ることができます。
ここでは、労災とそれ以外の事故を見分けるための基準の他、労災保険の加入条件や補償内容、申請方法などについて解説します。
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労災とは労働災害のこと
労災とは「労働災害」のことで、業務が原因で生じた従業員のケガや疾病、障害、死亡などが該当します。直接的な事故以外に、業務を原因とした過労死なども労災と判断される場合があります。
労災は、業務災害と通勤災害の2種類があり、具体的にはどのようなケースで認定されるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
業務災害:業務中に生じたケガや病気などのこと
業務災害は、業務を行っている最中に生じたケガや病気、障害、死亡などのことです。事務所内で発生した業務上の災害の他、業務のために訪れた工事現場や取引先での事故なども業務災害に該当します。業務災害に認定されるかどうかは「業務遂行性」と「業務起因性」の両方から判断されます。
業務遂行性とは、事業主の指示の下で業務を遂行している状態にあるかどうかという意味です。具体的に下記のようなケースは、業務遂行性のある状態で起こったケガと判断されます。
業務遂行性のある状態でのケガの例
- 従業員が業務中に会社のオフィス内でケガをした
- 従業員が業務自体は行っていなかったが、業務の間の休憩でケガをした
- 従業員が出張中や外出先でケガをした
反対に、業務が休みの日に遊びに出掛けた先でのケガなどは、業務遂行性がないということになります。
また、業務起因性とは、事業主の指示で従業員が業務を行い、それが原因で起こった状態かどうかという意味です。上記の例で考えると、いずれも事業主の指示の下で動いている時間帯で起こったケガのため、業務起因性があるということになります。
なお、業務の時間帯に、業務と関係のないことで同僚とトラブルが起こってケガをした場合や、昼休み中に気分転換のために運動をしてケガをした場合などは、業務起因性がないと判断されます。
通勤災害:通勤中に生じたケガや病気などのこと
通勤災害とは、通勤中に生じたケガや疾病、障害、死亡などのことです。自宅から出社や業務で外出した場所から自宅へ帰宅するための移動なども該当します。
ただし、通勤災害が認められるのは、通勤に必要な合理的経路を通っていて、経路の大きな逸脱がないといった要件を満たす場合のみです。例えば、退社後に友人と飲み会をするために通勤経路とは関係のない場所に移動し、帰りに事故に遭った場合などは対象外です。
一方、通院や日用品の買い物など、日常の生活を送るうえで必要だと考えられる、短時間の寄り道であれば認められるケースもあります。
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労働者や家族の生活を守る労災保険
労災保険は、企業で働く従業員の業務上のケガや病気、障害、死亡などの損害を補償する保険です。国や自治体によって運営されている社会保険の1つで、万が一の際に労働者や家族の生活を守るための保険となります。加入条件や補償内容などについて、詳しく見ていきましょう。
労災保険の加入条件
事業所側の労災保険の適用条件は、従業員を1人でも雇用していることです。法人ではなく個人事業主であっても、従業員を雇用した場合は対象です。また、労災保険が適用となった事業所に雇用される従業員は、正社員やアルバイトなどの雇用形態は関係なく、原則として全員が労災保険加入の対象となります。
事業所は、従業員を初めて雇用したタイミングで、労働基準監督署に「保険関係成立届」を出して、労災保険の適用事業となります。ただし、個人経営の農林水産業の事業所では一部例外があり、労災保険への加入が任意となる場合があります。
労災保険料の計算と納付
労災保険の保険料は、従業員を雇用する事業主による全額負担です。労災保険料は「1年間の賃金総額×労災保険率」で求められます。対象の年の4月1日から翌年3月31日まで、従業員に支払ったすべての給与や賞与の合計額に、業種別に定められた労災保険率を掛けた金額を納付します(ただし、退職金は在職中に支払われる前払い退職金を除き対象外)。
労災保険率は、製造業や建設事業など事業の種類によって2.5/1,000~88/1,000までの範囲で細かく定められています。詳細は、厚生労働省「令和6年度の労災保険率について」でご確認ください。
労災保険料は、1年分をまとめて6月1日~7月10日の「年度更新」の時期に納付します。このとき、翌年分の概算保険料も併せて納付しなければなりません。当年分の保険料は、前年に納付済みの概算保険料との差額を支払います。
労災保険を含む労働保険料についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
健康保険との違い
労災保険は労働災害によるケガや病気などを補償する保険で、健康保険は労災以外のケガや病気の治療費などに給付が行われる保険という違いがあります。
通常、病院で治療などを受ける際は健康保険証を提示します。しかし、労災の治療を受ける場合は、労災である旨を病院に伝える必要があり、健康保険証の提示は不要です。労災保険と健康保険を併用することはできないので、どちらかひとつの適用となります。
労災保険の補償内容
労災保険では、業務中に発生した災害に対して、さまざまな補償を受けられます。ここでは、給付の一例をご紹介しましょう。
療養(補償)給付
療養(補償)給付は、労災による病気やケガで病院を受診した際の、治療費や入院費の給付です。労災病院や労災保険指定医療機関を受診した場合は、治癒するまで受診できる「療養の給付」、それ以外の病院を受診した場合は費用が支給される「療養の費用の支給」が受けられます。
休業(補償)給付
休業(補償)給付は、労災によって仕事を休職し、給与が支払われない場合に受け取れる給付です。給付には待期期間が3日間あり、4日目から、休業1日につき給付基礎日額の80%相当額が支給されます。なお、事業主が賃金の60%の補償を行います。
障害(補償)給付
障害(補償)給付は、労災で一定の障害を負った際に支給される年金または一時金です。障害等級が1等級から7等級に該当する場合は障害補償年金など、8等級から14等級に該当する場合は障害補償一時金などが支給されます。
遺族(補償)給付
遺族(補償)給付は、労災によって死亡した人の遺族に対する給付です。死亡時に生計を同じくしていた遺族がいる場合は遺族補償年金などが支払われ、そのような遺族がいない場合は遺族(補償)一時金などが支払われます。
その他、一定の障害があり介護を受けているときや、労災によって死亡した人の葬祭を行う際などにも給付を受けられます。
労災が認められた例
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」から、労災として認められた3つの事例をご紹介します。「職場のあんぜんサイト」では、さまざまな労災事例と原因、対策が紹介されていますので、職場の安全確保を検討する際の参考にしてください。
調理場の濡れた床で足を滑らせたことによる転倒
飲食店の調理場で、冷蔵庫に食材を取りに行った従業員が足を滑らせて転倒しました。厨房の床が濡れたままで放置されており、滑りやすくなっていたことが原因だと考えられます。
ブロック塀の解体中に塀の下敷きとなる事故
責任者の指示に従ってブロック塀の解体を行っていた日雇いの従業員が、作業中にブロック塀の倒壊に巻き込まれて死亡しました。塀の倒壊防止措置や、作業計画の作成などは行われておらず、従業員に対する作業手順や方法の明確な指示もなされていませんでした。
倉庫内の荷下ろし作業が原因の熱中症による死亡
倉庫で荷下ろしを行った従業員が、休憩後に歩けなくなり、熱中症による多臓器不全で死亡しました。作業場は屋内で空調管理が行われており、飲料水サーバーも設置されていました。ただ、熱中症予防の指標となる暑さ指数を測定していなかったことや、熱中症予防のための労働衛生教育が不十分であったこと、当該従業員は体調不良からの復帰直後で、熱への順化が図られていなかったことなどの問題点があります。
労災保険の申請方法
労災保険の申請は、以下の手順で行います。一般的には、労災が発生した旨を事業主に報告したうえで、必要書面に証明をもらう手続きを取ることになります。ただし、仮に事業主が労災を認めなかったとしても、労災の申請者は従業員本人ですから、事業主の意向によらず申請が可能です。
また、労災に遭った本人の手続きが難しい場合などは、企業の担当者が代理で請求書の入手や記入などを行うこともあります。
1. 補償の種類に応じた請求書を入手
労災の補償の種類に応じた請求書を入手します。請求書は、「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」からダウンロードできます。
また、労働基準監督署からもらうことも可能です。請求書には多くの種類があるため、わからない場合は労働基準監督署に問い合わせましょう。
2. 請求書に記入
請求書に必要事項を記入します。なお、請求書の種類によっては医療機関や傷病名を記入する欄、事業主の署名欄などがあります。記載の必要がある部分は、依頼をしましょう。
3. 請求書と添付書類を労働基準監督署に提出
請求書と補償の種類に応じて求められる添付書類を、労働基準監督署に提出しましょう。労働基準監督署はその内容に基づき、調査を行って労災に該当するのかどうかを判断します。その後、支給が認められれば、労働基準監督署から従業員に対して直接、支給決定通知の交付や支給額の支払が行われます。
ただし、労災によるケガや病気の治療を受ける際に労災指定医療機関を受診した場合は、請求書を指定医療機関に提出してください。労災指定医療機関では窓口負担なしで治療を受けられ、その後、医療機関と労働基準監督署の間で治療費の支払などが行われます。
なお、労災が発生した際、事業主の対応としては、事故状況の把握や請求書の作成・署名以外に、労働基準監督署へ労働者死傷病報告を提出する必要があります。もし、事業主側が労働者死傷病報告を行わなかったり、労災について虚偽の報告をしたりした場合は法律違反となりますので、適切な対応を行ってください。
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事業主は、労災が起こらないように、常に職場環境を整えておく必要がありますが、万が一の場合は速やかな対応が求められます。事業主側、従業員側がそれぞれ行うべき手続きなどを、日ごろから把握しておくことが大切です。また、労働保険への加入と労働保険料の納付は、事業主の義務です。従業員を雇用した際は、加入条件に当てはまるかどうかを確認し、必要に応じて手続きを行いましょう。
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この記事の監修者税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング
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