売上や所得が少ない人こそ、青色申告にしたほうがいい! その理由とは。
手軽にできるから、所得や売上が少ないから、開業したてなどさまざまな理由で白色申告を続けている方もいるかと思いますが、個人事業主の確定申告では青色申告のほうが圧倒的にメリットが多いのも事実。今回、お話を伺った税理士・宮原裕一先生によると、売上や所得が少ない人こそ青色申告にしたほうがいいとのこと。その理由をくわしく聞いてきました。
「宮原裕一税理士事務所」代表税理士。弥生認定インストラクター。弥生会計を20年使い倒し、経理業務を効率化して経営に役立てるノウハウを確立。経営者のサポートメンバーとして会計事務所を営む一方、自身が運営する情報サイト「弥生マイスター」は全国の弥生ユーザーから好評を博している。
青色申告にしない理由は何?
白色申告をしている方は、どのような理由で青色申告を躊躇しているのでしょうか。弥生のクラウド確定申告ソフトユーザーを対象に調査した結果を見てみましょう。
理由として最も多いのが、「青色申告をするほどの事業規模ではない」、次に「赤字または所得が少ない」というような、青色申告をする事業ではないのでは?という意識があるようです。次に多いのが、「複式簿記での帳簿付けが難しそう/手間がかかりそう」「貸借対照表の提出が難しそう/手間がかかりそう」というような作業的なハードルに懸念があるようです。
赤字や事業収入が少ない方こそ青色申告にしよう
確定申告で青色申告ができるのはどういった場合ですか?
宮原先生(以下、宮原):まず、青色申告できる所得の種類は「事業所得」「山林所得」「不動産所得」に限定されます。小売業やサービス業、建設業など一般的な商売で得られる所得は事業所得になりますので、青色申告の対象です。また、青色申告をするためには、あらかじめ申請期限(白色申告をしている方は、青色にしたい年の3月15日)までに「所得税の青色申告承認申請書」を管轄の税務署に提出する必要があります。
ただし、サラリーマンが副業で行っているような場合で、つぎに該当するようなケースは、事業所得と認められず雑所得と判断される可能性があります。
- 副業の売上が給与の1割にも満たない状況が何年も続いている
- 例年赤字なのに赤字解消の取り組みが確認できない
- 売上が300万以下で帳簿を付けていない
特に、帳簿付けは白色申告でも義務となっていますので、事業所得と認められるためにも帳簿付けは必須です。
事業所得であれば青色申告はできると?
宮原:はい、事業所得である限りは規模とか赤字とか関係なく、青色申告を選択できます。あとで詳しく紹介しますが、青色申告では赤字を3年繰り越すことができるなど、白色申告では受けられない特典がいくつもあります。事業を数年行っていても所得が少なかったり、事業を始めたばかりで収入がまだ少ない、赤字になったという方こそ青色申告することをおすすめします。
消費税を納める課税事業者でないと青色申告はできないと誤解している人も多いですね
宮原:そもそも、青色申告、白色申告は所得税の申告についてのことなので、消費税の申告とは別です。インボイス制度が始まり、取引先との関係で適格請求書発行事業者になって消費税を納めることになった方もいます。これは売上規模には関係がなく、白色申告とも副業とも関係がないことです。
青色申告には白色申告にはないメリットがたくさん
青色申告 | 白色申告 |
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青色申告特別控除 10万円・55万円・65万円 |
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青色事業専従者給与 | 事業専従者控除 |
純損失の繰越控除・繰戻し還付 | |
少額減価償却資産の特例 |
青色申告の特典の例をあげていただきましたが、青色申告特別控除は青色申告をする最大のメリットですね
宮原:所得税は所得から計算されますが、青色申告特別控除は直接、所得を減らすことができるのでインパクトが大きいです。「やよいの青色申告 オンライン」で取引入力を行って、貸借対照表を作成して期限内に申告すれば、最大55万円の控除は受けられますし、e-Taxなどの追加の要件をクリアできれば最大65万円の控除が受けられます。55万円・65万円控除の適用ができない場合でも、10万円控除が受けられます。
具体的にどれくらいの節税額になるか、こちらからシミュレーションしてみましょう。
『やよいの白色申告 オンライン』内の「税額計算シミュレーション」画面に移動します。
ログインを求められる場合がございますのでご了承ください。
なお、確定申告書類を作成済みの場合は、結果を元に節税額の計算の初期値が設定されています。
青色事業専従者給与は、白色申告にも似たような制度がありますね?
宮原:どちらも事業を手伝ってくれる配偶者などについてのものですが、手厚さが大きく違います。白色申告の場合は、事業専従者控除といって、事業主の配偶者であれば最大86万円の控除、その他の親族であれば最大50万円の控除が受けられますが、それ以上はありません。一方、青色申告の場合は、青色事業専従者給与といって、あらかじめ届出をして、相当であると認められる額の給与ならすべて経費にすることができます。家族に給与を支払うことで、所得を分散して税負担が軽くなる効果が期待できますので、青色申告がおすすめです。
純損失の繰越控除と純損失の繰戻し還付について教えてください
宮原:どちらも事業が赤字だった場合に利用できる制度です。その年が赤字だった場合は、当然ながら所得税はゼロになりますね。白色申告の場合、その年が赤字だったということで終わりになりますが、青色申告では、この赤字分を翌年以降3年繰り越し、翌年以降の黒字と相殺することができるのです。これを純損失の繰越控除といいます。
宮原:例えば、その年が200万円の赤字だったとします。翌年100万円の黒字であれば、繰り越した赤字200万円と相殺できるので翌年も所得税ゼロにできます。相殺後の赤字100万円はさらに翌々年に繰り越し、翌々年の黒字分と相殺できるというわけです。
一方で、前年は黒字だったのに、その年が赤字になってしまったというケースもあります。この場合は、前年の黒字分と相殺して還付を受け取ることができます。これを純損失の繰戻し還付といいます。どちらも白色申告ではできない制度なので、事業を始めたばかりの方こそ青色申告をしてほしい理由のひとつです。
固定資産の処理でも違いがあるんですか?
宮原:例えば、20万円の事務用パソコンを購入したとします。白色申告だと、10万円以上の固定資産は定められた耐用年数にしたがって数年に分けて減価償却します。青色申告では、1組30万円未満の固定資産について、この減価償却に代えて、全額をその年の経費にすることができます。これを少額減価償却資産の特例といいます。
青色申告ではほかにも特典がありますか
宮原:所得税法で用意されている特典に加え、租税特別措置法では青色申告特別控除や少額減価償却資産の特例をはじめとした各種特例が定められています。一定の要件に当てはまる固定資産について減価償却を前倒しできる特別償却、従業員への給与を一定以上増額すると税額控除が受けられる賃上げ税制など、青色申告者に用意される特典はさまざまにあります。
アンケートを見ると、「青色申告承認申請書」の提出が面倒という方も多いようですが、ハードルは高かったり、否認されることはあるのでしょうか?
宮原:青色申告の申請はかんたんです。また、所得税の青色申告の承認申請書が承認されないことはほとんどありません。申請書の提出をしたからといって、やってみて難しいと感じたら青色申告をとりやめることもできますし、白色申告で申告をしても問題ないので、事業を始めたらまずは「青色申告承認申請書」を提出しておきましょう。
青色申告の個人事業主が青色申告をやめて白色申告にする場合の方法については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
「やよいの青色申告 オンライン」も白色申告と使い勝手は変わらない
書類作成の面では、青色申告は難しいという印象があります
宮原:青色申告の65万円控除と55万円控除では複式簿記による帳簿付けが必要です。また、貸借対照表は65万円、55万円控除の特別控除を受けるために必須の書類で、その作成には簿記や会計の知識が必要になります。ただ、これらは「やよいの青色申告 オンライン」で解決できます。日々の取引入力をしていけば、自動的に複式簿記になりますし、貸借対照表などの難しそうな書類も自動で作成してくれます。
「やよいの青色申告 オンライン」がやってくれるので安心ですね
宮原:取引入力の仕方は「やよいの白色申告 オンライン」とほぼ変わらないので、戸惑うこともないでしょう。入力や書類作成時に何か間違っていたら、「やよいの青色申告 オンライン」が指摘してくれるので難しいことはないですよ。
「やよいの白色申告 オンライン」と「やよいの青色申告 オンライン」の操作画面の違いについては、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
まとめ
青色申告には白色申告では受けられないさまざまなメリットがあります。赤字であったり、売上規模が少ない人ほど青色申告のメリットがあるというわけです。また、「やよいの青色申告 オンライン」を使えば、青色申告で必要な資料はできます。青色申告承認申請書を出しても、白色申告で申告をしてもよいのです。まずは、気軽に青色申告にしてみてはいかがでしょう。