副業で青色申告はできる?必要な条件やメリット・デメリットを解説
監修者:齋藤一生(税理士)
2024/07/01更新
副業の年間所得が20万円を超える場合、確定申告が必要となります。このとき、少しでも税負担を軽減するために最大65万円の青色申告特別控除を受けられる青色申告を考える人がいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、副業でも青色申告ができるのか、青色申告を利用した確定申告を検討している人に向け、副業で青色申告ができる条件やメリット・デメリットのほか、必要なことについて解説します。
副業は青色申告できないケースが多い
結論から言うと、副業で青色申告ができる可能性は低いでしょう。副業で確定申告をする場合、多くの場合は「雑所得」に該当します。雑所得では青色申告が選択できないためです。
青色申告とは、確定申告での申告方法の1つで、正しく納税するために行う申告納税制度のことです。個人事業主の申告も法人の申告にも、青色申告制度はあります。
個人事業主の青色申告では、1月1日~12月31日の1年間に生じた所得金額を計算するために、収入金額や必要経費に関する日々の取引状況を記録した帳簿が必要です。青色申告の場合は、事前に手続きを行ったうえで一定の水準を満たす場合は、事業や不動産収入などから生ずる所得から最大65万円を特別控除できます。
所得は税制上10区分ありますが、どれでも青色申告ができるわけではありません。青色申告ができる所得の種類や副業で所得を得ていて確定申告をする場合に青色申告を選ぶ、条件などについて具体的に解説します。
青色申告ができる所得区分
前提として、副業の収入が以下のいずれかの所得区分に該当すれば、青色申告による確定申告が可能です。
- 事業所得
- 事業所得とは継続する事業によって得られた所得です。事業に該当する規模で継続的に収入を得ているケースで、例えば小売業やサービス業、農業や漁業などが当てはまります。
- 不動産所得
- 不動産所得は、所有する賃貸物件の家賃収入や、駐車場の運営など、不動産を通じて継続的に収入を得ている所得です。
- 山林所得
- 山林所得は、山林の伐採や立ち木のままで譲渡することによって得られる所得です。ただし、山林の取得後5年以内に譲渡を行った場合は、山林所得ではなく事業所得や雑所得になります。
繰り返しになりますが、業務として副業を行っている場合は、雑所得に該当することが多いです。そのため、事業的規模で継続・反復的に事業を行っていない限り、副業で青色申告ができる可能性は低いでしょう。雑所得とは、給与所得や事業所得も含めた9種類の所得区分のいずれにも当てはまらないその他の所得です。
副業の所得を事業所得にできる条件
副業で青色申告を選ぶことができないわけではありません。副業で青色申告をするためには副業の収入が前述の事業所得などに判断できる必要があります。国税庁のWebページに記載されている事業所得の判断基準は、次の2点です。
事業所得の判断基準
- その所得を得るための活動が、社会通念上、事業と称するに至る程度で行っているか
- 記帳・帳簿書類の保存があるか
収入金額 | 記帳・帳簿書類の保存あり | 記帳・帳簿書類の保存なし |
---|---|---|
300万円超 | 概ね事業所得※ | 概ね業務にかかる雑所得 |
300万円以下 | 業務にかかる雑所得 ※資産の譲渡は譲渡所得・その他雑所得 |
- ※「その所得の収入金額が僅少と認められる場合」もしくは「その所得を得る活動に営利性が認められない場合」は、事業と認められるかどうかを個別に判断する。
- ※国税庁「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」
つまり、副業でも帳簿を作成することで事業所得と判断される可能性がでてきます。
副業が事業所得の場合、記帳や帳簿書類の保存が必要
副業が事業所得に該当するかどうかの判断基準の1つが、記帳・帳簿書類を保存していることです。帳簿を付けておけばよいだけではなく、保存も必要になります。特に青色申告で最大65万円・55万円の特別控除を適用するには、複式簿記(すべての取引を仕訳して記録・集計する記帳方法)で帳簿作成・保存が必要です。
青色申告を行うために帳簿書類を作成する場合、以下のように一定の保存期間が定められています。
保存が必要なもの | 保存期間 | ||
---|---|---|---|
帳簿 | 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など | 7年 | |
書類 | 決算関係書類 | 損益計算書、貸借対照表、棚卸表など | 7年 |
現金預金取引等関係書類 | 領収証、小切手控、預金通帳、借用証など | 7年※ | |
その他の書類 | 取引に関して作成し、または受領した上記以外の書類(請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など) | 5年 |
- ※前々年分の事業所得および不動産所得の金額が300万円以下の場合は、5年
- ※国税庁「記帳や帳簿等保存・青色申告」
なお、副業が雑所得の場合でも、2年前の副業の業務による収入が一定規模を超える場合は、現金預金取引等関係書類(領収書や請求書等)の保管や、収支内訳書の提出が必要となります。
前々年の業務にかかる雑所得の収入金額 | 現金預金取引等関係書類の保存義務 | 収支内訳書の作成義務 | 帳簿の作成義務※ |
---|---|---|---|
300万円以下 | なし※ | なし | なし |
300万円超1,000万円以下 | あり |
なし | なし |
1,000万円超 | あり |
あり |
なし |
- ※適格請求書(インボイス)発行事業者の場合は収入金額規模にかかわらず、帳簿付けと適格請求書(インボイス)の発行・保存が必要です。
副業を事業所得で申告するメリット
副業の所得を事業所得として申告をしていて、赤字の場合に、本業の給与所得から赤字分を差し引く「損益通算」が可能です。損益通算によって納めすぎた所得税の還付を受けることができるのは、副業を事業所得として申告するメリットといえるでしょう。
その一方で、副業の所得が雑所得の場合、損益通算はできません。なお、損益通算は、青色申告・白色申告いずれでも可能です。
副業で青色申告を行うメリット
副業の所得税を申告する際に青色申告を選ぶことは、白色申告にはないメリットがあります。ここからは、青色申告を行う主な5つのメリットについて見ていきましょう。
最大65万円の青色申告特別控除を受けられる
青色申告を利用すると、青色申告特別控除として最大65万円の控除が受けられます。控除の分だけ課税対象となる所得額が下がるため、その分所得税が軽減されるのです。
税負担を軽減できることは、青色申告の大きなメリットでしょう。なお、青色申告特別控除を受けるには条件があり、満たす条件によって65万円、55万円、10万円と控除される金額が異なります。
家族の給与を必要経費にすることができる
青色申告では、生計を共にする15歳以上の配偶者や親族(高校生や大学生は不可)に支払う給与を全額経費とすることが可能です。ただし、1年のうち6か月を超える期間、事業に従事しているという前提条件があります。
赤字を3年間繰り越せる
青色申告では、ある年の副業所得が赤字だった場合、そのマイナス分を翌年以降の3年間にわたって黒字分から控除することができます。
ただし、前述したように損益通算を利用することができるため、副業の赤字を青色申告の繰り越すことはほとんどないと考えられるでしょう。損益通算をあえてせずに赤字を繰り越すということは認められていないのです。
少額減価償却資産の特例を受けられる
少額減価償却資産の特例とは、取得価額が30万円未満の減価償却資産を取得した際、費用を一括で経費にできる制度です。減価償却資産とは、1年以上使用して時間経過や利用によって価値が減少する固定資産を指します。具体的には、10万円以上で取得する車やパソコン、ソフトウェア、事務机などです。副業でも減価償却はできます。
青色申告の少額減価償却資産の特例を利用すると、購入した年にまとめて経費計上できることから、その分、取得した年の所得を圧縮して節税につなげることができます。ただし、上限が決まっており、1年に300万円までです。
- ※国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」
少額減価償却資産の特例についてはこちらの記事でも解説していますので、参考にしてください。
貸倒引当金の計上ができる
貸倒引当金とは、将来、発生が予想される貸倒れに備え、あらかじめ計上しておく損失の金額です。ここでいう貸倒れとは、貸したお金が返ってこなかったり、商品などの売上代金が支払われなかったりすることを指します。
青色申告では、あらかじめ貸倒引当金として当期の回収可能な債権(支払いを要求できる権利)の金額を一括で評価し、損失として計上することが認められているのです。
貸倒引当金についてはこちらの記事でも解説していますので、参考にしてください。
副業で青色申告を行うデメリット
節税の面でもメリットの多い青色申告ですが、デメリットもあります。青色申告のデメリットは、主に次の2つです。
事前申請が必要
青色申告を行うには、事前に税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。青色申告承認申請は「青色申告をしたい」と申し出るための書類です。青色申告をしたい年の3月15日までに管轄の税務署に提出する必要があります。ただし、その年の1月16日以降に開業した場合には、事業を開始した日から2か月以内に申請書を提出すれば良いこととされています。
なお、書類は以下の場所で入手できます。
国税庁のWebページからダウンロードする | [手続名]所得税の青色申告承認申請手続(国税庁) |
---|---|
税務署の窓口でもらう | 税務署の所在地などを知りたい方(国税庁) |
弥生のかんたん開業届では、画面に沿って操作するだけで、個人事業主の開業届と所得税の青色申告承認申請書が無料で作成できます。副業でも青色申告承認申請書を提出する際にはぜひ活用ください。
青色申告承認申請書の出し方についてはこちらの記事でも解説していますので、参考にしてください。
青色申告65万円(55万円)控除は記帳が複雑
副業の雑所得では、帳簿作成義務はありません。しかし、事業所得で申告をするためには帳簿付けが必要です。
そのうえ、青色申告は特別控除などを受けられる半面、提出しなければならない書類の種類が多く、その書き方が複雑になる点もデメリットの1つです。
特に、最大65万円・55万円の控除を受ける場合、帳簿は「複式簿記」という専門知識が問われるような方法で記載する必要があるため、簿記知識のない人には少しハードルが高いといえます。ですが、10万円控除の場合は、簡易簿記での帳簿付けで問題ありません。複式簿記での帳簿付けが難しい場合は、10万円控除からスタートするのも良いでしょう。
なお、現在は確定申告ソフトが充実しています。副業でも事業的規模にある場合、青色申告による手続きを少しでも効率化し、最大65万円・55万円の控除を目指すためにも、確定申告ソフトの導入を検討してみてください。
副業で青色申告をする際に提出する書類
青色申告で確定申告をする際は、「所得税の確定申告書」「青色申告決算書」の作成が必要です。
所得税の確定申告書は、その年(1月1日から12月31日まで)の所得額を明らかにする書類を指します。青色申告決済書は、事業による収入や必要経費をまとめた書類です。
いずれも作成する際は、確定申告ソフトを利用するのがおすすめです。
確定申告書の提出方法
確定申告書の提出方法は3種類あります。必要な書類が出来上がったら、次のいずれかで提出しましょう。
e-Taxで申告する
e-Taxでの申告は、インターネットを利用して必要な書類を提出する方法です。パソコン、インターネット環境、マイナンバーカードなどの準備は必要ですが、e-Taxで申告することは、前述した青色特別控除の最大65万円の控除を受ける条件になります。e-Tax以外の方法の場合は、優良な電子帳簿保存をしていない限り、控除額は最大55万円か10万円です。
郵送で提出する
税務署に必要な書類を郵送するという方法もあります。税務署の窓口の開いている時間に行くことが難しい、税務署が自宅から遠いなどの場合でも、郵送であれば問題ありません。ただし、直接書類を確認してもらうことはできないため、初めて確定申告をする場合は窓口に直接提出するのが良いでしょう。
又、郵送の場合には、控えを返してもらうために、切手を貼った返信用封筒も同封しましょう。
なお、2025年(令和7年)1月以後は、控えの収受日付印の押なつが廃止されます。
確定申告書の正本(提出用)のみを提出します。必要に応じて、ご自身で控えの作成及び保有、提出年月日の記録・管理をしましょう。
直接窓口へ提出する
税務署の窓口に書類を持って行き、提出する方法です。窓口の担当者に必要な書類が揃っているかを確認してもらえるのはメリットになります。ただし、確定申告の時期は税務署が混み合うため、期限日近くではなく、余裕を持って提出をするのがおすすめです。
青色申告ができるなら副業でも記帳・申告書類の作成の手間は、確定申告ソフトで軽減しよう
青色申告は、確定申告での申告方法1つで、正しく納税するために行う申告納税制度のことです。特に、最大65万円や55万円の青色申告特別控除適用を受ける場合は、複式簿記での帳簿作成が必要で、帳簿の信頼性が高く、提出書類も多い分、節税メリットが高くなっています。
青色申告を利用するためには、「事業所得」「不動産所得」「山林所得」のいずれかに該当することが必要です。副業による所得は雑所得に該当する場合が多いですが、事業規模などによっては事業所得と判断されるケースもあります。雑所得では、帳簿作成は義務ではありませんが、所得を計算するためには帳簿付けをしておくとお金の流れがわかり、集計や申告時期の業務が軽減されます。
なお、副業の雑所得でも販売相手次第では、適格請求書(インボイス)の発行が求められます。適格請求書発行事業者は、インボイス制度に則った帳簿付けが必要です。
帳簿を付けておくことで、事業所得で申告できる可能性も出てくるため、雑所得でも帳簿付けをしておくことをおすすめします。
副業で青色申告を目指す場合、複雑な業務の手間を少しでも軽減するためにも、確定申告ソフトの導入を検討してみてください。
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会社員などが副業をした場合、副業の所得が20万円を超えると、原則として確定申告が必要です。副業の収入や報酬から源泉徴収をされているなら、確定申告をすれば納めすぎた税金が返金される可能性が高いでしょう。ただ、所得税の確定申告をするには、書類の作成や税金の計算など面倒な作業が多いため、負担に感じる方もいるかもしれません。
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副業の所得区分を事業所得・雑所得どちらにするか迷っている場合、まずは帳簿付けをしておきましょう。事業所得で確定申告する場合は帳簿が必要です。雑所得の場合、帳簿付けの義務はありませんが、売上や仕入・経費などの集計に帳簿がある方が便利です。
なお、『やよいの白色申告 オンライン』では、雑所得の収支内訳書と所得税の確定申告書は作成できません。もし、『やよいの白色申告 オンライン』で作成した収支内訳書から確定申告書を作成すると自動で「事業所得」に集計されます。国税庁の確定申告コーナーで、自分で収支内訳書と確定申告書に転記して申告をしてください。
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