インボイス制度によるクリニックへの影響を解説|予防接種や診察はどうなる?
更新

クリニックはインボイス制度(適格請求書等保存方式)に対応する必要があるのか、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。保険診療は消費税の非課税取引のため影響を受けない一方、事業者(買手側)との契約による健康診断や予防接種はインボイス制度の対象となります。ここではインボイス制度によるクリニックへの影響について、具体例を交えて解説します。
無料お役立ち資料【インボイス制度まるわかり資料セット】をダウンロードする
インボイス制度とは?
適格請求書(インボイス)とは、一定の記載要件を満たした請求書や領収書などを指します。区分記載請求書等保存方式に基づく請求書や領収書に追記が必要な情報は、以下のとおりです。
- 適格請求書(インボイス)発行事業者の登録番号
- 税率ごとに区分した合計額および適用税率(税抜もしくは税込)
- 税率ごとに合計した消費税額など
インボイス制度の目的は、事業者が行う取引における消費税率と消費税額を正確に計算することです。商品やサービスを提供する事業者(売手側)は、インボイス制度のしくみや影響についてよく理解したうえで、どのように対応するか検討しなければなりません。
インボイス制度の基本的なしくみについて、こちらの記事で解説しています。
インボイス制度は2023年10月1日から開始されました。適格請求書発行事業者の登録申請から登録番号発行までにかかる期間の目安は、以下のとおりです。
- e-Taxによる提出:約1か月
- 書面による提出:約1.5か月
インボイス制度の開始に併せて知っておきたい消費税の知識について、こちらの記事で解説しています。
免税事業者と課税事業者の違い
免税事業者と課税事業者には、以下のような違いがあります。
区分 | 納税の有無 | 要件 |
---|---|---|
課税事業者 | 消費税を納める必要がある |
|
免税事業者 | 消費税の納税義務が免除されている | 上記の課税事業者の条件に当てはまらない場合 |
基準期間・特定期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は「免税事業者」です。
一方、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者は「課税事業者」となります。課税事業者は消費税の確定申告と納税が必要となるため、免税事業者から課税事業者になる場合は、金銭的なコストや事務作業の負担が増加します。
なお、特定期間中の課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額の合計額が1,000万円を超えていなければ、給与等支払額によって免税事業者と判定することも可能です。
クリニックはインボイス制度への対応が必要なのか?
インボイス制度への対応は、買手側との取引状況や患者の属性を踏まえて慎重に検討しましょう。
インボイス制度は、事業者が行う取引における消費税率と消費税額の正確な把握を目的としています。適格請求書発行事業者への登録は任意とされており、免税事業者のままでも事業は継続できます。
インボイス制度はクリニックにどのような影響がある?
インボイス制度がクリニックに与える影響は、主に以下の3つです。
- 適格請求書を交付する場合は適格請求書発行事業者への登録が必要
- 免税事業者のクリニック(売手側)と取引すると事業者(買手側)は仕入税額控除ができない
- 開業したばかりでも適格請求書発行事業者には納税義務が発生
それぞれ順番に解説します。
適格請求書を交付する場合は適格請求書発行事業者への登録が必要
適格請求書を交付できるのは「適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者」に限られます。未登録の事業者による交付は認められていません。適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、申請書に必要事項を記入し、所定の方法で登録申請書を提出します。
適格請求書発行事業者への登録について、こちらの記事で詳しく解説しています。
免税事業者のクリニック(売手側)と取引すると事業者(買手側)は仕入税額控除ができない
免税事業者(売手側)と取引すると、事業者(買手側)は仕入税額控除の適用を受けられず納税額が増加します。免税事業者は制度導入後も事業を継続できる一方、事業者(買手側)から消費税分の取引金額の値下げを交渉されるケースもあるでしょう。
ただし、買手側の立場を利用した取引条件の変更は、独占禁止法に違反する可能性があります。政府や関係機関は法令違反にあたる条件変更を持ちかけないよう買手側にアナウンスしています。
開業したばかりでも適格請求書発行事業者には納税義務が発生
開業したばかりのクリニックは、設立してから一定期間の消費税の納税が免除される可能性があります。例えば以下の条件を満たす法人設立では、原則として設立1~2期目の消費税の納税が免除されます。
- 資本金1,000万円未満で新規の法人設立
- 資本金1,000万円未満で個人事業主から法人化
しかし、インボイス制度への対応のために課税事業者になると、資本金にかかわらず設立1期目から納税が必要です。納税による経営資金への影響について、事前にシミュレーションしておきましょう。
クリニックが発行する領収書の変更点
領収書が適格請求書の要件を満たすためには、記載内容の変更が必要です。適格請求書の記載要件は以下のとおりです。
- 適格請求書発行事業者(売手側)の氏名または名称
- 登録番号
- 取引した年月日
- 取引の内容
- 税率ごとに区分して合計した金額および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額など
- 書類の交付を受ける事業者(買手側)の氏名または名称
ただし、クリニックの売上は一般的に社会保険診療が多くの割合を占めるため、インボイス制度による影響は少ない場合もあります。
インボイス制度による領収書の変更点について、こちらの記事で詳しく解説しています。
クリニック(個人事業主・医療法人)の仕事別にインボイス制度の影響を解説
クリニックの仕事には、以下のケースが想定されます。
- 個人の患者を診察し診療報酬を受領するケース
- 健康診断・予防接種を実施するケース
- 仕入先(売手側)から薬や医薬品を購入し請求書を受領するケース
インボイス制度の影響を仕事別に解説します。
個人の患者を診察し診療報酬を受領するケース
社会保険診療は消費税の非課税取引です。一般消費者の患者を診察し受け取る診療報酬は、インボイス制度の対象となる「事業者間取引」に含まれず、インボイス制度の影響を受けません。
健康診断・予防接種を実施するケース
健康診断や予防接種は、消費税の課税取引です。
一般の患者に行う健康診断や予防接種では、適格請求書の交付を求められないためインボイス制度の影響を受けません。ただし事業者(買手側)から集団の健康診断や予防接種を依頼されるクリニックは、インボイス制度の影響を受けます。依頼元である事業者(買手側)は、適格請求書の交付を受けられない場合は税負担が増えるためです。
また、一般患者として訪れても、会社や事業所の福利厚生費で経費処理をするために適格請求書の交付を求める方もいるでしょう。
いずれにしろ、インボイス制度への対応を検討する際は、クリニックの患者のうち事業者(買手側)の利用がどれくらいあるか理解しておくことが重要です。
仕入先(売手側)から薬や医薬品を購入し請求書を受領するケース
仕入れへの影響は、以下のように診療の目的によって異なります。
影響 | 診療の目的 |
---|---|
あり | 事業者(買手側)に提供する自由診療(健康診断や予防接種)を行う場合 |
なし | 保険診療のみを扱う場合 |
自由診療に必要な医薬品や医療機器の仕入先(売手側)が免税事業者の場合、クリニック(買手側)は仕入税額控除の適用を受けられず税負担が増えます。
一方、保険診療は非課税取引に分類されるため、クリニックは仕入税額控除の適用を受けられません。保険診療のみを扱うクリニックであれば、仕入先(売手側)が免税事業者でも影響はないと考えられます。
産業医として事業者(買手側)の社員を診察するケース
医師個人が給与として受け取ったケースを除き、産業医報酬はインボイス制度の対象となります。クリニック(売手側)が免税事業者の場合、産業医を雇用する事業者(買手側)は仕入税額控除の適用を受けられません。
インボイス制度に関するクリニックの注意点
インボイス制度に関してクリニックが注意するべきポイントは、以下の3点です。
- 課税事業者になると消費税の納税が必要
- インボイス制度未対応のクリニックは顧客(買手側)から取引条件の見直しを求められる可能性あり
- 事務作業の手間が増加
それぞれ順番に見ていきましょう。
課税事業者になると消費税の納税が必要
適格請求書発行事業者の登録を受けられるのは、消費税の課税事業者のみです。インボイス制度に対応するため課税事業者になると、消費税の納税義務が発生します。免税事業者は今まで納めていなかった消費税分の税負担が増えます。消費税の申告のための作業も増えます。自身(自社)の納税額を事前に把握しておきましょう。
インボイス制度未対応のクリニックは、取引によっては顧客(買手側)から取引条件の見直しを求められる可能性あり
前述の通り、社会保険診療は消費税の非課税取引です。一般消費者の患者を診察し受け取る診療報酬は、インボイス制度の対象となる「事業者間取引」に含まれず、インボイス制度の影響を受けません。しかし、健康診断や予防接種などは、消費税の課税取引です。
そのため、課税取引がある場合、免税事業者のクリニック(売手側)は、顧客(買手側)から取引条件の見直しを求められる可能性があります。
なぜならクリニック(売手側)が適格請求書発行事業者に登録していないと、事業者(買手側)は税負担が増えるデメリットがあるからです。事業者(買手側)が社員向けに実施する予防接種や健康診断の場合、クリニック(売手側)は適格請求書の交付を求められるでしょう。事業者(買手側)との取引条件への影響を踏まえて、適格請求書発行事業者への登録を慎重に判断する必要があります。
事務作業の手間が増加
インボイス制度への対応に伴う事務作業は、本来の業務を圧迫する要因になります。クリニック(売手側)はインボイス制度における事務手続きを理解しておくことが重要です。インボイス制度への対応に伴い必要となる事務手続きは、以下のとおりです。
- 帳簿の作成方法の変更
- 消費税の確定申告
- 売手側から受け取った請求書がインボイス制度に対応しているかのチェック
インボイス制度に対応すると帳簿の付け方が複雑になります。事務手続きが今までより煩雑になります。
例えば、売手側から受け取った請求書が、インボイス制度に対応しているか1枚ずつ確認しなければなりません。登録番号や記載方法に誤りがある場合、消費税の仕入税額控除が認められないため、売手側に適格請求書の修正してから再交付を依頼する必要があります。また、インボイスの交付を受けた取り引きかどうかも帳簿につけなければいけません。
さらに請求書やレシートの書式が変更になるため、会計ソフトやレジシステムの対応も必要です。
なお、クリニックが買手側の場合で消費税で簡易課税を選択している場合、受取る請求書や領収書が適格請求書ではなくても仕入税額控除ができます。そのため、受取った請求書が適格請求書か否かのチェックは不要です。帳簿付けについても適格請求書の取り引きかどうかの記録が不要です。
インボイス制度を機に課税事業者になった場合に適用できる2割特例も同様です。ただし、課税取引での適格請求書の発行と保存は必要なので、その作業はなくなりません。
消費税の確定申告で簡易課税制度や2割特例を適用する場合は、課税売上で受け取った消費税額から消費税額を算出するため、消費税計算や申告の手間は軽減されます。
クリニックがインボイス制度に対応する際によくある質問
自費診療の売上が1,000万円以下のクリニックでもインボイス制度対応は必要?
課税売上高1,000万円以下の事業者は原則として消費税が免除されるため、本来であれば消費税の納付義務はありません。しかし、インボイス制度対応を検討する際は事業者(買手側)との取引条件への影響を考慮する必要があります。
クリニックに適用されるインボイス制度の特例措置は?
「2割特例」の適用を受けることで、消費税の納税額を売上税額の2割にできます。2割特例を適用できる期間は、以下の範囲に属する各課税期間です。
- 開始:2023年(令和5年)10月1日
- 終了:2026年(令和8年)9月30日
事前申請や登録は必要なく、消費税の確定申告の際に適用を受ける旨を追記します。税負担の軽減につながるため、積極的に活用しましょう。
クリニックはインボイス制度による影響をしっかりと理解しよう
保険診療のみを扱うクリニックは、原則としてインボイス制度の影響を受けません。一方、事業者(買手側)から健康診断や予防接種を受注しているクリニック(売手側)は、インボイス制度の影響を受ける可能性が高いですす。インボイス制度に対応するメリット・デメリットを比較して、自事業の方針を慎重に検討しましょう。
弥生のクラウドサービスなら、無料でインボイス制度に対応
適格請求書の発行ができる「Misoca」をはじめ、適格請求書/区分記載請求書の入力・仕訳に対応のクラウド申告ソフト「やよいの青色申告 オンライン」、Misocaで作成した請求書や受領した請求書等の登録番号等から適格請求書/区分記載請求書を自動判定して、自動保存・管理できる「スマート証憑管理※1」など、弥生のクラウドサービスならインボイス制度にまるっと無料で対応できます。
今なら1年間無料になるキャンペーンを実施中!まずはお試しください。
- ※1スマート証憑管理は、製品によって利用できるプランが異なります。詳細はこちらをご確認ください。
請求業務を効率化するMisoca
クラウド請求書発行ソフトMisocaは、見積書・納品書・請求書・領収書・検収書の作成が可能です。取引先・品目・税率などをテンプレートの入力フォームに記入・選択するだけで、かんたんにキレイな帳票が作成できます。
さらに固定取引の請求書を自動作成する自動作成予約の機能や、Misocaで作成した請求データを弥生の会計ソフトで自動取込・自動仕訳を行う連携機能など、請求業務を効率化する機能が盛り沢山です。
月10枚までの請求書作成ならずっと無料!月15枚以上の請求書作成なら初年度無料になるキャンペーン実施中です。
日々の仕訳、決算業務をスムーズにする「弥生のクラウド会計ソフト」
弥生のクラウド会計ソフトは、銀行口座・クレジットカードの明細、レシートのスキャンデータを自動取込・自動仕訳するから、日々の取引入力業務がラクにできます。
また決算書類の作成も流れに沿って入力するだけ!経理初心者の方でも、”かんたん”に会計業務を行うことができます。
個人事業主の方は、「やよいの青色申告 オンライン」をご検討ください。Misocaとのセットがお得です。
今なら、すべての機能が1年間無料でご利用いただけます。
会計業務はもちろん、請求書発行、経費精算、証憑管理業務もできる!
法人向けクラウド会計ソフト「弥生会計 Next」では、請求書作成ソフト・経費精算ソフト・証憑管理ソフトがセットで利用できます。自動的にデータが連携されるため、バックオフィス業務を幅広く効率化できます。もちろん、インボイスの対応も万全です。
