不動産収入とは?仕訳例やインボイス制度による影響などを解説
監修者:税理士法人 MIRAI合同会計事務所
2023/07/10更新
土地や建物といった不動産を貸し付けることで得る収入を、「不動産収入」といいます。マンションやアパート、店舗、駐車場などを貸し付けている場合は、不動産収入の適切な管理が必要です。
不動産収入と聞くと、家賃収入をイメージする方も多いかもしれませんが、不動産収入に含まれるものは家賃(賃貸料)だけではありません。また、不動産賃貸業を営むうえでは、さまざまな経費がかかります。法人税などの税額算出のベースになるのは、収入から経費などを差し引いた所得であるため、不動産経営に関わる収入と支出について正しく把握しておくことが大切です。オフィスや店舗といった事業用物件を貸し付けている場合などは、2023年10月からはじまるインボイス制度への対応も必要になるでしょう。
ここでは、主に法人の不動産経営に関わる収入と支出、不動産収入の仕訳に加えて、インボイス制度が不動産経営に与える影響についても解説します。
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不動産収入は不動産経営によって得た収入のこと
不動産収入とは、不動産経営によって得た収入のことです。また、マンションやアパートといった不動産を所有し、第三者に賃貸することで利益を得る事業を、不動産経営といいます。店舗やオフィス、駐車場などを貸し付けて得る収入も、不動産収入に該当します。
所得税法上、個人の場合は、不動産経営によって得た所得は不動産所得とされ、事業所得や給与所得などとは区別されるものです。それに対して、法人の法人税の計算上は、このような所得の区分はありません。不動産経営に限らず、事業活動によって得た利益として扱います。
他の事業と同様に、不動産収入に対しても、法人、個人共に適切な会計処理が必要です。不動産収入は、家賃など毎月同じサイクルで入ってくるお金が多いため、仕訳ルールを一度覚えてしまえば比較的かんたんに作業ができるかもしれません。ただし、経営者が法人か個人か、また不動産経営が本業かそうではないかによって、使用する勘定科目が変わってくるため注意が必要です。不動産経営の取引でよく出てくる仕訳については、後ほど詳しく解説します。
不動産所得についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
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不動産経営における収入の内訳
不動産収入に該当するのは、家賃だけとは限りません。不動産収入に含まれる収入には、主に下記のようなものが挙げられます。
家賃
不動産収入の中でも大きな割合を占めるのが、貸し付けによる賃貸料収入、つまり、毎月の家賃です。家賃は、事前に支払期日を設定し、入居者が当月に翌月分の家賃を支払うなど、前払いで決済するのが一般的です。
共益費
共益費とは、マンションやアパートといった集合住宅の共有部分を維持・管理するために使われる費用です。多くの場合、毎月の家賃の一部として入居者から徴収します。共益費は、共有部分の電気・水道料金や定期清掃などにあてられることが一般的ですが、物件や貸主によって用途はそれぞれ違います。
礼金
礼金とは、賃貸借契約の締結時に、入居者から貸主に支払われる一時金です。敷金や保証金とは異なり、退去時の返還はありません。最近では礼金なしの物件も増えていますが、礼金を設定している場合は不動産収入に含まれます。
更新料
更新料とは、賃貸借契約の期間が満了し、契約を更新する際に、入居者から貸主に支払われるお金のことです。相場は家賃の1か月分から2か月分ですが、物件や貸主によって更新料の有無や金額は異なります。
敷金や保証金のうち入居者に返還しないお金
敷金や保証金のうち入居者に返還しないお金も、不動産収入に該当します。
敷金や保証金とは、家賃不払いや原状復帰費用などに備えて入居者から預かる費用のことで、基本的には退去時に入居者に返還されます。敷金や保証金は、返還するまで一時的に預かっているだけの預り金という取り扱いになるため、不動産収入には該当しません。
ただし、地域によっては、敷金の一部についてまったく返金されないこととされている「敷引」という商習慣があります。このように、敷金や保証金のうち入居者に返還をしない金額については、不動産収入に含まれます。
その他
マンションやアパートなどの賃貸物件に駐車場がついている場合、家賃とは別に、入居者から駐車場賃料を徴収することも可能です。また、貸付け物件の敷地内に自動販売機を設置している場合は、販売数量などに応じた販売手数料を得られます。このような場合も、不動産の貸し付けに付随した収入とみなされます。
不動産経営における支出の内訳
不動産経営で収益を得ることは、さまざまな支出を伴います。支出のうち経費になるのは、事業のために必要な費用のみです。プライベートの費用を経費に落とすことのないように気をつけましょう。
税金
不動産に関わるさまざまな税金は、不動産経営を行ううえでの大きな支出となります。賃貸資産の購入時には、不動産取得税や印紙税がかかり、不動産を所有していると、固定資産税や、市街化区域内なら都市計画税がかかります。法人はその他にも、法人税や法人住民税、法人事業税などを納めなければなりません。前々事業年度(または前事業年度の上半期)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、消費税の納税義務も発生します。
これらの税金のうち、所得税の計算上、損金として認められるのは、不動産取得税、印紙税、固定資産税、都市計画税、法人事業税、消費税(税込経理方式の場合)です。法人税や法人住民税は損金算入できません。個人の場合も、所得税や住民税は経費にはなりません。
保険料
保険料も、不動産経営にかかる支出のひとつです。賃貸物件を所有する場合、一般的には、火災保険や地震保険といった損害保険に加入します。このような損害保険は、経費として計上することができます。ただし、契約期間が2年以上の保険料を一括で支払った場合、保険料を資産計上した上で、当期分の保険料を経費にしなければなりません。
また、保険料の中に積立分の金額が含まれている場合もあるため、保険料の内訳についてはあらかじめ保険会社に確認しておく必要があります。
業務委託料
不動産経営においては、諸業務にかかる業務委託料も発生します。賃貸物件の管理業務を、不動産管理会社に委託するケースも少なくありません。その場合、月々の業務委託料(管理委託料)がかかります。委託できる内容は不動産管理会社などによって異なりますが、主に、共有部分の清掃や設備点検、入居者募集の広告宣伝などが含まれます。
税理士や司法書士への報酬
税理士や司法書士への報酬も、不動産経営にかかる支出のひとつです。不動産登記に関わる手続きは、司法書士に代行を依頼することができます。また、法人の決算申告は手続きが複雑なため、税理士に依頼するのが一般的です。税理士と顧問契約を結べば、決算だけではなく、節税に関するさまざまなアドバイスも受けられるでしょう。このように、税理士や司法書士などの専門家に業務を依頼した場合は、内容に応じて報酬が発生します。
減価償却費
不動産経営においては、減価償却費も発生します。アパートやマンションなどの建物や設備は、年月の経過とともに古くなり、少しずつ価値が減少していきます。価値が減るといっても、実際にお金を支出するわけではありません。しかし、この減少分は、減価償却費として経費にすることができます。計上できる償却費は、法定耐用年数や償却方法によって異なります。
修繕費
修繕費も、不動産経営にかかる費用のひとつです。賃貸資産を所有していると、さまざまな修繕が必要になることがあります。修繕費のうち、その賃貸資産の維持管理や原状回復のために支出した金額は、経費として認められます。ただし、改装や改造など、資産の価値を高めたり使用可能期間を延長したりするための支出は、経費にはなりません。
ローン金利
不動産の経営においては、ローン金利の支払いも発生します。賃貸物件の取得などにあたってローンを組んだ場合、ローンの利息分は経費として扱われます。また、融資を受けるために金融機関に支払った事務手数料についても、経費計上が可能です。
不動産経営で使用される勘定科目の形態は?
不動産経営を行うにあたっては、収入や支出を、適切な勘定科目で仕訳する必要があります。
個人の場合は、不動産経営による所得は不動産所得、土地や建物などを売却したときに得られる所得は譲渡所得となり、事業所得などとは区別されます。一方、法人の場合は、所得の区分はありません。
本業の場合・副業の場合を含め、不動産経営で使用する勘定科目をまとめたのが、下記の表です。
科目 | 内容 |
---|---|
売上 | 商品やサービスの提供によって得た収入を計上するときに用いる勘定科目。不動産経営を本業とする場合は、毎月の賃貸料収入が売上にあたる |
礼金・更新料 | 礼金や更新料、敷金や保証金として受け取ったもののうち返還不要なものを処理する資産の勘定科目。「受取家賃」の勘定科目を使うこともある |
雑収入 | 自動販売機設置による収入など、本業である不動産賃貸業以外の収入を処理する勘定科目 |
科目 | 内容 |
---|---|
租税公課 | 不動産取得税や固定資産税、法人事業税など、経費計上できる税金を処理する勘定科目 |
損害保険料 | 賃貸物件に関する火災保険や地震保険などの保険料を処理する勘定科目 |
管理諸費 | 不動産管理会社に賃貸物件の管理を委託した場合の業務委託料などを処理する勘定科目 |
支払手数料 | 司法書士や税理士に支払う報酬などを処理する勘定科目 |
減価償却費 | 建物や設備に関する減価償却費を計上するときに用いる勘定科目。算出方法については、税法上のルールが定められているため注意が必要 |
修繕費 | 賃貸物件の修繕費を計上するときに使用する勘定科目 |
支払利息 | 賃貸資産取得のためのローン利息や、金融機関からの融資について支払う利息などを計上するときに使用する勘定科目 |
不動産経営の仕訳はどうなる?
不動産の賃貸料は、契約時にあらかじめ設定した毎月の支払日に、入居者が前払いで振り込むケースが一般的です。
ただし、賃貸料収入を計上するタイミングは、法人と個人で異なります。例えば、毎月25日に翌月分の家賃が支払われる契約になっているとします。法人の場合、基本的には、25日に入金された家賃はいったん前受家賃として処理し、翌月に売上に振り替える作業が必要です。一方、個人の場合、賃貸料収入を計上するタイミングは、契約時に定めた支払日が基本となります。
そのため、契約によって家賃の支払日を毎月25日と定めているなら、家賃滞納があったとしても、25日に賃貸料収入を計上することになります。
インボイス制度が不動産のオーナーに与える影響は?
2023年10月1日から、消費税に関わる新しい制度である「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が導入されます。インボイス制度がはじまると、課税事業者が仕入税額控除を受けるためには、原則として、売り手が発行した適格請求書(インボイス)の保存が必要になります。
適格請求書を発行できるのは、事前に登録を受けた適格請求書発行事業者のみです。そして、適格請求書発行事業者の登録を受けられるのは、課税事業者に限られます。消費税の納税義務が免除される免税事業者は、適格請求書を発行することができません。
では、不動産経営をしている事業者が免税事業者だと、どのような影響があるのでしょうか。事業用の不動産を賃貸する場合、事業用の不動産を購入する場合、居住用の不動産を賃貸する場合のそれぞれで、インボイス制度が不動産オーナーに与える影響を解説します。
事業用の不動産を賃貸する場合
不動産オーナーのうち、インボイス制度の影響がもっとも大きいのは、テナントなどの事業用の不動産を賃貸しているケースです。
建物の賃貸料は、居住用なら消費税はかかりませんが、事業用の場合は消費税が課せられます。つまり、居住用のマンションやアパートの家賃は非課税ですが、店舗や工場、オフィスなどの賃料には消費税がかかるということです。また、同じマンションでも、住居として賃貸するなら非課税ですが、事業用の賃貸なら消費税の課税対象取引に該当します。
事業用にテナント等を賃貸していて、借主が課税事業者である場合、借主側が仕入税額控除を受けるためには、貸主が発行する適格請求書が必要になります。仕入税額控除とは、売上にかかる消費税から、仕入にかかる消費税を差し引いて、納付する消費税額を求める仕組みのことです。貸主であるオーナーが免税事業者だと、インボイスを発行することができないため、借主は仕入税額控除を受けられません。仕入税額控除が適用されないと、仕入にかかる消費税を控除できず、借主の税負担が増加してしまうのです。
消費税の税負担が増加すると、その分利益が減少します。そのため、不動産オーナーが免税事業者だと、借主から消費税分の賃料の減額を要求されたり、テナントの退去につながったりする可能性があります。
事業者に駐車場を貸し出しているケースも同様です。土地の貸し付けは基本的に非課税ですが、駐車場として整備されている場合は、消費税の課税対象になります。
事業用の不動産を購入する場合
事業用の不動産を購入した際は、消費税の還付が多額になるため、インボイス制度による影響も大きくなります。
消費税の還付とは、売上にかかる消費税よりも仕入や経費にかかる消費税が大きかった場合に、その分の金額を税務署から還付してもらえる制度のことです。インボイス制度導入前は、売り主が課税事業者か免税事業者に関係なく、買い主は還付を受けることができました。しかし、インボイス制度の導入により、売り主が免税事業者の場合、買い主は還付を受けられなくなりました。
不動産は高額なので、購入時には多額の消費税がかかります。そのため、事業用の不動産を購入する際は、消費税の還付が大きく影響するのです。その分、還付が受けられない免税事業者は、資金繰りなどで不利になる可能性があります。
居住用の不動産を賃貸する場合
前述したとおり、居住用の不動産の家賃収入には消費税はかかりません。住居としてマンションやアパートを賃貸している場合は、消費税がかからないため、免税事業者でもインボイス制度による影響はありません。
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この記事の監修者税理士法人 MIRAI合同会計事務所
四谷と国分寺にオフィスのある税理士法人。税理士、社会保険労務士、行政書士等が在籍し確定申告の様々なご相談に対応可能。開業、法人設立の実績多数。
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