不動産所得とは?経費や確定申告が必要なケース、計算方法を解説

2024/01/16更新

この記事の監修田中卓也(田中卓也税理士事務所)

不動産の貸し付けによって得た所得は「不動産所得」と呼ばれ、給与所得や事業所得とは区別されます。通常は所得税の確定申告の必要がない会社員でも、不動産所得が年間20万円を超えると、確定申告をしなくてはなりません。

ここでは、不動産所得の確定申告や計算方法について解説します。

不動産所得とは、不動産の貸し付けで得た所得のこと

不動産所得とは、不動産の貸し付けによって得た所得のことです。税法では、「どのように得たか」によって、所得は10種類に分類されています。不動産所得はその10種類の所得のひとつで、不動産の貸し付けによって得た所得を指します。

具体的には、下記の3つによって得た所得を指します。

不動産所得の分類

  • 土地や建物などの不動産の貸付け:アパートやマンションなどの賃料、土地、建物の賃料を得ている場合など
  • 地上権など不動産の上に存する権利の設定および貸付け:建物の所有を目的として土地に借地権を設定し、その対価として権利金を受け取っている場合など
  • 船舶や航空機の貸付け:航空機や総トン数が20t以上の船舶を貸し付けて賃料を得ている場合など(20t未満の船舶に関する所得は、事業所得または雑所得となります)

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不動産所得はどうやって計算する?

不動産所得額は、次の計算式で算出されます。

不動産所得の計算式

不動産所得=総収入金額-必要経費

総収入金額は不動産所得の収入、必要経費は不動産所得に関わる経費を指します。どのようなものが該当するか、それぞれについて解説します。

総収入金額(不動産所得の収入)に含まれるもの

不動産所得額の計算式における総収入金額とは、不動産を貸すことで得た収入を指します。いわゆる「家賃」のほかに、下記のようなものも含まれます。

  • 名義書換料、承諾料、更新料または頭金などの名目で受領するもの
  • 敷金や保証金などのうち、返還を要しないもの
  • 共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代など

必要経費(不動産所得の経費)に該当するもの

不動産所得額の計算式における必要経費とは、不動産収入を得るために支出した費用のことです。例えば、下記のようなものがあります。

項目 経費に該当する支出
税金 賃貸している土地や建物にかかる不動産取得税、登録免許税、固定資産税、印紙税、事業税といった税金(所得税や相続税など、賃貸とは関係のないものは対象外)
損害保険料 賃貸している建物に対する火災保険や地震保険などの損害保険料
修繕費 賃貸している建物等の修繕のために支払った費用
水道光熱費 賃貸物件の共用部分の電気代や水道代など
減価償却費 賃貸している建物や構築物のほか、工具器具備品や船舶・航空機の取得価額を耐用年数に応じて配分した金額
借入金利子 賃貸している土地や建物を購入するための借入金の利子(ただし、建物完成から賃貸開始までの期間に相当する支払利子は、建物取得価額に算入され減価償却費として処理される。また、元本返済分は経費には算入できない)
地代家賃 土地を借りて建物を建て、建物を貸し出している場合に、地主に支払う地代
広告宣伝費 賃貸物件の入居者募集のために支払った広告宣伝費
管理会社への業務委託料 賃貸している物件の管理を委託した不動産管理会社に支払う手数料

不動産所得で確定申告が必要となるのは?

不動産所得の確定申告が必要になるのは、基本的には、総収入金額から必要経費を引いた金額が20万円を超える場合です。ただし、申告者の働き方や他に所得があるかどうかによって変わります。

本業が会社員の場合、会社で年末調整を受けており、会社から受け取る給与(給与所得)と不動産所得以外の所得がないのであれば、不動産所得が20万円以下なら申告は不要です。ただし、副業で雑所得を得ていた場合や、雑所得と不動産所得の合計が20万円を超える場合は申告が必要になります。

会社員であっても、給与収入が2,000万円を超える場合や年末調整を受けていない場合、副業でアルバイトをしておりそちらでは年末調整を受けていない場合などは、不動産所得の金額にかかわらず所得税の確定申告が必要です。また、本業が個人事業主で、そちらで事業所得の確定申告が必要な場合は、不動産所得の額に関係なく確定申告が必要になります。

つまり、不動産所得の金額に関係なく、ほかの何らかの事情により、確定申告を提出しなければならない場合には、不動産所得の金額が20万円以下であっても、確定申告に内容に含める必要があるということを押さえておきましょう。

不動産貸し付けが事業的規模だとさまざまなメリットがある

不動産所得は、不動産貸し付けが事業的規模で行われているのかどうかによって、所得金額を計算する際に経費として計上できる範囲などに多少違いがあります。

不動産貸し付けが事業的規模といえるかどうかは、原則として社会通念上、事業といえる規模かどうかで判断されます。建物については下記の形式的な基準にあてはまれば、事業的規模として扱われます。これを形式基準といいます。

事業的規模とみなされる賃貸物件の規模の目安

  • アパートの場合:部屋数が10室以上
  • 戸建ての場合:物件数が概ね5棟以上(おおむね戸建て1棟でアパート2室と同等とされます)
  • 駐車場の場合:50台以上(おおむね5台分でアパート1室と同等とされます)

なお、アパート、戸建て、駐車場が混在している場合は、アパートの室数に換算して計算します。戸建てはアパート2室と同等、駐車場は5台分でアパート1室と同等です。例えば、アパートが7室、戸建てが1棟、駐車場が5台であれば、アパートの室数は、7室+2室(戸建て1棟)+1室(駐車場5台)=10室となり、形式基準としての事業的規模を満たします。

事業的規模である場合は、下記のようなメリットがあります。

不動産貸し付けが事業的規模である場合のメリット

  • 最大65万円または55万円の青色申告特別控除を受けられる(事業規模でない場合、青色申告特別控除額は最大10万円)
  • 青色申告の事業専従者給与または白色申告の事業専従者控除が適用される
  • 貸倒損失を必要経費として扱える
  • 資産損失の全額を経費算入できる

青色申告だとさらにメリットが増加!事業所得とは税制優遇に違いも

10種類の所得のうち、事業所得、不動産所得、山林所得の3つの所得がある場合、確定申告の申告方法には、「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。

青色申告で65万円または55万円の青色申告特別控除を受ける場合には、複式簿記で記帳し、確定申告では「損益計算書」と「貸借対照表」を出さなくてはいけません。白色申告は、比較的帳簿付けが簡単な簡易帳簿で良い代わりに、税制優遇等は受けられないものです(青色申告特別控除が最大10万円控除の場合は、簡易簿記で、損益計算書のみで構いません)。不動産所得は青色申告とすることができますが、事業所得の場合とは受けられる税制優遇の内容に違いがあります。

まず事業所得の青色申告の場合は、下記のような税制優遇が受けられます。

事業所得を青色申告した場合に受けられる税制優遇

  • 最大65万円または55万円の青色申告特別控除を受けられる
  • 青色事業専従者給与を必要経費として計上できる
  • 純損失の繰り越し、繰り戻しができる
  • 貸倒引当金を計上できる
  • 少額減価償却資産の特例が使える

これに対し、不動産所得の青色申告で受けられる税制優遇は下記のとおりとなります。

不動産所得を青色申告した場合に受けられる税制優遇

  • 青色申告特別控除が受けられる(事業的規模の場合は最大65万円または55万円、それ以外の場合は最大10万円)
  • 青色事業専従者給与を必要経費として計上できる(事業的規模の場合のみ)
  • 純損失の繰り越し、繰り戻しができる
  • 少額減価償却資産の特例が使える

事業所得の申告では規模にかかわらず認められている「最大65万円または55万円の青色申告特別控除」と「青色事業専従者給与の必要経費への計上」が、不動産所得の青色申告では、事業的規模の場合にのみに認められるようになっています。

なお、5階建てのビルのオーナーが2~5階を貸し出し、自身は1階で店舗を営んでいるケースのように、事業所得と不動産所得を両方得ている人(いわゆる兼業)が青色申告を行う場合は、不動産所得が事業的規模でなくても、最大65万円または55万円の青色申告特別控除を受けられます。

なお、この場合、最大65万円または55万円の青色申告特別控除は不動産所得から差し引くこととなっていますので、事業的規模でない不動産所得から10万円差し引き、残りの部分を事業所得から差し引くことになります。不動産所得と事業所得の両方で最大65万円または55万円の青色申告特別控除を受けられるわけではない点に注意しましょう。

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不動産所得に対するインボイス制度への対策

2023年10月1日からインボイス制度が導入されました。インボイス制度とは、適格請求書(インボイス)を発行・保存することで、消費税の納税に関する制度です。テナントが事務所や店舗だった場合、賃料に消費税がかかりますから、インボイス制度への対策を検討する必要があります。

ここでは、不動産所得のある人のインボイス対策についてご説明します。

インボイス制度への対策が必要な理由

適格請求書発行事業者は、仕入税額控除を適用することができます。仕入税額控除とは、商品を販売した際に消費者から預かった消費税から、商品の仕入れの際に支払った消費税差し引くことです。仕入税額控除を適用するには、仕入れに際して受け取った請求書もインボイスである必要があります。

インボイスではない場合、仕入れの際に支払った消費税が控除されないため、テナントが、消費税の一般課税方式を採っていた場合、消費税を含んで支払っても、納税額から家賃に含んで支払った消費税が控除できないという不都合が生じます。なお、2023年10月のインボイス制度開始後も、免税事業者等からの課税仕入れについても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額として控除できる経過措置が設けられています。

インボイスを発行できるのは適格請求書発行事業者のみです。適格請求書発行事業者になるには、税務署へ申請が必要ですが、課税事業者でなければ申請ができません。

基本的には、年間の課税売上が1,000万円を超えると課税事業者、超えない場合は免税事業者となります。免税事業者は適格請求書発行事業者になるための申請ができないため、適格請求書の発行をする場合は、税務署に課税事業者として登録した上で、適格請求書発行事業者の申請が必要です。

なお、経過措置により、2023年(令和5年)10月1日から2029年(令和11年)9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合には、免税事業者は、適格請求書発行事業者の登録申請書を提出するだけで、課税事業者となり、適格請求書発行事業者として登録を受けることができます。

自分の不動産所得の消費税が居住向けの非課税か、テナント向けの課税かによって変わってきますし、課税の場合はテナントが適格請求書発行事業者か否かによって対策が変わってきますので、しっかり検討してください。

不動産所得が住宅用の賃料のみの場合

アパートやマンションなどの住宅用の賃料は、基本的に非課税です。収入が住宅の家賃収入のみという場合はインボイス制度への対策は必要ないでしょう。なお、不動産所得以外の所得がある場合は、その所得の状況に応じて、インボイス制度への対策を講じる必要があります。

不動産所得が事務所や店舗の賃料の場合

事務所や店舗など、消費税が課税される家賃収入がある場合には、テナントが免税事業者か課税事業者かによって、インボイス制度への対策が変わります。自身とテナントの状況に応じて適切な対策をとりましょう。

テナントが免税事業者の場合

テナントとして入居している事務所や店舗が免税事業者であれば、インボイスを発行する必要はありませんので、インボイス制度への対策は必要ありません。

テナントが課税事業者の場合

テナントが課税事業者である場合は、適格請求書の発行を求められる可能性があるため、インボイス制度への対策が必要です。また、テナントが課税事業者であっても、簡易課税制度を選択している場合には、仕入税額控除の適用の有無が消費税の計算に影響を与えることはありません。ただし、現在は免税事業者でも、インボイス制度の導入を機に適格請求書発行事業者になった場合には注意が必要です。適格請求書発行事業者になるということは同時に課税事業者になるということですので、テナントの状況をしっかり確認することが大切です。

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不動産所得が20万円を超えた場合は、年末調整を受けている会社員でも確定申告が必要になります。固定資産税や損害保険料など、不動産収入を得るために支出した費用は必要経費として計上できるので、忘れずにしっかりと計上しましょう。

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この記事の監修田中卓也(田中卓也税理士事務所)

税理士、CFP®
1964年東京都生まれ。中央大学商学部卒。
東京都内の税理士事務所にて13年半の勤務を経て独立・開業。
従来の記帳代行・税務相談・税務申告といった分野のみならず、事業計画の作成・サポートなどの経営相談、よくわかるキャッシュフロー表の立て方、資金繰りの管理、保険の見直し、相続・次号継承対策など、多岐に渡って経営者や個人事業主のサポートに努める。一生活者の視点にたった講演活動や講師、執筆活動にも携わる。

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