無形固定資産と有形固定資産とは?種類や減価償却の方法を解説
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固定資産は、「無形固定資産(形がなく目に見えないもの)」と「有形固定資産(形があり目に見えるもの)」の2つに大別されます。無形固定資産と有形固定資産は、どちらも費用計上時には、耐用年数に基づいて取得価額を分割する「減価償却」の処理が必要です。固定資産の減価償却は、税額の算出にも大きな影響を及ぼすため、正しく理解することをおすすめします。
とはいうものの、固定資産の種類や減価償却の方法について、難しく感じている方も少なくないでしょう。特に、無形固定資産については、「形のない固定資産とはどのようなものか」と疑問を抱く方もいるかもしれません。
本記事では、無形固定資産と有形固定資産に該当する資産の種類や減価償却の計算方法などについて解説します。
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無形固定資産は具体的な形を持たず財産的な価値を有する資産
無形固定資産は、形がなく、目に見えない(視認できない)固定資産を指します。具体的な種類は後述しますが、代表例として、のれん(営業権)や特許権、ソフトウェアなどがあげられます。
なお、固定資産とは、流通や販売を目的とせず企業が長期間にわたり保有する資産、または現金化・費用化に1年以上かかる資産のことです。固定資産は資産の性質や特徴によって、「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」という3つの種類に分けられ、このうち、物理的な形状を持たないものが無形固定資産、投資その他の資産に該当します。そのうち無形固定資産は、物理的な形は持たないものの、長期的に利用されることで事業収益に貢献する経済的価値を持ち、貸借対照表上「資産の部」に計上されます。
無形固定資産の種類
無形固定資産には、主に以下の種類が含まれます。
無形固定資産の種類 | 内容 |
---|---|
特許権 | 特許法に基づいて登録された発明(自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの)を保護するための権利。その発明を、権利者が一定期間独占的に実施できる。 |
商標権 | 商標法に基づいて登録された商標を、独占的に使用できる権利。商標とは、自社(自分)の取り扱う商品やサービスを他社(他人)のものと区別するために使用するネーミングやマーク(識別標識)のこと。 |
実用新案権 | 物品の形状、構造または組み合わせにかかる考案を保護するための権利。実用新案法に基づいて登録された考案を、権利者が一定期間独占的に実施できる。 |
意匠権 | 物、建築物、画像のデザインに対する独占排他権。意匠登録をすることで、そのデザインを独占的に使用でき、他社によるデザインの模倣を防げる。 |
借地権 | 建物を建てる目的で地代を払って他人から土地を借りる権利。 |
鉱業権 | 鉱業法に基づき、一定の区域において鉱物のある地層から鉱物を採掘し、取得できる権利。土地の所有権を持っていても、鉱物を採掘してその鉱物を取得するには、一部の例外を除き鉱業権が必要。 |
ソフトウェア | コンピューターに一定の仕事を行わせるためのプログラムの総称。システム仕様書やフローチャートなどの関連文書まで含めて、「ソフトウェア」として扱われる。なお、クラウド型のソフトウェアは利用者側では利用権の購入になるため無形固定資産には該当しない。 |
のれん | 企業買収などの際に表面化する、企業のブランド力や技術力、顧客との関係など目に見えない価値のある資産。具体的には、企業を買収する際に支払った金額と、買収対象企業の純資産額との差額を指す。 |
電話加入権 | NTTの加入電話回線(固定電話回線)を利用できる権利。 |
有形固定資産は目に見えて形として残る資産
有形固定資産とは、物理的な形状を持ち、目に見える固定資産のことです。具体的には、事業に用いられる土地や建物、車、機械設備などが有形固定資産に該当します。事業者が長期間使用を目的として保有する物理的資産が有形固定資産に該当し、貸借対照表の「資産の部」に計上されます。ただし、不動産会社が販売を目的に保有する土地などは「商品」として扱われ、固定資産には該当しません。
企業が有形固定資産をどれだけ有効活用しているかを判断する指標として「有形固定資産回転率」があります。有形固定資産回転率は以下の計算式で求められ、この数値が高いほど、有形固定資産の運用効率が高いと評価されます。
有形固定資産回転率の計算式
有形固定資産回転率(回)=売上高/(有形固定資産(建設仮勘定を除く)×(期首・期末平均))
有形固定資産の種類
有形固定資産には、主に以下のような種類が含まれます。
有形固定資産の種類 | 内容 |
---|---|
土地 | 事業のために所有・使用する土地のこと。具体的には、事務所、店舗、社宅などの敷地の他、資材置場、駐車場、運動場などが該当する。 |
建物および付属設備 | 事業活動のために所有し使用している建物本体とその付属設備を指す。建物には事務所、店舗、工場、倉庫、社宅などが、付属設備にはエレベーター、給排水設備、電気設備、冷暖房設備、照明設備などが該当する。 |
構築物 | 土地に恒久的に設置された、建物以外の工作物や土木設備、建造物など。塀やフェンス、看板、道路、トンネル、橋などが該当する。 |
機械および装置 | 事業活動のために所有し使用している機械や装置、ならびにこれらに付随する設備などを指す。具体的には、製造・製作用機械、装置、コンベヤーなどの搬送設備、建設機械などが該当する。 |
車両および陸上運搬具 | 営業用車両やオートバイ、トラック、バス、フォークリフトなど、事業目的の自動車やその他の陸上運搬具のこと。 |
船舶および水上運搬具 | 漁船や貨物船、モーターボート、タンカーなど、事業目的の船舶・水上運搬具を指す。 |
固定資産と流動資産、繰延資産との違い
貸借対照表の「資産の部」には、無形固定資産や有形固定資産といった固定資産の他、「流動資産」と「繰延資産」が表示されます。これらの資産は、それぞれの性質に応じて区分されます。
固定資産と流動資産の主な違いは、現金化のしやすさ(流動性)です。流動資産は、1年以内に現金化が見込まれる資産であり、現金預金や商品在庫、売掛金などが含まれます。それに対して、固定資産は企業の資産のうち長期にわたって保有するものや、現金化に1年以上の時間がかかる資産を指します。
また、繰延資産とは、支出した費用のうち、その効果が1年以上継続するために一時的に資産計上される資産です。具体的には、開業費や開発費などが該当します。繰延資産は一時的に資産として計上し、その後、一定期間にわたって償却し、費用化します。固定資産の減価償却と仕組みは似ていますが、繰延資産は「期をまたいで費用化する支出」であり、固定資産のような恒常的な財産価値を持つわけではありません。
貸借対照表では、資産は「流動資産」「固定資産」「繰延資産」の3種類に分けて記載され、これら3つの資産を合計した金額が「総資産」となります。
固定資産の減価償却
減価償却とは、固定資産の取得価額を耐用年数に応じて分割し、各会計期間に費用として配分する会計処理です。
無形固定資産と有形固定資産は、「減価償却資産」と「非減価償却資産」に分類されます。減価償却資産とは、使用や経年によって価値が減少する資産であり、決算時に償却処理が必要です。それに対して、非減価償却資産とは、時間の経過や使用によっても価値が減少しない資産を指します。減価償却の対象とはならず、貸借対照表には取得原価で計上されます。
例えば、借地権や電話加入権は長期間経過しても価値が変動しにくいため、減価償却は行いません。また、有形固定資産のうち、土地や骨董など時間が経っても価値が下がらない資産は、同じく非減価償却資産となります。税法上、取得価額が10万円以上で、使用可能期間が1年以上の資産は、減価償却資産としての処理が必要です。この取得価額には、資産本体の価格に加え、設置費・運送費・購入手数料などの付随費用も含まれます。
なお、青色申告をする中小企業等や個人事業主には、取得価額が30万円未満の減価償却資産を取得した際、合計額300万円を限度として全額をその年度の経費として計上できる「少額減価償却資産の特例」があります。ただし、この特例には適用期限があるので、最新の税制改正情報を確認し、期限内に適用手続きを行うよう注意しましょう。
減価償却の計算方法
減価償却の主な方法には、「定額法」と「定率法」の2種類があります。
定額法は、毎年同じ金額を減価償却費として計上する方法、定率法は、取得価額に対する一定の割合で毎年償却費を計上する方法です。それぞれの計算式は以下のとおりです。
定額法の計算式
減価償却費(償却限度額)=取得価額×定額法の償却率
定率法の計算式
減価償却費(償却限度額)=(取得価額-前年までの減価償却累計額)×定率法の償却率
定額法と定率法の償却率は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に定められています。なお、有形固定資産の減価償却をする際は、減価償却後も帳簿上で資産の存在を示すため、1円の残存価額を残します。この1円は「残存価額(残存簿価)」と呼ばれ、減価償却後も資産の存在を帳簿上で示すための措置です。
無形固定資産の減価償却
無形固定資産の減価償却は、原則として残存価額をゼロとして、定額法で償却します。資産の種類ごとに定められた税法上の耐用年数(法定耐用年数)は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に定められています。主な無形固定資産の法定耐用年数は、以下の表のとおりです。
無形固定資産の耐用年数
無形固定資産の種類 | 耐用年数 |
---|---|
特許権 | 8年 |
商標権 | 10年 |
実用新案権 | 5年 |
意匠権 | 7年 |
鉱業権 | 納税地の税務署長が認定した年数 |
ソフトウェア | 複写して販売するための原本 3年 その他のもの 5年 |
のれん | 5年 |
また、減価償却の仕訳方法は、大別して「直接法」と「間接法」の2種類があります。直接法は、減価償却費を固定資産の取得価額から直接差し引いていく仕訳方法です。その一方で、間接法は、減価償却の額を固定資産の取得価額から減じるのではなく、減価償却費を「減価償却累計額」として別勘定で計上します。なお、無形固定資産の減価償却は、直接法で行います。具体的な仕訳例は以下のとおりです。
仕訳例:自社の業務に利用するため、50万円のソフトウェアを購入した。法定耐用年数は5年、1年間の減価償却費は10万円となる。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 100,000円 | ソフトウェア | 100,000円 |
有形固定資産の減価償却
有形固定資産の減価償却は、建物、附属設備、構築物については定額法とされています。また、法人はそれ以外の資産の減価償却については、原則として定率法です。個人事業主は、すべての資産について原則として定額法により減価償却を行います。ただし、定められたもの以外であれば、税務署への届出により、償却方法の変更が可能です。
有形固定資産の法定耐用年数は、国税庁の「主な減価償却資産の耐用年数表」で確認できます。なお、有形固定資産の場合、減価償却の仕訳方法は、直接法と間接法のどちらを選んでもかまいません。どちらの方法を採用しても、納税額に影響はありません。具体的な仕訳例は以下のとおりです。
直接法での仕訳例:業務用に32万円のパソコンを購入した。法定耐用年数は4年、1年間の減価償却費は8万円となる。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 80,000円 | 固定資産 | 80,000円 |
間接法での仕訳例:業務用に32万円のパソコンを購入した。法定耐用年数は4年、1年間の減価償却費は8万円となる。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 80,000円 | 減価償却累計額 | 80,000円 |
固定資産の管理におけるポイント
固定資産を管理するには、資産の種類を把握し、税法上のルールに則って減価償却などの処理を行う必要があります。作業が煩雑になるとミスの発生リスクが高まるため、以下のポイントを意識して、正確かつ効率的な固定資産の管理を行いましょう。
社内でルールを周知する
固定資産の管理を適切に行うには、社内で管理ルールを周知・徹底することが大切です。
固定資産の管理には、固定資産台帳の作成は欠かせません。固定資産台帳は、企業が保有する固定資産を管理するための帳簿で、固定資産の取得から減価償却の状況、固定資産の売却、使わなくなった固定資産の廃棄や譲渡などの除却までの一連の情報を記録します。
固定資産台帳の作成や減価償却などの税務処理は、主に経理部門が担当します。しかし、実際に固定資産を購入・使用するのは現場の各部門です。各部門からの連絡・報告がなければ、経理部門では実態を把握できません。そのため、固定資産の取得や処分、日常管理に関するルールを整備し、社内に周知することが重要です。
加えて、年に数回、固定資産台帳と実際の資産の状態を突き合わせる作業を行うことをおすすめします。企業における固定資産の取得や処分は頻繁に行われるため、定期的な照合作業により、登録漏れや記録ミスを防ぐことができます。
固定資産管理システムを活用する
固定資産管理システムを活用することも、固定資産の管理におけるポイントとしてあげられます。
固定資産の管理は、事業運営や税務対応にも関わる重要な業務です。その一方で、固定資産に関する情報は多岐にわたり、手作業ではミスや抜け漏れなどを招く可能性があります。固定資産管理の手間を軽減し、ミスを防ぐには、固定資産管理システムの活用が効果的です。固定資産の情報管理や減価償却費の計算、仕訳などを固定資産管理システムで効率化できれば、業務全体の生産性と正確性の向上が期待できます。
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無形固定資産と有形固定資産の違いを把握して正しく管理しよう
固定資産は、目に見えない無形固定資産と、形のある有形固定資産に大別されます。無形固定資産と有形固定資産は、それぞれ減価償却資産と非減価償却資産に分類され、減価償却資産に該当する場合には、税法上のルールに基づいて適切に減価償却を行わなければなりません。無形固定資産と有形固定資産では、減価償却の計算方法や仕訳方法も異なります。さらに、減価償却費の計算・計上は複数年に及ぶため、継続的かつ正確な管理が不可欠です。減価償却費の仕訳におけるミスや漏れを防ぐために、「弥生会計 Next」などの会計ソフトを導入することで、より効果的な管理が可能となります。自社に適した会計ソフトを活用し、会計業務の効率化と正確性の向上を目指しましょう。
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この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
