紙の手形・小切手の廃止とは?メリットや対応策、ポイントを解説
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紙の手形・小切手は、企業間取引における決済方法の1つとして長年利用されてきました。現在も利用している企業は少なくないものの、政府は2026年度末までに紙の手形・小切手を廃止する方針を示しています。紙の手形・小切手を決済方法として利用している企業には、今後どのような対応が求められるのでしょうか。
本記事では、紙の手形・小切手の廃止によるメリットや企業に求められる対応策について解説します。紙の手形・小切手の廃止におけるポイントもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
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紙の手形・小切手は2026年度末までに廃止される予定
政府は2026年度末までに紙の手形・小切手の廃止および全面的な電子化の方針を示しました。これに伴い、各金融機関では電子化に向けた取り組みが進められています。
これまで紙の手形・小切手は企業間取引において広く利用されてきましたが、振出しなどの事務手続きが煩雑であり、郵送料・印紙税、管理にコストがかかること、紛失や盗難、不正利用といったセキュリティ上の課題がありました。そのため、2021年に全国銀行協会が廃止に向けた自主行動計画を策定し、政府の成長戦略実行計画において全面的な電子化に向けた方針が示されました。実際の運用においても、紙の手形・小切手は手作業での確認や処理が不可欠であり、電子決済と比べるとどうしても非効率になりやすいことがあります。
政府・全国銀行協会・金融業界が一体となり、紙の手形・小切手を廃止すると共に、電子化を推進することとなったのは、こうした背景によるものです。電子化によって金融システム全体の効率化が図られ、より迅速で安全な取引環境の整備が期待されます。
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出典:中小企業庁「資料3 約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会(第6回)配布資料
」
紙の手形・小切手の廃止によるメリット
紙の手形・小切手が廃止されることによって、企業にどのようなメリットがあるのでしょうか。主なメリットとしてあげられるのは以下の3点です。
資金繰りの改善につながる
紙の手形・小切手の廃止によるメリットは、手形・小切手を受領する側の企業にとって資金繰りの改善につながることです。
紙の手形・小切手は支払期日が数か月後に設定されるケースが多く見られ、受領から現金化するまでに時間差が生じていました。電子化されると、現金支払いへの切り替えや電子記録債権への切り替えにより割引などを活用しやすくなることで、従来に比べ早く資金化できるようになり、資金繰りの改善が期待できます。
特に、製造業や建設業のように取引額が大きくなりやすい業種では、現金化の時間短縮による効果は大きいでしょう。これまで資金繰りに苦慮していた企業では、資金面の懸念が払拭されることで、経営が安定化します。さらに、売上伸長や利益増に向けた施策に注力しやすくなり、結果として競争力の向上につながる効果も期待できます。
コストを削減できる
紙の手形・小切手の廃止によるメリットには、コスト削減効果もあります。
紙の手形・小切手によるやりとりでは、振出しや現金化の際に銀行窓口へ出向く必要があり、さらに手形帳への記入や郵送、印紙の貼り付けなどの事務作業が発生していました。電子化によってこれらの事務作業の負担が軽減されることに加え、郵送費や手数料、印刷代などのコストが削減できます。
また、事務作業の効率化によって人件費の削減効果も期待できます。紙の手形・小切手の場合、支払企業にとっては振出し作業、受取企業にとっては領収書の作成や手形の管理、取立依頼といった事務作業が必要でした。こうした業務負荷が支払企業と受取企業の双方で軽減されることにより、事務作業の効率化につながる効果が期待できます。結果として、事務作業を担当している従業員の作業時間短縮に伴い人件費が削減でき、繁忙期の一時的な増員も不要になるなど、大きなメリットがあります。このように、紙の手形・小切手の電子化は複合的なコスト削減策として効果を発揮する可能性が高いといえるでしょう。
紛失や盗難のリスクを低減できる
紛失や盗難のリスクを低減できることも、紙の手形・小切手の廃止によるメリットの1つです。
電子化によって紙の手形・小切手を扱う必要がなくなるため、支払企業・受取企業共に盗難や紛失のリスクを低減できることから、より安全性の高い取引が実現できるでしょう。
また、電子化された手形・小切手は、支払期日に自動的に入金処理が行われます。従来のように取立を行う必要がなくなるため、支払期日の失念によって発生しやすかった取立の漏れを防ぐ効果も期待できます。さらに、偽造手形や改ざんされた小切手による不正行為を未然に防ぐうえでも、より信頼性の高い取引環境を整える紙の手形・小切手の電子化は有効です。
紙の手形・小切手の廃止で企業に求められる対応策
紙の手形・小切手が廃止されることに伴い、企業はどのような対応が必要になるのでしょうか。今後求められる対応については、2021年3月31日に公正取引委員会が公表した通知が基本方針となります。具体的な内容は以下のとおりです。
下請代金の支払手段
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1.下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。
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2.手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額および当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。
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3.下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。
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4.前記1から3までの要請内容については、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、おおむね3年以内を目途として、可能な限りすみやかに実施すること。
なお、下請代金の支払は手形・小切手ではなく、可能な限り現金で行うことが推奨されている他、下請代金の支払サイト(決済期間)は60日以内に設定するよう求められています。企業はこれらのガイドラインに早急に対応するよう、社内で検討を進めていく必要があります。
紙の手形・小切手の代替として推奨される電子記録債権
紙の手形・小切手に代わる決済方法として推奨されているのが「電子記録債権」です。電子記録債権とは、2008年12月に施行された「電子記録債権法」により創設された決済方法を指します。債権情報を電子的に管理することにより、取引の迅速化やコスト削減を実現できる決済方法です。
電子記録債権による決済情報は金融機関のシステムを通じて記録されるため、スムーズな債権の発行や譲渡が可能になると共に、書類の紛失・偽造といったリスクの低減にもつながります。また、手続きがオンラインで完結し、移動や郵送の手間が省けることから、取引がより迅速に行えます。
さらに、電子記録債権はリアルタイムで資金の状況が確認できる点もメリットの1つです。企業の資金の流れを常に把握できるようになり、資金繰りの透明性が向上します。電子記録債権は、資金管理の効率化が期待できるため、多くの企業が導入を進めています。特に、中小企業にとって、電子記録債権は資金調達の手段としても有効です。電子化に伴い取引の透明性が増し、信頼性が向上することにより、金融機関からの評価も高まります。結果として、より有利な条件での融資が受けられる可能性も高くなるでしょう。資金調達の手段をできるだけ多く確保するためにも、電子記録債権の導入を検討することをおすすめします。
紙の手形・小切手の廃止におけるポイント
紙の手形・小切手が廃止されることに伴い、企業が取り組みたいポイントを以下にまとめました。電子化への移行期間をスムーズに乗り切るには、以下の3点を実践することが大切です。
代替決済方法への移行を進める
これまで紙の手形・小切手を利用していた企業は、代替となる決済方法への移行を進める必要があります。
具体的な代替決済方法としては、銀行振込等の通常の振込の他、インターネットバンキング、電子記録債権、クレジットカード決済、デビットカード、電子マネーなどがあります。
インターネットバンキング
インターネットバンキングは、インターネット上で提供される銀行のサービスです。
パソコン・スマートフォンなどのWebブラウザやアプリから銀行の専用サイトにアクセスし、あらかじめ登録したユーザーアカウントでログインすることにより、振込・振替・引出・預入といった各種手続きができます。通信環境が整っていれば、ATMや銀行窓口へ出向く必要がなくなる点がメリットです。また、銀行が提供しているインターネットバンキング関連のサービスと連携が可能な会計ソフトも少なくありません。利用明細を会計ソフトに直接取り込むことで、入力作業の負担が軽減される他、入力ミスのリスクも抑えられます。
電子記録債権
電子記録債権は、前述のとおり電子的に債権情報を管理する仕組みです。
金融機関のシステムを通じて手形・小切手の発行や譲渡などの取引情報が記録されるため、郵送などの処理を省略し、各種取引が迅速に行えます。また、紙の手形・小切手の懸念点とされていた盗難や偽造のリスクも低減できます。なお、電子記録はリアルタイムで更新されるため、資金の流れを把握しやすくなることもメリットです。
クレジットカード決済
法人カードによるクレジットカード決済を取り入れるのも1つの方法です。
クレジットカード決済は、銀行振込のように振込手数料が発生しないため、支払う側・請求する側のどちらが手数料を負担するかを事前に協議する必要がなくなります。また、クレジットカードの利用明細を自動で取り込める会計ソフトを活用すれば、仕訳入力作業の負担軽減にもつながる点もメリットです。なお、クレジットカードには取引金額の上限や利用限度額が定められているため、これらの範囲を超える決済をする際には、上限額の見直しを申請するか、別の決済方法を用いることになる点に注意しましょう。
デビットカード
デビットカードは、法人口座から即時に現金が引き落とされる仕組みのカードです。
クレジットカードの代替方法として利用できるため、クレジットカードを使いたくない場合にもデビットカードは活用できます。
電子マネー
電子マネーによる決済も、代替決済方法の1つです。
特に、少額の決済に関しては、電子マネーの活用を検討することをおすすめします。会計ソフトによっては、各種電子マネーの利用明細を自動で取り込める製品もあるため、仕訳入力作業の負担軽減につながるほか、小口現金の管理を効率化する効果も期待できます。
取引先と代替決済の調整を行う
紙の手形・小切手による決済が頻繁に行われてきた取引先に関しては、できるだけ早期に代替決済方法について調整する必要があります。
決済方法の変更に伴い、自社だけでなく相手先も事務処理のフローなどを検討しておかなくてはなりません。別の決済方法への移行をトラブルなく円滑に進めるためにも、十分な準備期間を設け、余裕をもってスケジュールを立てておくことをおすすめします。
社内での教育を行う
紙の手形・小切手が廃止される背景や代替決済方法について、社内での教育を行うこともポイントです。
取引先との間で代替決済方法について協議し、対応策を決定したにもかかわらず、経理担当者が把握していない事態は避けなければなりません。特に、経理部門や営業部門など、決済業務に頻繁に携わる部署には、社内研修・説明会の機会を重点的に設けることをおすすめします。代替決済方法が決定した場合は、事務処理や経理業務にどのような影響があるのか、具体的な変更点・業務フローの変化について丁寧に説明しましょう。
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紙の手形・小切手の廃止に向けた対応策を早めに検討しよう
2026年度末までに紙の手形・小切手が廃止されることに伴い、企業は代替決済方法への移行が求められます。長年にわたり紙の手形・小切手を使用してきた企業にとっては、少なからず負担に感じるかもしれません。しかし、紙の手形・小切手を電子化したり、代替決済方法を用いたりすることでメリットを得られるケースも多くあります。コスト削減や紛失・盗難リスクの低減、資金繰りの改善は、紙の手形・小切手を電子化する代表的なメリットといえるでしょう。紙の手形・小切手が廃止される時期に慌てることのないよう、業務効率化に役立つ会計ソフトと連携できる代替決済方法への移行を早めに検討し、取引先との調整を進めていくことが大切です。今回紹介した企業に求められる対応や代替決済方法の種類などを参考に、紙の手形・小切手の廃止に向けた移行計画を立ててみてはいかがでしょうか。
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この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
