飲食店起業・開業の流れとは?開業に必要なものや届出、注意点も解説
監修者: 森 健太郎(税理士)
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飲食店は、開業を目指す方々の中でも人気の業種の1つです。
ただ、飲食店は思い立ってすぐに開業できるものではありません。飲食店を開業するには、事業計画の策定や店舗の準備、メニューの考案、各種届出など、必要な作業が数多くあります。開業までの流れを確認して、計画的に準備を進めていかなければなりません。
ここでは、飲食店の開業に向けた具体的な流れに加え、必要な資金や届出についても解説します。
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飲食店を起業・開業するには進めやすい流れがある
規模や業態などによって異なりますが、飲食店を起業・開業する際は1年程度の準備期間が必要であることが一般的なため、進めやすい流れに沿って計画的に行う必要があります。コンセプト設計から物件探し、内装工事や必要備品の準備というように必要な作業が多いため、開業の流れに沿って見通しを立てながら進めないと、準備が終わらず開業できないといった事態になりかねません。
東京商工リサーチの「2024年上半期(1-6月)飲食業の『倒産動向』調査」によれば、2024年1~6月の飲食業倒産(負債1,000万円以上)は493件で、2年連続で過去最多を記録しました。飲食店は人気の業種で競合も多いため、長く安定した経営を続けていくには、事前の入念な準備が必要になるといえます。
飲食店の起業・開業に向けた準備は、主に以下のような流れで行います。それぞれのステップで必要となる、具体的な作業内容をあらかじめ確認しておきましょう。
飲食店を起業・開業するまでの流れ
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STEP1.【~1年前】開業したい店舗のコンセプトを考える
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STEP2.【1年前~6か月前】事業計画を検討する
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STEP3.【6か月~3か月前】店舗用の物件を探す
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STEP4.【3か月~2か月前】資金を調達する
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STEP5.【3か月~2か月前】店舗の施工や備品を準備する
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STEP6.【3か月前~】提供する具体的なメニューやレシピを考案する
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STEP7.【1か月前~】資格取得・届出を行う
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STEP8.【2か月前~開店】スタッフの採用や教育を行う
STEP1. 【~1年前】開業したい店舗のコンセプトを考える
飲食店の開業にあたり、まずは開業したい店舗のコンセプトを固めるようにしてください。コンセプトとは、どのような飲食店にするかというテーマや方向性のことです。店舗のコンセプトは、この後行う物件探しや内装デザイン、メニュー開発、価格設定などにも影響します。
飲食店のコンセプトを明確にするには、「5W1H」の手法が役立ちます。5W1Hとは、「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(誰が)」「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」の観点から物事を分析するフレームワークです。飲食店の場合、これに「How much(いくらで)」を加えた5W2Hで考える方法もあります。ターゲットのニーズを踏まえ、店内飲食やテイクアウト、デリバリーといった販売方法についても決めていきましょう。
ビジネスプランの考え方については以下の記事を併せてご覧ください。
STEP2. 【1年前~6か月前】事業計画を検討する
考案した店舗のコンセプトを基に、運営方法・経営戦略・収支計画を検討し、具体的な事業計画に落とし込みます。事業計画とは、起業・開業して事業をどのように行い、どのように収益を上げていくかを具体的にまとめた、経営指針のようなものです。事業計画を立てる際には、食材の仕入れや調理方法、見込み客数、コストなどを踏まえ、実現可能な規模から始めることがポイントです。提供する料理やサービスの特徴や価格だけでなく、誰にどのように提供するのか、資金繰りをどうするかなども併せて考えます。
事業計画を立てた後は、事業計画書を作成しましょう。事業計画書とは事業内容と収支計画をまとめた書類のことで、金融機関から融資を受ける際などに必要になります。また、事業計画書を見返すことで営業開始後の目標確認にも役立つため、融資を受ける予定がなくても作成することをおすすめします。
初めて事業計画書を作成する際には、決めておくべき項目をつかみにくいため、事業計画書の作成ツールなどを活用するとスムーズです。例えば、弥生株式会社の「創業計画をつくる」なら、Webページ上の質問に答えていくだけで、創業融資の申請時に使える事業計画書を無料で作成できます。
※事業計画については以下の記事や動画を併せてご覧ください
STEP3. 【6か月~3か月前】店舗用の物件を探す
コンセプトの設計や事業計画書の作成と並行して、店舗用の物件探しを進めていきます。店舗の場所が決まらないと、設備投資や賃料といった資金計画が定まらず、この後の資金調達が難しくなります。
物件を探す際には、候補のエリアにできるだけ足を運び、立地条件や人の流れ、競合店の状況などを確認するようにしてください。物件が決まったら、その内容を反映させて事業計画書をブラッシュアップさせましょう。
STEP4. 【3か月~2か月前】資金を調達する
事業計画を立て、店舗運営にかかる費用の見通しが立ったら、資金を準備します。
飲食店を起業・開業する際には、初期費用として、物件の取得費用や内外装費のほか、厨房や調理器具、冷蔵・冷凍、レジといった機器・設備費、広告費などがかかります。さらに、事業開始後には、材料の仕入れ代や店舗の家賃、光熱費、人件費といった毎月かかる運転資金も考えておかなければなりません。
不動産賃貸業を除く開業後1年以内の7,032社を対象とした日本政策金融公庫総合研究所の「2023年度新規開業実態調査」によると、開業費の平均値は1,027万円、中央値は550万円です。また、開業費用の分布は500万~1,000万円未満の割合が最も多くなっています。
ただ、飲食店の場合は、店舗を借りる契約金に加えて内外装の工事や設備投資が必要であるため、開業時の費用が高額になることが一般的です。店舗の規模や業態によっても異なりますが、一般的に飲食店を開くには、1,000万円程度の開業費が必要といわれているため、その程度の金額を見積もっておくとよいでしょう。
起業・開業に必要な費用を自己資金だけでまかなうことが難しい場合だけでなく、営業開始後、事業計画どおりに売上が上がらない場合に備えて、自己資金に加え、外部から資金調達をして備えておくと安心です。主な資金調達の方法には、日本政策金融公庫の「新規開業資金」、国や地方自治体による補助金・助成金などがあります。
※開業に必要な費用や融資制度については以下の記事を併せてご覧ください
STEP5. 【3か月~2か月前】店舗の施工や備品を準備する
店舗の内外装工事や、厨房機器、什器、備品の購入・設置などを行います。このとき注意したいのは、営業許可の設備基準をクリアしなければいけないことです。
飲食店の起業・開業にあたっては、保健所の営業許可が必要です。飲食店の営業許可の要件を確認しないまま工事を進めてしまうと、内装工事をしたのに施設基準を満たしておらず営業許可が下りないということになりかねません。
飲食店の営業許可の要件には、店舗に設置しなくてはいけない備品やサイズなどの規制があるため、工事着工前に保健所に図面などで確認してもらうといいでしょう。
STEP6. 【3か月前~】提供する具体的なメニューやレシピを考案する
コンセプトや事業計画で考えたメニューを再検討し、店舗で提供する具体的なメニューやレシピを決めます。提供するメニューにより必要な設備や備品が変わってくるため、内装工事や備品準備と並行してメニュー開発を進めるようにしてください。なお、メニューについては、開業後もお客さまの反応を見ながら改良するなど、こまめなアップデートが必要になります。
具体的なメニューやレシピを決めるときには、原材料費や利益率なども考慮する必要があります。また、飲食店を営業していくには、安定した仕入れの確保が欠かせません。提供するメニューがある程度固まったら、信頼できる仕入先を探しましょう。
STEP7. 【1か月前~】資格取得・届出を行う
飲食店を開業するには、前述した営業許可をはじめとした資格取得や届出の手続きが必要です。業態や店舗規模などによって異なるものの、飲食店に必須の資格・届出もあるため注意しましょう。
※許認可の申請が必要な業種については以下の記事を併せてご覧ください
STEP8. 【2か月前~開店】スタッフの採用や教育を行う
必要に応じてスタッフを募集し、調理や接客などの研修を行います。開業後のオペレーションをスムーズに行うために、ロールプレイングなどを実施するのもいいでしょう。
飲食店の開業には必要な資格や届出、申請がある
飲食店を開業する際には、「食品衛生責任者」の設置と「防火管理者」の選任が必要です。これらの資格の取得は、食品衛生法で定められています。また、保健所への「飲食店営業許可」申請も必須です。開業前に忘れずに取得をするようにしましょう。
飲食店の開業時に必要な資格と申請
- 食品衛生責任者
- 防火管理者
- 飲食店営業許可
食品衛生責任者
飲食店の開業時に必要な資格として、食品衛生法によってすべての飲食店に設置が義務付けられている、食品衛生責任者があります。食品衛生責任者になるには、都道府県が主催・認定する講習会を受講する必要があります。受講料は約1万円です。
なお、栄養士や調理師など所定の資格を保有している場合には、養成講習会を受けなくても食品衛生責任者の資格を取得できることも知っておきましょう。
防火管理者
飲食店の開業時に必要な資格として、店舗内の収容人数が30名以上の場合は、火災などの被害を防止するために置かなければいけない防火責任者もあります。
防火責任者の資格を取得するには、各地域の講習会場で講習を受けなければなりません。
講習会は、都道府県知事、市町村の消防長、一般財団法人日本防火・防災協会のいずれかが主催しており、各都道府県によって主催者が異なります。受講料は約7,000~8,000円です。詳しくは、それぞれのWebページをご確認ください。
飲食店営業許可
飲食店の開業時に必要な許可として、飲食店営業許可があります。飲食店が営業許可を取らずに営業を始めた場合、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられるうえに、罰則を受けてしまうと2年間営業許可を取得できません。
飲食店営業許可の申請先は、店舗所在地を管轄する保健所です。営業許可を受けるには、保健所による店舗の実地検査が行われます。
さらに、このほかにも、業態や規模、従業員の有無などによって必要な手続きがあります。飲食店を開業する際に必要となる主な手続きを、以下の表で確認しておきましょう。
飲食店開業に関する手続きと提出先、期限
手続きの名称 | 提出先 | 提出条件 | 提出期限 |
---|---|---|---|
営業許可申請書 | 保健所 | 必須 | 遅くともオープンの10日前まで(オープン前までに許可を受ける必要があるため) |
防火管理者の選任(解任)届出書 | 消防署 | 30人以上収容できる店舗の場合 | 選任後すみやかに |
防火対象物使用開始届出書 | 消防署 | 必須 | オープンから1ヵ月以内(内装施工業者が出す場合もある) |
防火対象物工事等計画届出書 | 消防署 | 使用形態を変更して工事を行う場合(居抜きも含む) | 工事着手日の7日前まで |
火を使用する設備等の設置(変更)届出書 | 消防署 | 火を使用する設備などを設置する場合 | 使用開始7日前まで(内装施工業者が出す場合もある) |
深夜における酒類提供飲食店営業開始届出書 | 警察署 | 深夜12時から午前6時までの深夜時間帯にお酒を提供する場合 | 営業を開始する10日前まで |
風俗営業等の許可申請書 | 警察署 | 従業員が接待しながら飲食を行う場合 | できる限り早めに(許可を受けた後でないと営業できないため) |
個人事業の開業・廃業等届出書(開業届) | 税務署 | 個人で開業する場合 | 開業から1か月以内 |
所得税の青色申告承認申請書(青色申告承認申請書) | 税務署 | 青色申告を行う場合 | 承認を受けたい年の3月15日まで(開業が1月16日以降の場合は、開業から2か月以内) |
労災保険の加入手続き | 労働基準監督署 | 従業員を雇用した場合 | 雇用してから10日以内 |
雇用保険の加入手続き | 公共職業安定所(ハローワーク) | 従業員を雇用した場合(一定の従業員は除く) | 雇用してから10日以内 |
飲食店の開業手続きを手軽に行う方法
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また、開業後は、日々の帳簿付けや毎年の確定申告が必要になります。事業が本格的に動き出してから慌てることのないように、開業のタイミングで会計ソフトや確定申告ソフトを導入しておくといいでしょう。クラウド確定申告ソフト「やよいの青色申告 オンライン」なら、簿記や会計の知識がなくても、最大65万円の青色申告特別控除の要件を満たした青色申告の必要書類を簡単に作成できます。
※飲食店を個人事業主として開業した方の事例については以下の記事を併せてご覧ください
飲食店の開業は流れに沿ってスムーズに進めよう
飲食店を開業するには、事業計画を立てたり資金を準備したりするだけでなく、許認可の申請など、やらなければならないことが山ほどあります。いくら資金が十分にあっても、コンセプトがあいまいなままでは、すぐに行き詰まってしまうことにもなりかねません。
まずはしっかりと開業する店舗のコンセプトや事業計画を立てるだけでなく、税理士などの専門家に相談したり、「弥生のかんたん開業届」や「やよいの青色申告 オンライン」などのクラウドサービスを活用したりして、開業をスムーズに進めていきましょう。
この記事の監修者森 健太郎(税理士)
ベンチャーサポート税理士法人 代表税理士。
毎年1,000件超、累計23,000社超の会社設立をサポートする、日本最大級の起業家支援士業グループ「ベンチャーサポートグループ」に所属。
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