定款変更にかかる費用は?手続きの流れや注意点を解説
監修者:森 健太郎(税理士)
2024/05/20更新
会社を設立するときに、必ず作成しなければいけないのが定款です。定款は会社設立時に作成するだけではなく、記載内容が変わったときには、その都度変更しなければなりません。
定款の変更は、会社に保管してある定款を書き換えればいいというものではないことにも、注意が必要です。定款を変更するには、所定の手続きが必要になり手間がかかるうえ、変更内容によっては費用がかかります。そのため、会社設立時には、できるだけ定款を変更しなくても済むように、定款の記載事項について検討しておかなければなりません。
ここでは、定款変更にかかる費用や必要となるケース、なるべく定款変更をしないで済むように会社を設立する方法などについて解説します。
なるべく変更しないで済むように、会社設立時に定款を作成する
定款の内容に将来的に変更が生じた場合は定款変更の手続きが必要になりますが、手間や費用がかかるため、なるべく将来的にも変更がないように会社設立の際に定款を作成するようにしましょう。
定款変更の手続きを行う際は、会社法に定めがあるため、株式会社は株主総会での特別決議が、合同会社は総社員の同意が必要です。定款変更は手続きにそのような手間がかかるうえ、変更箇所が登記事項に該当する場合には、法務局への変更登記の申請や費用の支払いも行わなければなりません。
そのため、会社設立にあたって定款を作成するときには、変更の可能性を考えて作成するようにしましょう。
※会社設立の流れについては以下の記事を併せてご覧ください。
定款変更の内容に応じてかかる費用が異なる
定款の変更には、株主総会を開催するなどの事務的な手間や費用は発生しますが、それ以外に費用はかかりません。しかし、定款変更に伴って変更登記申請を行う場合は、変更内容に応じて、所定の登録免許税がかかります。
主な変更と登録免許税の金額は、以下のとおりです。
変更項目 | 登録免許税の金額 |
---|---|
商号(会社名)の変更 | 1件につき3万円 |
事業目的の変更 | 1件につき3万円 |
本店所在地の変更 | 管轄法務局の区域内なら1か所につき3万円(管轄法務局の区域外へ移転する場合は、新旧それぞれの住所で必要になるため計6万円) |
役員の変更 | 1件につき1万円(資本金が1億円を超える会社は1件3万円) |
増資 | 増加した資本金額の0.7%、または3万円のどちらか多い金額 |
その他、変更登記の手続きを司法書士に依頼した場合は、別途費用がかかることも考慮しておく必要があります。
※変更登記にかかる登録免許税については以下の記事を併せてご覧ください。
定款の記載項目には、定款変更の手続きが必要になる場合とならない場合がある
定款の記載事項は、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」、記載がないとその事項については効力が生じない「相対的記載事項」、会社が任意で記載できる「任意的記載事項」の大きく3つに分類されますが、定款変更の手続きが必要になる場合とならない場合があります。
絶対的記載事項は、記載が義務付けられている項目なので、変更する際は必ず定款変更を行う必要があります。一方、相対的記載事項や任意的記載事項は、法律で義務付けられた記載事項ではありません。しかし、定款に記載した場合には、定款変更の手続きが必要です。
絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項の内容は、以下のとおりです。株式会社と合同会社でどのような項目があるか、混同しないように確認しておきましょう。
株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
絶対的記載事項 |
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相対的記載事項 |
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任意的記載事項 |
|
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※株式会社や合同会社の定款への記載事項ついては以下の記事を併せてご覧ください。
定款変更時に変更登記も必要になる場合がある
前述した定款の記載事項の中には、登記事項に該当するものがあるため、定款変更を決議した株主総会議事録(合同会社の場合は総社員の同意書)とともに、法務局への変更登記申請が必要になります。
定款の記載内容を変更する際、変更登記も必要になるのは、主に以下のとおりです。
商号(会社名)の変更
会社名を変更するときには、定款の変更とともに商号変更登記が必要です。
事業目的の変更
会社の事業目的は登記事項になります。そのため、新規事業を立ち上げたり既存事業から撤退したりして、定款の事業目的を変更したときには、併せて変更登記が必要です。
本店所在地の変更
会社の所在地が変わったときには、本店移転の変更登記をしなければなりません。
なお、定款に記載する本店所在地は、最小行政区画(東京23区内なら区、郡なら町・村、それ以外は市)まででも登録可能です。その場合、同じ区画内での移転なら定款の変更は不要ですが、変更登記は必要になります。
役員の変更
役員の変更は、基本的に定款に記載された事項に基づいて行われるため、定款変更は不要です(変更登記は必要です)。ただし、役員の人数や任期を変える場合は、定款変更は必要になります(変更登記は不要です)。
増資
定款に記載する資本金額は、「◯◯円以上」と最低金額にしておくことも可能です。その場合は、増資をしても定款の変更は不要です。ただし、増資のために定款で定めた発行可能株式総数を超える株式を発行する場合は、定款変更の手続きをしなければいけません。また、資本金額を変更したときには、定款変更の有無にかかわらず変更登記が必要になります。
また、株式の譲渡制限や発行済株式、公告方法などへの定めについても、定款変更と同時に変更登記が必要です。その他、定款の記載内容によっては、支店の設置や廃止、会社の存続期間、解散の理由、発行株式の内容、株式予約権に関する事項など、変更登記申請が必要なものがあります。
実際に定款変更を行う際は、登記申請が必要かどうかも調べるようにしてください。
定款を変更する手続きには注意点がある
定款変更の手続きをする際には、いくつかの注意点があります。
前述したように、定款の記載項目は多岐にわたります。また、定款の記載項目が登記事項にあたる場合は、定款変更と併せて変更登記が必要になり、費用が発生します。
定款変更の手続きをする際の注意点
- 登記変更が必要な場合は、変更が生じてから2週間以内に申請する必要がある
- 株主総会の特殊決議が必要になる場合がある
- 原始定款には変更を加えてはいけない
- 公証人の認証は不要である
登記変更が必要な場合は、変更が生じてから2週間以内に申請する必要がある
定款を変更する手続きの注意点として、登記変更が必要な場合は、変更が生じてから2週間以内に申請する必要があることがあげられます。
変更登記の期限は原則として、登記事項に変更が生じてから2週間以内です。そのため、変更する項目が登記事項に該当する場合、定款変更から2週間以内に、法務局へ変更登記申請の手続きをしなければなりません。2週間以内に変更手続きをしないと、100万円以下の過料に処される場合があるため、注意しましょう。
株主総会の特殊決議が必要になる場合がある
定款を変更する手続きの注意点として、株主総会の特殊決議が必要になる場合があることがあげられます。
定款を変更するには、株主総会で定款変更についての特別決議を得て、議事録を作成しなければいけません。特別決議の条件は、行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成することなので、普通決議よりも難度は高くなります。
さらに、株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定款変更や、全部の株式を譲渡制限とする定款変更をする場合は、株主総会の特殊決議が必要になります。特殊決議は、内容に応じて議決権を行使できる株主の半数以上が出席し、なおかつその3分の2以上、または4分の3以上の賛成で成立する決議のことです。
なお、合同会社の定款を変更するには、原則として全社員による決議と承認が必要です。
原始定款には変更を加えてはいけない
定款を変更する手続きの注意点として、原始定款には変更を加えてはいけないことがあげられます。
原始定款とは、会社設立時に作成した定款のことです。定款を変更する場合は、変更内容を反映した新たな定款を作成し、それを現行定款として、原始定款とともに保管しなければなりません。
公証人の認証は不要である
定款を変更する手続きの注意点として、公証人の認証は不要であることがあげられます。
株式会社は設立時に、公証役場で定款の認証を受けます。しかし、会社の設立後、既に認証された定款を変更する場合は、公証役場での認証手続きは必要ありません。
なお、合同会社は、会社設立時を含めて定款認証は不要です。
※定款の認証については以下の記事を併せてご覧ください。
なるべく定款変更しないで済むように会社を設立する
解説してきたように定款変更にはさまざまな手間と費用がかかるため、会社設立にあたって定款を作成する際には、なるべく将来的にも変更しないで済むように意識しておきたいものです。将来の定款変更をできるだけ避けるには、次のようなポイントに気を付けるといいでしょう。
なるべく定款変更しないで済むように会社を設立する方法
- 事業年度の設定をよく検討する
- 事業目的には将来行う可能性のある事業も入れておく
- 本店所在地を最小行政区画までの表記にしておく
- 役員の任期を適切に設定する
事業年度の設定をよく検討する
なるべく定款変更しないで済むように会社を設立する方法として、事業年度の設定をよく検討することがあげられます。
事業年度は任意的記載事項であるものの、株主の利益配当の時期を明確にするために、定款に記載することが一般的です。事業年度は会社が決算書を作成するために区切る年度のことですが、最終日が決算日になるため、事業年度を定めるには決算日をいつにするかを決めなければなりません。
決算日を決めるには、国の会計年度に合わせて3月にするほか、さまざまな考え方があります。事業年度を変えると定款変更が必要になるので、設立時に熟慮して決めるようにしましょう。
※事業年度については以下の記事を併せてご覧ください。
事業目的には将来行う可能性のある事業も入れておく
なるべく定款変更しないで済むように会社を設立する方法として、事業目的には将来行う可能性のある事業も入れておくことがあげられます。
特に、許認可が必要な事業を行う場合、要件に適した事業目的が記載されていないと許認可申請ができません。後になって事業目的を追加すると、定款変更に加えて変更登記も必要になってしまいます。なお、事業目的の項目の最後に「前各号に附帯または関連する一切の事業」と記載しておくと、会社設立時に想定していなかった事業でももともとの事業目的に関連性があれば、定款の記載内容を変更せずに事業を行うことが可能になります。
ただし、あまりにも事業目的の数が多すぎると、何がメインの事業なのか、実態がわからなくなってしまうかもしれません。一貫性のない事業や、本業とまったく関係ない事業が並んでいると、取引先や金融機関から不信感を持たれるおそれがあるため注意しましょう。
本店所在地を最小行政区画までの表記にしておく
なるべく定款変更しないで済むように会社を設立する方法として、本店所在地を最小行政区間までの表記にしておくことがあげられます。
最小行政区画とは、全国の市町村や東京23区、政令指定都市のことをいいます。例えば、東京23区にある会社だとすると、「当会社は、本店を東京都渋谷区に置く。」というように定款に記載します。
住所表記を最小行政区画までにしておけば、将来的に本店を移転しても、同じ市区町村内なら定款の変更が不要になることを把握しておきましょう。
役員の任期を適切に設定する
なるべく定款変更しないで済むように会社を設立する方法として、役員の任期を適切に設定することがあげられます。
株式会社の取締役の任期は原則として2年ですが、非公開会社では最長10年まで延長が可能です。役員の任期を変更するには定款変更が必要ですから、あらかじめ適切な任期を設定する必要があります。
例えば、一人社長や家族同士で経営している会社などは、役員が変わる可能性は少ないでしょうから、役員の任期を延ばしてもさほど問題はないでしょう。役員の任期が満了すると、同じ人が再任する場合であっても変更登記が必要なので、任期を延長することで変更登記の手続きの手間を減らすこともできます。
なお、合同会社の役員(代表社員や業務執行社員)には、任期はありません。
定款変更をする手続きは下記の流れで進める
定款変更をするときには、株式会社、合同会社それぞれで定められた手続きが必要です。ここでは、定款変更に伴う手続きの流れをご紹介します。
1. 株主総会の特別決議により、定款の変更内容について決議する
定款変更について、株主総会の特別決議によって決議します。株主総会の開催時期でなければ、臨時株主総会を開かなければいけません。
なお、合同会社が定款の記載事項を変更する場合には、原則として全社員による決議と承認が必要になります。
2. 株主総会の議事録を作成し、定款を変更する
株主総会の議事録を作成し、議事の結果など所定の事項を記録し、保管します。その後、変更内容を反映した新たな定款を作成し、原始定款と一緒に保存しなくてはなりません。
なお、合同会社の場合、変更・修正する場合には、発起人全員の実印で訂正印が必要になります。
3. 必要な場合、法務局に変更登記を申請する
定款変更の内容が登記事項に該当する場合は、法務局に変更登記申請を行います。申請には、管轄の法務局の窓口、郵送、オンラインの3つの提出方法があります。
4. 税務署へ届け出る
事業年度や納税地(本店所在地)、事業目的、商号、資本金額などを変更した場合は、税務署への届け出も必要です。変更後の定款と異動届出書を、納税地を所轄する税務署(異動した場合は異動前の所轄税務署)に提出します。
※変更登記については以下の記事を併せてご覧ください。
定款の作成に必要な手続きには手軽に行う方法がある
将来定款の変更を行う場合のポイントなどについて理解したところで、まずは会社の設立に際した定款の作成から進めましょう。前述のとおり定款の変更には時間も手間もかかるので、なるべく変更しないで済むように作成前によく内容を検討するようにしましょう。
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将来の変更の可能性を踏まえて定款を作成しよう
定款は、会社を設立するときに必ず作成しなければいけないものです。また、作成した定款に設立後に変更があった場合は、定款変更の手続きが必要です。
定款変更の内容によっては、変更登記申請も行わなければならないこともあります。余計な手間や費用をできるだけ避けるため、会社設立時には、定款の記載内容を十分検討する必要があります。
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この記事の監修者森 健太郎(税理士)
ベンチャーサポート税理士法人 代表税理士。
毎年1,000件超、累計23,000社超の会社設立をサポートする、日本最大級の起業家支援士業グループ「ベンチャーサポートグループ」に所属。
起業相談から会社設立、許認可、融資、助成金、会計、労務まであらゆる起業の相談にワンストップで対応します。起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネル会社設立サポートチャンネルを運営。