デジタル給与とは?メリット・デメリット、導入の流れを解説【2025年最新】
更新

2023年4月の労働基準法改正により、給与を電子マネーやスマホ決済アプリで支払う「デジタル給与」が解禁され、従来の現金支給や口座振込に、新たな選択肢が加わりました。既に一部の企業では導入が始まっており、キャッシュレス決済の普及に伴い、今後さらに広がると考えられます。
本記事では、デジタル給与の導入が進む背景やデジタル給与のしくみ、メリット・デメリットなどをわかりやすく解説します。デジタル給与を検討する企業担当者や、最新の給与支払方法について知りたい方に役立つ内容となっているため、ぜひ参考にしてください。
【最大3か月無料でお試し】弥生のクラウド給与ソフトで大幅コスト削減
今ならAmazonギフトカード半額相当がもらえる「弥生給与 Next」スタート応援キャンペーン実施中!

無料お役立ち資料【「弥生給与 Next」がよくわかる資料】をダウンロードする
デジタル給与とは
デジタル給与とは、企業が従業員に対して銀行口座への振込ではなく、電子マネーやスマートフォン決済アプリを通じて給与を支払うしくみのことです。
なお、デジタル給与の導入には、企業と従業員の間での合意が必要であり、従業員は銀行口座への振込とデジタル給与のどちらか、または併用することができます。また、デジタル給与で受け取った給与は、最低でも月に1回、手数料なしで現金化できるようになっています。
デジタル給与の導入が進む背景
デジタル給与が解禁された背景には、日本におけるキャッシュレス決済の普及促進という政策があります。2018年に政府が策定した「キャッシュレス・ビジョン」では、日本のキャッシュレス決済比率を2025年までに40%、将来的には80%まで引き上げることを目標として掲げています。
また、キャッシュレス化を推進する理由には、少子高齢化による労働人口の減少や、無人店舗やオンライン取引の普及により、現金を使用しない決済が増えていることなどもあげられます。
なお、2025年3月19日時点で、PayPay株式会社・株式会社リクルートMUFGビジネス・楽天Edy株式会社の3社が、厚生労働大臣から指定を受けた資金移動業者として登録されています。既に一部企業で導入が始まっており、2024年9月からはソフトバンクグループがデジタル給与を導入し、給与のデジタル払いを開始しました。また、2025年4月からは三井住友海上が給与デジタル払いに対応すると発表しています。
参照:経済産業省「キャッシュレス・ビジョン≪要約版≫」
参照:公正取引委員会「QR コード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書」
デジタル給与を検討しているのは約4割
デジタル給与の導入に関して、厚生労働省の調査によると、「ノンバンクのコード決済事業者のアカウントに対して賃金の支払いが可能になった場合、約4割の利用者が自身の利用するコード決済サービスのアカウントに賃金の一部を振り込むことを検討する」と回答しており、一定のニーズがあると判断されました。
こうした結果を踏まえ、2023年4月に資金移動業者の口座への賃金支払が解禁されました。今後もキャッシュレス決済の普及と共に、導入企業が増えていくことが予想されています。
参照:厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払について」
デジタル給与対応の資金移動業者
デジタル給与は、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者のみが支払先となることができます。先述したとおり、2025年3月19日時点では、PayPay株式会社・株式会社リクルートMUFGビジネス・楽天Edy株式会社の3社が、厚生労働大臣から指定を受けた資金移動業者です。
なお、2025年2月28日時点の財務局に登録されている資金移動業者は82社で、そのうち厚生労働省に審査を申請した資金移動業者は累計で4社、審査中の資金移動業者数は1社(2025年3月19日時点)となっています。
参照:金融庁「資金移動業者登録一覧」
参照:厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」
1. PayPay株式会社
PayPay株式会社は、厚生労働省が2024年8月9日に指定資金移動業者と指定した1社目です。事業者が従業員の給与振込先として指定された銀行口座に振り込むと、その金額が従業員のPayPayアカウントにチャージされるしくみになっています。
指定資金移動業者 | PayPay株式会社 |
---|---|
サービス名称 | PayPay給与受取 |
労働者指定口座の受入上限額 | 20万円 |
労働者からの同意取得時に記載が必要な情報 | 1. 給与受取口座への入金用口座番号の情報 2. 代替口座として指定資金移動業者へ登録する自動送金先口座兼保証金受取口座の情報 |
保証機関 | 三井住友海上火災保険株式会社 |
厚生労働省の開示情報 | https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001352088.pdf |
2. 株式会社リクルートMUFGビジネス
株式会社リクルートMUFGビジネスは、厚生労働省が2024年12月13日に指定資金移動業者と指定した2社目です。必要な手続きが完了すれば、従業員は銀行口座に加え、RMBのスマホアプリ「エアウォレット」を通じて、最大30万円までの給与を即時受け取れるようになります。
指定資金移動業者 | 株式会社リクルートMUFGビジネス |
---|---|
サービス名称 | COIN+(スタンダード) |
労働者指定口座の受入上限額 | 30万円 |
労働者からの同意取得時に記載が必要な情報 | 1. COIN+アカウントの情報(ID、氏名) 2. 代替口座として指定資金移動業者へ登録する初期選択口座の情報 |
保証機関 | 株式会社三菱UFJ銀行 |
厚生労働省の開示情報 | https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001352097.pdf |
3. 楽天Edy株式会社
楽天Edy株式会社は、厚生労働省が2025年3月19日に指定資金移動業者と指定した3社目です。従業員は給与を楽天ベイの残高(楽天キャッシュ)で受け取ることで、そのまま楽天のサービスで利用できるしくみになっています。
指定資金移動業者 | 楽天Edy株式会社 |
---|---|
サービス名称 | 楽天ペイ給与受取 |
労働者指定口座の受入上限額 | 10万円 |
労働者からの同意取得時に記載が必要な情報 | 1. 楽天会員情報(ID、氏名) 2. 従業員番号 3. 代替口座として指定資金移動業者へ登録する預貯金口座情報 |
保証機関 | 楽天信託株式会社 |
厚生労働省の開示情報 | https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001447271.pdf |
デジタル給与のメリット
デジタル給与は、振込手数料の問題やキャッシュレス決済の普及に役立つ一方で、管理の負担や利用できる業者の範囲などで課題があります。給与を支払う会社側、受け取る従業員側において、それぞれのメリットを見ていきましょう。
会社側のメリット
口座振込より手数料がかからない場合がある
会社側のメリットの1つは、上限の金額に達するまでの給与の方に関しては、デジタル給与の導入により、口座振込に比べて振込手数料が低くなる可能性があることです。一般的に資金移動業者は、銀行などの金融機関よりも振込手数料が低く設定されています。給与振込にかかる手数料が軽減されれば、従業員の多い会社ほど大きな経費削減になるでしょう。
福利厚生の充実・強化につながる
市場調査のアンケートでは、約4割の企業がデジタル給与の導入を検討しているという結果が出ており、大きなニーズがあることがわかっています。
そもそも、デジタル給与の導入自体が、福利厚生の一環、という位置づけになっています。また、電子マネー(デジタルマネー)は、ポイント還元やキャッシュバックキャンペーンを実施することが多く、給与を受け取る従業員にとってもお得になるメリットがあります。
デジタル給与に対応することで、福利厚生の充実や強化にもつながる可能性があり、企業にとっても魅力的な選択肢となっています。
短期雇用者への給与支払が簡単になる
デジタル給与は、即時払いのニーズが高い業界にとって有効な選択肢となる可能性があります。
業界によっては、繁忙期と閑散期で従業員数が大きく変動するケースがあり、給与の支払いを柔軟に対応する必要があります。特に、短期雇用者が多い一部の業種(建設業等)では、日当を「現金手渡し」する慣行が根強く残っており、その背景には、労働者が1日から数日間の勤務のために会社指定の銀行や支店で口座を開設するのが非効率であることや、普段生活している地域にその銀行の支店やATMがないケースが多いことがあげられます。
さらに、外国人労働者にとっては、銀行口座の開設自体が大きなハードルとなる場合があります。言語の壁によって手続きがスムーズに進まなかったり、日本独自の様式である「印鑑」を持っていなかったりすることが障壁となります。また、日常的に通信アプリのみを使用しており、銀行口座の開設に必要な電話番号を持っていないケースもあります。
こうした課題を解決するためにも、デジタル給与の導入は、給与支払の利便性を高め、労働者の負担を軽減する手段として注目されています。
さまざまな人材の雇用機会の増加につながる
デジタル給与の導入は、さまざまな人材の確保にも役立ちます。キャッシュレス決済が普及する中で、新しい制度を取り入れていることを優秀な人材に向けてアピールでき、雇用機会の増加や企業イメージの向上につながるでしょう。
従業員側のメリット
キャッシュレス決済利用時の利便性が上がる
国内のキャッシュレス決済比率は年々増加しており、最近では、「ちょっとした買い物であれば現金を持たずに出掛ける」という人も少なくありません。デジタル給与であれば、銀行口座などから決済アプリにチャージする必要がなくなり、キャッシュレス決済の利便性がさらに高まります。日常的にキャッシュレス決済を利用する従業員にとっては、大きなメリットになるでしょう。
給与の一部だけデジタル給与払いにすることもできる
給与をデジタル払いにする場合は従業員の同意が必要ですが、その際に、デジタル給与として受け取る範囲や金額は従業員自身が設定できます。「月々の給与のうち◯万円だけをデジタル給与にする」など、ライフスタイルに合わせて設定することで、自己資金の管理がしやすくなります。
デジタル給与のデメリット
デジタル給与は、手数料の削減やキャッシュレス決済利用時の利便性アップにつながる一方で、会社側の管理の負担や、従業員のデジタル給与受け取り時の上限金額制限などで課題もあります。会社側、従業員側、それぞれのデメリットを見ていきましょう。
会社側のデメリット
デジタル払いと口座振込の二重運用で負担が増加する
デジタル給与を利用するかどうかは、各従業員によって希望が異なります。デジタル給与を希望しない従業員に対しては、従来どおり口座振込での給与支払が必要になります。また、デジタル給与を希望する場合でも、全額ではなく「給与の一部のみをデジタル払いにしたい」という従業員もいるでしょう。
会社側は、デジタル払いと口座振込の2つの方法で給与を支払わなければならず、業務負担が増加する可能性があります。
管理コストが上がる可能性がある
デジタル給与の導入にあたっては、給与規程の変更、従業員代表者との労使協定の締結、対象となる従業員への説明と同意書の締結、上限金額を超えた場合の振込先口座の指定など、さまざまな管理が求められます。
従来の給与支払に使用していた銀行口座の情報に加え、新たな情報についても管理体制を整えなければならないため、管理コストが上がります。
なお、管理にあたってはデジタル給与で考えられる複数のケースについて想定しておくことが大切です。具体的には、以下の3パターンを想定し、準備を進めましょう。
- デジタル給与で想定するべき3つのケース
-
- デジタルのみでの受け取りを希望するケース
- デジタルおよび従来の方法での受け取りを希望するケース
- 従来のままのケース
従業員側のデメリット
希望の資金移動業者を使えない可能性がある
従業員がデジタル給与の受け取りに利用できるのは、厚生労働大臣の指定を受け、なおかつ会社と従業員が労使協定を締結した範囲の資金移動業者の口座に限られます。現金化できないポイントや暗号資産での給与支払は認められません。
会社が利用する資金移動業者と、自分が普段利用しているキャッシュレス決済サービスが同じとは限りません。希望の資金移動業者を使えない場合は、会社が利用する資金移動業者の口座を新たに開設する必要が出てきます。
資金移動業者の口座は入金の上限が100万円までと決まっている
資金移動業者の口座は預貯金口座ではないため、入金できる金額の上限が100万円までと定められています。100万円の上限を上回った場合は、あらかじめ指定した銀行口座に自動的に出金されてしまいます。その際、送金手数料がかかる場合があるため注意が必要です。
スマホなどのセキュリティ対策が必要になる
デジタル給与を利用する際は、セキュリティにも十分注意を払わなければなりません。電子マネーは比較的容易に送金ができるため、不正利用の被害を防ぐためにも、日ごろからスマホなどのセキュリティ対策に万全を期す必要があります。スマホの紛失や盗難、決済アプリの不具合などの対処法についても、あらかじめ確認しておく必要があるでしょう。
デジタル給与導入の流れと必要な手続き
デジタル給与の導入について、さまざまなメリット・デメリットを確認してきましたが、実際に導入するときにはどのような手続きが必要なのでしょうか。ここからは、会社がデジタル給与を導入する際に必要な手続きについて、流れに沿って解説していきます。
1. 会社で利用する資金移動業者を選定する
厚生労働大臣が指定する資金移動業者の中から、給与のデジタル払いに利用する事業者を選定します。なお、利用できる資金移動業者一覧は、厚生労働省のWebページから確認できます。自社で使用している給与計算システムなどと連携できる資金移動業者を選ぶとよいでしょう。
2. 労使協定を締結する
デジタル給与の導入にあたっては、会社と従業員で労使協定を結ぶ必要があります。労使協定は、労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で締結します。労使協定を締結する際には、利用する資金移動業者の他、デジタル給与の対象となる従業員の範囲や金額、デジタル給与の実施開始時期などを定める必要があります。
3. 就業規則(給与規程)を改定する
デジタル給与を導入する場合、賃金に関する就業規則の改定が必要です。就業規則とは別に給与規程(賃金規程)を設けている場合は、その内容を改定します。就業規則や給与規程の改定時には、給与をデジタル払いで支給することに加え、資金移動業者に関する項目、口座振込との併用ルールなどについても記載しておきましょう。
4. 従業員への周知と説明を行う
労使協定の締結や就業規則の改定内容について従業員に説明し、社内に周知させます。なお、デジタル給与は口座残高の現金化や払い戻しも可能です。利用する資金移動業者と共に、口座の上限額や口座残高で可能なことなども、しっかりと説明しておきましょう。不正出金や資金移動業者の破綻など、トラブル時の対応については、特に入念な説明が必要です。
5. 希望する従業員から同意書を得る
デジタル給与は、希望する従業員のみが利用する給与支払方法です。社内への説明後、従業員のうち希望者がいれば、デジタル給与に関する同意書を提出してもらいます。
同意書には決まった様式はありませんが、デジタル給与で受け取る金額や、資金移動業者の口座番号、開始希望日、上限金額を超えた場合の振込先口座などの記載が必要です。厚生労働省のWebサイトに同意書の例がありますので、参考にするといいでしょう。
従業員から同意書を受け取ったら、希望する開始時期よりデジタル給与の支払い開始となります。
参照:厚生労働省「資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書」
6. 使用している給与計算(業務)のシステム仕様を確認する
デジタル給与を導入する際は、自社の給与計算システムが対応しているかを事前に確認することが重要です。デジタル給与(給与デジタル払い)に対応していない場合、給与システムの変更が必要になることがあります。そのため、導入にかかるコストや期間も事前に確認しておきましょう。
これから給与システムを導入・見直す場合は、基本的な給与計算機能に加え、デジタル給与に対応しているシステムを選ぶと、将来的にも柔軟に対応できるためおすすめです。
デジタル給与の導入に備えて、給与計算を効率化しよう
2023年4月からデジタル給与が解禁されました。今後、資金移動業者の審査が進むにつれて、デジタル給与を導入する企業が増えていくと考えられます。
デジタル給与を導入することで、給与支払の利便性が向上する一方で、給与計算システムの対応状況や運用フローの見直しが必要になる可能性があります。そのため、事前に給与計算業務効率化しつつ、デジタル給与にも対応できるシステム基盤を整えておくことが重要です。
今後、デジタル給与の普及が進むことを見据え、給与計算の効率化とデジタル給与に対応可能なシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
- ※2025年3月19日時点の情報を基に制作しています。
無料お役立ち資料【「弥生給与 Next」がよくわかる資料】をダウンロードする
「弥生給与 Next」で給与・勤怠・労務をまとめてサクッとデジタル化
弥生給与 Nextは、複雑な人事労務業務をシームレスに連携し、効率化するクラウド給与サービスです。
従業員情報の管理から給与計算・年末調整、勤怠管理、保険や入社の手続きといった労務管理まで、これひとつで完結します。
今なら「弥生給与 Next」 スタート応援キャンペーン実施中です!
この機会にぜひお試しください。
この記事の監修者税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人古田土人事労務
中小企業を経営する上で代表的なお悩みを「魅せる会計事務所グループ」として自ら実践してきた経験と、約3,000社の指導実績で培ったノウハウでお手伝いさせて頂いております。
「日本で一番喜ばれる数の多い会計事務所グループになる」
この夢の実現に向けて、全力でご支援しております。
解決できない経営課題がありましたら、ぜひ私たちにお声掛けください。必ず力になります。
