雇用保険料の計算方法と納付方法は?初めて手続きする方向けに解説
2022/12/09更新

この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング

雇用保険は、厚生年金保険や健康保険に比べて、対象となる事業所が多い保険です。小規模な事業所や個人事業主でも従業員を雇用していれば、雇用保険の対象になる可能性がありますので、正しく保険料の算出ができるよう計算方法を知っておきましょう。
この記事では、初めて雇用保険の手続きをする方向けに、雇用保険料の計算方法と納付方法を詳しく解説します。
雇用保険とは、従業員の雇用維持や生活の安定を目的とした保険制度
雇用保険は、従業員の雇用や生活を安定させるための保険です。雇用保険に加入した従業員は、失業時の給付や再就職の援助など、さまざまなメリットを得ることができます。また、雇用保険と労災保険を合わせて、「労働保険」と呼ばれることもあります。
なお、雇用保険は、雇用保険の適用事業所に雇用される一定の条件を満たした従業員は加入しなければいけません。まずは、雇用保険の適用事業所の条件と、加入しなければならない従業員の条件をそれぞれ紹介します。
雇用保険の対象事業者
従業員を雇用する事業主は、農林水産業の一部を除いて、すべて雇用保険の対象事業者に該当します。雇用保険の対象事業者は「適用事業所」と呼ばれます。個人事業主であっても、従業員を雇用しているのであれば、雇用保険の適用事業所です。
雇用保険に加入しなければならない従業員
下記の条件をともに満たす従業員は、雇用保険に加入しなければなりません。
雇用保険の加入条件
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上継続して雇用する見込みである
一般的なフルタイムの従業員は、全員対象になると考えていいでしょう。
ただし、会社の役員や取締役、同居親族に関しては「雇用している従業員」とは性質が異なるため、原則として雇用保険への加入はできません。
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従業員が雇用保険に加入して得られるメリット
雇用保険に加入することで、従業員は多くのメリットを得ることができます。雇用保険の主なメリットを3つご紹介します。
基本手当(失業保険)が受け取れる
雇用保険に加入していた従業員が失業した場合、基本手当(失業保険)が支給されます。支給される日数は、雇用保険の被保険者期間や従業員の年齢、退職理由などに応じて90~360日です。また、支給金額は退職前の給与額の50~80%程度です。さらに、基本手当を受け取っていた方が再就職した際は、状況によって再就職手当を受け取れる可能性もあります。
なお、基本手当の支給対象者も、原則として過去2年間に12か月以上の雇用保険加入期間がある方です。ただし、解雇などの会社都合による退職など一定の要件に該当する場合は、過去1年間に6か月以上の雇用保険への加入で手当を受け取れる場合があります。
教育訓練給付金を受給できる
教育訓練給付金は、雇用されて働く方や離職者がスキルアップのために厚生労働省の指定講座で学習した際、受講費用の一部が給付される制度です。雇用保険に12か月以上加入していれば利用できます(過去に利用したことがある方は3年以上)。
育児休業や介護休業時に給付金が受け取れる
育児休業や介護休業をした際に、育児休業給付金や介護休業給付金が受け取れます。給付金の額は、休業前の給与額のおおよそ67%です。ただし、育児休業給付金の場合、6か月経過後は50%の支給金額になります。なお、どちらの給付金も、対象となるのは原則として休業前の過去2年間に12か月以上雇用保険に加入していた従業員です。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、従業員と事業主がそれぞれ規定の雇用保険料率に従って負担します。従業員負担分の保険料については、毎月の支給総額に保険料率を掛けて計算し、徴収します。
それでは、雇用保険料の計算方法について詳しく見ていきましょう。
最新の雇用保険料率を確認する
雇用保険の保険料率は、定期的に見直しが行われています。改定の情報を見落とさないよう、厚生労働省の「雇用保険料率について 」を参照しましょう。
2022年度の雇用保険料率は、4月に事業主負担分、10月に従業員負担分と事業主負担分の見直しが行われます。


- ※ 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「令和4年度雇用保険料率のご案内
」
雇用保険料率の切り替えのタイミングでは、保険料計算方法を間違えないように気を付けましょう。2022年9月分までの給与と、10月分以降の給与では、別の雇用保険料率が適用されます。締日がいつなのかをベースに保険料率を確認してください。
例えば、2022年9月16日~10月15日の勤務に対する10月分給与を、2022年10月25日に支払う場合は、給与から徴収する雇用保険料は、2022年10月から適用される保険料率で計算します。
従業員の給与から徴収する雇用保険料の計算方法
従業員の給与から徴収する保険料は、下記の計算式で求めます。なお、端数が出た場合、原則として50銭以下は切り捨て、50銭超は切り上げて計算します。
- ※ 端数処理については、事業主と従業員の間で特約がある場合は、特約にもとづき処理をすることができます。
従業員の給与から徴収する雇用保険料の計算式
給与の支給総額×従業員負担分の保険料率=従業員から徴収する雇用保険料
このときの「支給総額」とは、厚生年金保険料や所得税などを控除する前の支給金額の総額で、残業代や非課税交通費、各種手当などが含まれます。ただし、欠勤控除や遅早控除などがあった場合は、差し引いた控除後の金額になります。
例)
一般の事業の従業員の2022年10月の給与明細が下記の場合の雇用保険料
給与明細
- 基本給:22万5,000円
- 役職手当:1万7,000円
- 精勤手当:5,000円
- 残業代:2万670円
- 欠勤控除:-3,000円
- 通勤交通費:1万1,880円
支給総額
27万9,550円(支給金額総額)-3,000円(欠勤控除)=27万6,550円(給与の支給総額)
従業員の給与から徴収する保険料
27万6,550円(給与の支給総額)×0.005(従業員負担分の保険料率)=1,382.75円
よって、従業員の給与から徴収する保険料は、1,383円となります。
事業主負担の保険料の計算方法
事業主負担分の保険料は、雇用保険の対象となる全従業員の1年分の給与と賞与の合計額から算出します。そのため、月々の給与時に計算する必要はありません。
雇用保険料の申告・納付方法
事業主が雇用保険料の申告と納付を行う時期は、毎年6月1日から7月10日までの「年度更新」が一般的です。年度更新では、前年度の雇用保険料および労災保険料の申告と納付に加え、翌年度の保険料の概算申告と納付も行います。
年度更新の時期になると、労働局から事業所宛に「労働保険 概算・増加概算・確定保険料 一般拠出金申告書」が届きます。この申告書に必要事項を記入して所轄の都道府県労働局や労働基準監督署に申告・納付すれば完了です。
詳しい年度更新の手続きを、3つのステップに沿って見ていきましょう。
1. 賃金集計表を作成
まずは、申告に必要な数字を確定させるために「賃金集計表」を作成します。厚生労働省のWebサイトに「年度更新申告書計算支援ツール 」が用意されています。難しい計算などを自動で行えるため、積極的に活用しましょう。
厚生労働省「令和〇年度確定保険料・一般拠出金 算定基礎賃金集計表/令和〇年度 概算保険料(雇用保険分)算定内訳 」のExcelファイルを見てみましょう。
「利用方法・注意事項」のシートが表示されるので、必ず確認してください。
次に「算定基礎賃金集計表」のシートに移動して、黄色いセルに必要事項を入力します。

2. 労働保険 概算・増加概算・確定保険料 一般拠出金申告書の作成・提出
算定基礎賃金集計表が作成できたら、労働保険 概算・増加概算・確定保険料 一般拠出金申告書を作成します。「1」で使用したExcelファイルの「申告書記入イメージ」のシートを開きましょう。

記載の指示どおり、黄色く塗られているセルを数字の順に埋めていきます。埋める順番を間違えるとうまく入力できないことがあるので、注意してください。
なお、黄色く塗られているセルの4番「申告済概算保険料額」とは、前回の年度更新で申告した概算保険料の金額のことです。この金額と実際の保険料額を比較して、不足があれば翌年度分の概算保険料と合わせて納付し、超過していれば翌年度分の概算保険料に充当するか、還付を受けます。還付を受ける場合は、「労働保険料・一般拠出金還付請求書」を提出します。
すべて入力が終わったら、労働保険 概算・増加概算・確定保険料 一般拠出金申告書に転記して完成です。
記入を終えた労働保険 概算・増加概算・確定保険料 一般拠出金申告書は、所轄の都道府県労働局や労働基準監督署に提出しましょう。
3. 納付
最後に、保険料の納付を行います。納付方法は、下記の3つの方法があります。
- 現金納付
領収済通知書(納付書)を金融機関に提出して保険料を納付します。 - 口座振替
「労働保険 保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書」を、取引のある金融機関に持っていき手続きをすることで、保険料を口座振替することが可能です。
厚生労働省のWebサイトに、口座振替の申込手続き様式として「労働保険 保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書」の書式がありますので、ご活用ください。
- 電子納付
インターネットバンキングやATMで、納付番号、確認番号、収納機関番号を入力して保険料を電子納付することが可能です。
雇用保険の手続きでよくある疑問点
雇用保険の手続きで不明な点や不安な点があった場合は、所轄のハローワークに問い合わせることで対応方法を教えてもらえます。不安なまま曖昧な手続きを進めるのではなく、正しい対処法を確認しておくことをおすすめします。最後に、雇用保険の手続きに関して、迷いがちなケースを2つご紹介します。
派遣社員の雇用保険の加入手続きはどこが行う?
派遣社員は、派遣元となる派遣会社で雇用保険を含む社会保険に加入します。保険料の申告や納付も派遣会社が行うため、派遣社員を利用している事業主が行う手続きはありません。
年度更新では、派遣社員を除いた直接雇用の従業員についてのみ申告しましょう。派遣社員しかいない場合は「雇用している従業員はいない」ということになります。
初めて従業員を雇う予定がある場合、年度更新はどうすればいい?
年度更新では、過去の労働保険料だけでなく、未来の概算保険料の納付も行わなければいけません。「年度更新のタイミングで、たまたま従業員が1人もいない」場合であっても、次の年度更新までの間に新たに従業員を雇用する見込みがあるのであれば、見込みについて記入して年度更新をしましょう。
「見込みがあったけれど結局雇わなかった」という場合は、次の年度更新時に納付した概算保険料の還付を受けられます。
雇用保険料の計算を簡単に行うために
雇用保険料は、毎月の給与時に個別に計算して徴収しなければいけません。計算ミスや端数の処理ミスがないように気を付けましょう。
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この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング
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