創業2年で年商4億超え!ビジョン共有で自発的に動くチーム作りを。

起業時の課題
資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 起業/法人成り関連手続き

30年勤めた会社から独立し、外装専門工事業「サカイ建材株式会社」を立ち上げた酒井 博幸さん。創業時には計2,000万円の融資を受けることに成功し、さらには創業2年にもかかわらず年商4億円超えと、かなり好調なスタートを切られています。着実に実績を積み上げていく秘訣はどこにあるのでしょうか。「急成長ではなく、計画通り」と語る酒井さんに、創業までの経緯や社員の自主性を高めていくマネジメント方法など、起業やビジネスにおいてヒントとなるお話を伺いました。

会社プロフィール

業種 建設・工事業(外装工事)
事業継続年数(取材時) 2年
起業時の年齢 50代
起業地域 愛知県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 1,000万円

話し手のプロフィール

会社名
サカイ建材株式会社
代表

酒井 博幸

サカイ建材株式会社 代表取締役社長

1級建築施工管理技士

親族が経営する建設業に30年従事し、現場作業・現場管理・営業・管理職を経て、2019年11月サカイ建材株式会社を設立。建築専門工事業として、屋根工事、外壁工事、その他外装付帯工事などを請け負う。

目次

独立を決意したきっかけとは

現在の事業内容を教えてください。

酒井:外装工事の専門工事業者として、ゼネコンといわれる総合建設業者から外壁と屋根の外装工事を請け負っています。もともと同業の会社に30年ほど勤めておりまして、そこから独立する形で起業しました。

もともと酒井さんが建設業で働いたきっかけは?

酒井:社会人を始めた頃は車の整備会社で働いていましたが、20代半ばに、叔父が1965年に創業した会社に誘われ転職したんです。最初は現場作業、その後営業担当を務め、退職するときは営業をしながら取締役部長というプレイングマネージャーでした。

取締役まで務められた会社を辞め、起業されたのはなぜですか?

酒井:本来はずっとサラリーマンとして働いていくつもりだったのですが、叔父が亡くなって20年が過ぎ、義理は果たしたと思えたことと、新しい経営者の方針に疑問を感じ、独立を考えるようになりました。

会社を辞めるにしても、なるべく周りに迷惑をかけたくなかったので、はじめは個人事業主として1人でやっていこうと思っていました。ただ、独立を考えていると周りの社員に話したところ、志を同じくして働いていた仲間から「協力したい」という声があったものですから、それであれば法人設立しようと、急ピッチで準備を進めていきました。

起業までの準備期間はどのくらいだったのでしょうか。

酒井:約2か月半です。退職後できるだけ早く新しい会社で仕事ができるように、資金調達や法人登記の準備、事務所などの手配、仕入先や協力業者などへのごあいさつなども行いました。やはり、会社を始めてもいきなり仕事をもらえるわけじゃないので、お世話になっているお客さまとのつながりがなるべく途絶えないようにと思いまして。速やかに登記が完了して事業をスタートできるように準備しました。

2,000万円の資金調達に成功!さらにイニシャルコストはたった500万円?!

起業準備について詳しく教えてください。会社を設立するにあたり、まず何から始めましたか?

酒井:起業や会社経営に関してはまったくの素人だったので、近くで開催されていた「創業手帳」の起業セミナーに申し込んで、起業するには何が必要なのか、軌道に乗せるためにはどうしたらいいのかを学びました。あとは、そこでもらった冊子に書かれていたことを1つひとつやっていったという感じですね。

準備していく中で大変だったことは?

酒井:まず、最初に心配になったのは資金です。

資金調達は多くの起業家が悩むところですよね。

酒井:実は、私の場合、新規法人を設立するのではなく、親戚がもっていた会社を継承する形で創業したんですね。同業の会社を1人でやっていた遠い親戚の方に退職と起業の挨拶をしたところ、開店休業状態で、ちょうど会社を閉めようと思っていたと。会社を清算するのにもお金がかかるから、「お前がこの器を使って好きにやっていいよ」と事業譲渡してもらったんです。

事業承継だったのですね。

酒井:はい。サラリーマンとして会社に在籍している状態で、法人になったときの資金調達をするというのはなかなかハードルが高く、私個人での融資の申請は通りにくかったと思います。しかし、事業譲渡という形を選択したおかげで、引き継ぐ会社と取引があった信用金庫の方が親身に相談に乗ってくれ、無事に融資を受けることができました。

さらに、信用金庫からの融資が認められたことが前提で、日本政策金融公庫の方も「特殊な状態ではありますが融資をしましょう」となり、両方から1,000万円ずつ借りることができました。

合計で2,000万円の融資ですか。素晴らしいですね!ちなみに、起業準備にはかかった費用はいくらぐらいでしたか?

酒井:全部で500万円ほどかかりました。一緒に働いてくれる人たちが不自由なく仕事ができる状態を整えておかなくてはいけないので、事務所の他にも車やフォークリフト、ファックスや電話、デスク、インターネット環境などを準備しました。融資が決まる前に揃える必要があったので、全て自己資金で賄いましたね。

車や事務所などまで揃えて500万円だと安いようにも感じます。

酒井:初期投資を抑えて少しでも事業資金を残しておきたかったので、可能なものはリース契約にしました。ただ、事業開始日から車やフォークリフトを利用したかったのですが、創業していない状態で契約の話をしなければならず、そこは苦労しましたね。事情を説明して、登記の書類も見せた上で、「ここまで準備してあるから大丈夫ですから」と頼み込み、何とかリース契約できました。

登記はプロに任せて、本業に集中!

創業にあたって、士業の方などへ相談はされましたか?

酒井:昔からお世話になっている司法書士の先生に相談しました。まずは法人の形態として、新規創業が良いのか、事業承継が良いのか相談したところ、手続きも含め、事業承継した方がメリットが大きいんじゃないかと言っていただきました。

法人登記など、事業承継や相続に関わることはその司法書士の方にそのままお願いしました。

登記もお願いしたんですね。

酒井:起業準備にあたり、いろんなことをやらないといけない中で、できないことやわからないことを自分でやろうとは思わなかったですね。本業に集中するために、苦手なことは積極的にプロの方にお願いしました。

税務関係についてはどうでしょうか。

酒井:最初は、事業承継する会社がもともと契約していた会計士の方にお願いしようと思っていたんですね。しかし、質問したことに対してなかなか期待した答えが返ってこなかったり、返答が遅かったりして、「本当にこの人に頼っていいのだろうか?」という疑問がありまして……。そのタイミングで、先ほど話した起業セミナーに参加したのですが、税理士事務所が会場になっていたので担当の方に相談してみたんです。その時の税理士先生は大変親身に話を聞いてくださって、「この人に頼りたい!」と強く思いました。その後すぐに顧問契約をし、今でもそちらにお世話になっています。

年商4.8億円は計画通り。想定できること全てを細かくシミュレーション

2019年に創業され、現在、年商4.8億円と、急成長されている印象を受けますが、会社を成長させた一番の理由は何だとお考えですか?

酒井:仲間の協力がすべてです。私1人じゃ本当に何もできないので。皆が支えてくれるし、皆が皆を支える相互関係がうまく回っている結果だと思います。

年商も、事業計画書に謳っている計画通りなんです。なので、私自身はあまり急成長だと思ってはいません。

計画通りに進んでいると。素晴らしいです。

酒井:最初に事業計画書を作るとき、かなり細かくシミュレーションしたんです。私がどれだけ売り上げを作れるか、そして、一緒に来てくれる仲間たちの力量も分かっていたので、協力業者や仕事を発注してくれるお客さまをリストアップし、売り上げ、粗利、経費、そういったものを事細かく考えていきました。最悪のケースと、上手くいった場合、理想的な数値と、最終的には3パターンの計画書を作成し、資金繰り表に関しても何パターンか作りました。

かなり入念に作られたんですね。事業計画書などは、誰かに相談しながら作っていったのでしょうか?

酒井:いえ、私1人です。基本的には本やネットで調べながらシミュレーションしていきました。

すごいですね。

酒井:いえいえ。前職で取締役をやっていましたが、それも名ばかりだったなと。事業計画書を自分で作ることで、経営の資金繰りも含め、経費の詳細や、人を1人雇うのにどのくらいの費用がかかるのか、今まで全く分かってなかったんだと改めて気付くことができました。

社員に自発的に動いてもらうには

会社設立時、社員さんは何名いらっしゃったんですか?

酒井:2019年の11月に創業し、その時は私1人でスタートしました。ですが、翌月に2名入社、年が明け、2020年1月に1名、2月に2名入社してくれました。全員、前職場の同僚で、それぞれのタイミングで当社に来てくれています。そこからは現在も変わらず、私を含めて6名のメンバーで業務しています。

組織の運営やマネジメントに際し、気を付けていることはありますか?

酒井:“私が何をやりたいか”というのを説明して、会社のビジョンや方向性を皆に理解してもらうことを大切にしています。「こういうことをやりたい」「こういう形でやっていきたい」ときちんと話すと、それを実現するために、それぞれが最善の策を取ってくれるようになるんです。

また、指示を出すときにも、ただ言うのではなく理由を加えてお願いしています。例えば、「右の物を左に置いてください」と言ったときに、その行動が何のためになるのか理解できなければ、上手くできなかったり、いき届かなかったりすると思うんですね。なぜ左に置くのか、その理由をちゃんと示すことで、「だったらこうしよう」とその人なりに考えるようになります。

なるほど。

酒井:実際に、当社に移ってからものすごく成長した仲間も多いんです。前の会社では、「あなたはこの仕事をやってください。この仕事だけをやってればいいんですよ」と限られた範囲内で働いていた方たちに、「申し訳ないけど、この会社ではいろんなことをやってもらわないと困るので、仕事の幅を広げてほしい」とお願いしたら、見事に取り組んでくれるようになりました。仕事の守備範囲がものすごく広がったんですよね。

例えば、一般事務の方に経理や総務、営業事務など幅広く兼務してもらうような形でしょうか?

酒井:そうです。前の会社だったら、きっと「そんなことやらなくていい」と言われていたような仕事も積極的にやってくれています。例えば、合格が難しいメーカーの研修資格を、現場経験のない2名の事務職員が取得してくれたりもしました。

従業員1人ひとりが幅広い知識を持って、守備範囲の広い仕事をしていくことを大切にされているのですね。

酒井:そうですね。男女関係なく、どんどん表に出て、私ができないことは手が空いていたら手伝ってもらう。いろんなことを積極的に取り組んでもらっていますね。

次のビジネス展開を常に考え、大切な仲間が安心して働ける環境を作る

酒井さんの今後の展望を教えてください。

酒井:今後は、会社の運営に関して私が携わっている部分をいかに減らしていけるかが大事になると思っています。いつまでも私が関与していたら伸びる人も伸びないでしょうし。やりたいと思っていることが彼らにあれば、それをやってもらいたいんです。

そして、今勤めてくれている人たちが定年するまで安心して働ける環境や、次のビジネスの展開を一手、二手、三手先くらいまで作っていきたいと思っています。

社員の方をとても大切にしていらっしゃることが、ひしひしと伝わってきました。

酒井:私は、仲間が一番大切だと思っています。ただし、仲良しこよしはよくないとも思っているんです。社員にもよく話をするのですが、例えばお店に入ったときに、従業員の人たちが和気あいあいと仲良くしてる姿はとても微笑ましいとは思うんですが、従業員同士での話に集中しすぎるのは、お客さまにとってあまり気分のいいものではないですよね。

だから私は、一緒に働いている仲間に対して、多分厳しいと思いますし、従業員も厳しいやつだと思ってくれていると思います。だけどそれはそれでいいと思いますね。仕事は厳しく、結果は分かち合う。それが一番いいのかなと思っています。

それでは最後に、これから起業されようと思われている方に向けてメッセージをお願いします。

酒井:起業の形はいろいろだと思いますが、もし、複数人で起業される場合は、方向性を同じく持って、労を惜しまず動いてくれる仲間が一番大事だと思います。起業は周りの協力なしに成功はありえません。私が今こうしていられるのは、協力してくれた仲間もそうですし、仕事を請け負ってくれる協力業者の方、仕入れをさせてくれる商社があってのことです。これから起業をする方にも、協力してくれる仲間を大切にし、できる限りの入念な準備をして挑んでほしいと思います。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:稲垣ひろみ

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