事業を通じて社会貢献もしたい。自分らしいセカンドキャリアを模索してシニア起業へ。

起業時の課題
事業計画/収支計画の策定, 起業形態(個人/法人)の決定, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発, マーケット・ニーズ調査

約35年務めた会社を早期退職し、50代で「ドローン・アイティー株式会社」を創業した金子信洋さん。ドローンを活用したソリューションサービスの他、パイロットの育成やプログラミングの講義も手掛けています。

今回は、金子さんがドローン事業を行うに至った理由や、シニア起業のポイントについて詳しくお話を伺っていきます。

会社プロフィール

業種 IT関連(IoTソリューションサービス)
事業継続年数(取材時) 3年
起業時の年齢 50代
起業地域 神奈川県
起業時の従業員数 3人
起業時の資本金 500万円

話し手のプロフィール

会社名
ドローン・アイティー株式会社
代表
金子信洋
ドローン・アイティー株式会社 代表取締役
1960年生まれ。静岡県沼津市出身。メーカー系IT企業にて製造業や通信業のシステム開発に従事。ドローンに可能性を感じ57歳で早期退職。個人事業主を経て2019年8月に「ドローン・アイティー株式会社」を設立。企業向けにドローン導入支援やソリューションを提供。ドローンに関するワンストップサービスの実現を目指し、機体販売や操縦技能の認定も行う。ドローンプログラミング、ドローン空撮画像のデータ処理などもカリキュラムに取り入れた教育事業にも力を入れており、神奈川県下の専門学校で講義も行っている。

目次

定年後も働きたい。自分らしい仕事のスタイルを模索し起業を決意

まず現在の事業内容を教えていただけますか?

金子:ドローンで取得したデータや写真を企業の業務に役立ててもらうソリューションサービスの提供をしています。また、ワンストップでソリューションを実現させるために、ドローンの機体販売や、パイロットを育成するためのスクールとして“横浜ドローンアイティー・スクール”も運営しています。

ドローンのソリューションサービスとはどのようなものですか?

金子:例えば、ゴルフ場のコース管理の事例として、ドローンを活用して地形の測量や芝生のセンシング、農薬散布など、グリーンキーパーの作業効率化を図るソリューションサービスがあります。

ゴルフ場は慢性的な人手不足なうえ、特にコース管理は難しい仕事なんですよね。芝生や樹木を管理するには、農業や土木、植木の知識が必要ですし、芝生は生きているので、コロナ禍でも継続的な管理が欠かせません。ドローンの近赤外線カメラで芝生を撮れば芝生の水分量や育ち具合もわかりますし、地形のデータがわかることにより、「バンカーの位置を動かそう」などゴルフ場の管理・対策がしやすくなります。また、防虫剤や殺虫剤、除草剤などの農薬散布もドローンで行えます。

なるほど。これからドローンが活用できるシーンはもっと増えていきそうですね。勤めていた会社を早期退職して起業したとのことですが、何かきっかけはあったのでしょうか。

金子:前職もIT業界だったのですが、50歳になった頃から「定年後も働いていたいな」と思うようになりました。身体が動くうちは働いて、地元の横浜で定年退職なく自分の裁量で好きな仕事をしていたいと思い、まず社内のセカンドキャリア支援制度を利用して転職エージェントサービスを受けてみました。

はじめは起業ではなく再就職を考えていたんですね。

金子:はい。そもそも、私は在職中と同様の給料が欲しいとは思っていなかったですし、「地元の横浜で自分の身の丈に合った仕事ができたらいいな」という気持ちでした。ですが、どのエージェントでも「横浜では今と同じような会社はないですよ」とか「年収がかなり低くなりますよ。東京の大手のこの会社はどうですか?」みたいな話ばっかりだったんです。私はもう都内への通勤も嫌になっていましたし、自分なりの社会貢献がしたいとも思っていましたので、地元で小さな会社を作ろうと起業を考えるようになりました。

その後、働きながら準備を進めていき、早期退職制度を利用して2018年に退職、2019年に株式会社を設立しました。

ソリューションビジネスの課題はキャッシュフロー。改善するための対策とは

ドローン事業を選んだ理由は何でしょうか?

金子:前職でITを活用したイノベーションを考える業務をしていたこともあり、最初はスポーツや農業分野でのIT事業を考えていました。これからIT導入の可能性がある業界をいろいろ調べていくうちに、ドローン活用が和集合の真ん中にあることに気づいたんです。例えば、農業ならセンサーでデータを集めて効率の良いスマート農業を行ったり、スポーツなら技を見るための仕掛けを作ったりなど、多くの業種でドローンを活用できると確信しました。IT業界での知識や経験も活かせますし、広がりを見せているドローン業界に可能性を感じたので、挑戦してみようと思いました。

自身の経験も活かすことができ、将来性もあるドローン業界に絞っていったと。

金子:そうですね。そこからドローンに関する知識や、事業に必要な勉強を始めました。在職中に転職制度を使って、ドローンのパイロット資格も取得しましたね。また、事業のビジネスモデルについても、ソリューションサービスだけではキャッシュフローが良くないので、スクール事業もやってみようか、など具体的に考えていきました。

始めから複数のビジネスモデルを想定していたんですか。

金子:はい。ITソリューションはできあがったものに対してお金をもらいますから、収入は後から得る形になります。機体販売もそうですね。そこで、受講するときにお金を頂戴するスクール事業も行うことで、収益やキャッシュフローを安定させようと思いました。

かなり入念に準備された印象です。事業の方向性が決まった後、会社設立に向けてはどう動いていきましたか?

金子:最初にやったのは、起業に関する情報収集です。シニア向けの創業支援サービスを見つけてセミナーに行ったりコンサルを受けたりして、具体的に何が必要なのか、情報をもらっていました。会社を辞めてすぐ“異業種交流会”にも参加して、税理士や弁護士など専門家の知り合いも作りました。

広報にもつながった一石二鳥の資金調達法

会社はお1人で立ち上げたんでしょうか?

金子:最初は1人でやるつもりだったのですが、たまたま同じ会社やグループ会社で働いていた2人が協力してくれることになりました。当初、資本金は自己資金300万円くらいの予定だったのですが、その2人が出資してくれることになり、500万円で始めました。

法人の形態も、最初はコストの安い合同会社にしようと思っていたんです。ですが、出資の話もありましたし、また横浜市の創業支援制度(横浜市創業支援等事業計画)を活用すると会社設立時の登録免許税の減免が受けられるということで、株式会社を設立することにしました。ちなみに、会社の代表は私ですが、出資者2人のうち1人には取締役として参加してもらっています。

周りの応援や公的な制度も受けながらの起業、すごく理想的ですね。出資以外に資金調達はされましたか?

金子:はい、横浜市創業支援等事業計画を活用したメリットの1つに、日本政策金融公庫の新規開業資金の貸付利率引き下げや新創業融資制度の自己資金要件緩和があったので、日本政策金融公庫からの融資も受けました。

起業時やスクール開業時の宣伝や広報、営業はどのようにされていたのでしょうか?

金子:1年目はチラシを作り、異業種交流会で「こんなことをやっています」という発信に徹していました。そして、次のステップとして、神奈川県のビジネスコンテストに応募しました。ちょうど私が会社を作ったころ、神奈川県の黒岩知事が再選され、所信表明でドローンに力を入れていくことも話されていたんですね。チャンスだと思い、“ドローンを活用して社会的課題の解決に取り組むモデル事業”として応募したところ、第1期の第3弾に採択されました。また、同じく神奈川県が主催する“かながわシニア起業家ビジネスグランプリ2020”にも応募し、こちらも奨励賞を受賞しました。

私の場合は2つとも神奈川県のホームページに掲載されましたし、広報もやってもらえたので、それを見た新聞や雑誌の方に取材していただいて、ご縁が続いていきましたね。

素晴らしいです。ビジネスコンテストに応募する意義も大きいですね。

そうですね。人脈が広がったり、営業や広報につながることもあるので、ビジネスコンテストや行政がやっている支援事業はアンテナを張っておき、自分にできることはチャレンジした方がいいと思いました。

コロナ禍のスクール休業。それでも前向きでいられる理由

起業間もない時期に、新型コロナウイルスの感染拡大が起こってしまいましたが、金子さんのビジネスにも影響はありましたか?

金子:会社設立時に作成していた事業計画については、下方修正せざるを得なかったです。ですが、スクールも休業していたものの、固定費がそこまで掛からなかったので、なんとか切り抜けられました。

教室やパイロットの実技練習場などへのテナント料はどうされていたんですか?

金子:スクールを開講する際に、上大岡駅徒歩5分の場所にある屋内練習場をお借りすることができたのですが、お店の営業時間前に使わせていただくため、家賃ではなく使った分だけ費用を払うという契約になっていたんですね。そのため、コロナ禍でスクールをやれない時期でも固定費が抑えられました。

なるほど。

金子:持続化給付金や、横浜市や神奈川県の助成金も申請して、とても助かりましたし、コロナ禍で営業が思うようにできない期間で、助成金を使った基盤強化、製品強化ができました。おかげで自信を持っておすすめできるソリューションサービスができあがったので、今後は販売に力を入れていきたいと考えています。

大変な状況の中、すごく前向きに捉えていらっしゃって素敵です。

金子:私は、いつも人に恵まれているんですよね。創業時のメンバーは同じ会社や同じグループ会社の人間でしたし、古い縁があって入社してくれた社員もいます。スクールを休校している際も、受講生の皆さんが再開を待ってくださったり、支援をしてくださる方もいました。始めはスクールの受講生だったのが、今では事業を一緒に作る仲間になってくださった方もいます。

人とのご縁をとても大切にされているのが伝わってきます。

金子:良いご縁ばかりで、とてもありがたいです。スクール事業をやっていておもしろいと思ったのは、今まで知らなかった業界の方たちと新たに出会えるところです。資格を取得された後もつながりを持てている方もいて、うれしいです。自分が免許を取った時にも感じたのですが、ドローンは新しい業界ですので、いろんな方がいろんなことを考えていて、情報交換が必要だという共通認識があり、皆結構仲良かったりしますね。

やりがいもあり、楽しそうですね。逆に、起業時や事業を行っていく中で「もっとこうすれば良かった」と思われることはありますか?

金子:ありがたいことに、今のところ大きく失敗したことはまだないですが、クヨクヨすることはよくありますよ。でも、そういうときほど起業時に掲げた“身の丈に合った”というキーワードを忘れないようにしています。見栄を張ったり、ちょっと夢を膨らましすぎたりするとつまずいてしまうと思うので、背伸びせず、自分の身の丈に合っているのかどうかを考えることが大切だなと思っています。

やりがいを自分で作り出せるのも、自分で起業したからこそ

金子さんにとって、起業の醍醐味は何でしょうか?

金子:起業は勇気も要るし、準備も要ります。でも、自分らしく自分のペースで働けることが一番じゃないですかね。あと、自分のやりたいことをやれることも重要です。例えば、当社はスクールをやっている延長線上で、教育関連の事業もやっています。教育系事業は利益が出づらいのですが、社会的意義があると思っているので続けています。

教育系事業というのは?

金子:小・中・高、専門学校、社会人向けにドローンパイロットやプログラミングの講義を行っています。現在、ドローンパイロットは不足していて、業界は優秀なパイロットを求めている状況です。専門学校では教え始めて2年目になり、2021年3月に第1期生が卒業する予定ですが、専門学校の2年間で週1回飛ばすだけでもかなりの腕前になりますよ。

教え子の卒業後の未来も楽しみですね。

金子:はい。小・中・高校のワークショップでは、ブロック型のプログラム言語を用いてiPadなどを使って設計、実装、飛ばしてみるところまでやってもらいます。

ドローンはもう自動飛行の世界になっていて、プログラムだけで飛べるものもあります。ですが、例えば“1m上がりなさい”というプログラムも、風や機体の状態、気温などを考慮しなければ上手くいきません。

単純なプログラムだけだと不十分な場合があると。

金子:そうなんです。GPSやカメラで距離を測る仕掛けを入れるなど、状況に合わせて新しいことを考えだす必要があります。

今は小中学校でもiPadを1人一台持って情報教育をやるような時代になっていますので、その中で先生方もいろいろと考えられていて、モデル的、実験的にやりたいと学校から依頼を受けてサービスを提供しています。プログラミングを通じて、子供や若い人に“ITで新しいことを生み出すこと”を身近に感じてもらえればうれしいですね。

でも、ほとんど手弁当でやっているのでお金にはならないんです。利益はいったん度外視して、業界や社会のためになることをやろうと思えるのも、自分の会社だからできることなのかなと思います。

身の丈に合ったことを、無理せず。これからも自分にできる社会貢献を

今後の展望について教えていただけますか?

金子:あと10年は会社を続ける気でいますし、航空法の改正で来年度(2022年度)から免許が国家資格化され、街中でドローンが飛ぶ時代がすぐ目の前に来ている中で、当社ができることは何かというのは考えます。

まず、3期目の目標として、コロナ禍で作り上げたソリューションをちゃんと会社の利益にしていくことですね。そして、ゴルフ場のドローン活用は非常にニッチなのですが、ニーズはあると思っていますので、ゴルフ場ソリューションを広げていくことで、将来的には公園など活用範囲を広げていきたいと思っています。

2つ目は国産ドローンですね。ドローンには日本の技術がかなり使われているのですが、やはりコストが高い。日本の良い機体を広めていくために何かできないかなと考えています。

そして3つ目は、ドローンプラスαで社会性、地域貢献性の高いサービスを広めていきたいです。

地域貢献に関しては、起業時の目的の1つでもありますね。

金子:はい。ドローンスクールやドローンを扱っている会社は地域協定を持っていて、2021年に起こった熱海の災害の際も、神奈川県や静岡県のドローンスクールに自衛隊から調査の手伝いの依頼がありました。当社は、ドローンで取得したデータを保管するクラウドサービスを持っているので、ドローンを飛ばして撮影した結果を解析し、業務システムつなげるだけでなく、昔のデータを見返すこともできるんです。そのため、このクラウドサービスを災害情報の収集・管理などに役立てていきたいですね。

それでは最後に、これから起業される方、もしくは定年後のセカンドキャリアを思案中の方に向けてメッセージをお願いします。

金子:人生100年と言われていますし、定年後も長いですから、そのときに自分らしくやりたいことをやるのが一番だと思いますね。ただ、身の丈に合ったものを無理せずに。それにはやはり信頼できる仲間と会話しながら事業を進めていくことが大事だと思います。ストレートには言えなくても、「なんかそれ違うんじゃない?」と言ってくれたことが意外と的を射ていたりすることもあるので。仲間の意見を聞くことで、よりよいサービスや事業が生み出されていくと思います。

ありがとうございました!

取材協力:創業手帳・シニアノミライ
インタビュアー・ライター:稲垣ひろみ

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