夢中になるのに年齢は関係ない!40代でゼロからスタートしたキャリアで起業。

起業時の課題
事業計画/収支計画の策定, 人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得

株式会社クリート代表取締役の小越干富美さんは、子育てが一段落したころ、パートで働き始めた大手人材会社で仕事ぶりを認められ正社員に登用されました。そこから始まった大学向けアウトソーシング事業でのキャリアが発端となり、2018年10月に株式会社クリートを創業。順調に事業を拡大されてきています。

起業に至った経緯や、起業するうえで心掛けていること、起業するにあたって気を付けておけば良かった失敗点など、さまざまな観点でお伺いしました。

会社プロフィール

業種 サービス業(人材派遣・就職支援)
事業継続年数(取材時) 3年
起業時の年齢 50代
起業地域 埼玉県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 300万円

話し手のプロフィール

会社名
株式会社クリート
代表
小越干富美
株式会社クリート代表取締役社長
大手総合人材会社に入社後、約10年間、大学業務のアウトソーシングを担当。奨学金関連業務を中心に、受託業務を増やし、大学事務アウトソーシングの運用実績を重ねる。大学専門担当となり、多くの大学職員さま、学生の方々との交流の中から大学業務は「人と人とのつながりを重視した業務」であると、身をもって実感する。大学は、次世代を担う多くの人財を輩出する役割を担っており、単に事務効率を上げるアウトソーシングにとどまらず、「学生と向き合う」大学事務のアウトソーシングの仕組みを作ることが、自分自身の使命と強く思う。
2018年10月に株式会社クリートを設立。
現在、大学専門のアウトソーシング企業として、奨学金業務を中心に、大学事務業務全般の運営、業務面のコンサルティングなどのサービスを提供している。

目次

パートのお仕事がライフワークに?

まず現在の事業内容を教えていただけますか?

小越:大学の事務業務のアウトソーシング事業、いわゆるBPOの受託運営がメイン事業です。特に、奨学金業務の受託運営を受注することが多いです。最近では、事務業務の効率化のためのITインフラの企画及び設計や、大学でのリカレント教育の企画・運営などの事業も手がけ始めました。

もともとは大学向けのBPO受託運営事業からスタートしたのですが、現在は人材紹介などの免許も取得したため、今の会社を一言で言えば、「総合人材会社」といったところでしょうか。

幅広く手がけられているのですね。もともと人材会社でいろいろとご経験されてきたのでしょうか。

小越:いえ、そういうわけでもありませんでした。私が新卒で入社したのは大手のアパレル企業で、4年ほど勤めて寿退社してからは、しばらく子育てに集中していました。

子育てが一段落してきたところでようやく、パートタイムという形で2008年から大手人材会社で勤めだしました。そこで正社員になり、大学向けアウトソーシング事業の担当者として専門家的なキャリアを積み、起業するに至ります。

なるほど。稀有なキャリアですね。パートタイムから起業に至るまでのキャリアの経緯をより詳しくお伺いしたいです。

小越:最初はパートで入ったものの、すぐにいろいろな仕事を任せられるようになり、契約社員になりました。

その頃、リーマンショックが起きて、派遣社員の需要が減ったこともあり、会社がアウトソーシング事業に力を入れるタイミングでした。そこで私もアウトソーシング事業側に異動となりました。

池袋の事務所で働いていたのですが、ちょうど池袋の大学で「人が足りない」ということで、アウトソーシングの業務担当として大学内に常駐し、働き始めました。私が大学で働き出した後に、社内で「大学の業務がわかっている人が必要」ということで、今まで仮でお手伝いしていたところ、派遣事業部からアウトソーシング事業部にこのタイミングで正式に配属を変更されることになったんですね。このときに社員登用試験にも挑戦し、正社員にもなれました。

時代背景もあった、ということですね。

小越:そうだと思います。当時、アウトソーシング事業部はできたばかりで、そのタイミングにいなかったら、アウトソーシング事業に携われていなかったかもしれませんね。

大手企業を退職。起業へと背中を押したのは、自ら湧き上がる“使命感”だった

突然、大学向けのアウトソーシング事業に回されたのですね。

小越:突然というか、希望はしていませんでした。2010年当時、大学向けのアウトソーシング市場はまだそれほど大きくなくて、大学の担当者にお話しに行っても門前払いされるようなことも少なくありませんでした。そういうこともあって、社内でも大学向け事業に本格的な営業担当者は配置されず、結果として私が大学向けアウトソーシング事業の営業と事務を兼任することになりました。

それまでのキャリアで営業経験もなく、苦手意識もあったので、最初は震える手で提案書を持っていったことを覚えています。

それは大変でしたね。いきなり大学向け事業のメイン担当になられたわけですね。

小越:そうです。ただ、しばらく営業と事務を兼務していくうちに、自分でも意外なことに、営業でどんどん成果を出せるようになっていき楽しくなっていきました(笑)。運用業務の実践を通じて大学の業務の大変さを理解していたので、自分の体験をそのまま話していたら、「あなたは大学のことをよくわかっているね」と、お客さまとの共通の会話が出来るようになって、受注(=契約)をいただけるようになりました。最終的には、「この人に話したら必ず何か解決策や提案を持ってきてくれるな」というふうに思っていただけていたのかな?と、自負しています。

苦手意識を持っていた営業が、実は得意分野だったんですね。

小越:そうなんです。私も本当にびっくりしました。楽しく仕事をしていると、それに伴い成果もついてきて、社内で何度か表彰もいただきました。私にとっては、営業が天職だったのかもしれません。

かつての私のように、自分の中の得意分野に気付かずにキャリアを歩んでいる方って、きっと多いと思うんです。そのような方々の可能性を見つけるお手伝いを今の人材事業を通じてしていけたら良いな、とも思っています。

起業された直接の動機はどういった点にあったのでしょうか。

小越:少子高齢化でどんどん大学生が減っていく中、大学の中では、職員の人員体制見直しなど、経営改革が始まっています。その一方では、教育環境の充実を図るなど、学生確保の取組みも盛んに行なっており、ただそれに付随する事務業務は増えるばかりで、現場の職員さん達の負担は増大しています。特に全体の7割程度を占める生徒数が10,000人程度の中小規模の大学では、その傾向が顕著です。

大学内のBPO導入の動きは、2015年頃から活発化してきましたが、それでも当時勤めていたころには、中小規模大学にその提案に伺っても、BPO導入にかかる予算感が合わなかったりして、要望はあっても導入には至らないこともありました。さまざまな大学の担当者様とお話する中で、「中小規模大学を中心とした全国の大学の事務業務を受託運営できる企業がないと、今後、大学の事務業務は立ち行かなくなるのではないだろうか」と思い始めたんです。

大学は国の将来の頭脳となる学生を育成する機関。社会に不可欠な機関です。そういった大学や未来ある学生のサポートするのは「自分の役割」と使命感を勝手に感じてしまい、「私自身が起業して中小規模向けのアウトソーシング事業をやろう」と決意した、という次第です。

起業されたのは50代とお伺いしました。ご家族の反対などはなかったですか。

小越:起業したのは51歳のときですね。旦那や子供たちも理解してくれたようで、不思議と反発はありませんでした。ひたむきに仕事に取り組む姿勢を普段から見てくれていたからかもしれません。

初受注は過去の自分からの贈り物

起業されてから、最初の売上が立つまでどのような経緯をたどられたのでしょうか。

小越:会社を辞めてからすぐに法人を作ったわけではありません。会社を退職してからの6か月間は、資金調達の知識など経営に必要な知識を学ぶ期間として、東京都が主宰する「東京創業ステーション」に行ったり、本を読んだりして、さまざまなことを勉強しました。半年間の勉強期間を経た2018年10月にようやく、法人を作りました。

最初の資本金300万円は私個人の貯金から捻出したものです。他にも、日本政策金融公庫から700万円の創業融資、港区から1,500万円の融資を早い段階から調達しています。資金調達のときに事業計画書を作らなければなりませんが、それは前職での企画書作成経験などがあったのでそこまで難しく感じませんでしたね。

前職でお世話になっていたお客さまに、退職のご挨拶に伺ったところ、おそらく社交辞令で言われていたのでしょうが、「会社の看板ではなく、小越さんとお仕事がしたかったんですよ」とおっしゃっていただいたことが何よりも嬉しい言葉でした。起業したことをご報告に伺うと、初めての受注のご契約をいただきました。

なるほど。50代で起業するとなるとなかなか困難も多そうですが、小越さんの場合、築いてきた信用があったからこそ、すぐに受注できたのですね。

小越:そうかもしれません。仕事をするうえで、「信頼をいただけるように・・・」ということだけは常に心掛けています。それは、今も変わっていません。

金融機関の方からも、「50代で起業すると9割以上はうまくいかない」と言われたこともありました。でも関係性や信頼関係が築けていれば、逆に年齢などを気にすることなく、プラスにすることもできる!と思っています。

前職でやっていた事業を創業事業にしたのも良かったのではないでしょうか。

小越:そうだと思います。創業するにあたって売上が立つ見込みがないと、50代での創業はなかなか難しいかもしれませんね。

そこから堅調に事業規模を拡大されてきていますね。

小越:おかげさまで、現在はフルタイムで働く方が7名、パートタイムで働く方が20名になりました。51歳で起業してから今までの約3年間、24時間365日ずっとフル稼働しているような気持ちで頑張ってきました。「よくそんな体力があるね」と言われることもあります(笑)。

トラブルがあるのは当然。乗り越えられないと起業はできない

順風満帆に経営されてきたように見えますが、トラブルなどはご経験されていないのでしょうか。

小越:小さなトラブルはしょっちゅうありますが、幸い、大きなトラブルというのはまだ経験していないと思っているのですが…。

ただ、一度だけ手痛い失敗をしたことがあります。業務に関する受付システムの制作を、紹介された個人事業主の方に依頼したときの話です。その方のことを私も以前から知っていて信用していたのですが、想定外に工期が伸びてしまった結果、7割程度の完成度にもかかわらず、「これ以上はもう開発できません」と言われて納品されてしまい、非常に困りました。

開発費用は前払いにしていたのでしょうか。

小越:はい。納品前に前払いしてしまっていました。いくら信用している人だとしても、仕事を依頼するときは成果物と引き換えに対価を支払わなければならないと痛感しましたね。私がシステム関係のことに無知だったこともあり、契約自体もあいまいに進めてしまったのもいけなかったです。

起業される方はご自身の強みを活かして起業されると思いますが、専門外の分野の知識についてどのように補っていくのかという点も考えておいた方が良いと思います。

なるほど。やはりトラブルはつきものなのですね。

小越:そうだと思います。やっぱり「どんな困難でも乗り越えてみせる」という覚悟や気概がなければ、経営者は務まらないですね。

ただ、失敗を経験値にして「次はこうしよう」と切り替えられるのは、起業家・経営者の良さだと思います。

起業当初から気を付けるべきだったポイントとは?

起業直後から「こうしておけば良かったな」と今だからこそ思うことなどはありますか。

小越:私は創業から2年ほど、ずっと1人で会社を経営してきました。でも今になって思うのは、最初から私の右腕のような人と一緒に起業できていれば、もっと早く事業を拡大できていたな、ということです。

現在、会社は第二創業期に差しかかっていて、次々といただくご依頼に応えることと、新しい事業にチャレンジすること、この両面に取り組んでいます。例えば、大学向けのアウトソーシングの事務事業を運営する中で、業務上の無駄をシステムで効率化するための取組みを始めましたが、これを進めるにはたいへんな労力がかかります。

また、新しい大学からの引き合いも増えてきてはいるのですが、まだ社内にアウトソーシングの業務を一通り任せられるマネージャークラスの人材が育っていないので、引き合いをいただいているのにもかかわらず受注できないという状況が続いています。

なるほど。創業期からずっと、人材育成が課題、ということですね。

小越:そうなんです。人材育成さえできれば、もっと早くから事業をスピーディーに拡大できていたと思います。

アウトソーシング事業を受託して、運営するまでのプロセスって、起業するプロセスと似ているんです。部署を立ち上げて契約書や請求書、給与計算の仕組みなどを整える一連のプロセスが「プチ起業」みたいになっているんですね。だから、私と同じようにアウトソーシング事業の経験を一通り積んでいる人材を最初から採用しておけば良かった、と思っています。

最近は、アウトソーシングのプロセスが起業に似ていることから、大学向けの起業家教育のプログラムをアウトソーシング事業の実地経験と絡めて実施できないかどうか、ということも考えているところです。

会社を経営されることは大変なことだと思います。ご自身で心掛けていることは何かありますか。

小越:自分に一番厳しくすることですね。24時間365日、お客さまや従業員の方々の期待に応えられるよう、真摯に働くことです。そうすれば私自身も「これだけやっているのだから」と私を信じられますし、周囲からの信用も得られると信じています。

あとは、実現したいことがあれば、諦めずに挑戦を続けることです。正直、「起業してすぐに裕福になりたい」という方には起業は向いていないかもしれません。私の場合、5年~10年という長期間をかけてでも、自分の事業を成功させたい、という思いがある方、諦めない方にはぜひ起業に挑戦していただきたいです。私もその方が心強いですから。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:樋口 正

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