500円貯金から着想したビジネスモデル。その着眼点とビジネス化の裏側をのぞき見!

起業時の課題
資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発

株式会社ファーストスウェルは、旅行に向けてコツコツと貯金ができる「積み立てアプリ TABI CHOKIN」をメイン事業として展開されています。

代表取締役の池田誠一郎さんは、高校時代にプロサーファーを目指されるも、憧れのプロサーファーのレベルを目の当たりにして方向転換。経営者でもあったお父さまの影響から「35歳までに起業しよう」と決めました。ハワイ大学でマーケティングを学ばれ、東京スター銀行、ファーストリテイリングでのキャリア、そして、ご自身の体験からインスピレーションを得て、満を持して「TABI CHOKIN」をリリース。

ビジネスアイデアの着想から構想までの経緯や、起業にどんな経験が役立ったかなどについてお伺いしました。

会社プロフィール

業種 サービス業(旅館・ホテル/旅行・レジャー・アミューズメント関連)
事業継続年数(取材時) 4年
起業時の年齢 30代
起業地域 神奈川県
起業時の従業員数 3人
起業時の資本金 非公開

話し手のプロフィール

会社名
株式会社ファーストスウェル
代表
池田誠一郎
株式会社ファーストスウェル代表取締役
ハワイ大学マーケティング学部卒業後、東京スター銀行入行。約5年幅広い年齢のお客さまへファイナンシャルアドバイスを行う。その後、株式会社ファーストリテイリングへ入社。ユニクロ店長、グローバルマーケティング。PLST(プラステ)デジタルマーケティング。約7年リテールセールスとマーケティングに従事。2017年8月株式会社ファーストスウェルを創業、代表取締役に就任。週末はインストラクターとして、子供・大人へサーフィンの素晴らしさを伝える。

目次

プロサーファーを目指していた18歳

現在の事業内容を教えていただけますか?

池田:旅行資金を自動で積み立てることができる旅行積立アプリ「TABI CHOKIN」を運営しています。旅行の予定にあわせて目標額と満期時期を自由に設定でき、積立額と2%のサービス額を合わせた”旅貯金”を、宿泊、航空券やレンタカーの手配にご利用いただけます。最大の特長は、積立期間に関係なく2%のサービス額が積立額に付与されること。来年の旅行のためにコツコツ貯めるのも、来月の旅行のために一括でも、2%のサービス額が付与されるので、低金利時代に大変お得な積立アプリです。

旅行の際には、家族旅コンシェルジュが「思い出旅行」をお客さまに提案し、旅行を手配しています。

ほかにも、金融機関からアパレル企業まで、新規事業開発コンサルティング事業や、神奈川県 葉山町にある複合施設「SEE THE SUN葉山」にて、コミュニティ運営を行っています。

幅広く事業展開されているんですね。起業を意識したのはいつごろからですか。

池田:18歳のころですね。その前は漠然とプロサーファーになりたいと思っていました。

サーフィンは小さいころからやっていたんですか?

池田:サーフィンを始めたのは高校1年生のときです。雑誌の見開き広告に載っていた、オーストラリア出身のプロサーファー タジ・バロウさんの写真に衝撃を受け、高校卒業後はタジ・バロウさんの出身地、西オーストラリアにある小さな田舎町に移り住み、1年間ワーキングホリデーをしながらサーフィンに励みました。

タジ・バロウさんご本人や、ご両親ともお会いしました。実際に一緒に波に乗ってみて、「到底自分がプロで勝てるレベルじゃないな」と感じ、プロサーファーになるのは諦めました。

ものすごい行動力ですね。そのあたりから、起業家としての萌芽が見えてきた感じがします。実際に起業を意識され始めたのは何がきっかけだったんですか?

池田:父親が経営者だったこともあり、「35歳で独立」を考えていました。オーストラリアに行くきっかけが雑誌の広告だった経緯から、広告やマーケティングを学べること、世界でも有数の波のポイントがあること、グローバルな環境があることなどの視点で選び、ハワイ大学に進学することにしました。

「35歳で」というのは、何か深い理由があったんですか?

池田:特に理由はないですね。35歳で独立してみて思うのですが、35歳という年齢は、ビジネスパーソンとしていろいろな経験やスキルを持っている状態、いわゆる「脂がのっている」状態なので、独立・起業するにはちょうどいい年齢かもしれません。

起業へのアンテナを張って過ごしたサラリーマン期

大学卒業後、東京スター銀行に入行されています。どのような意図で銀行を選ばれたのでしょうか。

池田:当時、革新的な金融商品を販売しており、マーケティングに惹かれました。また、将来的に独立・起業を考えるうえで、さまざまな基礎知識が学べる銀行が良いと考えました。

窓口業務を1年経験後、ファイナンシャルアドバイザーとして個人顧客向けにリテール営業を担当しました。経済・金融について、このころ学びました。

「TABI CHOKIN」はフィンテックサービスですが、この時点ですでにアイデアはあったのでしょうか?

池田:いえ、この時点ではまだ「TABI CHOKIN」のアイデアはありませんでした。ただ、この時期の経験が今のビジネスアイデアにつながっています。

今後のキャリアを考え、入行して1年後には転職活動を始めていました。

1年後というのは早いですね。それから3年程度、じっくりと転職活動をされたんですね。

池田:はい。急いで転職活動をするよりも、自分の希望に沿った企業をじっくり探したほうがよいと考えていました。

希望は、日本発のグローバル企業であり、ベンチャーマインドが強く、株主が安定している企業です。企業が買収され、企業文化や経営方針が大きく変わってしまうことをみてきたので、オーナーシップが強い企業を探していました。

これらの希望から、ユニクロなどのアパレル事業を展開している株式会社ファーストリテイリングに転職することに決めました。

私が山口県出身なので、同じく山口県出身の柳井社長(ユニクロ創業者)に憧れを抱いていた、というのも転職理由にありました。

ファーストリテイリングはどのような業務を担当されていたのでしょう?

池田:「商売を理解する」ということで、ユニクロ店舗の店長職を約2年間やりました。その後、志願してマーケティング職に異動し、プロダクトマーケティングを担当しました。

ユニクロでのグローバルマーケティングの経験は、起業時に役立ちましたか?

池田:ヒト・モノ・カネが限られるスタートアップでは、ユニクロとは規模が違いすぎて参考になりませんでした。一方で、起業する1年前、グループブランドPLST(プラステ)に異動し、デジタルマーケティングを担当しましたが、その時の経験は非常に役立ちました。少ない人員と限られた予算、起業時の環境とよく似ていて、実際にこのときにやっていた施策・ノウハウを起業に活かすことができました。

PLSTではどのような施策を担当されていたのですか?

池田:店頭のコミュニケーションからオウンドメディア立ち上げまで担当しました。

すごい業務範囲ですね。

池田:このときに経験したマーケティング手法は、起業するにあたってそのまま役立ちました。

35歳で満を持して起業

「TABI CHOKIN」のアイデアはどこから生まれたのでしょうか。

池田:スターバックスで買い物したつもりで毎日500円ずつ貯金していました。いつの間にか20万円ほど貯金ができ、家族みんなで帰省しました。家族旅行を通して、両親、妻、子供たちが喜び、素敵な思い出になりました。

この体験から「TABI CHOKIN」のアイデアにたどりつきました。

「35歳で独立しよう」と思われていたと伺いましたが、いつごろから具体的に起業に向けて動き始めたのでしょうか?

池田:市場調査、プロダクト開発、提携先への営業など、本業の仕事をしながらリリースに向けて動きました。

旅行業全体が厳しいコロナ禍でも前向きでいられた理由

起業してから軌道に乗るまで、それなりに時間はかかりましたか?

池田:そうですね。「TABI CHOKIN」は、旅行商品の販売手数料が収益源のため、顧客数を増やすまでに時間がかかりました。また、新型コロナウイルスの影響もあり旅行業全体で厳しいビジネス環境が続いてます。

そのため、「TABI CHOKIN」を成長させると同時に新規事業開発のコンサルティングを始めました。

起業当初の苦しいときにも耐えられたのはなぜだとお考えですか?

池田:そもそも失敗する前提で起業したので、そこまで「しんどいな」とは感じませんでした。うまくいかないときも「まぁ、そんなこともあるよね」と考え、早く失敗して学び、次に活かすように進んでいます。

危機感を持って動きながらも、それでいて楽観的であることは、起業する場合、非常に重要だと考えています。私の場合も、「うまくいかなくても、他の選択肢を作れるだろう」と楽観的に考えていました。なるようにしかなりませんから。

開発を担当したエンジニアの方などはどのように探されたのですか?

池田:信頼できる方々のリファラル採用でエンジニアやチームメンバーを作りました。

  • リファラル採用とは…社員の友人や知人を伝って採用する方法。

今の課題は事業拡大に向けてのチーム作り

現状、「TABI CHOKIN」の課題は何でしょうか?

池田:多くのユーザーにご利用いただいていて、コロナ禍でもお客さまは堅調に増えてきました。毎月、過去最高のユーザー数を更新し続けています。旅行に行けなくなったことで、旅行に行くための貯蓄意欲が逆に刺激されています。

ただ、私としてはまだまだ拡大させたい。拡大するのであれば、増資や買収なども選択肢として考えています。

「TABI CHOKIN」を拡大させるうえでの最大の課題は、チーム作りです。現在も10人程度のチームで動いてはいるのですが、もっと強固な組織にしたいと考えてます。

なるほど。「TABI CHOKIN」以外の事業についてはいかがでしょう?

池田:森永製菓さんと一緒に運営させていただいている「SEE THE SUN葉山」では、シェアオフィスから塾・習い事まで、運営しており、非常に楽しいです。新規事業開発コンサルティングでは、金融・ファッションといったバックグラウンドが活かせています。

ただ、これからはあくまでメイン事業である「TABI CHOKIN」によりフォーカスしていきたいですね。受託事業でで着実に収益を上げつつ、それらを「TABI CHOKIN」の広告宣伝費に回して、さらに成長をスピードアップさせていきたいです。

弊社は7月決算なので、2022年の7月以降、新たに出資を受けてチームメンバーを増やし、チームもさらに強化する予定です。

趣味があることで、起業生活にもメリハリが出る

起業の醍醐味はどのような点にあるでしょうか?

池田:すべてが自分次第ということですかね。自分の意思決定で物事が進んでいくのがおもしろいです。

普通の人から見ると、狂った生活をしていると思います。休日って感覚はないですし、稼働しているって感覚もない。常に仕事のことを考えていて、ちょっとした隙があればパソコンを開いて仕事をしたりして。ただ、それでも苦しいとか、辛いとかいうことはありません。自分で決定できることが楽しいんです。

サーフィンは続けられているのでしょうか?

池田:はい。毎週3日間、「放課後サーフィン」と題して、15時から子供たちにサーフィンを教えています。それが午後からなので、朝5時から正午までに業務を終わらせています。

独立してずっとハードワークをされる起業家もいますが、趣味があればあったでいいですよね。

池田:そうかもしれませんね。私の場合、「放課後サーフィン」でいろいろなことがリセットされて、いい気分転換にはなっています。趣味はあったほうがいいと思いますね。メンタルヘルスケアという意味では。

起業のタイミング、迷っているなら「今」がそのとき

18歳で「35歳で起業しよう」と決められてから、かなり戦略的にキャリアを築かれてきたと感じます。起業するためには、それまでの生き方も大切ですか?

池田:難しい質問ですね(笑)。1つ言えるとすれば、好きなことを見つけたほうがいいと思います。好きなことであれば、挑戦して失敗しても後悔しないですから。起業のアイデアを見つけるにしても、好きなことであれば前のめりに調べられますし、常にアンテナを立てている中で、アイデアも降ってきやすいのではないでしょうか。

なるほど。池田さんの場合、起業前までに身に付けたスキルは役立っていますよね。

池田:そうですね。銀行で学んだファイナンス、ユニクロで学んだ店舗運営や接客、マーケティングの知識・ノウハウは役立っています。私もそうでしたが、まだアイデアが浮かばないうちはいろいろなスキルを身に付けるのも方法のうちですね。

起業したい、という方に他にアドバイスはありますでしょうか?

池田:起業を目標とされている学生さんや会社員の方によく「起業するにはどうすればいいですか」と聞かれますが、私はいつも、「今すぐにやってみてはどうですか」と回答しています。

例えば、会社にいても副業という形で起業ができます。カフェを開業したい方であれば、週末に間借りしてカフェをやってみるのもいいでしょうし、エンジニアやライター、デザイナーなどのフリーランスであれば、夜や週末に仕事ができます。副業で始めてみるのが一番着実ですし、おすすめしたいです。

逆に、その程度の努力もできないようであれば、独立するのは難しいと思います。起業すれば四六時中仕事をしなければいけないですから。私も最初は、いわば副業のような形から始めたので、皆さんもぜひ副業から始めてみてはいかがでしょうか。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:樋口 正

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