好きなことを仕事にしたい!それを叶えるには起業しかなかった。

起業時の課題
事業計画/収支計画の策定, 人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得, マーケット・ニーズ調査

DIYの専門家として精力的に活動されている「合同会社クラディ」代表の石井麻紀子さん。

“DIYの専門家”という聞きなれないフレーズだけでも、具体的にどのようなお仕事をされているのか、興味をそそられます。今回は、そのお仕事内容はもちろん、DIYがそれほど市民権を得ていなかった時代に事業を立ち上げた経緯や、サービスを軌道に乗せるまでの道のりなどについて伺いました。

会社プロフィール

業種 建設・工事業(内装工事)
事業継続年数(取材時) 2年
起業時の年齢 40代
起業地域 埼玉県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 100万円

話し手のプロフィール

会社名
合同会社クラディ
代表
石井麻紀子
DIYプロデューサー(DIYアドバイザー)
IT系OLからDIY普及を仕事にすべくホームセンター勤務へ転身。“DIY LIFE SUPPORT”を掲げ、人や暮らしに寄り添うというもともとのDIYの在り方に即したDIYサポートをあらゆる業界から行うことで効果的にDIYを普及させるため、DIYの会社『合同会社クラディ』を創設。現在はリフォームの実技講座を行う「DIY学校」、一般向け「DIYリフォームのサポート」、日本初「DIYサポート付賃貸住宅」、DIY観点から経年変化後も建物の価値を上げられる「バリューアップリフォーム」、店舗の「ブランディングリフォーム」の元請け、デザイン、コンサルティングも行っている。現場の実践で培った広い知識と技術を活かして、数々のメディア出演や監修、企業研修やセミナーなど、幅広い業界で活躍中。異業種においてもアイデアや独自の視点を求められさまざま携わっている。
さいたま市産業創造財団 ブランディングリフォームアドバイス専門家
さいたま市ニュービジネス大賞2016 ファイナリスト
単独著書籍『デッドスペースDIY 収納からワークスペース、子ども部屋まで ちょっとの工夫でスペースを最大限活用!』(誠文堂新光社)
共同著書籍『ビンテージ塗装と汚しのテクニック―使い込まれた味をつくる』(スタジオタッククリエイティブ)

目次

お気に入りの空間で幸せに生きる人を増やしたい

現在の事業内容を教えていただけますか?

石井:賃貸物件の差別化を図ったり、古くなった物件の価値を高めるリフォーム、リノベーションの請負、DIYでリフォームされる際のサポート事業を行っています。また、DIY施工のやり方を指南する学校など、DIYを軸にさまざまな事業を展開しています。

DIYを使えば本格的にリフォームするよりも安く済みそうです。

石井:おっしゃる通りです。さらに言うと、空き家の問題もDIYを使って解決できることが多いのではないかな、と考えています。ご両親に先立たれてご実家を突然相続されることになるサラリーマンの方々も増えてきていますよね。ところが、まとまったお金が用意できないことも多く、ご実家をリフォームして賃貸物件にしたり、売却したりといったことができない方も多いです。それで結局、そのままご実家を放置してしまった結果、空き家が増えている、という現状があるのかな、と思っています。

ご実家を相続された方にDIYの知識やノウハウがあれば、ポイントを押さえたお金の掛け方で家をリフォームして売却したり貸し出したりすることもできるようになります。

クラディさんに依頼することもできるのでしょうか?

石井:はい。我々に全部お任せいただいてもいいですし、一緒にDIYをすることもできます。デザインや施工のやり方は、ご相談を受け、それに対するご提案の中から選んでいただくこともできます。

個人ではなく、法人顧客に対してはどのようなサービスを提供されているのですか?

石井:不動産オーナーや管理会社向けに、賃貸物件の価値を上げるリフォームやDIYサポート事業などを手掛けています。DIYという概念や手法を使ってお家の良さを引き出しつつデザイン性を持たせてあげれば、空室続きだった物件でも新しい入居者さんが見つかりやすくなります。物件が古くなるほど、不動産会社さんが取る手法として賃料を下げたりするんですけど、DIYで価値を高めれば、その必要もなくなりますし、むしろ家賃を上げることもできます。

さらに理想のお部屋にしていただくため、内装を一緒にDIYするというサポートや、入居後もDIYしたくなったら相談やサポートが受けられる、DIYサポート付き賃貸のサービスも提供していますね。

学校ではどのような内容を教えられているのでしょうか?

石井:特にリペアの部分に重点を置いて学習する内容になっています。リフォーム業者などを使わずにDIYをすることで一番コストカットできるのがリペアの部分なんですね。網戸や障子の張り替えとか、壁や床の傷の修繕とか、そうしたことから1つずつ教えていきます。内装を変えていくにしても、まず古い傷などを直しておかないと、傷は目立ち続けますので重要な工程なのです。ただし、職人に依頼すべきリペアもいろいろあるので、そういった知識も身に付けていただきます。

皆さん、お住まいについてはどこかしら我慢して生きているというか、お住まいの家に完全に満足している方って、そこまで多くはないと思うんです。でもDIYができるようになれば、大抵の願いは叶えられるんですね。

DIYで少しずつ理想のお家ができていくと、お家に帰るのも楽しみになっていきますよね。するとまたDIYでお家を素敵にしたくなる。その循環が回っていくと、その人の暮らしとか、ひいては人生全体も理想的なものに近付いていくと思うんです。だから私は、もっとDIYを世の中に普及させていきたい。そんな想いを持って、事業を進めています。

DIYはそもそも単価がそこまで高くないですよね。利益を出すのは大変なのでは?

石井:そうかもしれませんね。ただ、徐々にではありますが、ありがたいことに右肩上がりで成長してきてはいます。

誤解されることが多いのですが、DIYが安いのは、その方ご自身だけでDIYされる場合のことであって、サポートなど人が動けば当然ながら人件費も交通費も発生します。

リフォームのときには施工に対して工賃がかかります。
DIYサポートのときは複数の内容でも1日の人工でお受けしているので、その点割安になりますが、多能工的に幅広い知識があるわけですから、決して安くはありません。

また、単価をあまり低くしてしまうと業界全体の単価も低くなってしまうので、業界の先駆者と言っていただけている以上はこの市場の価値を作る必要があるのであくまで「適正な」価格であることは意識しています。単価が安いDIYとはいえど、安売りすれば良いわけではありませんね。

目の前のことに全力投球していたら、勝手にスキルが付いていた

石井さんは、もともと物作りがお好きだったんでしょうか?

石井:そうですね。小さいころから物作りはずっと好きでした。学校が休みになる土曜日には新聞折込広告の間取り図を3~4時間見ていたり、紙とワイヤーを組み合わせてポストカードを作ったりしていました。その延長で、知識がない中でも部屋の壁紙を剥がしてみたり、珪藻土を塗ったりだとか、今のDIY事業につながるようなこともしていましたね。意識はしていませんでしたが。

大人になっても物作りが好きなことは変わっていなかったので、就職活動のときは建設会社を受けて、内定が決まっていました。研修も始まっていたんですけど、家の都合で行けなくなって、辞めてしまいました。

そこから、物作りに関係するお仕事に就職されたんですか?

石井:いえ、最初は病院での秘書業務をやっていました。DIYとは全く関係ない仕事ですね。そこは契約職員として働いていたので1年で退職して、次は雑貨の企画・販売会社に就職しました。ファミリー企業だったので大変な面もあったのですが、自分で商品を企画して、営業して注文を取ってきて、商品を梱包して発送する、という一連の流れが経験できました。

なるほど。DIYとは関係がないですが、基礎的なビジネス能力を学ばれていた、というイメージですかね。

石井:そうですね。意識はしていなかったのですが、今から振り返ってみると結果的にさまざまなスキルが身に付いていました。ただ、その企業は結構ストレスが大きくて、一緒に入社した同期6人が半年後には全員いなくなっていました。私も「もうこれ以上はしんどいな」と思ったタイミングで、IT企業の営業事務に転職しました。

IT企業では、今まで私が経験してこなかったパソコンスキルを学びました。ExcelやPowerPoint、データベース管理ソフトのAccessまで使えるようになりました。ここで学んだスキルも、今すごく役に立っています。

会社員として働く中で、自然と起業に必要なスキルを学ばれていったわけですね。

石井:結果的にはそうなりましたね。ただ、キャリア形成という視点では考えていませんでした。目の前のことに全力で取り組んできただけです。

「このままでいいのか」。30歳を前にして再燃した物作りへの情熱

これまでのキャリアを聞いていると、DIYからどんどん遠ざかってきているように感じますが、起業を決意をされたのはいつごろなのでしょうか?

石井:29歳のころでしたね。30代を目前にして、「私の人生、このままでいいのかな」と自問自答を繰り返しました。「物作りがやりたい」という気持ちはずっとあって、それと全く違う仕事をしている自分にずっとモヤモヤを感じてはいたんです。ですが、DIYが今ほど普及していない時代だったので、私がやりたい仕事が世の中になかった。じゃあ、自分でやるしかないのかな、と思ったんですよね。

「この30歳になるタイミングを逃してしまったら、もう一生そっちの道に行けないかもしれない」と感じて、「ジャンプするなら今だ!」と、IT企業の営業事務職を辞めて、ホームセンターにパートとして勤めつつ、DIYアドバイザーの資格を取得するために勉強をしていました。そのタイミングから、個人としてDIYサービスを提供する生活を始めました。

30歳を前にして同じような気持ちを感じる方も多いかと思います。でも実際に飛び出せる点がすごいですね。

石井:ありがとうございます。ですが、DIYサービスを提供していた、とはいうものの、まだお金はもらっていませんでした。ボランティアのような状況で、事業と言えるものではなかったですね。その後、結婚や引っ越しなどのライフイベントも重なり、DIYで独立するまで4年くらいダラダラとしてしまいました。ただ、ホームセンターで膨大な道具や素材の知識を仕入れつつ、個人でDIYサービスを提供する、という二足のわらじ生活が、DIY専門家としての私を鍛えてくれたのは事実です。

コツコツと信用を築くことで、好きなことで生きていけるようになる

実際に独立するきっかけとなった出来事は何だったのでしょうか?

石井:資格を取ってからも、DIY関係の集まりに出るなど知り合いをどんどん増やしていって、「お仕事があればお願いします」とお声がけしていたんです。その後何年か経ったとき、周りから実際にお仕事を振っていただけるようになっていきました。

個人でDIY専門家としての信用を高めていたのですね。

石井:はい。その後、2014年ごろには、DIYサークルで知り合った女性と意気投合して、2人で大家さん向けのDIYサポートサービスをスタートしました。彼女は大家さんだったので、大家さん同士のネットワークから徐々にお仕事をいただけるようになっていったイメージです。

このころからDIYするときの職人さんたちとも徐々に知り合うようになり、少しずつ仲間を増やしていきました。ただ、お仕事は増えていったのですが、一緒にお仕事をする職人さんやDIYのプロの方々にお支払いする金額も大きかったので、手元に残るお金はそこまで多くなかったです。受注して実績を積んで、信用を高めていった期間でしたね。

なるほど。DIYも1人だけではできないですからね。

石井:はい。だからこそ仲間を作るのはすごく大事です。「お仕事をお願いしたい」と言われたときに、「今は手が空いていないから」とお断りしてしまうと、その後、お客さまもお仕事を振っていいかどうかわからなくなってしまいますよね。簡単に言うと、信用を失ってしまうことになります。だから、常にお仕事を受注できる状態でいられるように、自分と同じレベルで仕事ができるプロの方々と知り合っておくようにしようと意識していましたね。

2020年に法人設立されていますが、それはどういったきっかけからでしょうか?

石井:不動産会社さんをサポートしようと考えたときに、やっぱり法人じゃないと都合が悪くなることが出てきたので、2020年に会社を設立することになりました。それまでは個人として営業を続けていました。

法人形態を合同会社にした理由はなぜですか?

石井:中小企業診断士さんたちと相談したところ、合同会社にしたほうが節税メリットがあったためです。

石井さんはテレビなどのメディア露出も多くされていますが、きっかけはどのようなことだったんですか?

石井:メディアには2011年から出させていただいています。最初はサークル活動の取材だったんです。そこで声をかけられるようになって、個人でテレビに出させていただく機会が増えていきました。

取材時、たまたまディレクターさんと話したときに「ノリがいいですね」と評価していただいて、NHKの生放送にも出させてもらうようになりました。もともとラジオ局でADをやっていた経験もあったのでメディアでもあまり緊張せずに話せたからか、生放送での私の姿勢も評価いただき、よく出演の依頼をいただくようになったんです。

引き続きお声をかけていただけるように、ディレクターさんが求めていることを考え、レスポンスを早くしたり、自分から企画を持っていくなども心がけています。

やっぱり、お客さまが喜んでいる姿を見るのが一番楽しい

起業の醍醐味を教えてください。

石井:私の場合、目に見えるサービスを提供しているじゃないですか。ボロボロだった内装をリフォームして素敵なものにすること自体も楽しいですし、やっぱり、お客さまに喜んでもらえる姿を見るのが一番のやりがいですね。

法人のお客さまの場合は、DIYという方法を通してサポートしていくことで、満室になって喜んでいだだけることが嬉しいですね。

お客さまの喜びが見えるのは、DIYという事業だからこそかもしれませんね。今現在、重点的に取り組まれていることはありますか?

石井:DIYの学校ですね。コロナ禍でおうち時間が増えた背景もあってか、一般の方々の中でもDIYへの注目度が高まってきていますよね。DIYができる人が増えれば、自分でお住まいを自由にリフォームして幸せになれる人が増えますよね。より多くの皆さんに、理想のお住まいに住んで喜んでいただきたいので、これからも学校には力を入れていきたいです。

DIYという、職業として確立していない領域で起業するのは勇気が要ることだったと思います。他にも石井さんのように「好きなことで起業したい」と思ってはいても、踏み出せない方も少なくないと思います。そうした方々に向けて、メッセージをいただけますでしょうか?

石井:私の座右の銘は「為せば成る」です。やっぱり、やってみないとわからないですよね。失敗を怖がっていたら、いつまで経っても起業はできないと思います。もし本当にやりたいことがあるなら、やってみればいいと思いますよ。私も最初から本格的に起業したわけではなかったです。

怖いのであれば、私のように最初はボランティアのようなところから始めてみてもいいのではないでしょうか。それでお仕事としてお金をいただけるようになってから起業すれば、そこまでリスクもないと思いますよ。

行政の起業支援窓口を有効活用して相談相手を作り、知識をいただいたり背中を押してもらうのも良いですね。私はさいたま市ニュービジネス大賞というビジネスコンペに参加させていただきましたが、そこでは全くビジネスを知らなくてもイチから育ててくれました。その後も主催のさいたま市産業創造財団でフォローをしてもらえましたので心強かったです。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:樋口 正

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