社会保険料控除とは?年末調整や確定申告を行う方法やポイントを解説
監修者: 岡本匡史(税理士)
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年金や健康保険料といった社会保険料を支払った場合、社会保険料控除の適用を受けられます。納めるべき所得税や住民税の額を抑えられる制度であるため、忘れずに申告するようにしましょう。
ここでは、社会保険料控除について、対象となる社会保険料の種類や対象者、適用を受けるために年末調整や確定申告を行う方法をポイントと共に解説します。
社会保険料控除とは所得から支払った社会保険料を差し引く制度のこと
社会保険料控除とは15種類ある所得控除の1つで、支払った社会保険料の全額を所得から控除できる制度です。
所得税や住民税の金額は、年間の収入から必要経費や給与所得控除を差し引いた所得を基に計算します。所得控除は、一定の要件に当てはまる支出がある場合に所得から一定額を差し引ける制度で、社会保険料控除以外にも、基礎控除や医療費控除といった多くの控除があります。
税金は所得から各種控除を差し引いた課税所得に税率を掛けて求めるため、所得控除の適用を受けられれば、その分納めるべき税金の金額を抑えることにつながるでしょう。
社会保険料控除の対象となる社会保険料の種類について、以下で詳しくご紹介します。
社会保険料控除の対象となる社会保険料の種類
社会保険料控除の対象となるのは、申告の対象となる1年間に支払った社会保険料です。支払った社会保険料は、その全額を所得から控除できます。社会保険料控除の対象となる社会保険料には、以下があげられます。
社会保険料控除の対象となる社会保険料
社会保険料の種類 | 内容 |
---|---|
国民年金保険料 | 日本国内に居住する20歳以上60歳未満のすべての人に加入が義務づけられている、国民年金の保険料 |
厚生年金保険料 | 企業に勤務する会社員などが加入する厚生年金の保険料。保険料は企業と従業員の折半で支払われ、従業員が負担した分のみ社会保険料控除の対象となる |
国民年金基金の掛金 | 任意で加入する国民年金基金の掛金で、厚生年金保険に加入している会社員やその家族などは加入できない |
雇用保険料 | 企業に勤務する会社員などが加入する雇用保険の保険料。保険料は企業と従業員の双方が負担し、従業員が負担した分のみ社会保険料控除の対象となる |
健康保険料 | 企業に勤務する会社員などが加入する健康保険の保険料。保険料は企業と従業員の折半で支払われ、従業員が負担した分は社会保険料控除の対象となる |
介護保険料 | 健康保険・国民健康保険の加入者が満40歳に達すると自動的に加入する、介護保険の保険料。被保険者は65歳以上の第1号被保険者と、40~64歳の公的医療保険加入者である第2号被保険者の2種類に分かれる |
国民健康保険料 | 他の医療保険制度や後期高齢者医療制度に加入していないすべての方が加入する国民健康保険の保険料 |
後期高齢者医療保険料 | 75歳(一定の障害がある方の場合は65歳)以上の人が加入する、後期高齢者医療制度の保険料 |
なお、民間の生命保険や介護医療保険の保険料は社会保険料控除の対象ではなく、生命保険料控除の対象になるため、混同しないように注意しましょう。
社会保険料控除の対象者
社会保険料控除を利用できるのは、社会保険料を支払ったすべての方です。給与から厚生年金保険料や健康保険料、雇用保険料などが天引きされている会社員、パート、アルバイト、派遣社員だけではなく、国民年金や国民健康保険の保険料を支払っている個人事業主も対象となります。
なお、生計を同一とする家族の社会保険料を支払った場合には、その分も支払った方が社会保険料控除の適用を受けられます。
社会保険料控除を受けるには必要な証明書がある
社会保険料控除を受けるには、どの社会保険料にいくら支払ったのかを申告しなければいけません。社会保険料の種類によっては、証明書の添付も必要になります。主な社会保険料における、申告する際の証明書の要否は以下のとおりです。
社会保険料控除における社会保険料ごとの証明書の必要性
証明書の要否 | 社会保険料の種類 |
---|---|
証明書が必要 | 国民年金保険料、国民年金基金の掛金 |
証明書が不要 | 国民健康保険料、後期高齢者医療保険料、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料、雇用保険料 |
例えば、国民年金と国民健康保険、国民年金基金に加入している個人事業主の場合、国民年金と国民年金基金の控除証明書を確定申告書に添付する必要があります。添付漏れがないように注意しましょう。
社会保険料控除を受けるには年末調整または確定申告が必要
社会保険控除の適用を受けるためには、年末調整または確定申告での申告が必要です。会社員やパート、アルバイトなどの給与所得者の方と個人事業主の方では、申告方法が違うため気をつけましょう。それぞれの申告方法について解説します。
給与所得者の方は年末調整で控除を受ける
令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書
- ※国税庁「A2-3 給与所得者の保険料控除の申告」
会社員やパート、アルバイトなどの会社から給与を支給されている方は、年末調整で申告することで、社会保険料控除の適用を受けられます。毎年勤務先で提出を求められる「給与所得者の保険料控除申告書」に、支払先や支払った金額などの必要事項を記入して提出しましょう。
会社員である親が扶養している子供の国民年金保険料や国民年金基金の掛金を支払った場合には、「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」を添付します。この証明書は、例年10月下旬から11月上旬にかけて日本年金機構から自宅に送付されます。
なお、給与所得者でも、年の途中で退職して年が明けてから再就職した場合には、年末調整で申告できません。その場合は、確定申告が必要となることに注意してください。
個人事業主は確定申告で控除を申告する
個人事業主の方は、確定申告を行うことで社会保険料控除の適用を受けられます。申告期間は原則として、申告する年分の翌年2月16日~3月15日(土日祝日の場合は翌平日)になります。
確定申告書 第一表
- ※国税庁「所得税の確定申告」
確定申告の際は、確定申告書 第一表の「所得から差し引かれる金額」の「社会保険料控除(13)」欄に支払った社会保険料の合計額を、確定申告 第二表の「(13)社会保険料控除(14)小規模企業共済等掛金控除」欄に、支払った保険料などの種類や金額の内訳を記載して、税務署に提出しましょう。
確定申告書 第二表
- ※国税庁「所得税の確定申告」
国民年金保険料や国民年金基金の掛金を支払った場合は、「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」を添付します。ただし、e-Taxで提出する場合は、証明書の添付を省略できます。
社会保険料控除を上手に活用するためのポイント
社会保険料控除を活用して支払った分の控除を受けるには、上手に活用して申告漏れをなくさなければなりません。社会保険料控除を活用するためには、次の3つのポイントを押さえておきましょう。
国民年金保険料を2年分前納した場合は分割での控除も選択できる
国民年金保険料は毎月納付以外に、1年分や2年分をまとめて前納することも可能です。2年分前納した場合には、その年に2年分の国民年金保険料の社会保険料控除を受けるか、2年に分割して控除を受けるかを選択できます。例えば、「今年の売上がいつもより多い」という個人事業主の方は、前納した年に2年分まとめて控除を受ければ税金の金額を抑えることが可能です。
反対に、翌年の方が今年より売上が上がる見込みであれば、2年に分割して控除を受けた方がよいといえます。そのほか、今年は1年分だけ前納しておいて、来年2年分前納し、まとめて控除を受けるという方法も考えられます。状況に合わせて、効率的に節税できる方法を選ぶようにしましょう。
なお、国民年金保険料は、まとめて前納すると割引が適用され、毎月納付と比べて安い金額になります。社会保険料の削減にもつながるため、資金繰りに余裕があれば、前納を検討してみることをおすすめします。
過去分の国民年金保険料を支払った場合は支払う年に控除対象となる
国民年金保険料を過去にさかのぼって支払った場合は、支払った年に全額の社会保険料控除が受けられます。国民年金保険料の納付期限は納付対象月の翌月末日ですが、払い忘れてしまった場合は期限から2年以内であれば納付が可能です。また、所得が一定額に満たないなどで保険料の免除を受けていたり、学生期間中に納付の猶予を受けていたりした場合には、10年以内であれば追納できます。
例えば、「独立直後は所得が少なく、国民年金保険料の免除を受けていたが、余裕ができたため追納したい」「売上が落ち込んだ時期に免除を受けていたが、売上が回復したため追納したい」という個人事業主の方は珍しくありません。このように追納して社会保険料控除の適用を受ければ、将来受け取れる年金を増やすと共に税金の金額も抑えられるため、ぜひ制度を活用してみましょう。
家族の後期高齢者医療保険料を支払った場合には、当該家族ではなく支払う方が控除を受けられる
家族の後期高齢者医療制度の保険料を代わりに支払った場合は、当該家族ではなく支払いをした方が社会保険料控除の適用を受けられます。ただし、後期高齢者本人の年金から保険料が天引きされている場合には、本人が支払っていることになるため、代わりに控除は受けられません。
なお、生計を同一とする家族の国民年金保険料などを支払った場合にも、支払いをした方が社会保険料控除の適用を受けられるため、忘れずに申告しましょう。
忘れずに確定申告や年末調整で社会保険料控除を受けよう
社会保険料控除は、支払った社会保険料の全額を所得から差し引ける制度です。利用することで納める所得税や住民税を抑えられるため、支払った社会保険料は忘れずに確定申告または年末調整で申告して、忘れずに控除を受けましょう。
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この記事の監修者岡本匡史(税理士)
「岡本匡史税理士事務所」の代表税理士。
1979年和歌山県生まれ。滋賀県立膳所高校、横浜国立大学経営学部卒業。城南信用金庫、公認会計士事務所勤務を経て、2012年に豊島区池袋にて岡本匡史税理士事務所を設立。
低価格で手厚いサポートを行うことを目標としており、特に開業前~開業5年目の法人・個人事業主の税務会計が得意。
毎年、市販の確定申告本や雑誌の監修にも携わっている。