EDIとは?対応のメリット・デメリットと種類をわかりやすく解説
監修者:小林祐士(税理士法人フォース)
2024/09/25更新
EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)とは、企業間の取引上のやりとりについて、専用通信回線などを使って自動的に行うしくみです。EDIは業務効率化や取引のスピードアップ、コスト削減に役立ちます。またEDIは電子帳簿保存法における「電子取引」に該当するため、さらなる普及が期待されています。
EDIは長い歴史を持ちながら、これまで大企業による導入にとどまり、中小企業では普及してこなかった状況がありました。しかし近年、中小企業でも扱いやすいEDIシステムが登場していることに、あらためて目を向けたいところです。
この記事では、EDIの概要と種類のほか、システム導入のメリットと選定方法について、初心者向けにわかりやすく、シンプルに紹介していきます。ぜひ参考にしてください。
EDIとは企業間の自動的な電子データ交換のこと
EDI(Electronic Data Interchange)とは、「電子データ交換」を意味する用語で、企業間での受注や発注、請求・支払などの取引上の固定的なやりとりを、専用通信回線やインターネットを介して自動的に行うしくみを指しています。
EDIの歴史は古く、50年以上前から既に存在しています。通商産業省(経済産業省)は、1989年に行われた電子機械相互運用環境整備委員会において、EDIを「異なる組織間で、取引のためのメッセージを、通信回線を介して標準的な規約(可能な限り広く合意された各種規約)を用いて、コンピュータ(端末を含む)間で交換すること」と定義しました。
ここで重要なのは、EDIはそれぞれの企業同士の契約ではなく、業界全体が合意した「標準的な規約」で運用するということです。つまり、企業間の単なる電子データ交換は、EDIではありません。
EDIでは、これまでメールやFAX、郵便で行っていた書類のやりとりをシステムが担います。EDIの最大の特徴は、人手を介すことなく、データ交換システムによって取引に関するデータを自動でやりとりできることでしょう。特に一定数の固定的な取引が定期的に発生する場合、自動でデータのやりとりを行えるのはメリットといえます。
ちなみにEDIは、電子帳簿保存法における「電子取引」に該当します。電子取引のデータ保存は2024年1月から完全義務化されています。ほぼすべての事業者が対応しなければなりません。そこで、もともと紙出力の必要やデータ改ざんの心配がないEDIに注目が集まり、各企業で導入の機運が高まっているのです。
電子取引についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
EDIと似たシステム・しくみとの違い
EDIは、似たような名称のシステムやしくみがいくつかあり、それらとの違いについてよくわからない人もいるかもしれません。ここでは、EDIと混同しがちなシステム・しくみとの違いについて解説します。
EDIとEOSとの違い
EDIと混同しがちなのがEOS(Electronic Ordering System:電子発注システム)です。端的にいえば、EOSは受発注業務に特化したシステムであり、EDIは受発注だけでなく、出荷・納品や請求・支払を含む取引全般に対応したシステムといえます。
現在のEOSは、EDIの一部として組み込まれているケースが見られます。
EDIとAPIとの違い
API(Application Programming Interface)は、ソフトウェア間でのデータの自動的なやりとりをするしくみです。
EDIは専用通信回線などを介して厳格なルールに基づきデータをやりとりしますが、APIはソフトウェアの一部を公開することでさまざまな形式のデータをやりとりできる強みがあります。
EDIとBtoB-ECとの違い
BtoB-ECとは、企業間の取引をインターネット上のECサイトを介して行うことです。EDIとの違いは、専用通信回線の必要がなく、臨時的な小口取引などに対しても柔軟に対応できる点にあります。消費者が利用するECサイトと同じように扱えるのがBtoB-ECのメリットです。
EDI導入のメリット
EDIは中小企業や個人事業主にとって、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、EDIを導入する4つのメリットについて解説します。
業務の効率化
EDIの導入メリットの1つに、業務効率化があげられます。EDIは受発注や請求・支払の各業務において、紙のやりとりを電子データにより自動で行ってくれるので、作成や印刷、送付にかかる手間がかかりません。人の手による作業や書類の確認作業を減らすことができるので、ミスの削減にも大きく貢献します。
自社の業務システムと連携したEDIならば、販売管理システムのデータを使った帳票作成や送受信も自動化できるメリットもあるのです。
取引スピードの向上
EDIによる生産性向上も、導入メリットの1つといえます。自動化された受発注のやりとりによって、企業間の迅速な取引が実現します。後述するWeb-EDIを使うと高速での通信も可能なので、取引のさらなるスピードアップが期待できるでしょう。
また、EDIで取引先との情報共有が容易になることにより、企業間の在庫状況がリアルタイムで把握できたり、在庫のチェックが不要になったりします。その結果として、発注から納品までにかかるリードタイム(所要時間)短縮も実現するのです。
コストの削減
EDIの導入メリットとしては、コスト削減もあります。それは、企業間のやりとりにおける書類をすべて電子データに置き換えられるので、書類作成にかかる人件費や印刷費のほか、請求書などを取引先に送るための費用なども不要になるからです。
さらに、紙の書類の保管にかかる場所代や管理にかかる費用、そして保管期限を過ぎた書類を廃棄するために発生する手間やコストも不要なのは、事業者にとって大いに魅力的といえるでしょう。
信頼性の強化
事業者としての信頼性の強化もあげられます。これは、金融庁の定める下記の内部統制の目的のうち、「財務報告の信頼性」に必要な取引情報の信頼性を、厳格なルールの下に運用されているEDIが担保しているからです。
内部統制の目的
- 業務の有効性および効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令等の遵守
- 資産の保全
- ※金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」
このことから、EDIは内部統制の整備を行う事業者に役立つしくみといえます。
また、人の手作業が介在しないデータをやりとりするため、データの信頼性が高いのもEDIのメリットといえるでしょう。
EDIの普及状況
中小企業向けには、中小企業の受発注業務のIT化に貢献する「中小企業共通EDI」というしくみがあります。しかし、EDIは手書き伝票を郵送やFAXでやりとりしていたころから存在する概念ですが、2024年時点では大企業での導入が中心で、中小企業においてはまだ普及が進んでいないのが現状です。
これは、EDI接続のための専用回線やサーバー設置などの設備負担が、大きいことがあげられます。また、EDIが業界ごとの標準的な規約で運用されているため、発注側が指定するEDIがまちまちであり、複数の業界と取引する受注側の中小企業にとっては、複数のEDIシステムの入力画面への対応が必要な「多画面問題」も大きな理由といえます。
さらに、中小企業はまだ電話でのやりとりや紙の書類をFAXでやりとりする商慣習が残っていることも、中小企業共通EDI普及の妨げとなっています。
現在は中小企業庁の旗振りの下、「共通EDI標準フォーマット」を提供し、中小企業共通EDIの使用を促進しています。中小企業共通EDIの使用率は全体の20%程度にとどまっていますが、今後のDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れによって、取引先である大企業が導入することから、中小企業の間でも導入が加速することが期待されています。
なお、これまでのEDIはISDN(固定電話回線)を使用してきましたが、2024年1月にISDNのサービスが終了したため、今後はインターネットを介して電子データ交換を行うWeb-EDIが普及していく見通しです。
EDIの種類
EDIにはいくつかの種類があり、導入の際には自社の業界や運用に合うかどうかの確認が必要です。ここでは、EDIの種類についてご紹介します。
個別EDI
個別EDIは、データ交換の形式やフォーマットなどを取引先ごとに決めるEDIを指します。取引先に合わせて運用ルールを決められるものの、基本的には発注者主導でルールが決められます。複数の取引先との連携は、個別EDIでは行わないのが一般的です。
標準EDI
標準EDIとは、運用ルールや取引規約のほか、データ交換の形式、フォーマットなどが標準化されているEDIです。標準化されているため、複数の取引先と連携できるメリットがあります。具体的には、前述の中小企業共通EDIや流通BMS、全銀EDIがあげられます。
業界VAN
業界VANとは、特定の業界向けに構築されている標準EDIのことです。業界VANは主に製造業や卸売業、小売業などで使用されています。業界ごとに商品や取引先のコードが標準化されているため、同業界の企業間での取引には有用です。ただし、業界をまたいだ利用は難しくなる傾向があります。
Web-EDI
Web-EDIは、ISDNを使ったEDIに代わり、インターネットとウェブブラウザによってデータ交換するEDIです。データの通信速度が速く、専用のシステムを導入する必要がないなどのメリットが多いのが特徴です。
ただし、インターネット回線を用いることから、不正なアクセスなどに対する十分なセキュリティ性が求められます。また、Web-EDIは標準化がされておらず、互換性のないWeb-EDIのシステムを導入している取引先については、別途対応が必要です。
EDI導入時の注意点
EDIを導入する際には、いくつか気をつけたいポイントがあります。ここでは、EDI導入時の注意点について解説します。
導入・運用のコストがかかる
EDIは導入において、一定のコストがかかる点を認識しておきましょう。EDIは大きく分けてオンプレミス型とクラウド型がありますが、オンプレミス型は自社の専用サーバーを設置する必要があります。そのため、導入にかかるコストが高額になる可能性があるのです。一方のクラウド型は、導入コストこそあまりかからないものの、運用のためのコストが毎月発生します。
中小企業や個人事業主の場合は、導入に関するコスト負担が少なく、スモールスタートに適したクラウド型がおすすめです。
取引先がEDIを導入していないとメリットに乏しい
EDIは企業間の取引において効果を発揮するシステムですが、取引先がEDIを導入していなければ、EDI本来の活用ができない場合があります。
EDIを導入していない業界だったり、企業間の取引が少ない事業者だったりする場合、導入や運用のコストに対してメリットがとぼしく、業務効率化や取引のスピードアップに貢献しないこともあります。そのため、安易に導入せず、同業者に聞いたり税理士などの専門家に相談したりするなどして、慎重に判断をしましょう。
ISDNのEDIは2024年1月で終了している
2024年1月をもってISDNのサービスが終了したものの、EDIのための代替措置である「メタルIP電話」のデータ通信が継続して提供されています。しかし、これはあくまでも暫定措置であり、2027年には終了予定のため、これからEDIを導入する場合にはWeb-EDIを前提として考えるべきでしょう。
EDIシステムの選び方
EDIシステムを選ぶ際には、いくつかのポイントを押さえておきましょう。ここでは、EDIシステムの選び方を解説します。
自社の業務システムとの連携可否
EDIシステムを選ぶ際には、自社で使用している会計システムや販売管理システムなどの業務システムとの連携可能性を確認する必要があります。
EDIシステムを通じて受け取った取引先のデータを自社業務システムでそのまま使えなければ、再度手入力したり変換したりする手間が生じ、自動でデータをやりとりできるはずのEDIのメリットが半減することになるからです。
取引先との連携可否
EDIシステムを選ぶ際には、取引先と同じ通信プロトコルを使って連携できるかどうかを確認しましょう。
通信プロトコルとは、通信機器同士のデータを受け渡す際の手順のことです。通信プロトコルが合わせられなければ、データ交換を行うことができません。
Web-EDIの主な通信プロトコルは下記のとおりなので、事前に取引先に確認するようにしてください。
Web-EDIの主な通信プロトコル
- EDIINT AS2
- ebXML MS
- SFTP
- OFTP2
- JX手順
- 全銀協標準通信プロトコル
中小企業共通EDI対応の有無
中小企業がEDIを導入する場合、中小企業共通EDIに対応したEDIシステムを選ぶべきでしょう。統一フォーマットを採用した中小企業共通EDIを利用することによって、業界間や取引先間の垣根を越えられるので、いわゆる多画面問題も解決します。
これからの時代に備えてEDIシステムを導入しよう
EDIは、取引に関する電子データを自動的に交換するしくみです。電子帳簿保存法の改正で2024年1月以後の電子取引のデータは、電子データ保存をすることなく、紙での保存ができなくなりましたが、EDIは電子取引に対応したシステムとして注目されています。DXが大企業で進む中、中小企業も中小企業共通EDIなどと連携するシステムを導入し、EDIに対応したいところです。
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この記事の監修者小林祐士(税理士法人フォース)
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